IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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天災と代表候補生

 

「やれやれ。クラス対抗戦が近いのに。厄介ごとを持ち込まないでくれ、篠ノ之先生」

 

「あはは、そんなに面倒くさそうにしないでほしいなぁ。束さん的には、そんなに悪いものじゃないと思うけど?」

 

束が見せてきたディスプレイに何度か目を通して、額に手を当てて、溜息を吐いた。名前を呼んでいないのは、一応今は勤務時間だからだ。束には特別講師をやってもらっている。月に一度しか教壇に立つ必要はないし、基本IS整備などの実習側の人間だが。

 

ISのことについては卒業した後も粗方勉強してきた。それは別にISの開発に携わりたいわけではなく、束やヒカルノ達の『世界』を少しでも知りたいと思ったからだ。

 

理由はどうであれ、肉体は最強クラス。しかし、頭脳は凡人クラスだ。過去に来る前までの勉強があったから、遅れは取らなかった。けれども、それは一般的な目で見てだ。天才たる二人から見れば、そもスタートラインにすら立てていない程の遅れだ。

 

天才だから、と割り切れれば良かったのだが、どうにもそれが許せなかった為に、俺は卒業後も勉強し、結果として、教員になっても、なんら支障はなかった。

 

だから、束が見せてきたものの内容はわかるし、どんなものかも理解している。有用性も高い。

 

ーー無人型第三世代IS。名称ゴーレム。

 

ちょうどクラス対抗戦の折、束が一夏と鈴の試合に乱入させる機体だった。

 

名前を見た瞬間に気づいた。細部まではわからなくとも、大まかには理解したし、俺のISにはあの時のゴーレムとの戦闘データがある。全く同一のものと言っても過言ではなかった。

 

それを見た瞬間の俺のリアクションで、束は察しているようだった。

 

「まだ何処の国も第三世代に着手ないし試作機を作ってる最中にとんでもないものを考えたな。その心は?」

 

「科学の発展の為に。後は……日本の防衛レベルの向上?」

 

「……これ以上上げる必要があるのか?」

 

「全然。まーくんと私達がいるからね」

 

自分で言ったことを即否定したことについてはスルー。よくあることだ。口からでまかせを言っただけだろうからな。

 

「じゃあ、なんでこれを創ろうと思ってるんだ?」

 

「それはまあ……天才の性ってやつかな。思いついたら創らずにはいられないからね。でも、まーくんには確認取ろうかなって。一応、新技術だしね」

 

一応、と言っているのは、束にとってはそこまで凄いと思っていないからで、実際のところ、無人機のISなんて今世に発表したら、連日報道されるレベルの技術だ。

 

しかしーー。

 

「……駄目だ。こいつを世の中に出すのは認められない」

 

「……理由はあるよね?」

 

「ただでさえ、ISは圧倒的性能を誇ってる。それが人さえ乗る必要がなくなったらどうする?今度こそ、ISはパワードスーツから『兵器』になるぞ」

 

確かに無人機は凄い。革新的だ。

 

だが、ISの性能を鑑みて、それが有人から無人になった日にはより兵器に近づいてしまう。そして無人でもISが機能してしまうことを知れば、全世界が無人機の開発に躍起になるだろう。それだけは避けるべきだ。

 

「束。お前がなんだかんだ言って、人の為になるものを創ってくれているのはわかってる。だが、こいつだけは駄目だ。仮に第三世代型ISや第四世代型ISを量産するのは許容できても、無人機だけは駄目だ」

 

「うーん……そんなに真剣な表情で言われたら、束さんもふざけられないなぁ。結構良い発明だと思ったのに」

 

「……悪いな」

 

「まーくんが謝る必要はないよ。私も悩んでたし、寧ろまーくんのお蔭で踏ん切りがついたから」

 

そう言って、束は俺の目の前でデータをデリートした。相変わらず思い切りの良いやつだ。

 

「で~も~、そーのーかーわーり!」

 

ずずいっと束が顔を近づけてくる。職員室とはいえ、ここが隣にある別室で幸いだった。他の職員に見られていたら、少しばかり言い訳をするのが面倒だった。

 

「……なんだ?」

 

「束さんは傷心だから。その傷ついた心、まーくんの愛で癒してね?」

 

………。

 

まさかとは思うが、全部わかった上であれを見せてきたんじゃないだろうな、こいつ。

 

「はぁ……わかった。また後でな」

 

「やったー!束さん、大勝利ぃ!」

 

全く……揃いも揃って、自分達が教職員だってことを忘れてやしないか。いや、俺が言えた話じゃないかもしれんが。

 

これから再会するたびこの展開じゃ、先が思いやられるな。

 

「あ、ところでまーくん。どうだった?三人目の子」

 

「三人目?……ああ、八重垣の事か」

 

こと八重垣の出現に当たって、俺は束達に八重垣が『新たな存在』という事を伝えてある。

 

本来存在しなかった『三人目』。おそらく、俺が過去に残り、歴史を変化させたために、本来の俺がこの世界の俺に憑依せず、別の人間が別の人間に憑依したのだろうと思う。

 

そしてその『三人目』である八重垣龍二の動向次第で、俺は最悪あいつをねじ伏せなければならなかった。踏み台転生者として描かれる人物は、総じて異性を除く自分以外を排斥しようとする。そうなった場合、残念だが、平和的解決は望めなかった。八重垣はどうにも俺がその踏み台転生者と同族だと思っていたらしいが、幸いにして俺もあいつも己の欲望のためだけに世界をめちゃくちゃにしようとは思ってない。

 

「当面、八重垣に監視をつける必要はないし、俺に絡んできた理由を考えると根は良いやつだ。だから、変なちょっかいは出すなよ」

 

「……それって、フリ?」

 

「違う。その気もないのに変な方向にスイッチ入ったらマズイだろ」

 

本人にどうこうするつもりがないのなら、平和にIS学園の生徒として過ごしてもらおうというのが、俺の考えで、千冬や真耶も同意している。八重垣にその気がない以上、妙なプレッシャーを与えるのはマズイ。特に原作を知ってる人間からしてみると、束にプレッシャーを与えられるというのは生命の危機を感じてるのと同義だ。

 

「あはは、冗談冗談。何もしないよ。まーくんが生徒として扱うなら、私もそうしないとね。それにやっくんだっけ?の専用機は倉持技研が担当してるわけだし」

 

倉持技研。

 

束は個人なので例外として、世界でトップを誇るISの研究施設。日本でも有数の科学者達が結集し、日々ISの研究に取り組んでいる。

 

その倉持技研の所長が、何を隠そうーー。

 

「ヒカりんのISかぁ……どんな面白ーーじゃなかった。オリジナリティー溢れる機体になってるんだろうなぁ」

 

「さあな。この前聞いたときは『完成してからのお楽しみ』って言ってたしな」

 

八重垣のISを手がけているのは、ヒカルノだ。白式を一から十まで束が手をかけた以上、手の空いている倉持技研に八重垣の専用機開発が回されるのは当然の話だが、はてさて。どんな尖がった機体になるやら。天才というのは『使いやすさ』よりも『極めたら強い!』の方向性で機体を作るからな。俺の夢幻しかり一夏の白式しかり。

 

その点はヒカルノも共通らしく、今まで束と競合してはワンオフものばかり作る。汎用性は高いか低いかでいうと……御察しの通りだ。まぁ、使用する用途が不明なものを作らないという点では、ヒカルノの方がまだ常人よりか。どんぐりの背比べもいいところだが。

 

「俺はそろそろ授業に行くから。また何か新発明があったら俺のところに持ってこい。時代的に問題があるかもしれないが、ゴーレムは確かにそう悪いものじゃない。世に貢献出来そうなものならバンバン作っていいからな」

 

「OK!私、まーくんのそういうところが大好きだよ!愛してる!」

 

「はいはい。俺もだよ」

 

はぁ……好意を伝えられるのは嬉しいが、時と場合を選んで欲しいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束と別れた後、俺は二年生の教室に向かっていた。

 

一年の学年主任とはいえ、他の学年の授業を受け持たないわけではない……というわけではなく、単に俺だけが学年とクラス問わずに授業を受け持たされているだけである。

 

なんでも『一年生だけ藤本先生の授業が受けられるのは、二年生と三年生があまりにも不幸』という、他の教員たちの提案からで、この中には千冬も真耶もいたりする。皆は俺が教員になって間もない事を忘れているのではなかろうか。

 

まぁ、実技なら大体なんとかなるんだが……。

 

「きゃっ」

 

「っと、危ない」

 

廊下の角を曲がった瞬間、向こうから歩いてきていた女子生徒にぶつかった。

 

俺は全然ビクともしなかったが、女子の方が転びそうだったので、咄嗟に手を掴んだ。

 

「大丈夫?」

 

「だ、大丈夫っス。お気遣いなくっス」

 

こちらを見上げる女子生徒には見覚えがある。

 

長い黒髪を太い三つ編みにした女子生徒。

 

まだ学園の生徒の顔を全員覚えたわけではないが、重要な人物。専用機持ちや代表候補生は覚えている。

 

「……フォルテ・サファイア、で、合ってるかな?」

 

「あ、合ってるっス」

 

「前方不注意だった。これからは気をつけるよ」

 

「こ、こっちもごめんなさいっス」

 

そう言って、彼女は姿勢を直す。それに合わせて俺も手を離した。

 

「えー……と。藤本将輝様っスよね?」

 

「ああ、そうだよ………ん?様?」

 

何故様付け、と聞き返すよりも早く、彼女は気怠そうな表情を一転、目を爛々と輝かせ、俺にずずいっと近づいてきた。なんだなんだ、今日はよくよく異性に(物理的に)迫られる日だな。

 

「噂は聞いてますっス!こんなところで会えて、喜びと感動で今にも昇天しそうッス!」

 

「いや、それは困るから」

 

あまりにも突然のハイテンションに呆気に取られかけたが、別に珍しくもない事だ。このテンションの変動具合、俺が学園に生徒として在籍していた頃を彷彿とさせる。

 

「わ、私、将輝様のファンっス!も、もし良かったら、サインをお願いしますっス!」

 

「あー……流石にそれは、ちょっと」

 

訂正。彼女は在籍時の皆よりも積極的というか、行動派らしい。流石にサインを求めてくる子まではいなかった。

 

「そ、そうっスか……残念っスけど、こうしてお話が出来て、光栄の至りですっス」

 

未だ興奮気味だが、先ほどよりは幾分かテンションを落として、佇まいを直す。

 

「改めまして、自分はフォルテ・サファイア。専用機は《コールド・ブラッド》っス。一年生から授業を受けられないのは残念っスが、よろしくお願いしますっス」

 

「ああ、よろしく。俺は今年から教師になったわけだから、君達の期待に応えられるかわからないけど、精一杯教師として勤めさせてもらうよ」

 

手を差し出すと、彼女ーーフォルテは両手で握り返してきた。うーん、この崇拝にも似た感情。実に懐かしい。本当に後輩達は俺の何を伝えてしまったんだろうか。

 

「ちょい待ち、伝説のIS操縦者様。オレがいない間に、人様のパートナーを口説くのはやめてもらおうか」

 

ふと、声をかけられたので、振り向くとそこには金髪の女子生徒。制服を着崩し、大きく開いた胸元からは黒色のブラが見え隠れしている。

 

なんとまあ……羞恥心がないのか、はたまた男の視線など意に介していないのか。どちらにせよ、俺はともかく、一夏や八重垣には刺激がちと強いか。

 

「ダリル・ケイシー、だな。君の方は」

 

「おうさ。フォルテとはISでも日常でもパートナーだ。手を出すのは許さないぜ」

 

「手を出すって……あのなぁ、教師がそんな事をすると思ってるのか?」

 

教師をなんだと思ってるんだ……と言いたいところだが、世間じゃそういうこともあるしな。完全否定できる道理はあまりないわけだが。

 

「そっちにその気はなくても、噂を聞いてれば警戒するぜ。数々の伝説を残した学園きってのプレイボーイならな」

 

「いや、俺はプレイボーイじゃーー」

 

「何言ってるっスか!この人はプレイボーイなんて低俗かつ野蛮な人間じゃないっスよ!ここに来た時に先輩方が言ってたじゃないっスか!」

 

俺が言うより先に、フォルテが食ってかかる。

 

それに対して、ダリルはというと、一切物怖じすることなく、言い返す。

 

「そりゃあそうさ。全員脳内お花畑の乙女思考。良いように脳内変換されてる。悪いところなんてあるわけがねえ。第一、オレらはこのセンセーの武勇伝とやらを見た事がないんだぜ?人伝で知ったとこで、何を敬えば良いんだか」

 

「うぅ……そ、それは……そうかもしれないっスけど……」

 

うん。全くもって正論だな。寧ろ、彼女のような思考に至る人間がいて然るべきだ。所詮噂は噂。実際に見聞きしたことではない。信憑性は皆無だと言っていい。

 

何一つ反論の余地がないが……まぁ、一つだけ問題はある。

 

「はい、そこまで。教師の前で喧嘩は良くない。というか、理由があまりにもくだらなさ過ぎるから。ここらでやめておいた方がいい」

 

「くだらねえって……オレはセンセーの事、言ってんだぜ?」

 

「それがくだらないのさ。君達の仲を裂く程の理由にはならないだろ?」

 

俺の問いかけに、ダリルは顔を背けた。

 

さっき現れた時の言葉でなんとなく察していたが、合っているらしい。ダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアは恋人同士。所謂同性愛者というやつだ。

 

さしずめ、恋人が男に愛想を振りまいているように見えて、気に入らなかったってところか。それはまあ、突っ掛かりたくもなるな。

 

「ここに来る過程で二人のデータは見させてもらった。『イージス』だったか、お互いのISの特性を活かしあったいい連携だ。俺でもあれを突破するのは骨が折れそうだ」

 

「そ、そんな、べ、別に大した事じゃ……ない、っス……」

 

「ああ、お世辞にしちゃ、説得力ないぜ、そいつは」

 

「当然。お世辞じゃないからな」

 

ここだけの話。俺達の世代は皆一騎当千の猛者達ばかりだった。時には即興の連携なんかもあったが、記録で見たこの二人の連携程じゃない。互いのISの特性を活かしたこの二人のコンビはとても他国家のIS同士とは思えない程だ。

 

「「っ……!?」」

 

「他国家の専用機持ち同士との連携プレー。並の付き合いじゃ出来ない代物だ。これからも頑張ってくれ。ひょっとしたら、タッグマッチ仕様のモンド・グロッソ。なんていうのも出来るかもしれないさ」

 

そう締めくくって、俺は教室にーーおっと。

 

「そうだ、ケイシー。一つ言っておく」

 

「なんだよ」

 

「俺は生徒に手を出すつもりはないし、横取りするつもりもない。君達の愛は君達だけのものだ」

 

誤解を解いとおかないとな。俺が生徒に手を出す最低教師だと思われてしまう。

 

……あ、いや、籍を入れてないだけで一夫多妻状態は十分最低か。世間一般の価値観で言えば。

 

ややむすっとしていたダリルは、目を瞬かせた後、腹を抱えて笑い始める。

 

「く……あっはっは!んな事言われなくてもわかってるって、藤本センセーよ。っていうか、二つ言ってるぜ?」

 

「あー……まあ。大事な事だしな。ノーカンだ」

 

うぐ……やっぱり格好良くは締められないか。ガラじゃない事はしない方がいいか。

 

「じゃあな。くれぐれも授業に遅れないように」

 

そう言って、俺はその場から去ってーー。

 

「あ、私は先生の授業で同じ教室っスから、一緒に行きますっス」

 

「じゃあ、オレも途中まで行くぜ。どうやら当てにならない噂、ってわけでもなさそうだしな」

 

……本当に締まらないなぁ。一度でいいから二枚目っぽく締めたいものだ。


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