気温のピークを越え、だんだんと落ち着いた気温になりつつあった時、部屋に差し込んできた光に当麻が反応した。
「ん・・・?」
「おや気が付いたかい?久しぶりに君が運ばれてきてびっくりしたよ?」
当麻が目を覚ますとすぐ横に若干疲れた顔をしたカエル顔の医者がいた。
なんでも当麻の怪我がひどすぎて疲れたとぼやいている。
「まあ今回は化け物相手だったしな・・・・・・」
「ふむ、でも僕は君の回復力の方がはるかに化け物じみてると思うけどね?」
「それもあんたの腕がいいからだろ。あんたは冥土帰しと呼ばれる程の天才なんだからさ」
当麻がそういうとカエル顔の医者は呆れたように言う。
「二リットル近い出血をしても二日で目を覚ます君は不死身の化け物だと思うけどね?」
通常の成人なら体重1kgごとに大体65ml、当麻の体重が70kgと考えると大体4500mlが当麻の体を循環している。
この血液の総量の半分を超えると人間は出血死を起こすとも言われ、2000mlもの血を失うのはかなり危険な状態だ。
「だったはずなんだよね?」
そういいながらどこから取り出したのかわからないが大きめの注射器を取り出す。
「って、まってくれよ。一応目を覚ましたって言ってもまだ血が足りないからっ!!今も体がうまく動かないんだって!!」
「そうかい?なら残念だけどあきらめるよ?」
しぶしぶあきらめたカエル顔の医者に当麻が胸をなでおろすと、カエル顔の医者はだけどね?と付け足す。
「今の一言は外で待っている女性たちには聞かれたら大変だと思うけどね?」
「はい?」
当麻の頭が医者の言葉を理解するよりも早く、まず当麻がいる個室のドアが文字通り吹き飛び、空気の入れ替えのために空けていた窓の向こうに消えていく。
ドアと言っても当麻の個室は度重なる襲撃に対応するためにそれだけで砦に値する防御力を誇る、そのドアであるのだからかなり丈夫で少しの衝撃では破れない。
そのドアを肉体だけで破る知り合いは数人しか知らず、その中でもこのタイミングで来るのは。
「先輩っ!!大丈夫ですかっ!?」
案の定慌てて飛び込んできた神裂だった。
当麻は前もイギリスに居たとき俺が怪我したら真っ先にお見舞いに来てくれたよな、個室のドアの修理代をお土産にして、と現実逃避気味に昔を思い出していたが、普段なら考えられないほどに可愛らしく慌ててる神裂を土御門のからかいのネタにされるのは可哀そうだと考え返事をする。
「おう。血が足りない分うまく体が動かないけどな」
「な、なら私が「ちょっと待てよこのウェスタン侍ガール。お父さんの介護はこの裏ワザでも看護師免許を取っているミサカの出番なんだよ、とミサカは待ったをかけます」
自分が看護を、と言おうとした神裂の横にするりと侵入してきたナース服を着た少女。
「ミサカも来てくれたのか?」
「はい。このミサカ10032号がミサカたちを代表してお父さんのお見舞いに来ました、と胸を張って見せます」
誇らしげに胸を張っているミサカ10032号の頭を当麻は嬉しそうに撫でる。
ちなみに今の時間、ミサカ10032号がほかの妹達+1に自分の仕事を押し付けてきたために今ミサカネットワークでは一斉にブーイングの嵐が巻き起こっているが当の本人はなんのその、ネットワークを切断して一人だけ当麻になでられているという幸せな時を満喫していた。
「あ、そういや百合と帝督は?」
「一方通行も未現物質も大けがで今なおベットの上で眠ってますが命に別状はありません、とミサカは報告します」
「そうか・・・・。よかった・・・・」
当麻が安堵の息を吐くと廊下側でバタバタと足音が聞こえてくる。
「当麻さ~んっ!!ご無事ですかぁ~~~~っ!!」
そんな声が聞こえたと同時に当麻のベットの横にあった椅子に座っていた二人が各々武器を取り出す。
「あなたの陽夏がチマチマと幻想御手の使用者の部屋に忍び込んで調べ続けた仕事を終わらせて帰ってきたのでご褒美に熱いベーゼをっ」
ルパンダイヴの体勢で飛び込んできた銀髪の少女にミサカ10032号が無言で手に持ったマシンガンを発砲する。
そのばらまかれた弾丸は当麻に向かって空中を突き進む少女に当たる前にすべてすり抜けたかのように後方の壁に当たって壁をわずかに削り取るだけとなった。
ミサカ10032号の牽制(九割ほど殺意が占めていたが)を突破した少女に神を切り裂くこともできる聖人の峰打ち(とはいっても当たればよくても粉砕骨折、悪ければ冥土帰しを呼んでも助からないほどの威力を誇る)が襲う、だがその峰打ちも神裂自身が移動させられたことによって空振りに終わる。
二人を抜き去り少女はベットに上体を起こしたままの当麻に飛びつく。
「当麻さ~~~んってあれ?」
しかしながら両手を広げて当麻に抱き着こうと飛びついた少女は突然頭を掴まれて宙で振り子のように揺れ動く。
少女はなんでこんなことになっているのか分からないと言ったような顔をしているが、当麻はそのまま問いかける。
「さて陽夏?この二日間、何度この部屋に侵入した?」
「え、え~~~~っと・・・・・・・・・」
明らかにヤベェと言った顔をした陽夏が答えそうになかったので隣の少女に顔を向ける。
「夜、面会時間外にミサカが見張ってただけでも二十六回侵入しようとしてました、とミサカは報告します」
ミサカ10032号の淡々とした報告に掴まれた少女から滝のように汗が流れだす。
「ちなみに一度先輩の下着を盗み頬ずりしていたところを私と何十人の妹達で取り押さえました」
「・・・・・・・・・」
もう床には水たまりが出来上がり、ミサカ10032号は溜息を吐きながら「仕事が増えました、とミサカは肩を落とします」と言って恨みがましくその少女をにらむ。
「さて、どうすっかな?」
「すんません、まじで謝りますんで後ろの二人に引き渡すのはまじで勘弁してください」
少女は後ろの二人から発せられる怒気にがたがたと震えながら当麻に嘆願する。
そんな少女に当麻はにっこりと笑顔を向ける。
「当麻さん・・・・」
「いい機会だ。一度反省して来い」
「嫌~~~~~っ!!当麻さんの説教とお仕置きならむしろ何時間でもウェルカムですけど、あの二人はいやぁ~~~~~っ!!」
少女が待ち構えている鬼二人にずるずると引き摺られながら悲しげな悲鳴を上げるのを当麻が眺めていると、ひょっこりとシャンパンゴールドの髪のナース服を着た少女がドアが吹き飛んでさえぎるものが無くなった病室内を覗き込んだ。
「すみませ~ん。病室では暴れられると困りますって陽夏さん?」
「た、助けてみこっちゃん!!」
現れた救世主に抱き着くように後ろに隠れた陽夏に呆れながらミサカ10032号にとてもよく似た少女、いやミサカ10032号が双子かと間違えられるほどによく似ている少女が中にいる三人を見て状況を判断する。
「妹、陽夏さんが何をしたのかしら?」
「お父さんの下着を盗みました、とお姉さまをも味方につけようと画策します」
「へぇ・・・?」
「あ、あれっ!?みこっちゃん顔が怖いよってなんかビリビリするんですけど!?」
「いっぺん痛い目を見ろやコラァッ!!」
「ぎゃぁあああああああああああああっ・・・・・・・」
もろにレベル5の電撃を浴びて黒炭と化した少女は「わ、私には当麻さん以外の人に虐待されて喜ぶ趣味は無いんですけど・・・・・・」と言って地面に崩れ落ちる。
こうして変態は野望を絶たれた。