集団というものは強力になればなるほど反抗勢力も強大化する。
必要悪の教会を始め騎士団、その他強大な軍事勢力を誇るイギリスにも反抗勢力は多数存在し、その中でも実力のある魔術師たちがロンドン市内にある、ずいぶん前に閉館したある程度広い地下劇場の中に何十人も集まって作戦の最終確認をしていた。
リーダー格の男が舞台に立って見上げている仲間を鼓舞するように強い口調で喋る。
「目標は必要悪の教会及び王家が住むバッキンガム宮殿だ。市民を何人でも犠牲にしてでもいいから市街で暴れて、必要悪の教会のメンバーを引き付けて手薄になったところで聖ジョージ大聖堂を叩く」
「それで霊装ぶっ壊してイギリスの戦力を削ぐ気か?」
喋っていた男は不意に横から感じた悪寒に、一流の魔術師の腕前を発揮してその声の主が手に持った拳銃から弾丸が発砲される前に自分と舞台裾の間に防御陣を組み上げ、パンッと乾いた音を立てて銃口から飛び出した銃弾を受け止めた。
集まっていた魔術師たちは唖然としながらその光景を見ていた。
防御陣は完全に発動し誰もが弾丸を受け止めたと思った矢先、その弾丸はガラスが砕けたような甲高い音を響かせ男の頭を吹き飛ばした。
壇上に広がっていく赤い水たまりに固まっていた魔術師たちが我に返って慌てだし、その中でその光景を知っている者たちは恐怖に駆られすでに背を向けて逃げ出していた。
「お、おいっ」
「逃げるしかねえ!!死神が来たんだっ!!」
集まっていた中でまだ若い一人の魔術師が自分よりも数段上の力量を持つ魔術師達が慌てて逃げていく姿を呆然と理解できずに立っていた。
「な、なんなんだ・・・・・・」
「とりあえず今は自分が生き残ることだけ考えるんだ」
必死に交戦しながら後退している魔術師にそう言われ見栄も誇りも捨てて背中を向けて逃げていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
路地裏に逃げ込み、一安心した男は汚れた地面に座り込みながら一緒に逃げてきた魔術師の一人に尋ねる。
「誰なんですかあの男は・・・・・・」
「上条当麻だ。聞いたことが無いか?」
「上条・・・・・当麻・・・・・・・?」
「奴は数年前まで必要悪の教会に所属し、数々の有名な魔術師をその特殊な弾丸で打ち殺してきた」
「数年前の魔術結社の壊滅は全てあいつの仕業だ。俺も目の前で友人が殺されるのをみていたよ」
「し、しかし上条当麻がいくら強くても我々が一斉にかかれば・・・・・・」
「確かに上条当麻はそこまで一対多は向いていない。だがあいつが狙うのは今回のように最初っから集団で一番強い魔術師だけだ」
今までも上条当麻は奇襲、攪乱、強襲など様々な方法で下っ端たちからトップを引き離し、打ち破ってきた。
「むしろ俺らのような数が多い下っ端たちを狩るのはあいつが連れてる二人の怪物だ」
向こうを見てみろと隠れている建物から顔を少しだけ出して魔術師の一人が示した方を見る。
そちらには大勢の逃げ遅れた魔術師たちが作った円と、それの中心で立っているスラリとした長身の、大きな槍を持った少女がいた。
少女は魔術師たちを一瞥するとたったの一瞬で、距離を取りながら周りを囲んでいた魔術師の一人の首を斬り飛ばした。
「っ!?」
遠くからでも全く見えずいきなりポーンとまるでボールが飛んだかのように空を舞ったさっきまで首とつながっていた生首に驚いた若い魔術師が声を上げそうになるが隣にいた一人が寸前で口を押えた。
「声を出すな。気が付かれればあいつらの次は俺らってことになる」
口を押えられながらその光景を信じられないように見ていた。
一人、また一人と真紅の髪を風になびかせながら鬼神のごとき強さを発揮する少女が手に掴んでいる槍に突かれ、斬り飛ばされ、殴られて、形は違うが誰もがただの物と化していく。
「くそぉおおおおおっ!!」
そんな中、魔術師の一人がほぼすべての魔力を注ぎ込み決死の覚悟で大魔術を発動する。
向かってくる炎の大蛇に少女は新たに剣を作り出し上段に構えた。
「月牙天衝」
人間を超えた速さでただ振り下ろされた剣が巻き起こした衝撃波は炎の大蛇と後ろに立っていた魔術師ごと吹き飛ばした。
その光景についにバラバラと逃げて行った魔術師たちを眺めながらゆっくりと当麻が少女のもとにやってくる。
「どこでその技を知ったんだ?」
「ジャ〇プコミック。ほかにもいろんなものを見てる」
「おい・・・・。誰だアキにそんなもん読ませた奴は?」
「日本のエンターテイメントは世界一」
目を輝かせて当麻を見上げる少女に強くも言えず、当麻は頭を掻く。
そうしている内にニコニコとしながら陽夏が仕事を終えて戻ってきた。
「掃討はあらかた終わりましたよ当麻さん。騎士団と必要悪の教会にあとは任せましたし。さぁ私の頭を撫でてくださいっ!!」
陽夏が頭を下げて当麻の前に寄せるのを見てアキもそれに習う。
「アキも」
「はいはい・・・・・」
ふぅっと溜息を吐いて当麻は二人の要望に応える。
それに先ほどまでピリピリと周りを警戒していた二人は顔をふにゃりと緩ませる。
「くぅ~~~~~。この仕事終わりに当麻さんになでられるのが私の一番の楽しみなんですよ~~~~」
「・・・・・気持ちいい」
「はいはい。もう仕事も終わったし帰るぞ」
ぱっと手を引くと必要悪の教会の男子寮に向かいはじめる。
「今日は一緒の部屋で寝てくださいっ」
「嫌だ。お前と一緒に寝るとなにされるかわかんねえからな」
そう言っている当麻にいきなりアキも抱き着いて上目で見つめる。
「アキは?」
「だめだ」
「わかった・・・・・・・」
「そんな顔をしてもダメだ。そろそろ一人で寝ることを覚えろ」
ダメと言われ小さくなって俯きながら何かを我慢しているようなアキにそういって当麻は用意された部屋に帰っていった。
ちなみに寝ようとした当麻がそれから何十人もの(当麻の貞操を狙った)襲撃者からの逃走で一晩中ロンドンの街を走り続けていたことは言うまでもない。