とある上条さんの年齢変換   作:亀さん

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七月二十八日 そのニ

黒い神父服に身を包んだステイルは高いビルの上から街を見下ろしながら煙草を吸っていた。

 

すると携帯電話が鳴りだし、ステイルは手慣れた手つきで会話ボタンを押し、耳に当てる。

『よぉ、俺だ。そっちはどうなってる?』

「予定通り、彼女を保護して今神裂が呪印の施されている場所を探してるところさ。ま、途中に二人の能力者に邪魔されかけたけどね」

『いつらか・・・・・・』

「ああ、彼らもあの子の事を心配しての行為だったから別段僕らも怒ってはいないさ。むしろ彼らに敬意を持ってる。つい先日知り合ったあの子を助ける為にいくら能力が優れているとはいえ戦闘のプロに挑んできた彼女達はあの頃の僕らより何倍も素晴らしい」

 

『・・・・・・・・そっか。ま、そろそろ見つかるだろうし俺も向かった方が良いいか?』

「いや、真夜中位に来てもらうと助かるかな?かけられてる術式を全て破壊するにはやっぱり僕らもそれなりの用意をしておきたいからね。何て言ったってあの子はイギリス清教の最終兵器。何が仕掛けられているか分からないからね」

『分かった。じゃあまた後にな』

電話が切れた事をツーツーと鳴る電子音に確認したステイルは 目を閉じて思考にふける。

 

自分達の大切な少女は二年前に自分達との、ステイル自身にとっては自分の十四年の人生の中で最も楽しく幸せだった一緒に過ごした一年の記憶を忘れてしまった。

いや、忘れさせられてしまった。

 

儀式を行うと言われたステイルはあの時何の事だか訳が分からなかった。

三カ月位が経ち、幸せに過ごしていた三人にいきなり上層部の人間があの子を助ける為にあと数カ月後に儀式を行うと言われ、そのままステイル達が必死に少女が忘れる必要が無いように魔術を片っ端から調べ、忘れることが無いように沢山思い出を作り、あの儀式の日にアルバムなどを持たせて儀式に挑んで、後に思い出の数々を見せたとしても、真っ白に、透明になった禁書目録の口から出たのは唯一言『ごめんなさい』悲しげにぼそっと出て来ただけだった。

 

「だが・・・・・・。あの子が一つだけ、一人だけ覚えていた物があった」

儀式が終わった後、目を覚ました少女がまず最初に部屋を見回して口を動かした。

聞き取れはしなかったが、戦闘魔術師見習いだったステイルは読唇術で少女がこう言っていたのではないかと推測している。

 

 

『とうまはどこ?』

 

 

「何故、上条さんの名前を呟いていたかは分からないが・・・・・・・」

煙草の火を消して空を見上げる。

 

 

「あの人はあの儀式に、あの子に深くかかわっているのは確かだ」

勝手ではあるが、もしかすると自分達との記憶も許に戻るのではないかという魔術師にふさわしくない淡い願いを抱きながら彼は仕事を終えて待っている同僚と滞在している部屋に足を向けた。

 

 

「・・・・・・・移動する様ですね、とミサカは気がつかれないようにある程度の距離を取って追跡します」

その場所からわずかに離れた屋上から学園都市の特殊機材を使って少女が監視していた。

 

彼女が接続している脳内のネットワークでは彼女の情報をもとに、学園都市内に存在する彼女と同じ姿をした少女達が学園都市内で男を大きな円を描くように包囲し、根城を突きとめる為に動き出す。

 

「ちび上司にこき使われるのを癪に思いながらも、モヤシが断腸の思いで報酬として掲示したあの人の寝顔の写真を手に入れる為にミサカ10032号以下、学園都市に存在するミサカ達は全力で任務を遂行します」

何時に無くやる気な妹達はゴム弾入りのマシンガンを手に持ちどんどん包囲網を狭めていく。

 

「・・・・なるほど、僕達の居場所を突き止めようって訳か・・・・・」

ステイルが気が付くがどんなに彼がでたらめに動いても崩れない包囲網に歯噛みする。

 

「なんて奴らだ。少しの乱れもないじゃないか・・・・・・」

ゆっくりと乱れなく距離を縮めてくる追手にステイルは冷や汗を流す。

気持ちが悪い程に彼女達の動きは統率されすぎている。

 

「能力者に魔術は使えないって事を知らなければまるでグレゴリオの聖歌隊に用いられる同調魔術をつかってるかと思うほどだね」

軽口を言いながらも彼は紙に新たなルーンを刻んでいく。

 

「さて、準備も出来たし逃げるとしようか」

「っ!?」

包囲網を形成している一人に突撃し、彼女に向けて膨大な光だけを発する魔術を使い彼女の視界を封じている間に包囲網を突破した。

「(通信機器はこれで使えない。今のうちに逃げるとしようか)」

ステイルは全速力で拠点の部屋まで駆け戻る。

 

彼の不運だったのは彼女達が通信機器を使わず、微弱な電磁波を使って形成された独自のネットワークを使って通信していたのを知らなかった事だろう。

確かに視界を潰した彼女は動けなくなったが、その情報をネットワーク内に流した為に彼女達はステイルに気がつかれないようにある程度距離を取りながらしっかりとステイルの後を付けていた。

 

数分後、薄暗い病室で彼らの根城を突きとめたとの情報を小さな少女から聞いた学園都市最強と第ニ位は雪辱戦に向け今度こそ少女を取り返すために準備を始めた。

 

 

一人の少女を救おうと動き続ける人々の思いが絡み合った決戦が静かに始まろうとしていた。

 


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