この後にツンデレドS義妹少女を出そうか出すまいか迷っているうちに日付がドンドンと過ぎていきました・・・・・・(T。T)
この作品を楽しみにしてくださっている読者の皆様、本当に申し訳ございませんでした。
そのうち美琴が仕事を終えて出て行ったのを確認すると当麻が慌てて電話のボタンをプッシュした。
「もしもし」
『・・・・なんだ上条当麻か』
電話越しに聞こえてきたのは落ち着きのある男の声。
『珍しいな。お前が私に電話をかけてくるとは』
ちなみに言うとこの男と当麻はそれぞれが所属していた仕事場の仲は良いとは言えないのだが二人ともう一人のごつい傭兵を加えた世代を超えた三人はかなり親しい。
だが男が言ったように当麻がこの男に電話を使って話すなどは珍しい。
別に当麻がコミュニケーション障害な訳でもなく、男が魔術サイドと呼ばれる世界に属しているものに多い機械類の操作が苦手という訳でもない。
『いつもはキャーリサ様達に見つかって長電話を強要されるのを嫌がって手紙を送って来るのにな』
男はイギリス王家を護衛する任に就いている騎士派の頂点、騎士団長と呼ばれ王家を守る最終防衛ラインとして一番王家の人間の近くで護衛をしている。
それはつまり彼が誰かと電話していれば自分が興味あることには周りが呆れるほどに行動力がある王家の人間が珍しがって飛んでくる可能性が高い。
今、あるごつい傭兵に再開できることを待ち望んでる第三王女はともかく、当麻の事を息子のように、いや息子にしようと画策している女王や王族相手に委縮するどころか喧嘩を吹っ掛けたこともある幼い当麻を本人の気質にしては珍しく可愛がっていた第一王女、そして何より当麻と歳も近く、今や一人の男として見ている第二王女キャーリサに見つかればかなり長い電話に付き合わされることは身を持って知っていた。
以前は代わる代わる話す長電話に付き合わされた当麻は一晩中携帯電話を持ったまま話し続けなければならなかったことさえあったのだ。
「そのことなんだがな。そっちにキャーリサがいないと思ってお前に電話をかけたんだ」
『ふむ・・・・。確かに今日キャーリサ様を見てはいないが・・・・・』
「・・・・・やっぱり「当麻。もう一つあった」あ、ありがとなア・・・・・・」
先ほど帰ったはずのアキがもう一つ大きな箱を持ってきたのだ。
『どうした上条当麻?』
「悪いけど清教派のステイルが帰っていると思うからそいつに尋ねてくれるか?」
『何をだ?』
「そっちにローラがいるか?って。頼む、俺の病室に並んでる二つの人が楽に入れそうな大きさの箱が怖くて寝られない」
『わかった。あいつらに声をかけるのも癪だがお前の頼みだ』
一度電話が切れ、騎士団長の電話を待っている間に時間が空いた当麻はベットに座り込みながらその箱を見て冷や汗を流す。
当麻の頭にはある話が思い浮かぶ。
固い城壁を持ったある都市国家は何十万の大軍と数多くの名高い英雄に囲まれながらもその城壁にこもり十年以上も持ちこたえた。
そのあまりの堅固さに大軍は引き揚げていき、大軍が引き揚げた陣地跡には神々にささげるために作られた木馬が残されていたという。
その都市国家の兵士たちはその木馬を戦勝祝いに持ち帰り大宴会を行い何日も騒いだ。
皆が寝静まり夜の闇が濃くなった時、木馬の中から兵士たちが現れ城門を開き、火を放ち都市国家はついに落ちてしまったという。
そんな話を思い出している中、当麻の携帯電話が鳴り響いた。
「もしもし」
『当麻か?清教派の奴らに尋ねてみたところ最大主教は仕事をしていたことが確認されている。キャーリサ様も一応部屋に閉じこもっておられるので外出は無さってないはずだ』
「そうか。ありがとう」
『ではな。頑張れよ』
「・・・・・・・・・・・?」
最後の一言に当麻は首を傾げふと時計に目を向けるとだいぶ遅い時間になっていた。
「まぁ寝るか」
当麻はベットに入り込み目を閉じる。
今度こそ本当に意識を手放そうとした。
そう、したのだ。
何やら自分の腹部に重さを感じた当麻は意識を急浮上させて目を開ける。
「おい、ほら起きろ当麻。私の相手をせずに寝よーとはどーいう事だし」
「・・・・なぁキャーリサ。イギリスに居るはずのお前がなんでここにいるんだ?」
「あの箱の中に入ってたし」
キャーリサと当麻が呼んだ女性はあの大きな箱を指差す。
「やっぱりか・・・・・・。ってもう一つの箱は?」
キャーリサが入っていたという箱の横にあった箱が消えているのに当麻が首をかしげるとキャーリサがニッコリと笑う。
「中に私の当麻を奪おうとする女狐が入ってたよーだから川に沈めてきたし」
「・・・・・・・・・」
本来はイギリス国内で王族専用の剣、カテーナを振るうのだが、唯の魔術行使だけでもキャーリサは一線級の実力を持っている。
そんなキャーリサが当麻が着ていた白衣と同じ素材、カテーナが切り裂いた次元からできる副産物の結晶を編んだ強力な防御機構を持った服を着たのだから鬼に金棒どころではない。
犠牲になったローラにちっとも同情はできなかったが。
「さ、今日は一晩中私の相手をしろ当麻」
キャーリサがその美貌を十全に発揮して当麻に笑いかけてくるのに当麻は昔からの知り合いで、見慣れてるはずの彼女に当麻は顔が赤くなるのを自覚していた。
当麻は自称モテない男で友人たちがドンドンと結婚、もしくは婚約して家庭を持っていく事に憧れにも似た感情を心の底でひそかに持っていたし、キャーリサほどの美人から詰め寄られる、しかも夜中にというシチュエーションに血反吐の思いをして身に着けたポーカーフェイスが崩れるのも止められずに喉を鳴らす。
そんな当麻にキャーリサは舌なめずりをしながら今にも当麻を喰わんとする。
しかしそこで修理したドアを勢いよく開き、金髪の少女にも見える女性が飛び込んできた。
「そこまでよん第二王女。この私が来たからには当麻には手を出すことはまかりならずなのよ」
「この小姑が・・・・。当麻は私の物だし。お前の当麻への感情は弟に向けるよーな親愛の情だって分かってるだろーが。なら当麻の幸せを願うなら私に嫁がせるのが一番だし、つかそのひどすぎる似非トラディション・ジャパニーズをやめろ」
もう少しで当麻が落ちかけたところだったのに、と青筋を立てながらキャーリサが睨むが当の女性は気にもせず当麻の横に来ると当麻を奪うように抱き寄せる。
飛び込んできた女性、ローラは当麻がロンドンに来てからまるで本当の弟みたいに可愛がり続け、今では完全な当麻コンプレックスとなっている。
「(やば・・・・・。これ病院大破じゃすまないかもしれない・・・・・)」
当麻が実力者二人の間に流れる険悪な雰囲気からできるだけ逃れるように窓際に後退する。
もう二人から雰囲気どころかかなり高密度の魔力が練り上げられているのに当麻が滝のような冷汗を流していると不意に窓の外から当麻の背中を叩く者がいた。
そう、何故当麻が今まで貞操の純潔?を守ってこられたのはこの二人の勢力のほかにもう一つイギリスで大きな力を持つ勢力が当麻争奪戦に参加して三すくみの状態を作り出していたからだった。
その勢力を現在率いているボスの右腕がワイヤーを使って窓の外で当麻に軽い会釈をしていたのだ。
「マーク?」
「お久しぶりです」
「どうしたんだ?」
「久しぶりにボスが学園都市に来たので上条さんに会いたいと」
「・・・・・・それは表側から?それとも裏側から?」
一応そういう事の責任者の一人である当麻は分かりきっている質問をする。
「裏側に決まってるじゃないですか。ボスや私のような魔術師は大きなイベントが起きる時ぐらいしかこの街に堂々とこれるわけがないですから」
その瞬間に当麻の目が吊り上り、今この修羅場を見て爆笑しているこの街の最高権力者に心の中で呪詛を唱える。
まあ混ぜるな危険の二人がいる狭い病室よりかはましと思い。当麻は藁をも掴む気持ちで窓を開け放ち窓枠に足を掛けて宙に身を投げ出す。
その当麻をマークがキャッチして地面に降り立つと逃走するために暗闇に紛れながら当麻を先導し始める。
「こちらに」
「急ぐぞっ。ローラはともかく、キャーリサは軍事を司るだけあって元から身体能力も高い」
全力で闇を疾走する男二人をわずかに遅れて追い始めたローラとキャーリサは追っている最中にも互いにけん制しているうちにマークの的確な先導により当麻を見失ってしまった。
「まったく、もう彼は走れるようになったのかい?相変わらず化け物だね彼は?」
『まったくだ。そうだ、さっきの映像を見るか?並みの番組よりも楽しめるぞ』
「それはいいね、僕のパソコンに送ってくれるかい?」
逃げていく当麻の背中を見ながらカエル顔の医者はこの街の最高権力者と電話越しに話しながら自分の息子のように思っている青年の話で盛り上がっていたという。