人が居ない大通りの真ん中で白い肌に真紅の瞳を爛々と輝かせ、今日が昇り始めた早朝に漂う靄の中で少女は女と対峙していた。
「見つかってしまいましたか」
「人様が必死こいて夜中ン中ぶっとうしで探し回ったンだ。それに見合うよォなサプライズを用意してンだろォな?」
体から怒気を放ちながら少女が睨みつけてくるのに女はしょうがないですねと呟き構える。
「貴女と事を構えるつもりは無かったのですが・・・・・・」
「ンなこと知るかクソッタレ。だったらオマエらがあのシスターを帰せばすむ話だろォが」
「それは出来ない相談です。彼女を早く私の知人に届けなければなりませんから」
「そォか、じゃあ足ガクガクで、もぉ二度と立ち上がれない様にイカしてやるから覚悟しやがれ」
「はぁ・・・・・。貴女の名前は?」
「っち、鈴科百合子だ・・・・・」
「貴女を表している良い名前ですね」
「ンなこと聞いてどうすンだ?呪いやらなンかのオカルトに使うのかァ?」
「いえ、私が倒す敵のことを覚えておくためです。忘れるのは倒した相手に失礼でしょう?」
「はァ?なにおもしれェギャグを言ってンですかオマエは?」
百合子が呆れたように呟くが女は気にもせず彼女の腰に差してあった二メートルほどもある雨乞いなどに用いられるような儀礼用の太刀を前に構える。
「ではいきます・・・・・・」
彼女の腕が目で追えない程の速さで動く。
「七閃」
そう女が小さく呟くと、七つもの必殺の斬撃が百合子に向って意思を持ったように一直線に伸びていった。
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彼女たちから二百メートルほど離れたところで爆音と共に真っ二つになったビルをを眺めていた少年は自身の能力を発動しながらゆっくりと神父と向き合う。
「おーおー、向こうはおっぱじめたみたいだな」
「ふむ、では交渉は決裂したって事かな?」
「みたいだな。ま、諦めてくれよ。せめてもの慈悲で痛みがないように一瞬で肉片に変えてやるからよ」
「・・・・やれるものならね」
神父も服から一枚のカードを取り出す。
「さあ始めようか。純粋な殺し合いを・・・・・・。『Fortis931』ッ!!」
神父はすぐさまルーンから炎剣を作り出し、少年に向って投擲する。
それを難なく背中から生えた翼の一枚で弾き飛ばした少年、帝督はニヤリと笑う。
「へぇ、パイロキネシストの亜種か?」
「ま、そう考えてもらって構わないよ」
「じゃあ次は俺のターンだな?」
帝督が翼を広げる。
「っ!?」
その翼が建物のむこうから上ってきた光と重なった時、神父は必死に体を投げ出すように横に飛んだ。
「すげぇな、これを一発で見破るなんて初めてだ」
「あいにく僕は初見で敵の攻撃を見切らなきゃ生きてられない職場で働いているからね。初見殺しな攻撃には慣れてるんだ」
「なるほど、ならこれはどうだ?」
帝督は翼を振るい、ただ純粋にものすごい威力とスピードを持った風を神父に向ける。
「ちっ・・・・」
巨大すぎるそれを舌打ちをしながらそれを新たに作り出していた炎剣を爆発させて威力を相殺する。
「・・・・・お前、ほんとに能力者か?」
「いや、僕は魔術師だ」
「そんなオカルトはありえねえ・・・・・、と言いたい所だがな。能力者はそんな紙切れを使う必要はねえし、何より酸素やらなにやらの状況が変わらないってのに炎剣を作り出したりそれを爆発させるなんて出来るわけがねえ」
「僕らに言わせれば、なんで君の能力はそんな翼を形作っているんだい?」
「知らねぇよ。俺がレベル5になった時から本気を出すと発現するようになったんだからな」
苦笑交じりに話す帝督はこの話はこれで終わりと言うように真剣な表情に変わる。
「いい加減、お前を片付けなきゃ俺も面目立たねえからな。悪いがサクッと殺させてもらう」
「出来るものならね」
神父は距離をとりつつ炎剣を何本も作り出し一気に投擲した。
一つ一つが触れただけで肉体を溶かしてしまうそれを全て翼でなぎ払うが、その瞬間、炎剣は爆発し煙が周りを覆う。
煙を翼で払うが神父の姿はどこにも見当たらなかった。
「どこ行きやがった?」
辺りを見渡すが周りにはどこにも人は見当たらなかった。
・・
そう、人は。
「なぁっ!?」
帝督が自分の周りに滞空させている防御兼レーダーをその熱量で溶かしながら帝督に振り下ろされた十字架を慌てて避けつつその十字架を振り下ろした怪物を見上げる。
「って、でけぇええええええええええ」
そこらの建物とさほど変わらない大きさの炎を纏ったドロドロとした重油でできた人型の怪物は必死に空を飛んで逃げ回る帝督を掴もうと腕を振り回す。
「オラァッ!!」
何とか腕を避して接近すると翼で怪物をしたたかに殴りつけ、怪物を引き千切った。
崩れ落ちていく怪物から目を離し、辺りを見渡す。
「見つけた」
こちらを隠れつつ見張っている神父を見つけ顔を歪める。
こちらに気がついたのか神父が慌てて物陰に逃げようとしたがもう遅い。
「これで終わりだっ」
仕留める為に猛スピードで神父に近づき、翼でなぎ払う。
それで終わるはずだった。
「な・・・・・・・」
突然横合いから伸びてきた莫大な熱量を持つ巨大な腕が帝督を捕まえる。
寸前のところで格段の防御力を誇る翼で自身を包むように守ったが怪物に握り締められているためにまったく動けなくなった。
「しくったな・・・・・・」
「ああ、これで僕の勝ちだ」
「っち・・・・、確かに俺は動けねえがな。だがこれぐらいの攻撃力じゃ俺の翼は突破できないぜ?」
「ならこうしようか」
怪物は帝督を握り締めている片手を体全体で包み込むように胸に抱え込む。
「・・・・・これで終わりだ」
神父がそう告げると同時に怪物は体を爆発させ噴火レベルに跳ね上がった衝撃の全てを帝督に叩き込んだ。
垣根くんが好きな人、まじごめんなさい。
やっぱりここは強くてもばっちり準備されてたら勝てないって事もあるって事を書きたかったんです。
ごめんなさいってまじで色々と物投げないでください(泣)
ちなみにイノケンさんはステイルが戦闘中維持できる最高枚数で、第七学区に学園都市に潜入してから十日間ずっとルーン(ルミネート加工済み)で独学で見つけた天草式が描いたような陣をせっせと作っていたおかげで超巨大でなおかつほぼ不死身(ステイルが魔力的もしくは肉体的に死なない限り)になっていました。