カチカチ、と鳴る時計の音が響く深夜の部屋で魔術師二人は近寄ってくる敵意に気が付いた。
「さァ、そのガキを返してもらうぞ。クソ野郎ども」
「ってな訳だ。雪辱を晴らさせて貰おうか」
「脱出します、ついて来て下さい!!」
ドアを蹴り飛ばし、部屋に侵入した二人に魔術師二人は屋内では不利と考えたのかインデックスを抱えたまま窓ガラスを破り外に飛び出す。
とっさに受け身を取り、立ち上がると悠々と降りてくる二人の怪物と相対する。
「もう来ていてもおかしくはないんだけどね・・・・・・」
腕時計を見て、ゆっくりと重なりつつある短針と長針に歯噛みする。
約束の時間は刻刻と迫っているがあの青年は今だやってこない。
「先輩が来るまでここは私が足止めします。ステイル、貴方はその子を連れて下がってください」
「イノケンティウスをサポートにまわそうか?」
「いえ、それは万が一の時の為にまわしてください」
そう言って足止めの為に動き出した聖人は必死の思いで攻撃を捌いて行くが、方や二十人もいる聖人の一人、方や科学サイド最強と準最強、神裂は本来の力を発揮した二人に敵わずだんだんと押し切られて行く。
「がはっ・・・・・・」
勢いよくステイルが走っていたすぐ横のアスファルトに叩きつけられた神裂はふらつきながらもまだ立ちあがった。
「おいおい、俺にはあんたみたいな美人さんを殴って楽しむような趣味は無いんだ。はやく地面に倒れてくれねえか?」
「お断りします。私達の願望の達成はもうすぐそこなのですから」
「はぁ・・・・・・・。アンタがあくまでも俺の敵だっていうんならしょうがねえ。死ねよ」
気だるげに振り下ろした翼は聖人の肉体を持つ神裂でさえも跡形も残らないような威力を持ってた。
「おいおい、なんでアンタがそいつらを守ってんだよ」
「ってか、なんでお前等戦ってる訳?」
「あ、あの・・・・・・。多分私達があの子を攫ったように思ったんだと思います」
「というか、攫ったんだけどね」
「あ~、なるほどね。百合子達から見たら知り合いを攫ってった奴らだし、お前等から見たらインデックスを奪おうとする勢力の刺客に見えたってことね」
当麻は納得したように頷くと魔術によって寝ている少女に歩み寄る。
右手で触り、魔術を打ち消すと少女の頬を軽く叩き目覚めさせる。
「起きてるかインデックス?」
「ん・・・・・。あれ?とうま・・・・・?」
うっすらと目を開けた少女はそう呟く。
「とうま、とうまなんだね・・・・。本当によかっ・・・・・・・・」
「インデックス?」
いきなり停止ボタンで不自然なように止められた画像のように固まったインデックスを当麻が心配そうに見る。
次の瞬間、彼の体は風に吹かれたビニール袋のように空を舞い、壁に叩きつけられた。
当麻が突然の事に茫然としながらインデックスの体を借りた何かに目を見開く。
「き、禁書、目録・・・・・・・?」
「上条当麻の存在を確認、ただちに最も効果的な措置で対象を排除します」
先ほどまで人を癒す温かみを持っていた瞳は冷徹な氷を思わせるほど無機質な瞳で当麻を見ていた。
「な、何故?まだ首輪にダメージを与えてもいないのに・・・・・」
「大方、教会の仕業だろうね。上条さんの記憶だけは持たせるだけ持たせて、もし上条さんに近づけば共倒れになるように仕組んだんじゃないかな。ま、これだけはあの女狐の仕業では無いね」
「ええ。先輩を独占する為に先輩の休日には私を含め、先輩を慕ってる女性魔術師に任務を押しつけた上に、自分の休日を調整して一人だけ先輩と合わせる事を私達の前で平然とやってのける最大主教なら先輩にあの子が近づいただけで自ら死ぬように仕掛けてもおかしくありません」
自分の上司をけなしながら当麻の前に躍り出て守るように少女と対峙した魔術師二人と超能力者二人を少女は一瞥すると呪を唱え始める。
「気を付けろっ!!大魔術が来るぞっ!!」
魔術を効率的に素早く発動する為の様々な手段を持っている彼女にしてはだいぶ長い呪を唱え終える。
その瞬間、彼女から眩い程の光が放射されドームのように広がっていった。
「・・・・・・・・・・・」
氷を思わせるような視線で罅が入っている壁の前に立っている四人を見ている少女。
「・・・・・当麻君と隔離されたな・・・・・・・」
「なるほど、まずは僕達を片付けてからってことらしいね」
百合子達が目を開けると、当麻の姿はどこにもなかった。
「・・・・・・・・・・・当麻くンを何処にやった?」
「彼には、いえ私達、彼を除くすべての生物を疑似的なこちらの世界に移動させました」
「な・・・・・・」
そんな馬鹿な、と思う超能力者二人が魔術師に否定を求めた視線を送るが、彼等はただただ肯定の意を示した。
「これが十万三千冊の魔道書の知識を自由に操る魔神の力です」
神裂が知っているからこそ震えそうになる体を必死に押さえつつ呟く。
新しい世界を一個二個簡単に作ってしまう魔神の力。
まさしく神の領域に踏み込んでいると表現しても過言ではない。
「状況を確認・・・・・掌握。首輪及びヨハネのペンに敵意を向けている四名。敵対者とみなし迎撃を開始します」
ついに魔神が四人を襲い始めた。