「なンだこれ?」
七月二十日の朝、百合子は当麻の寝室にあるベランダに引っ掛かっていた白い物を見て首をかしげていた。
彼女はもうどこかに出かけていたこの部屋の主の為に布団を干してやろうとしていたので彼女の手の中に布団はある。
よってそれは布団ではないはずだ。
「アキ・・・・のではねェよなァ・・・・」
もう一人の住人は数日前から旅行(お仕置きによるイギリスへの流刑)に行っているので彼女のではない、というかこのベランダには当麻のものしか干されない。
「んっ・・・・・」
「あァ・・・?」
それがもぞもぞと動きながら顔を上げ、百合子と目を合わせる。
「おなか減った・・・・・」
「はァっ!?」
百合子はいきなりそう言ったそれに目を丸くしながら唖然とする。
「なンで外国人のクソガキが家のベランダに干されてて、そンでもっていきなり空腹宣言してンだよ・・・・」
百合子が茫然としてるとそれはむっとした顔をする。
「落ちたんだから仕方ないかも」
「嘘つくンならもっとましな嘘を吐きやがれ」
「ほんとだもん!!そこの屋上を飛び移ってた時に背中を攻撃されて落ちたんだからっ」
そう言ったそれを頭の中で電波少女に分類して頭の隅に封印し、百合子は先ほどから鳴り響いているそれのおなかの音をどうにかする事を考え始める。
「・・・・まァいい、それよりもどォすんだ?オマエ腹減ってンだろ、まさか他人に飯をたかろォなンて思ってねェよな?」
百合子がそう言うと、それは思いつかなかったというような顔をして百合子に目を向ける。
「このあたりにスーパーとかないかな?あとキッチンを借りられる場所を教えてくれると嬉しいかも!!」
「以外にたくましいな!?」
百合子の突っ込みも無視してそれ、純白の修道服を着たシスターはベランダに身を引き揚げると玄関に向かって歩き始めた。
そのどんどん歩きながらも鳴り続けるその音にため息を吐きながらシスターに声をかける。
「・・・・ったく、残りもンでいいなら家にあンだけどよォ。食うか?」
「いただくんだよっ!!」
一瞬で百合子の前まで移動したシスターはどこぞのツンツン頭と並ぶ程の、もはや芸術品と言える程の土下座をしていた。
そんな姿にため息を吐きながら百合子はシスターの為にいつの間にか出掛けていた同居人用に作ってあった朝食を取りに行った。
「む、あなたはかなりの料理の腕を持ってると見たんだよっ」
百合子が作った朝食の味噌汁を口にしたシスターは目を見開きこうのたまわる。
「ムカつくことに俺よりもっと上手い奴が居るからなァ、そいつに教えて貰ったンだわァ」
「へ~、その人に会ってみたいかも」
百合子の料理はかなりのもので、シスターが覚えている料理の中でも上位に入る程だった。
しかしそれを上回る程の人物がいると聞いてそのシスターは無意識のうちによだれを垂らしていた。
「つーかよォ、お前はどこの誰なンですかァ?」
「あ、私の名前はインデックスって言うんだよ」
堂々と言い放ったシスターに百合子は頭を抱える。
「はァ?インデックスって完全な偽名だろォが、目次ってふざけてンのかァ」
「ふざけてなんかないよ。禁書目録って意味なんだから。それよりあなたの名前は?」
「百合子・・・・」
百合子がぼそりとそっぽを向いて呟くとインデックスはにっこりと笑った。
「良い名前だね」
「それは俺の名付け親に言ってやれ、泣いて喜ぶぞ」
青年がにこにこしながら笑っているのを思い浮かべ恥ずかしくなった百合子はそっけなくそう言った。
「・・・・・百合子を育てた人に会ってみたいけど、もう私は行かなくちゃ」
「ン?何でそンなに急いでンだ」
「追手が来るからだよ。君もこの部屋を吹き飛ばされたくないよね?」
「はァ?」
こんなときにも電波設定を続けてるのかと百合子が頬を引き攣らせるが、インデックスは心外だと頬を膨らませる。
「私の頭の中には十万三千冊の魔道書が記憶されているんだから、追われても可笑しくないかも」
「魔道書だァ?この科学の街でありえねェ事言ってンじゃねェぞクソガキ」
「ありえなくないもんっ。魔道書は私の頭の中に記憶されてるんだからっ」
「じゃあそれ使って何かやってみろォ。上手く出来たら手を叩いて大喜びしてやるからよォ」
ニヤニヤしながら言う百合子にインデックスは地団駄を踏む。
「そこはかとなく馬鹿にしてるね」
「たりめェだ、魔術なんてもんがある訳ねェだろ」
「魔術はあるもん」
「だからやってみろって言ってンだろォが」
「私は無理だもん、魔力が無いからね」
「あのなァ、外の街のインチキ超能力者と同じいい訳してンじゃねェぞ・・・・」
「あるったらあるもんっ!!」
「あ、オイこら待ちやがれェ!!」
飛び出したインデックスを追いかけて百合子が飛び出すがそこにはシスターの姿はなかった。
「おいっ!!どこに行きやがったっ」
信じた訳ではないが屋上を見上げる為に通路から身を乗り出して覗こうとすると、季節感無視の黒い神父服を着た男と白い服を着た少女を抱えたTシャツを捲りあげ、ジーンズの片方をバッサリと根元で切った服装の女が歩いて行く姿が寮の下に見えた。
「なンだあいつ等?」
百合子がとりあえずインデックスを助けようと飛び降りようとする。
「なっ!?」
しかしその瞬間彼女の体は嫌な感覚に支配され、気が付くと通路を転がっていた。
「あァ?」
何度も助けに行こうとするがそのたびにあの嫌な感覚に支配され、その場から動けなかった。
「クソがァあああああっ!!」
だんだん遠くに行ってしまうその人影に歯をむき出しにして吼える。
「待ちやがれェえええええええええっ!!」
その声に豆粒大の大きさにしか見えない片方の女が振り向くが、それっきり二人はインデックスを抱え歩き去って行った。