縄を破壊した当麻が少年を連れて少女から距離をとった。
「あの時ですか・・・・・・」
「当麻の怪我を治した時にな。世界の抑止力の影響を無効化して当麻の記憶を取り戻したんだ」
さて、と少年は当麻の肩に乗りながら笑う。
「あいつを倒せ当麻」
「了解」
当麻が体を地面すれすれまで倒しながらジグザグに、不規則に少女に突き進む。
それを少女が迎撃しようと撃ち続けるがそれらすべては不規則に素早く動く当麻を捕らえられずに地面を抉るだけだった。
「くっ、ならこれはどうです!?」
少女が空に術式を描いて無数の火の矢が当麻に降り注ぐが、それは当たる前にしっかりと翼の形を留めた不透明なものによってすべてを撃ち落とされた。
次の行動がわずかに遅れた隙に接近した当麻に少女が片手に持った剣を振り下ろすが、当麻はそれがどこを通るのかわかっていたかのように体をずらしてぎりぎりかすりもしない場所から少女に向かって握りしめた右手をまっすぐ伸ばす。
それにぎりぎり反応した少女は残っている片腕で必死に受け止めたがそれでも少女はその衝撃で宙を舞った。
少女がこのままでは不味いと思ったのか翼を羽ばたかせ、一度態勢を立て直すために音速の何十倍で後ろに飛ぶ。
「(接近戦は今の上条当麻を相手にするのは不利。なら距離をとって・・・・・っ!?)」
何キロも一気に離れて一度離脱しようと考えていた少女は悪寒のした方向をゆっくりと振り向いた。
「なっ・・・・・!?」
少女が空中に浮いているにも関わらず、当麻がそのすぐ後を背から放出されたそれを上手に使い音速の何十倍もの速度でついてきていた。
少女が引き離そうとするが当麻はどんどんと距離を詰めて、ついに少女を当麻の攻撃範囲に捉えた。
「うぉおおおおおおおおおおおおっ!!」
当麻が右腕を後ろに引き絞って少女に向かって振り下ろす。
「僕を、舐めるなぁああああああああああっ!!」
少女は必死に先ほどの少年との戦いでできた瓦礫の中から少女を隠してしまうような大きなコンクリートを一瞬で目の前に移動させ、それに反撃術式を刻み込む。
もし当麻がこのままコンクリートに右手を振り下ろせば異能以外にはただの人間の手である当麻の右手の骨は砕け、幻想殺しでしかダメージを与えられない少女に勝つことはできなくなる。
しかし振り下ろし始めた右手を止めることはできず、右手以外でそのコンクリートに触れたとしても当麻は一瞬で右手以外が粉々になる。
「僕の勝ちだ、上条当麻っ!!最後に抱いたその幻想ごと運命に砕かれろ!!」
「あんたが勝ったと思ってんなら、まずはその幻想ごとぶち殺す!!」
少女が祈りにも似た叫びを上げるが、その幻想は空しく当麻の右腕に殺される。
最終の防壁だったコンクリートは砕けていき、当麻の右腕が伸びてくる。
「竜王の一撃
もう防御の手段が残っておらず、最後の防壁も突破され呆然としていた少女の顔に深々と拳が突き刺さると、そのまま砲弾のように飛んでいきながら建物を何棟も突き破り、『窓の無いビル』にさえ衝撃で外壁が崩れた。
ドサッと地面に音を立てて落ちた少女はゆっくりともう上手く動かなくなった肉体を無理やり動かしながら滞空しつつこちらを見ている当麻を恨めし気に見上げる。
「くっ、竜王のテレズマで右手をコーティングしたわけか・・・・・」
「おかげでコンクリートで右手を怪我しなかったぜ」
「・・・・・・その表情、その才能、やっぱり似ているな・・・・・」
「・・・・・・・?」
少女が悔しげにつぶやいたものを辛うじて聞き取った当麻は軽く首をひねる。
「上条当麻はあの女の直系なんですねルシフェル様?」
少女が当麻の肩に座っている子猫ほどの大きさの少年に尋ねる。
少年はそれに静かに首を縦に振る。
「は、ははっ・・・・・。忌々しい、本当に忌々しい・・・・。死んでから長い時が流れてもいまだに僕の邪魔をするのか・・・・・・」
「その魂の輝き、本当にあの女にそっくりだね。本当に忌々しい・・・・・・・」
少女の体が崩れ、少女をこの世に結び付けていた鎖が切れ少女が天界に帰り始める。
「ルシフェル様、いずれ天界にお連れします」
そう言い残して少女は風に消える。
「く・・・・・・」
服を自分の血やほこりで汚した当麻は、疲れからがっくりと膝をつく。
「無理をするな、久しぶりにあれを使って疲れたんだろ?しばらく休め」
「そうは言ってられねえよ。向こうでみんなが戦ってんだ」
「そうか・・・・・・。じゃあできるのか?」
「ああ・・・」
当麻はふらつきながらも立ち上がると何もない空間に敵が立ってるとでもいうように体を半身に構え、右手を引く。
「禁書目録、お前が俺からこれ以上大切なものを奪おうってんなら、まずはその幻想をぶち殺すっ!!」
ガラスが砕けるような甲高い音が現実に響き渡り、現実世界との壁に入ったヒビが縦横無尽に広がっていく。
その向こうに白く光る太陽が目を焼く。
その太陽はゆっくりと倒れている少年や少女たちに向かって落ちていく。
「っち、間に合えっ!!」
当麻が飛び込むようにその太陽に右手を伸ばした。