半分当麻専用の病室と化している部屋で黒焦げになった少女を見下ろしながら学園都市で発電系統最強の能力を持つ少女、美琴はさながら敵から姫を守る騎士のように仁王立ちしていた。
「さすがはお姉さまです、と場を濁してここを離脱しようとします」
一瞬あっけにとられていたミサカ10032号は美琴に自分が仕事を押し付けて抜け駆けしていたことを思い出すとすすっと美琴の脇を通って撤退を試みる。
「誤魔化せてないわよ妹」
しかしながら哀れなミサカ10032号は抜け駆けしようとしたばっかりに魔王の怒りに触れてしまい魔王が伸ばした腕に捕まってしまう。
「げっ・・・・・」
そのまま本日二つ目の焦げ炭が完成し、面会時間を超えているという理由をつけて神裂に二人を運ばせつつ追い出すと当麻の衣服やベットシーツの交換などの仕事を済ませ、ぼすっとベットに座り込む。
「陽夏さんもあの変態属性がなければねぇ・・・・・・」
自分の常磐台中学校の先輩にあたる少女に美琴は苦笑いをする。
彼女、陽夏は普段とても凛としていて下の少女たちからの信頼も厚く頼れるお姉さんなのだが当麻に関することには弩級の変態ストーカーと化す。
「というか空間移動系能力者には変態じゃなきゃいけないなんてルールがあるのか?」
今まで当麻が会ったことのある空間移動系は三人ともストーカー、ショタコン、レズと揃いもそろってアブノーマルだった。
「ま、まぁたぶんさすがにそんなルールはないと思うわ・・・・・たぶん。それよりもアンタあてに荷物が届いていたけど」
当麻の疑問に答える勇気は美琴にはなく、結局言葉を濁してこの場をやり過ごした。
「そうか、持ってきてくれるか?」
「そうね・・・・・。かなり大きいけどさっきちょうどアキも廊下に立っていたし運んでもらいましょうか」
「そうだな。おーい、今のきいてたか?」
当麻の質問に答えるようにすらっと背が高い赤髪の少女が入口に音もなく現れ、コクリと頷くと一瞬瞼を閉じただけでもうその姿は無くなっていた。
いつもいつもそれに驚きながらも美琴は椅子から立ち上がりポットに水を入れ沸かし始める。
「まぁ人が一人入りそうな箱でもアキなら持ってきてくれるし、私が紅茶を飲むついでにあの子のためにもお茶菓子を用意しておくとしますか。アンタも紅茶いる?」
「頼むぜ」
当麻はベットについているリモコンを操作してベットを起こし、それに背中を預けつつ少女の手際を見やると少女がお嬢様学校に在籍しているだけあって、紅茶を手際よく淹れるのを見て当麻が感心する。
「すごく手際がいいな。やっぱ習うのか?」
「最初のうちは見よう見まねよ。身近にバカみたいな万能人間がいたんだから」
「へぇ誰なんだ?」
首をかしげる当麻に少女は内心「悪意が無いって解ってても怒れてくるわね」と思いながらも悔しいので表には出さない。
「まぁいつも見てきたけど家事はもうどこかに嫁入りしてもいいぐらい完璧だな」
「よっ、嫁入りっ!?」
「っと、あぶねぇっ!!」
少女がいきなり動揺して落としたカップを紅茶の一滴もこぼさずに当麻が身を乗り出してソーサーごと音を立てずにキャッチすると慣れた手つきでサイドテーブルに置く。
「どうしたんだ美琴?急に慌てて」
「だ、だってあんたが嫁、嫁入りとか言い出したから驚いただけよ!!そ、そりゃアンタはかっこいいけどさ、そいう結婚とかって親にも相談しなきゃいけないし・・・・・・」
「・・・・・・・・・・?」
耳まで真っ赤にして向こうを向いてしまった美琴に当麻は訳が分からずに俺なんか悪いこと言ったかな?と首をかしげていた。
とにかくもうそろそろ来るであろうアキのために当麻はこの病室だけに何故かある冷蔵庫からこれまた何故か常備されている食材を使って簡単な作りのサンドイッチを大皿に山程乗せた。
その作業が終わるぐらいにアキが人が入れるほど大きな、そして豪華なラッピングをしてある箱を持ってきた。
アキは箱をゆっくりと下すと当麻の前にやってきてしゃがみ込む。
「持ってきた」
「ありがとうな」
当麻がワシワシとちょっと強めになでると、美琴には尻尾をブンブンと振って喜んでいるように見えるほどアキが喜んだ。
ようやく満足したのかスクッと立ち上がり当麻の横にある椅子にチョコンと座ると目の前に積み上げられたサンドイッチの山を瞬く間に切り崩していく。
「見るのは二度目だけどやっぱり大きいわね・・・・・」
「ん~~~?なんかこの模様どっかで見たような・・・・・・」
「・・・・・・・」ムシャムシャモグモグ
三者三様でその箱を見ているとまた廊下が騒がしくなった。
「大将邪魔しに来たぜ~~~」
「よっす。相変わらずアンタの隣には可愛い女の子がいるんだな」
病室に顔を出したのは当麻の弟子の一人にして、パシリ兼足の浜面と浜面が所属しているスキルアウトのリーダー、駒場利徳とそのブレーンである半蔵だった。
「二人とも先に仕事の話をするぞ・・・・・・。これが幻想御手の報告書だ・・・・・」
駒場が二人をたしなめるように言いながら書類を渡す。
それをぱらぱらっと目を通すと頷く。
「ん。確かに受け取った。報酬はいつもの口座でいいか?」
「構わない・・・・」
「お疲れさん。あ、お前らも食ってくか?」
アキがものすごい勢いで食べ続けているサンドイッチはまだ何人分も残っており当麻が三人に進める。
「いいのか?」
「ああ、早く食え」
「俺も貰ってもいいか?この頃廓が兵糧丸ばっか用意して待ってるからさ久しぶりに別の者が食べたいんだ」
浜面と半蔵が喜ぶ横で駒場が立ち上がる。
「俺は先に帰る。舶来が遊びに来ているのでな・・・・・・」
「うわっ、この頃駒場さんの父性が急激に刺激されてる・・・・・・」
浜面の呟きに同調してるかのように半蔵もコクコクと首を縦に振っている。
そんな二人に無言で拳骨を落として逃げるように病室から出て行った。
「つぅ・・・・・・」
「無言で殴るか普通・・・・・」
「お前ら仲がいいのはいいけどな。もう無くなるぞサンドイッチ」
「「って、いつの間にっ!?」」
当麻の指差した方にはさっきまで山ほど積んであったサンドイッチがもう数個しか残っていない上にいまだアキがサンドイッチに齧り付くスピードが変わっていないことに焦った二人は急いでサンドイッチに飛びつく。
しかし二人が持ったサンドイッチに伸びてきた二本の腕。
その腕の持ち主であるアキはゆっくりと自分の食事を横取りしようとした無礼者を見る。
「・・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・やべぇ・・・・・・・」」
「・・・・・・」ギロッ
「「ひぃいいいいいいいっ!!」」
バッと音がなるほど勢いよくサンドイッチを離しながら飛び退き土下座のポーズを取る。
「(ど、どうするよ)」
「(やべぇって。アキちゃんは大将の切り札だ。俺たちは無事逃げ切れるどころか生きてられるかどうかだぜ・・・・・・・)」
少年二人が頭を地面に叩き付けるように下げながら小声で話しているのを見ていたアキは両手に持ったサンドイッチを二人に差し出す。
「ん・・・・」
「「え・・・・?」」
「食べる?」
「いいのかアキちゃん?」
「いい。アキはもういっぱい食べたから」
「喜んでいただきますっ!!」
少年二人はこれまでに食べたどんな食べ物より美味しく感じるそのサンドイッチを命が助かったことに多大な感謝をしながら食べ終えた。
「よかったのか?」
アキがこれだけで満腹になるとは思っていない当麻は横にチョコンと座っているアキに聞く。
「いい。みんなで食べた方がご飯も美味しい」
「そうか。じゃあ俺が退院したらみんなを呼んでパーティでもするかな。あ、その前にどっかに一緒に食べに行こう」
「・・・・・・」コク
暫く一緒にアキとご飯を食べてなかった当麻はそういってベットに横たわるとすぐに目を閉じる。
「当麻が寝る。みんな出る」
「私はこれを片付けてから出るわ」
「りょうかい」
「あ、俺は車を回してくるぜ。誰か乗ってくなら送ってくが」
「アキはこのまま走って帰る」
「私もいらないです。そんなに遠くじゃないので」
「わかった。それじゃあな」
当麻の部屋にいた少年少女たちは仕事が残っている美琴を除いてそれぞれ帰って行った。