IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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誰だってやるときはやる

「あー、疲れたなぁ……」

 

学年主任に割り当てられた部屋に帰ると俺はスーツを脱ぎ捨てて、ベッドの上に倒れこんだ。

 

学年主任に割り当てられたとはいっても、他の部屋と大差ないのだが、あるとすれば、俺が部屋の一角に畳と座布団、そしてちゃぶ台を用意してもらったことくらいか。

 

別に身体的な疲労は大したことは無いのだが、精神的な疲労が著しい。堅苦しいスーツもそうだが、生徒と会うたびに学生時代を彷彿とさせる愛されっぷりで久々に苦笑いしかできなかった。

 

世界中を動き回っていた時は変装もしてたから、一般人としての生活に慣れていたから、この状況はなかなか疲れる。それに先生なんで柄にも無いことをしようとしているわけだから、余計にだ。

 

その点、やはり千冬や真耶は対極に位置する性格ではあるものの、お互いに教師には向いていると思う。教え方が上手いし、生徒からの信頼も厚い。

 

俺はそう言うのは得意じゃ無いから、これからその辺のことも考えていかないといけない。なるようになるとは思うんだけどな……。

 

コンコン。

 

「開いてるよ」

 

ノックされたので、脱ぎ捨てていたスーツの上着をハンガーにかけ、許可を出す。

 

「私だ」

 

入ってきたのはジャージ姿の千冬で、その手には小さな手提げ袋があった。

 

「織斑先生。何か?」

 

俺がそう問いかけると、少しだけ不機嫌そうに千冬は言う。

 

「……今は教師ではなく、一個人として会いに来たのだが?」

 

「つまり、どうして欲しい?」

 

「……名前で呼べ……馬鹿者」

 

意地悪な質問を投げかけると、ふいっと視線をそらして、ゴニョゴニョとどもりながら言う千冬に俺は自然と頬を緩ませる。

 

本当にこういう所は反射的に抱き締めたくなるくらい可愛い。クーデレもここまで極めると属性を超越したナニカになる。

 

「ははっ。わかってるよ、千冬。そこ、座ってくれ。飲み物を……」

 

「それなら私が用意している」

 

俺が立ち上がろうとすると、千冬は手提げ袋から缶ビールを取り出した……おいおい。

 

「新学期初日から酒盛りとはどういう心境かな」

 

「久々の再会を祝して、軽くだ。何せ、一年近く会っていない。仕事柄仕方ないのはわかるが、私とて人間。寂しくはある」

 

「だから、一夏に絡み酒するんだろ?」

 

「……何のことだか」

 

適当に言ってみたら図星らしかった。期待を裏切らなくてなによりだ。

 

「まあいいさ。明日に支障が出ない程度には付き合う。二日酔いで頭が痛いなんて言ったら、真耶に張り倒されるからな」

 

「違い無い。もっとも、理由は自分だけのけ者にされたことに対する怒りだろうがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ将輝」

 

「うん?」

 

「なんで将輝は将輝なんだー」

 

「知らねえ。っていうか、お前さっきから飲みすぎ……」.

 

「別にいいだろう。将輝と一緒に飲むのだから、缶ビールの十本くらい、はっはっはー」

 

「駄目だこりゃ……」

 

完全に千冬は酔っていた。ベロンベロンというわけではないが、少なくともいつものクールさを維持できないほどには酔っていた。

 

これで明日大丈夫かよと思うが、まあ千冬に限って二日酔いで休む事はない。公私はきっちり分けるタイプだしな。

 

「将輝ももっと飲めー。疲れが吹っ飛ぶぞぅ」

 

「そのしわ寄せが明日に来るから却下だ」

 

俺まで潰れたら、誰が千冬を止めるのか。それに俺はそこまで強くないから勘弁してほしい。

 

「それはそうとなぁ……将輝は知っていたのだろう?」

 

急に千冬が真剣な表情になった。こういう時は何かの溜めみたいなものだったが……今回はそういうわけではないみたいだな。

 

「何が?」

 

「一夏の事だ。あいつがISを動かす事を、将輝は知っていたのだろう」

 

「ああ」

 

別に隠す必要もなければ、いずれはわかる事だったので、俺は頷いた。

 

「……そうか」

 

「一夏にISと関わらせるのは嫌だったか?」

 

なんとなく、そんな気はしていたので問いかけると千冬はこちらにもたれかかってくる。

 

「……正直に言うとな。別にISが危険だというわけではない。ただ、将輝や私の立場を考えた時、あいつまでISを動かしてしまったら、普通に生活を送れなくなってしまう可能性もある」

 

俺達の立場か……。

 

学生の頃から既に世界中から危険人物認定されていた俺達なら、手を出そうとしてくる人間は極少数。それもどの国家にも属していない(自称)くらいのものか、雇われ傭兵くらい。

 

俺を怒らせれば国家単位で滅ぶというのは既に全世界認知のものだ。その上で国家の影が見えるような襲い方はしてこない。なら、一夏も当然安全……といわれるとそうでもない。

 

男でISを動かせる、というのは名前以上に稀有で重要だ。

 

それこそ国の戦力図が丸ごと書き換えられる程の代物で、それさえ叶えば後は数の暴力。男女の力関係はIS以前に戻る。

 

だが、千冬が危惧しているのはそこではない。

 

ISなら束一人でも止められる。

 

危険視しているのは一夏が攫われて、人質となること。

 

一夏は強い。だが、それでもあいつは一人で軍隊を相手にできるようなぶっ飛んだやつではない。強いことには強いが、まだ俺達の領域には限定的でしか届かないのだ。まあ、俺達みたいなぶっ壊れたやつがポンポン出てくるのも問題かもしれないが。

 

原作じゃ、千冬を優勝させないために亡国企業が一夏を攫ったが、それ以上に大変な事になる……世界が。

 

俺はここまで懸念事項を行ってきたが、それら全ては俺達のものではなく、全世界に対するものだ。

 

千冬は結構心配しているが、その実攫われたらすぐに助けられるし、そもそも襲われて一分もしないうちに確実に俺達の誰かが助けに行く。

 

ともすれば、心配なのはそれを実行した国である。

 

命令した奴らはともかく、それを知らない民間人やらは堪ったものじゃないし。

 

それら全てを含めた上で、一夏もいずれは俺のようになるかもしれない。まあ、あいつは良い意味で不器用だから、世界最狂にはならないと思うがな。

 

「ま、安心しろ。そうならないように俺がいる。その為に作ったキャラだし、伊達に何年も世界中回ってたわけじゃねーよ」

 

何も無意味に世界中を旅してたわけじゃない。あのぼっちの仕事をこなす過程でいろんな人間と知り合ってきたし、コネも出来た。やってやれないことはない。

 

「……そうだな。将輝がいるのだ、出来ないことはないか」

 

「それは言い過ぎだ。ただ、俺は俺の守りたいものを守るだけだ」

 

今も昔もそれは変わらない。俺が出来ることなんてそれくらいだ。

 

…………さて、そろそろ無視できなくなってきたんだが。

 

「なあ、千冬。さっきから一つ言いたかったんだが」

 

「ああ。誘っているぞ」

 

まだ何も言ってないんですけど!?

 

とはいえ、これだけ引っ付いてきてかつ当ててきているということはやはりそれしかないよな。

 

「全く……将輝はそろそろ強引という言葉を覚えたほうが良い」

 

「これで結構強引なつもりだけど、な!」

 

「ひゃっ」

 

ひといきで抱き上げて、そのままベッドへと運んでいく。

 

「久々だな。千冬とするのは」

 

「一年振りだな」

 

そんなになるか。

 

「まあ、これからは当分待つ必要はないさ。意味は……わかるだろ?」

 

そう言って、俺と千冬は目を合わせたまま、口づけを交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「はぁ……だから、加減しろって言ったろ。ほれ、頭痛薬、後で飲んどけ」

 

「……悪い」

 

朝、身体に染み付いたルーティンのお蔭で七時くらいに目が覚めた俺と千冬は一度寮長室に寄ってから、食堂へと向かい、現在はちらほらと部活動の朝練や他の先生が見える中で朝食を摂っていた。

 

案の定、千冬は二日酔い。二日酔いなのだが、顔色はよく、肌はツヤツヤな気がする。

 

「ふぅ………頭痛さえなければ、将輝成分が補充できて完璧だったというのに。ままならないものだな」

 

「だから飲み過ぎなきゃ大丈夫だったって言ってるだろ……」

 

「仕方あるまい。性分だ」

 

何がだよ。と言いたいところだが、久しぶりだったのでしょうがないといえばそれまでだ。

 

「そういえば聞いていなかったが……」

 

視線を朝食の方に向けたまま、何かを思い出したように千冬が言う。

 

「八重垣はどうだった?」

 

「言葉の意味を分かりかねるが?」

 

「わざわざ呼び出して会ったのだ。何か思い当たる節があったのではないかと思ってな」

 

思い当たる節……あり過ぎて困るぐらいあったのだが、そのうち大半は杞憂だった。悪いやつかと思えばそうでもないし。

 

「知り合いかと思ったんだけどな。他人の空似だった」

 

「そうか……どちらの、と聞くのは野暮か?」

 

「まあな」

 

千冬の言う『どちらの』とは今かそれとも未来かの話だ。

 

今となってはその未来と時間差がほぼなくなったわけだが、それでも俺は未来人なのだ。

 

もっとも、俺の言った知り合いとはそのどちらでもなく、それよりもさらに前の憑依前の話になるわけだが。

 

「同席してもいいですか?先輩」

 

問いかけてきたのは朝食のトレイを持っている真耶だった。

 

「ん、いいぞ」

 

「ありがとうございます………あ、お二人とも、おはようございます」

 

「「おはよう」」

 

きっちり挨拶するところはやはり真耶というべきか。俺や千冬はそういった事にあまり頓着しないから、こう距離が近い相手にはあまり言わない。

 

と、席に座った真耶が千冬をじっと見つめる。

 

「織斑先輩……昨日、先輩のところに行きましたね」

 

あまりにも唐突に真耶は言い放つ。疑問系じゃないところは俺の周りでは当たり前の事だったりする。

 

「何を根拠にそんな事を言うんだ?証拠は?」

 

至って冷静な面持ちで問い返す千冬。真耶の疑念はもっともだが、後ろめたさが無いからか堂々としている。だが、真耶はにこりと笑う。

 

「今、耳元で全力で叫ばせてください♪」

 

「……君は鬼か」

 

実にあっさりと千冬は敗北を認めた。

 

当然か。今耳元で叫ばれたら、千冬は床を転げまわる羽目になる。

 

「ズルいですよ!『教師として節度ある行動を心がけよう』って言ったの、織斑先輩ですよ!?なんでよりにもよって初日に破っちゃってるんですかぁ!?」

 

「落ち着きたまえ、山田先生。他の生徒が見ている」

 

千冬に言われて、真耶は周囲にいた少ない生徒が自分の事を目を丸くしてみているのに気づいて、苦笑いを浮かべ、咳払いをする。

 

「ともかくですね。私も先輩と……その、色々としたいの、我慢してるんですから。その辺の事は分かってください」

 

「だそうだぞ、藤本先生?」

 

教師としてはこれは否定すべきなんだが………もう千冬としちゃったしなぁ……。

 

「クラス代表の件がひと段落ついたらな」

 

俺がそういうと、真耶はぱぁっと花を咲かせるかのように笑顔になる。

 

「はい♪来週が楽しみですね、先輩♪」

 

喜色満面とはまさにこの事だろう。真耶は結構顔に出るタイプなので、こうして喜んでいるというのが分かってそれなりに嬉しい。

 

……まあ、内容は教師としては少し如何なものかと考えざるを得ないが。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し戻って早朝。

 

「はぁ……はぁ……おぇ……」

 

「だ、大丈夫か?龍二?やっぱり無理があるんじゃ……」

 

「こ、このくらい……どうって事ないぜ……」

 

ごく一部を除いて誰も起きていないこの時間。

 

俺は一夏と共に鍛錬に勤しんでいた。

 

……否、こいつのこれは鍛錬なんて生易しいものじゃなかった。

 

自傷行為にすら思える程の厳しい修行。

 

これはまだウォーミングアップなのだが、そのウォーミングアップで既に吐きそうだった。

 

これでも俺だって身体は鍛えていたし、あんなのに比べたらアリンコだが常人の中ではそれなりに強い。

 

その俺がウォーミングアップで疲労困憊、こいつは少し汗をかいているだけというところを鑑みるにこいつもまた普通じゃない……いや、わかってた。一刀修羅を使える時点でこいつも人間辞めてるなって事は。

 

……あのさ、ここってISの世界だよな?パワードスーツ着て、バトルするラノベだよな?

 

なのになんで気づいたら人外の魔窟みたいになってるんだ。パワーインフレどころの騒ぎじゃないだろ!?

 

「龍二は休んでてくれよ。俺、これからイメトレするから」

 

「い、イメトレならしゃあねえな。終わるまで待ってるぜ」

 

地面にどかっと腰を下ろし、一夏を見る。

 

一夏は静かに剣を構え、目を瞑ると同時にほんの一瞬だけ一夏の姿がぶれ、遅れて風切り音が聞こえる。

 

「………あー、やっぱりダメだ」

 

「ん?何がだ?」

 

「師匠に攻撃が当たらない」

 

あの一瞬でこいつの脳内ではどれだけの攻防が繰り広げられたのかは知らないが、それでもあの化け物には届かないらしい。

 

「一刀修羅があるだろ……って言いたいが、お前のあれって十秒くらいしか使えないよな?」

 

「おう」

 

あれじゃ劣化版だ。本来なら一分は使える。だからこそその使い手は鍛えられた剣技と捨て身に等しいその技で強敵を倒したんだ。

 

「お前さ、とりあえず一刀修羅を一分は使えるようにすりゃ良いんじゃねえの?そしたら、かなりマシになると思うぜ」

 

「そうは言ってもなぁ………一瞬から十秒くらいでも一年弱かかったし、単純に計算しても五年くらいかからないか?」

 

?こいつ、もしかして気づいてないのか?

 

「そりゃな。配分がおかしいんだよ、お前」

 

「?」

 

「一刀修羅は一日を濃縮する事で爆発的に身体能力を向上させる技だ。そうなると濃縮させる程、力は向上するが、お前の場合は最初に飛ばし過ぎて一刀修羅の途中ですら、明らかに能力が落ちてる。濃縮した時間を均等に使いこなせてないんだ」

 

別に見えてたわけじゃない。ぶっちゃけ一刀修羅なくても見えるか見えないかの瀬戸際だしな。

 

だが、こいつのスペックを考慮すりゃ、どう考えてももうちょい長いはずだ。あのとき編み出したってわけでもなさそうだったし、そうなると考えられんのはそれくらいだ。

 

「まあ、端的に言や『無駄が多い』ってこった」

 

あの野郎も気づいてたと思うがな。何も言わなかったのか、それとも言えなかったのかは知らねえが。

 

「『無駄が多い』か……わかった。ちょっと頑張ってみる。サンキュー、龍二」

 

「礼なんているか。俺は結構一輝好きだし、その技を中途半端にやられるのが癪なんだよ」

 

「?」

 

「こっちの話だ」

 

つーか、使えるなら俺が使いてえよ。使えるのが一夏じゃなけりゃ、土下座して教えてもらうっての。

 

……はぁ、俺ももっと鍛えよう。

 

せめて、来月のクラス対抗戦で瞬殺されない程度に。こいつらの領域?ドーピングしたって無理だわ。

 

あずかり知らぬところで難易度が無理ゲーになっている事を改めて実感した今日この頃だった。

 

 

 

 

 


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