あたりに立ちこめる煙をその透明な何かを振るい晴らすと、そこには惨劇が広がっていた。
丸焦げになった人間は居ないものの、通路は大きく抉れ、店などの棚などは横倒しになり、すぐそこの壁には穴が開いている。
しかしある一定の線から後ろは不自然なほど綺麗に残っていた。
「ふう、まぁ今回はこれで終わりか?」
青年がボロボロになった店内を見回して一息ついた時、彼の携帯が鳴りだした。
「はい、もしもし?」
「当麻君、その力は無闇に使って欲しくないのだが」
一応上司に当たる人間からの電話に加えてのお小言に顔をしかめる。
「あ~、わりわり。ってまさかそれだけの為に電話よこしたのか?」
「いや、今の一件で君に山ほどの始末書が出来たのを伝えときたかったものでね」
「って、おい!!マジかよ、たった一回だけ、しかも戦闘にも、ましてや魔術師相手にも使ってねえんだぞ!?」
「マジだ、この山を早く片付けてくれ」
向こうがそう言うと電話がブツリと切れる。
「っておい!!」
携帯電話を振ったりするが、繫がるはずも無く。
「・・・不幸だ・・・」
「「あはははは・・・・・」」
一方的に要件を言われ、反論の余地も無かった当麻に美琴と初春は苦笑いするしかなかった。
「・・・じゃあ頑張ってね?」
「ああ、またな・・・・」
とぼとぼ歩いて居く当麻の背中を美琴は苦笑いしながら見送った後、黒子に連絡してさっきの爆弾化した人形を持ってた少年を追いかけ始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「は、ははは。・・・・やった、やったぞ!!」
路地裏で喜んでいる一人の少年、彼こそがこの事件の犯人である。
彼は爆発によって吹き飛んだセブンスミストの外壁を思い出し、歓喜する。
「じょじょに強い力を使いこなせるようになってきた・・・・。後ニ、三回練習すれば僕を助けてくれなかった風紀委員やあの不良達をぼこぼこに・・・・・」
「誰をぼこぼこにするって?」
「な・・・・・」
少年が口を開くより先にその少女の足が少年のわき腹を深く捉え、蹴り飛ばす。
もともとは唯の学生である少年にとっさの受け身が取れる筈も無く、勢いよく地面に叩きつけられる。
「い、いったい何が・・・・・」
少年が自分がいたであろう場所を見ると、そこには少女が立っていた。
「要件は言わなくても分かるわよね」
「爆弾魔さん?」
「な、何っ!?」
「確かに凄い威力だったわ、でもね・・・怪我人どころか、誰もかすり傷一つ負ってやしないわよ」
「ば、馬鹿なっ!?あれは僕の・・・・」
言いかけて止めるがもう遅い。
「へぇ、僕のねぇ?」
少女はにやりと笑うと少年にゆっくりと近づく。
「いや、外から見てたら凄い爆発だったから・・・・」
後ろに下がりながら直ぐ近くに落ちてた鞄から少年がゆっくりとアルミ製のスプーンを取り出す。
「中の人は助からなかったんじゃないかなって思ったんだよっ!!」
振りかぶりつつ直ぐに能力で爆弾化させ、少女に向かって投げつけた、
が、それはオレンジ色のレーザーによって撃ち抜かれ、少年もその衝撃に巻き込まれ地面を転がる事になる。
「く、くそっ・・・。『レールガン』かよ・・・・」
少年は立ち上がろうとするが先ほどの衝撃で上手く立ち上がれずしゃがみ込んだままその通り名を持つ少女を睨みつける。
「何時もこうだ・・・。何やっても結局はお前らみたいな力のある奴に僕のような力の無い奴はねじ伏せられる・・・・・」
「こうでもしなきゃ、僕のような力の無い奴は何も出来ない・・・・・。殺してやる!!お前らみたいのが居るから悪っ!?」
少女がいきなり胸倉をつかみ、拳を硬く握る。
「歯を食いしばれっ!!」
「がふっ・・・・」
また地面を転がった少年に馬乗りになり拳を振るい続ける。
「お前にっ、お前なんかにっ、小さい女の子を逃がす為にっ、凶器持った馬鹿共に素手で立ち向かったっ、あの馬鹿の気持ちが解るかぁっ!!」
激情に駆られた美琴は思いっきりとどめをさす為に拳を振り上げる。
「ひぃ!!」
しかし、思い切り振り上げられた拳は何時までもやってこない。
少年が目を開けると、少女は後ろの影を睨みつけていた。
「なんで、なんでアンタが邪魔するのよ!!」
怒りにまかせ、少年にとどめを刺そうと振り上げた腕はしっかりとその影に掴まれていた。
「ま、通りすがりの路地で知り合いが誰かを一方的に蛸殴りしてりゃ止めるだろ?」
「だって・・・」
「ほれ、ひとまず立て、んでもう止めとけ。これ以上やったら今度はお前が捕まっちまうからな」
「でもっ、こいつは・・・」
「ったく・・・。ほら、先に行ってろ」
とおりの方を指差すと、少女はしぶしぶ歩いて行く。
「さて・・・・」
少女が居なくなったのを確認すると、その影、上条当麻は少年に向き合う。
「なあ、なんでこんなことしたんだ?」
その眼は責めている訳でもなく、蔑んでいる訳でもなく、ただ純粋に理由を聞いていた。
少年はゆっくりと口を開く。
「・・・・ぼ、僕は学校で不良の奴等に脅されてお金を貸しました。でも彼等はその分を返すどころかまた借りに来たんです。それを繰り返されて、いつも助けてくれない風紀委員が憎くなったんです・・・・」
「ん、そっか・・・・」
当麻はその少年と目を合わせる。
「じゃあ、もしお前がその不良達に立ち向かっていたら?そんな勇気があれば、何かが変わってたんじゃねえか?」
「・・・・・・・」
「人の価値は力の有る無しじゃない、どれだけそれに勇気を持って立ち向かえるかだ」
「・・・・は、い・・・・」
「次は出来るな?」
少年な小さく頷いた。
「よし、じゃあ行くか」
少年が頷いたので満足そうに立ち上がり、彼を連れ捜査しているアンチスキルの所まで連れて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アンチスキルに連れられ、護送車に乗り込む少年に当麻は紙きれを渡す。
「ほれ、今度はこの電話番号を絶対に持っとけよ?いざとなったら上条さんが助けてやるからな!!」
護送車が走り出し、当麻が手を振っている姿を見えなくなるまで少年は窓から眺めていた。
「あの人は誰なんですか?」
少年は護送車の中で一緒に乗っているアンチスキルに聞く。
「ああ、上条か。言ってしまえば、ふむそうだな・・・・。不良にたかられているクラスメートの為に戦いを挑む・・・・」
「ただの馬鹿
当麻のクラスメートであった彼は今も覚えている彼の英雄の姿を思い浮かべる。
「僕もあの人みたいになれますか?」 『上条、俺もお前みたいになれるかな?』
「それはお前が決める事だろ?」 『それはお前が決める事だろ?』
かつて自分と彼がやり取りしたのと同じ事を言った事に彼は苦笑する。
「どうしたんですか?」
「いや、懐かしくなったのさ」
彼はすこし笑いながらそう言うと、運転手を急かした。