「ク、クソがァ・・・・・・」
だんだんと遠くなっていく意識のなか、後ろに立ち悲しそうな顔をしている女を睨みつけながら少女は地面に倒れる。
「・・・・危なかった。もし貴女がもっと経験を積んでいれば私と同等、いえそれ以上にに戦えたでしょう」
女は少女が完全に意識を失ったのを確認すると少しばかり青くなっている左手首をさすりながら彼女の同僚に通信用礼装で話しかける。
「ステイル、こちらは終わりました」
『僕もだ。今からそっちに向う。一応彼らの為に救急車を呼んでおいたから心配はしなくていい』
「分かりました、ではまた後で」
そう言って接続を解除すると先ほどの戦いを思い出した。
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後ろのほうで真っ二つに切り裂かれたビルを見て女が口を開く。
「驚きました。まさか七閃を無効化するどころか、私に対しての攻撃に使うとは・・・・」
「ふざけた事言ってンじゃねェぞ。オマエはそれを見て避けてンだろォが」
女の攻撃はすさまじい速度で対象を切り裂くワイヤーによるものだった。
それを女が放った軌道をなぞる様に反射したとはいえ、反射されたと気がつき尚且つそれを完全に避けきるという芸当をこなした女に少女、百合子は内心冷や汗を流す。
「まあ良いでしょう。早く終わらせましょうか、私たちも時間がありませんから」
「舐めやがって・・・・」
いったん距離をとっていた二人はどちらも同時に音速を超える速度で動き回る。
「ふっ!!」
しかしやはりというべきか戦闘慣れした女のほうが何枚も上手で、彼女の豪腕が少女に向って振るわれる。
「(勝った!!)」
しかし勝利を確信したのは少女のほうで、彼女はニヤリと顔をゆがませる。
少女の能力はベクトル操作、運動量、熱量、光、音量、電気量、その他のどんなベクトルでも認識すれば操ることが出来る、つまり少女には普通の攻撃は効かず、攻撃をした本人にその分のダメージが入るという強力なもの。
たとえそれがどれだけの破壊力を持っていたとしてもその攻撃は少女には届かず、むしろその攻撃力が高ければ高いほど自滅する。
すなわち女の豪腕から生み出されるダメージが彼女の腕に跳ね返る。
「くっ!?」
「カキクケクケキクコッ。オマエなんぞに俺を倒せる訳ねェだろォが。オレの能力はベクトル操作、あらゆる攻撃も向きを反対にしてオマエに反射する。オマエに勝ち目なンざ端っからねェっつーの」
少女がニヤリと笑いながら女に止めを刺すべく歩み寄る。
「・・・・・・・そうですか」
「あァ?諦めたンなら無様に尻振って逃げて見ろってンだ」
そんな少女を気にも留めず、確認の為に少女に尋ねる。
「貴女が学園都市第一位の『一方通行』であってますね?」
「ったく、どこからオレの情報が漏れてンだよ・・・・・。困るンだよなァ、オレを倒して自慢しようって馬鹿に知られると蛆虫みたいに湧いてくるからよォ。だから、どこでその情報を知ったか教えてくれねェか?」
「すみませんがそれは教えられません。私たちの存在はあまりさまざまな人に知られる訳にはいきませんから」
「そォか、だったら九割殺しにしてから聞いてやる」
少女は深く屈み、女に逃げられない為に足を引き千切ろうと飛びつくと、女はそれを避け少女に腕を叩きつける。
「きかねェつってンだろォが」
それを反射し、再度女を追撃する。
その行為を何度繰り返しただろうか、女の左手首は青黒く変色しその威力もだんだんと減っていた。
「もォ終わりか?じゃあいい加減に楽になれっ!!」
加虐的な笑みを浮かべつつ、音速を超えたスピードで女に触れば一撃の両手を突き出して突撃する。
女は額に汗を浮かべながらその両手を掻い潜り、少女の胸部目掛けて右手を振るう。
「これで終わりだクソやろォっ」
少女は一切の慈悲も無く自分の攻撃範囲にわざわざ入ってきた哀れな獲物に抱きつくように掴み、女をベクトル操作で何倍以上もの破壊力を持った両腕で挟んで骨もろともミンチにするだろう。
「・・・・・・がは・・・・・!?」
しかしその一瞬後、彼女の能力ゆえに無敵の防御を持っているはずの少女が衝撃に吹き飛ばされ、胸部を押さえながら地面を転がっていた。
少女の口からあふれ出る血を手で拭い、信じられないような目で自分が立っていたほうを見ると右手をプラプラと振っている女が目に入った。
「む・・・・、少し引くのが遅かったようですね」
「・・・・オマエ。今いったい何しやがった・・・・・・。オレの能力は発動したはずだ。オマエの拳のベクトルを反対にしたはず・・・・・っ!!まさかオマエ、オレの能力を使って拳をオレに引き寄せさせたのか!?」
「ええ、そして今ので拳を引くタイミングは掴みました。次で決めます」
女は体の力を抜き改めて構えを取るとそう宣言する。
「チッ・・・・。ほざいてンじゃねェぞ!!」
少女が血を拭ってふら付きながら立ち上がり、必死に女に向って触れば電気信号、もしくは血液を逆流させる必殺の手を伸ばす。
「殺す。絶対にオマエはここで殺すっ!!」
少女が目を血走らせ女に向って叫ぶ。
しかし、勝負はあっけなく決まった。
少女が必死に伸ばしたそれさえも過去何度も過酷な条件化で戦ってきた女には絶対に触れられない。
そして女を見失った少女にいつの間にか後ろに立っていた女は反応することさえ許さずに首に手刀を叩き込んだのだ。
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「すみません」
同僚がやってくるまでのわずかな間。さっきまでふらふらになりながら必死に戦っていた少女を見つめながら女は申し訳なさそうな顔をする。
「貴女たちがあの子を思ってくれているのは知っています。ですが・・・・」
「それではあの子を救えないという絶望を知って欲しくなかったのです。そう、私たちのように・・・・・・」
少女を道の端に横たわらせると歩いてきた神父と合流する。
「待たせたね」
「いえ、そこまでは。さあ行きますよ、人が来てしまう前に私たちは隠れなければいけません」
「そうだね。一般人に見つければ少し厄介なことになる」
二人は静かにうなずくとそのまま朝の靄にまぎれて姿を消した。