たぶん次の更新は溜めるために時間がかかります。
では拙い文ですがどうぞ。
少年は確かに子供たちのヒーローだった。
その小さな研究所に在籍している研究所の子供たちを同じ学校に通っている、それも年上の子供たちがいじめようとすれば少年がその年上の子供たちを逆に泣かしてしまうこともあるほどに強かった。
それに彼が持つ能力の強度はレベル3、しかも単一の能力であるためにその希少価値は高く、その能力も応用に長けており喧嘩などの戦いにおいてもレベル4の能力を持つ上級生にさえ勝ってしまうほどだった。
そんな少年は子供たちの中のリーダーとして子供たちを守り続け、その人気は素っ気なくても困っていれば助けてくれる少女と共に高かった。
小学校という名の井の中にいる子供たちの中で最強とも呼べた二人が、大海の、その中でも血みどろの争いを繰り広げている大人たちに狙われるまでは。
それは急な出来事だった。
いつも通り、研究所に所属するスタッフと一緒に全員で夕食を取り、お風呂に入り、みんなが寝入った深夜のことだった。
いきなりパンッと音が鳴り、夜遅くまで研究していたスタッフが倒れた。
その瞬間、扉が蹴り破られて何人もの男たちが乱入してきた。
スタッフたちは子供たちを守るためにささやかな抵抗をするが、最新兵装で身を固めた男たちには何の意味も成さずに一人一人と凶弾に倒れていく。
何とか一人が援軍の要請をするが、その一人も伝え終えた瞬間に男に後頭部に銃を突きつけられ頭を吹き飛ばされた。
ほかのスタッフたちも子供たちを逃がすために隠し通路に案内すると自分たちは隠し扉を閉じ、研究所の中に侵入してきた男たちを何人か道ずれに自爆する。
その自爆により研究所で火災が発生し、まだ中にいた男たちも逃げ遅れ巻き添えになった。
スタッフたちの必死の防衛により隠し通路から逃げ出した子供たちも、子供たちであるがゆえに遅い移動が災いし、逃げられたことに気が付いた男たちが広げた捜索網に見つかってしまう。
子供たちを守るために少年と少女が戦い始め、一時は男たちさえ圧倒する。
しかし暗部と呼ばれる、高位能力者と戦うことも珍しくない男たちの奥の手、AIMジャマーにより少女が倒れた。
「くそぉおおおおおっ!!」
少年が能力を発動し大人たちに襲いかかると、何人かの大人を薙ぎ払う。
しかし、一瞬動きが止まった少年に大人たちからの反撃が襲い掛かり何発か少年の防御を掻い潜り、少年の体に傷を作っていく。
少年が倒れるのもそう時間はかからなかった。
燃える、燃える、燃え落ちる。
自分を肯定してくれた子供たちとの繋がりだった研究所が燃え落ちる。
先ほどまで圧倒的な戦いを続けていた少女もAIMジャマーで能力を封じられ、今ではボロボロになって男たちの足元で倒れている。
一緒に戦っていた少年自身も肩を撃ち抜かれ、壁に背中を預け男たちに囲まれていた。
「ったく。レベル3とはいえ厄介なガキ共だったな」
「だがこれで依頼はほぼ達成だな。あとはこいつらを依頼者に引き渡すだけだな」
「おい、景気づけに一人殺していかねえか?」
「いいな、じゃあさっきあのガキが助けようとした奴にしようぜ?」
「よし、こっちに来い」
ついさっき少年が助けた子供を掴み引き摺って来ると銃口を突きつける。
子供はニヤニヤと笑う大人たちに囲まれ頭を抱え縮こまってしまう。
「三、二、一で撃つぞ」
男が楽しそうに恐怖で怯えている子供に突きつけた銃の引き金に指をかける。
「三」
「ていとくくん」
「二」
「ゆりこちゃん」
「一」
「助けて・・・・」
子供がかすれた声で助けを求める。
「やめろぉおおおおおおっ!!」
少年が飛びかかるが、能力が封じられただの子供に成り下がった少年に周りに立って少年の必死さを見て楽しんでいる男たちを突破することはできずにその場にねじ伏せられる。
銃を突きつけてる男が笑いながら最後のカウントを告げる。
「ぜ・・・・・・」
その瞬間、男は不透明な何かに吹き飛ばされ、トマトを叩き付けたかのように近くの壁を真っ赤にペイントする。
その男を吹き飛ばした不透明な物質が伸びてきた方から砂利を踏む音がどんどん近づいてくる。
「誰だっ!?」
男たちが銃口を一斉にそちらに向けた。
「面白そうなことをやってるな」
そうツンツン頭の少年がゆっくりと燃えている研究所を眺める。
少年に問いかけられるが、男たちはそんなことを気にしている暇もなく、先ほどとはうってかわってガクガクと震え中には立つことすら難しくなった男もいた。
「か、上条当麻・・・・・・・」
「なんでだ、奴は遠くで仲間が足止めしているんじゃなかったのかよ・・・・・・」
「あぁ、学校帰りに襲ってきた奴らか。全員潰してきた」
「ひぃっ!?」
笑いながら当麻が一歩進むと、男たちが逃げるように二歩下がった。
男たちは慌てて子供を人質にしようと手を伸ばすがその手は空を切った。
「さて、子供たちも保護したぞ。人質も無くなって、次はどうする?」
いつの間にか男たちの近くから子供たちの姿は消え、当麻の後ろに居場所を変えていた。
そして縛るものがなくなった当麻が発する怒りは静かに男たちを逆に縛り付ける。
そして動けなくなった男たちを容赦なく当麻が叩き殺していく。
男たちが一歩遅れて反撃するが、学園都市が誇る最先端の武器でさえ当麻が張った不透明な壁を貫通することはできない。
少年は、子供たちはその一方的な、もう虐殺とも呼べる光景に唖然とする。
ついに男たちがすべてもの言わぬ物になると当麻は子供たちの方に振り返り、子供たちを保護した当麻のパートナーの一人に声をかける。
「怪我した奴は?」
「命に係わりそうな物や後遺症が残りそうな怪我をしたのは誰もおらへん。ただ何人かの子供たちが精神的ショックをうけとるで」
「そうか・・・・・。土御門は?」
「ツッチーは外部の犯行の線は薄いって言っとったで」
「わかった。じゃあ向こうで捕まえたやつの口を割ってくれ。殺すなよ」
「了解や。終わったら連絡するわ」
「頼んだ」
当麻が青髪の少年にそういって歩きはじめる。
そこにしゃがみ込んでいた少年がばっと立ち上がると当麻に向かって走り出した。
「待ってくれっ!!」
「ちょ、君何する気や!?」
帰ろうとした当麻を呼び止める少年を青髪の少年が必死に止めようとするが、全く予想をしてなかった分反応が遅れて少年を止めることはできなかった。
「頼む、俺を強くしてくれ!!」
「・・・・・・・・・」
少年にそう問いかけられた当麻は無言のままゆっくりと振り向いた。
「俺は強くなりてえ。だから頼むっ!!」
「・・・・・・なんで強くなりたいんだ?」
暗闇で塗りつぶされた当麻の表情はよく見えなかったが、その言葉には困惑と突き放すような棘があった。
「俺の場所を失いたくねえからだっ」
「・・・・・・俺は一度失敗してる。そんな奴に頼むよりほかの奴に頼めばいいだろ」
「あんただ。俺が憧れたのは今俺達を守ってくれたあんたなんだ。ほかの誰でもねえんだ」
「頼むっ」
「・・・・・・はぁ・・・」
頭を地面に叩き付けるほどの勢いの少年に当麻が溜息を吐き携帯を取り出すと適当な番号に電話をかける。
「どうしたんだ上条当麻?」
適当にかけたのに関わらず、ある人物のところにかかってしまうという事実に慣れた当麻は碌なリアクションも取らず要件を話し出す。
「どっかで見てんだろ?それより一人俺が預かるからな、手続してくれ」
『むぅ、最近面白くないぞ上条当麻。まぁいい、君が子供を預かるとはね。アキちゃん位だと思っていたよ』
「アキはともかく、陽夏の奴もほとんど俺に押し付けてんだろうが」
『ははは、あの子は私が押し付けたのではなく、自発的に君をストーカーしているんだよ』
「余計質が悪い。要件は伝えたしもう切るぞ?」
当麻が付き合ってられないとばかりにボタンを押そうとした時に電話の向こうから待ったをかけられる。
『ああ、待ってくれたまえ。そこに白い少女がいるのではないかね?』
「そういえば・・・・・・」
当麻が見渡すと先ほどの青髪の少年が危なげな表情で倒れて気を失っている白い髪の少女に近づいていた。
当麻が無言で懐から拳銃を取り出すとセーフティを外して青髪の少年の頭を狙って発砲する。
「うおっ!?ってカミやん、無言で撃たんといてな。カミやんの銃弾はいくら不死身の僕でも一撃で死んでしまうんやから」
「黙れ性犯罪者。お前が俺の仲間かと思うと頭が痛い」
そういいながら青髪の少年を少女から追い払うように発砲し続け、少女が毒牙にかかる前に保護することができた。
「ずるいわカミやん!!そうやってカミやんは僕らをおいてフラグを立てていくんやから!!」
『なかなか面白い状況になっているようだな?』
「早く要件を言え。このままだと青ピとガチで殴り合いをしなきゃいけなくなる」
『それも私は面白いと思うがね。それよりも君に驚いたリアクションをしてほしいからね』
「なんだ?」
嫌な予感がしつつも当麻が聞き返す。
『君も【素質格付】は見たことがあるだろう?』
「ああ、胸糞悪いデータ集だったから最初だけ読んで捨てたけどな」
『それならいい。その少女に見覚えはないかい?』
「・・・・・まじか・・・・」
『そうだ。その少女は今現在単一の能力者、そしてレベル5を超えるかもしれない素質を持っている』
「ってことは」
『君にその子を頼もうかと思ってね』
「この仕事もう辞めたい」
『ちなみに君が育てようとした子も同じだけどね』
電話越しに笑い声が聞こえてきたのに、当麻はおなかを抱えて笑っている上司の姿を想像しかけて強制的に打ち消した。
「もう言っていいよね?不幸だ~~~~っ!!」
「ン?なンだァ・・・・、って下しやがれクソ野郎っ!!」
当麻の叫び声に目を覚ました少女は抱きかかえられていることに気が付くと、当麻を思いっきり殴り飛ばそうとする。
とは言っても能力が当麻の右手によって封じられている今、少女の拳は弱弱しく当麻の胸板を叩くだけだった。
「・・・・どうなってンだこりゃ?」
「お、起きたか?」
首をかしげている少女に当麻が抱きかかえたまま目を合わせる。
はっと状況を思い出した少女が慌てて周りを見渡すと、燃える研究所と子供たちの姿、そして少女を抱えている当麻と青髪の少年だけで武装した男たちはどこにも見当たらなかった。
「(って、誰なンだよコイツッ!?さっきまで居なかったし、オレらを襲ってたやつらはいねェし・・・・・・。つゥかオレのベクトル操作が使えねェし)」
「もう心配するな。奴らは全員ぶっ飛ばしたからもう安全だ」
「大丈夫か百合子?」
「あァ、テメェの顔を見てムカつく位には元気だクソ野郎」
「酷いっ!!これでも俺今回頑張ったんだぜ?ほら肩に風穴空いてるし」
「そのまま出血多量で死ンでくれねェかなァ?」
「ほら、お前ら仲良くしろ。これからもお前らは一緒なんだからよ」
「ハァっ!?」
「よっし!!」
対極の表情をする二人に当麻は面白いと思いながら、説明をする。
「つまり、テメェが次の保護者ってことでいいンだな?」
「ああ、お前らの保護者兼護衛ってとこだ。お前らの能力は珍しいからな、科学者の間ではいざこざが起きてるんだ」
「それってどんな・・・・・・・」
少年が興味で聞こうとしたが、当麻が嫌そうな顔をしたのに気が付いて口を閉じる。
そこに青髪の少年がやってくる。
「カミやん。ツッチーから連絡があってあとはやっとくっていっとったで?」
「おう。じゃあ俺はこいつら連れて帰る」
当麻がそう答えて立ち上がる。
「さて、お前らには二つの選択肢がある。俺と一緒に来るか、否かだ」
「俺はあんたについていく。百合子が別になるのは嫌だが、俺は人を守れる力が欲しい」
「お前はどうするんだ?」
「オレも行くしかねェだろォな。怪物を拾ったって泣いても知らねェからな?」
少女がにやりと意地悪そうに笑うと当麻は満面の笑顔を少女に向ける。
「怪物に異常に異端?そりゃいいな。どうせお守をするなら楽しい奴らがいい」
当麻が息を吸い込むと叫ぶ。
「いいから俺についてこいっ!!」
少年と少女が持つ能力は異端で異常でどこに行っても怪物だった。
しかしそんな彼らに笑ってついてこいという少年。
この日から、彼らの人生は変わったといえただろう。