「やっぱりそこにいましたか」
にっこりと嬉しそうに笑う少女に先ほど引きづり出された少年は頭を掻き、血だまりに倒れている当麻を見てため息をつく。
「なんでお前がここにいるんだ?俺の予定ではもっと遅くに当麻の前に現れるはずなんだが」
「魔神がこの世界のすぐ隣に一時的に世界を作って生物のほぼ全てを連れて逃げてくれましたからね。この少しの間だけ僕が現界しても百年ちょっとで修正できるほどの因果のズレで収まるようになったんですよ」
「そういうことか」
少年は立ち上がると体中から血が噴き出して血の海に倒れている当麻の横にしゃがみ込むと当麻に手を当てて回復させる。
「上条当麻には全身にかかる異能は無効すると思っていたのですが・・・」
「この右手には秘密があるんだよ」
そういいながら当麻の息が整ったのを確認するために手を顔の前に持っていく。
「ん、もう大丈夫だな」
少年は立ち上がると、少女のほうを向く。
「現世との別れはすみましたか?」
「まだだ。だからここでお前を追い返す」
「神の力を失ったあなたに僕を消滅させることができますか?僕はあなたが天界の主だったころと比べると天と地の差ほどありますけど」
「それでもやるしかないしな」
少年は目を閉じて、自身の魔力回路を開くイメージを浮かべると、カチッと頭の中で音がしてボウルにバケツで一気に水を流し込んだように世界は暴力的なまでに放出された少年の魔力に満たされていく。
「なんだ・・・・。あの時もあなたは全力さえ僕らには見せてはいなかったんですか」
「ま、今はお前が強くなった分リミットを外させてもらったがな」
世界が二人から放出される魔力とテレズマで軋む音が聞こえるような気がするほど圧迫感がある戦場で、二つの影が動き始めた。
少女がテレズマの弾丸を雨のように降らせると、少年が魔術の盾ですべてを受け止める。
少年が作り出した剣を持って切りつけるとそれを少女が間一髪で避けて距離をとると、形を持ったテレズマを思いっきり叩きつける。
二人の戦いは大地を裂き、天を割り、無人の学園都市を薙ぎ払う。
そんな中ついに少年の魔術が直撃し、体制を崩した少女にとどめの大魔術を発動する。
「さ、これで終わりかな?」
一本の槍を作り出し、少年は構えた。
それは普通の槍に見えるが、神性を持つ相手には最強の呪いを持つ。
「ロンギヌスの」
少年が少女に向かって突き出す。
「大y・・・・・・・」
しかし当たる直前に少年の体が一気に子猫ほどまで小さくなってしまい、槍はカランカランと音を立てて地面に落ちた。
「あ、しまった。三分たっちまった」
それなんてウル○ラマン?と突っ込まれそうなことをいいながら頭を掻いているミニマム版少年はあっはっはっはっはと笑い続ける。
「ふぅ、でもこれで終わりですね」
小さくなった少年は簡単に少女のテレズマの縄で捕まってしまった。
「さて・・・・・・」
少年はふぅ、と息を吐くと呟いた。
「思い出せたか?」
「ああ、あとは任せろ兄さん」
少年の後ろから伸びる右腕がどんな人間でさえ千切れない縄をなんでもないように引きちぎった。