IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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君が望む永遠

入学式から一週間が経過し、今日は更識とのISによる試合の日。

 

まだ試合開始まで三十分はあるというのに、更識は既に専用IS『ティフォーネ』を展開し、アリーナ中央で佇んでいた。毎度のことながら、何故皆、揃いも揃って俺が予定よりも早く来るとそれよりも早くに来ているのか。まあ、更識に関していえば仕方のない事なのかもしれないが。

 

「それはそうと、何で五人はここに?」

 

そして生徒会メンバーと真耶もまたどういう訳か、アリーナのピットに揃っていた。真耶はともかく、生徒会のメンバーは確か管制室から見れた筈だが……

 

「試合前に一言言っておこうかと思ってな」

 

「良かったにゃぁ、将輝。こんな美少女五人が応援しにきてくれて」

 

「もっともそれが無くとも将輝は勝つがな」

 

「何て言っても先輩ですもんね」

 

「てな訳で、さっさとあの小娘倒しちゃって来なよ!」

 

小娘て。一年しか変わらないっての。まあ美少女であることは事実だし、応援されている以上、負ける訳にはいかない。それ以外にも勝たなきゃいけない理由はあるが。

 

「束、お願いがある」

 

「んん?どったの、そんな改まって。まーくんのお願いなら何でも聞くよ?何なら大人の階段をーーー」

 

「そういうのじゃねえよ。お前って治せない病気とかあるか?」

 

「質問の意味がわからないけど、まあ結果だけみれば、私には治せない病気なんてないね。怪我だって脳味噌さえ無事なら何とかなるし。で、それがどったの?」

 

「なんでもない。ただ、さっき「俺のお願いなら何でも聞く」って言ったの、忘れるなよ」

 

「は……!もしかして私と人間の限界を超える程の激しい事をする気なんだね!大丈夫!私なら一日中求められてもすぐに応じてあげるから!なんなら試合が終わってすぐにでも子づくぐへぇ⁉︎」

 

「そろそろ黙れ。万年発情兎」

 

静のボディブローに束は身体をくの字に折り曲げて沈黙する。おおっ、中々良い一撃だ。宙に浮いたぞ。何時もなら千冬の拳骨で床とキスしてたけど、束を黙らせる人間がまた一人増えたな。

 

「あ、あの、篠ノ之先輩大丈夫なんですか?」

 

「気にすんな、まーやん。タバねんはこの程度で死なないから」

 

「そういう問題じゃないような……」

 

そういう問題だ。束を黙らせるには実力行使しかないし、こいつのタフさはゴキブリもびっくりだ。女子の生命力をゴキブリと比較するのは憚られるが、束だしいいか。

 

「将輝。さっきの話は更識の事か?」

 

「まあな。俺程度に救えるなら、救っておきたいしな」

 

「………そうか。なら救ってやれ、私達の時のように」

 

俺は頷くと少し離れて、専用機『夢幻』を展開し、更識楯無の待つ空へと飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早かったですね。もう少し時間がかかると思っていましたが」

 

「挑戦者の君が先に待ってるんだ。急がない訳にはいかないだろ?」

 

「ありがとうございます。私としてもあれ(・・)が来る前に決着をつけたいので」

 

そう言って更識は両手に一メートル程のブレードを呼び出すと逆手に持ち、そのまま突貫してきた。

 

この試合に開始のブザーはない。挑戦者側が攻撃を仕掛けるか、距離が一メートルを切れば、試合が始まる。故に俺の背後に回ってからぶっ放してくる子もいたが、ISには相手の攻撃姿勢までわかるから、反応速度が早い相手だと意味はない。更識もそれをわかった上で、正面から仕掛けてきたのだろう。なかなか良い判断だ。けどまあ……

 

「どちらにしろ、当たらないけどね」

 

俺は振るわれた二刀を拳で弾いた。正確には掴んでいる手をだけどな。刃がついているところを攻撃したら、エネルギー減るし。

 

何時もならここで皆驚くけど、更識は止められるのをわかっていたようで、すぐに距離をとるとブレードを消して、両手にアサルトライフルを呼び出すと同時に撃ってきた。展開から攻撃に移るまでの動作はなかなか速いが、シャルロットのラピッドスイッチ程ではないな。

 

全弾かわしきると、リロードをする為に隙を作りたくないのか、手にしていたアサルトライフルを此方に投擲してくる。俺が拳で弾こうとしたそのとき、アサルトライフルが爆ぜた。幸い、爆発寸前で気がつくことが出来たので、ダメージはないが、彼女の発想力に少し驚かされた。

 

「油断は禁物ですよ、副会長!」

 

「油断なんかしてないよ」

 

やや態勢が崩れたところを更識がブレードを投擲して、殴りかかってくる。ブレードを叩き落として、拳と拳で打ち合おうかと考えたが、嫌な予感がしたので、横から拳を当てて逸らした。

 

武装がわからないというのはなかなか厄介だ。俺達生徒会はIS戦を挑まれた時、挑んできた相手の条件に則って戦う決まりがあり、そして相手のIS情報を得てはいけない為、ハンデが無くとも、ハンデを作るような形になる。だから俺は基本的に嫌な予感がした時はそれに従うし、更識が勝ちに来ているのであれば、一撃当てるためだけに全てを賭けるような真似はしない筈だ。

 

「まだまだぁっ!」

 

更識の拳をいなしているうちに俺の背中が壁に当たる。それを好機と見たのか、更識は今までで一番速い拳打を放ってくる。だがそれも避けられる速度なので普通に躱すと拳はアリーナの壁に当たり、直後爆ぜた。

 

「成る程、指向性の爆薬か」

 

「私のISは私と同じで小細工が売りでして、こういう感じに身体の至る所に秘密武装がついてるんですよ」

 

確かに更識のISは肌の露出が少なく、防御型のような見た目なのに武装は重い一撃を一発当てるよりも軽いものを当てて、じわじわと削っていくスピード型のスタイルだ。先程のアサルトライフルはおそらくグレネードか何かを付けていたのだと思うが、指向性爆薬というのはなかなか厄介だ。それに防御の為に付けられていた場合、一々距離を取られかねない。

 

「驚くのはまだ早いですよ。ここから……ッ⁉︎」

 

攻撃を仕掛けようとしていた更識の顔が突如苦悶に歪む。

 

「大丈夫か?」

 

「……お構いなく。続けましょう」

 

更識は頭を振ると不敵な笑みを浮かべるが、相当痛いのか、口元は引きつっている。どうやら俺の想像以上のものらしい。

 

「更識。日を改めないか?」

 

「私は続けましょうと言いましたよ!」

 

振るわれた拳を躱し、俺は拳を更識の顔面の手前で止める。

 

「殴らないんですか?」

 

「顔だと絶対防御は作動するが、少なからずダメージは通る。女の子の顔に傷をつける気はない」

 

「……………ふざけないでください。私は命懸けで!貴方に真剣勝負を挑んだんですよ!武器を出さないのは良い。でも手心を加えようなんて悪ふざけも大概にしてください!」

 

「命懸け……ね。君の病気、其処まで深刻なのか?」

 

「ッ⁉︎」

 

俺の言葉が予想外だったのか、更識は驚きに目を見開いた。

 

一週間前、俺は更識の中学時代の成績を見る中で、一度だけ彼女が病気を理由に中学の学園祭を休んでいた事に気がついた。それ自体何もおかしい事ではない。勝手な憶測だが、彼女が風邪程度で学校行事を休むとは思えず、その時の担任に聞いてみたが、流石は更識というべきか、情報は得られなかった。だが、こちらには天才が二人いる。ヒカルノに更識の事について調べてもらった時、その場にいた束を除く俺達四人は驚愕した。

 

「……原因不明の病だそうです。初めは急に心臓が痛くなったなくらいにしか思いませんでした。だから病院にも行かなかったんですけど、それが日増しに強くなって、学園祭の前日に私、学校行く前に倒れちゃったんです。それで色んな人にバレて、学園祭を休んでまで一日中色んなお医者さんに調べてもらった結果、返ってきた言葉が「わからない」の一辺倒ですよ?酷くないですか?私、とても楽しみにしてたんです。中学最後の学園祭でしたから。なのに専門のお医者さんで名医って呼ばれる人達がわからない、ですよ?あんまりです。しかもその所為で私は家業を継げなくなったんです。今は貴方が出てきてくれたお蔭で襲名してますけど、ここを卒業すれば、それも私の妹の物になる。今の今まで次期当主として育ててきた癖に治らない病気にかかった途端これです。でも、それについては仕方ないって思ってます。裏の仕事をする人間の長がいつ死ぬかわからない小娘じゃ駄目ですよね……………だけど」

 

自嘲するように喋っていた更識の声が震え、そしてその瞳には涙が浮かべられていた。他の生徒には俺達が話しているだけにしか見えないのが幸いだ。もっとも管制塔には全部聞こえてるかもしれないが。

 

「余命が後二年以内だなんて、あんまりじゃないですか。私、高校すら卒業出来ないんですよ?まだ男の人を好きになった事もないし、付き合った事もないのに。何が好きとか嫌いとか、何でもない事に一喜一憂したりとか、そんな経験もないのに。私、まだ何もしてないのに、死んじゃうなんて嫌なんですよ。だから、私は本気の貴方を打倒して、IS乗り最強の名を手にして死にたいんです。現生徒会長の織斑千冬が、自らよりも強いと認めた貴方を」

 

千冬のやつ、まーた余計な事を言ってやがったな。入学式の時点で知ってたって事は大方、入学試験の時辺りだと思うが、今回ばかりは感謝するか。お蔭で彼女の事について知る事が出来たんだからな。

 

「貴方の事を知るのなんて、実は二の次なんです。ただ、私は最強の名が欲しい。例え自分がどうなろうとも。何にもない小娘でも、一瞬でも最強の名を手にしていれば、私の事を覚えていてくれる。誰からも忘れ去られるような人間にはなりたくないです」

 

「そうか」

 

「ええ。ですから、本気で来てください。その上で私は貴方を倒します!」

 

更識は加速して俺に肉薄する。どんな攻撃が来るのかと身構えていたが、攻撃はされず、ただひたすら俺に組みつこうとしてくる。全てかわしていたが、その内何かに引っかかり、更識に組みつかれた。よく見ると細いワイヤーが更識を基点として貼られていた。

 

「油断ですよ、副会長。言ったじゃないですか、私のISは小細工が売りですって」

 

「組みつくのは構わないが、ここからどうする?」

 

「こうします♪」

 

流石に俺も度肝を抜かれた。彼女は俺に組みついたまま、半径一メートル以内に五十個以上のグレネードを呼び出した。自爆特攻かよ⁉︎無茶苦茶な戦法だけど、かなり効果的だ。久しぶりに度肝を抜かれたぜ。

 

「お前も怪我じゃ済まねえぞ?」

 

「それも言いました。私、自分がどうなっても良いんです。貴方を倒す事が出来ればそれで……」

 

おいおい、これってIS戦だよな?何時からこんな命懸けのバトルっぽい展開になったんだ。

 

「それじゃあ仲良く散りましょう。将輝副会長♪」

 

にこりと更識が笑みを浮かべると同時に五十以上ものグレネードが一気に爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 


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