IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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ゴールデンタイム

 

「本当に良かったのか?将輝?」

 

「うん?何が?」

 

心配そうに言う千冬に俺は何事かと思い、聞き返す。

 

「一週間後のISの試合の事だ」

 

「あれな。別に大した問題じゃねえよ、寧ろ願ったり叶ったりだ。どうやって口止めしようか考えてた所にあっちから提案してくれた。これ以上の好機はねえ」

 

別に強がりなどではない。本当に大した問題ではないのだ。どういう考えのもと、更識が俺にIS戦を挑んできたのかはわからないが、少なくとも完全装備で罠を張り巡らせた状態の更識が挑んでくるよりも勝率は高い。ほぼ百パーセントと言ってもいい。いくら彼女が裏の組織の人間でもIS操縦者としては俺の方が先輩で、どれを取っても上なのだ。

 

「それに一週間後の試合は他の新入生も見るから、認めてもらう良い機会だ。二年の皆もそうだったけど、彼女達の中で心の底から男を見下している者は極少数だし、その少数も実力だけは純粋に評価する節があった。今回もそうとは限らないが、大体の人間は当てはまる」

 

そうすればやたらと狙われる事はなくなる。言い方は悪いが、過信している子は普通に倒しても敗北を認めない。かといって圧倒的な実力差を体感させた場合は下手をすると心が折れる。だから他者との試合で絶対に敵わないと認識させるのが一番手っ取り早い。そうすれば彼女達の心を折らず、挫折を感じさせ、成長を促す事が出来る。

 

「心配してくれてるのか?」

 

「まさか。心配など不要だろう。私は今からでもお前がその気になれば会長職を譲り渡そうと思っている」

 

「無理だって。俺は良くても二番目か三番目が限界だ」

 

「相変わらず謙虚だな。他の自信が少しでも其方に回れば、今頃お前が会長で私が副会長なのだろうな」

 

「必要以上の自信は過信でしかない。それにいつ変わるかわからない生徒会長っていうのも問題だしな」

 

やっぱり生徒会長っていうのは戦わずして勝てないとな。戦う前から実力差を感じさせられないと。残念だが、俺にはそれがない。男だから、という理由ではなく、俺自身があんまり強そうじゃないからだ。毎回襲ってきた相手は軒並み俺が反撃した直後に「え?そんなに強いの?」的な顔で見てくる。これでも生徒会の中でストッパーしてるんだから、強くないとやってられない。ていうか、どれだけ弱そうなんだ俺。

 

「ク………ハハハハハ!」

 

俺の言葉に急に千冬が笑い出した。何かおかしい事言ったかな?

 

「はぁ……本当にお前は面白いな」

 

一体何が面白いのか、よくわからん。ただ馬鹿にされてはいないと思う。

 

「私達と互角かそれ以上の人間が、私達より弱い者に負ける筈がないだろう。第一、お前が負けるような相手など人間ではない」

 

「それ、遠回しに俺が人間じゃないって言ってないか?」

 

「さあな。普通ではない、と言っておこう」

 

遠回しにじゃなく、ストレートで来やがった。そういえばミハエも俺達が一般なら自分達は人になりきれなかったナニカだ、とか随分と酷い事を言っていたな。そこまで人間やめてるのか?俺。しかも普通じゃない千冬に普通じゃないって言われるとか心が……うおっ⁉︎

 

超スピードでボールペンが飛んできた。壁に刺さったぞ⁉︎あんなの当たったら風穴空いてるっての。

 

「今、私の事を人間じゃないって思ったな」

 

「ま、まさか。千冬は普通でか弱い乙女だ」

 

「………将輝にしてはもの凄く重みのない言葉だな。まるで束のようだ」

 

束のようか………確かに説得力ないな。束に毒されてきたかな。駄目だ駄目だ!せめて俺だけはマトモでないとこいつら止める奴がいなくなる!それは由々しき事態だ。

 

「それはそうと将輝。これが更識に関する資料だ」

 

「ありがとう」

 

千冬から渡されたのは更識の入学試験での結果とこの学園に送られてきている中学時代の評価。

 

筆記試験は満点で山田真耶と並んでトップ。人格に大きな欠落は見られず、分け隔てのない性格。中学では一年生から生徒会長を務め、支持率は常に九割を超えている。運動に関しても男子を遥かに上回り、ISでの模擬戦闘ではイタリアの専用IS『ティフォーネ』を使用し、教員との試合において勝利を収めている。

 

「あれ?更識って、日本の代表候補生じゃないのか?」

 

「ああ、どういう理屈かは知らないが、更識はイタリアの代表候補生らしい」

 

自由国籍権か。確か更識家の特権だったな。まあ、千冬がいるんじゃ日本の国家代表を狙うのはハードルが高………うん?

 

「なあ、千冬……これってーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

将輝と千冬が話をしている頃、更識楯無は自室でとある人物について調べていた事をまとめていた。

 

(両親は既に他界。幼少期から小学生に至るまで、海外の紛争地域で過ごし、その後各地を転々としていた際に篠ノ之博士の発見でISを使用出来る事が発覚し、入学に至る。入学に至るまでの二ヶ月の間に絶大な信頼を獲得し、現在のIS学園の生徒会副会長になるが、周囲は会長になる事を望んでいて、拒否しているのは本人のみ。個性の強い生徒会のメンバーのストッパーとして教員からも頼りにされている。実力は折り紙付きで生身でもIS戦でも勝てるのは生徒会の人間のみ……か)

 

脳内でそう締めくくると楯無は溜め息を吐いた。結局、集められた情報は僅かだった。

 

弱点を調べようにもその隙がなく、過去将輝に挑んだ者に話を聞けば全員攻撃された事に気付かず、無傷で無力化されている為、どんな武術を使っているかすらわからない。過去のIS戦でも武器は使用せず、素手で勝利を収め、操縦技術は全IS操縦者とは一線を介している。教師に頼んで早速見てはいるものの、どれも見た事のない動きで攻略のしようがない。おまけに戦闘時間は五分。相手の動きを見極めた上で鬼のような連打を浴びせて沈黙させる。その時、絶対防御は超えないように加減されている。実力差があるからこそできる芸当だ。

 

また将輝の過去についても、世間で公表されている事しかわからない。彼の情報については世間に公表されると同時に更識家の総力を結集して調べ上げた。だというのに、誰でも知っているような事しかわからない。おまけに他界した両親の情報は全くない。何一つ情報を得る事が出来なかったのだ。

 

はっきり言って異常だ。どれだけ情報を秘匿しようとしてもそれが組織でなく一般人である限り、何処からか必ず足がつくものだ。そして組織だとしても何の情報も得られないなどということはない。

 

ましてや、更識は裏の人間で暗部。情報網は尋常ではない。それの全てを駆使しても掴めないなど異常過ぎる。

 

戦闘能力一つ取ってもそうだ。紛争地域で長い間過ごしていたとはいえ、凄まじい強さだ。技術自体は其処まである訳ではないし、もし其処で何かしら教えを受けているにして少しお粗末だが、ただただ身体能力が高く、そして鋭い。僅かな異変にすら気づく為、不意を突くのは至難の技である事は既に経験済みだ。ISの操縦技術に関しては教えを受ける相手がいない上、発覚してから動かし始めたというのに学園で一、二を争う実力を有している。

 

「これじゃ、まるで亡霊ね。いない人間でも探してるみたいだわ」

 

冗談交じりの呟きは強ち間違いではないが、楯無がそれに気づく事はない。藤本将輝は本来なら存在しない人間である事に。その結論に辿り着くには彼女はあまりにも聡明な人間で、何よりそんな事は彼女にとってどうでも良い事だった。いる人間でもいない人間でも更識楯無の目的はただ一つ、藤本将輝を打倒する事のみ。

 

(もう私にはそれしかない………もう……それだけしか……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





試合前なので少し短め。楯無の専用ISはオリ機体です。どんな機体かはある程度決めてます。

次回は初の戦闘回、張り切って頑張るぞー!

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