IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜 作:幼馴染み最強伝説
新章ということで連続投稿してみました!
初っ端から既に殆ど違う展開になっていますが、皆様のご期待に添えていられていれば幸いです!
キャラ改変っぷりが凄いことになってますが、それはご愛嬌。どんどん原作なんて見る影もなくしていきたいと思っていますのでよろしくお願いします。
次は一応アンケート希望通りのfateの奴を投稿してみよっかな。
新たな始まり
き、気まずいぞ、これは……。
クラスの最前列の中央の席に座りながら、俺ーー織斑一夏は身体を縮こまらせていた。
だが、それも仕方のないことだと思っていただきたい。
後ろから好奇の視線にずっと晒されているのだから、こうなるのも当然のことだ。師匠はこんな精神的にやられそうな場所に二年半もいて、よく大丈夫だったよな。本当にあの人には料理くらいしか勝ち目が見えない。
窓際の方を見てみると、不意に箒と目があった。
軽くアイコンタクトを取ってみるも、苦笑して頑張れと目で伝えてきた。
アイコンタクトでお互いの意思が通じるようになったのはやはり鍛錬の賜物だろうか、幼馴染みだからだろうか。どちらにしても箒とは距離があるので助けは見込めない。
「全員揃ってますねー。それじゃあSHR始めますよー」
『はーい』
黒板の前に立つ女性副担任こと山田真耶先生はにこりと微笑む。
因みにこの人とは知り合いで……というか、一応家族の一員?になると思う。
身長は少し低くて、生徒と殆ど変わらないし、眼鏡も少し大きめなのだが、全然子どもっぽく見えないのは、やはり『あの世代』だからだろう。
「凄いよね〜。まさか最初の副担任が真耶ちゃんなんて」
「そうそう。しかも副担任でこれだけ凄いってことは担任はもっと凄い人なんじゃない⁉︎」
小声でそんな言葉が聞こえてくるのだが、実際目の前にいる真耶さんは凄い人だ。
現イギリスの国家代表にして史上最高の狙撃手ーーミハエ・リーリスさんとの射撃戦において、唯一勝ち星を飾った伝説の国家代表。
何故伝説なのかというと、モンド・グロッソにおいて、第一回目の出場者の選考会で、あまりにも優秀な選手が多すぎたために『近接格闘部門と中・遠距離射撃部門、後どっちも参加できる総合部門を作ろう』という話になったらしい。
その結果、日本の格闘部門は我が姉、第一回モンド・グロッソ総合部門優勝者のブリュンヒルデの名を冠する千冬姉が、射撃部門では真耶さんがーー確か『
それで一回目のモンド・グロッソはミハエさんが、二回目のモンド・グロッソは真耶さんがという互いに一勝一敗の戦績になっていて、どちらが次のモンド・グロッソ射撃部門の優勝者になるか、議論になっていたりもする。
そして何故真耶さんが教師をしているのかというと、それはこの人が国家代表という一面もありながら、『IS学園教師』という一面もあるからであり、そしてそこから考えられるのは……俺が男であるのに、IS学園へと通っていることだ。
前例がないわけじゃない。というか、初年度からイレギュラーは存在した。
しかし、それ以降存在しなかったために、入学式の時期になるたびに様々な憶測が飛び交い、そして俺が二人目の男性IS操縦者として、この学園に入学していた。
「私がこのクラスの副担任の山田真耶です。これから一年間よろしくお願いしますね。わからないことがあれば、なんでも聞いてください」
は〜い、という間延びした返事が返ってくると、真耶さんはうんうんと頷く。
「じゃあ、自己紹介からしてもらいましょう。出席番号順でお願いしますね」
和気藹々とした雰囲気の中、『あ』から順番に自己紹介が始まっていく。
決して時間をかけず、矢継ぎ早に自己紹介が終わっていくのはやはり俺に何かを期待しているからだろうか?一体どんな答えを求めているんだ。俺は別に師匠ほど凄くないんだぞ。
そう思っているうちにも、どんどん自己紹介は終わっていき、ついに俺の番になる。
「はい。じゃあ、次は織斑くん。お願いします」
真耶さんに促されて、俺は席を立ち、後ろを見る。
うっ……思わず、怯みそうになったが、なんとか持ち堪えたぞ。
「えーと、織斑一夏です。趣味は料理と鍛錬。特技は家事全般と剣技です。いきなりISを動かしたので、皆と比べると全然知識とかありませんが、よろしくお願いします」
あらかじめ練習しておいた内容を告げると、パチパチと拍手が沸き起こる。良かった……失敗はしなかったみたいだ。
でも、油断はできない。師匠曰く「十代女子の行動力は侮れない」とのこと。痛い目を見たくはないので、言われた通り、警戒はしておこう。
「ふむ。てっきり何かしでかすかとも思ったが、意外に普通だったな」
扉を開けて入ってきたのは黒いスーツに黒のタイトスカートの全身黒で揃えた服装の千冬姉。
前回の第二回モンド・グロッソの優勝を機に引退し、今ではIS学園の教員としてこの学園で働いている。
「あ、織斑先生。会議は終わったんですか?」
「ああ。いきなり押し付けて済まなかったな、山田先生」
「いえ、皆さんとても良い子でスムーズでしたよ」
「良い子、な」
千冬姉が視線をクラス全体に向ける。
すると、どっと歓声が沸いた。
「きゃぁぁぁぁ!千冬様よ!」
「入学していきなり超有名人の担任と副担任の先生なんて最高!お母さんこの時代に産んでくれてありがとう!」
「神だわ!この世界には神がいたわ!」
狂喜乱舞という言葉がぴったりなくらい、クラスにいた女子達は喜んでいる。
やっぱりISに携わる人間になる人からしてみると、二人が担任と副担任というのは叫びたいほど嬉しいらしい。
でも、二人とも俺からしてみれば近しい人間なので、ここまで喜ぶ気持ちはわからない。凄いっていうのは逆にこのクラスにいる人間の中で俺と箒が誰よりも知っているんだけどな。
「全く……こんな事だろうとは思っていたがな。これでは私の後が思いやられる」
「あはは……そうですね。皆さん、気絶しちゃうかもしれませんね」
額に手を当てて溜息を吐く千冬姉と、困ったように笑う真耶さん。
ん?この二人よりも凄い人がこの学園にいるのか?
確かに瞬間的には俺と
いや、ないな。絶対にない。
あの人に限って、教師なんていう制約の多い職種にはつかない。よくて非常勤講師とかそんなものだろう。
「さて、落ち着いたところで自己紹介をしよう。諸君、私が君たちの担任、織斑千冬だ。弱冠十五歳を十六歳になるまでに一人の操縦者とするのが私の仕事だ。私は基本無駄な事は言わん。よく聞き、よく学べば、自ずと結果がついてくる。なので、教師のいう事はしっかり耳を傾けるように」
相変わらず公私の分け方はきっちりしてるなぁ。時々家に帰ってくるときはあるけど、そのときはだいたいお酒を飲んでたり、だらしない。
「さて。SHRは終わり……と言いたいところだがな。最後に一人、学年主任を紹介しておかなければならないのだが………先に忠告しておく。くれぐれも騒ぐな」
千冬姉はものすごく深刻そうな表情で俺達に言ってくる。
その深刻さは女子達にも伝わったらしく、誰かの息を飲む音も聞こえるほどに緊迫した空気になった。
「よし。では、入ってきてもいいぞ」
「失礼する」
「「え?」」
疑問の声をあげたのは俺と箒だった。
しかし、声をあげたのが俺達だけだっただけで、その実、疑問に思ったのは他の子も一緒のはずだ。
なにせ、そこにいたのは……。
「初めまして。今年度からIS学園の教員となった藤本将輝だ。一年の学年主任だから、一つよろしく」
千冬姉のように黒いスーツで身を包んだ師匠ーー藤本将輝がそこにいた。
「え、嘘……」
「藤本将輝って、最初の男性IS操縦者で、あの千冬様よりも強い伝説の操縦者⁉︎」
「確かテロリストを学園の生徒を守るために倒したっていう英雄じゃない!」
「やばっ……幸せすぎて死んじゃうかも……」
師匠が入ってきた途端、教室内が混沌とかしていた⁉︎
ていうか、なんで師匠がここに⁉︎
確か一昨年あたりから世界各国を飛び回っていて、滅多に顔合わせられなかったのに!
顔だしただけで色んな意味でパニックになってる⁉︎やっぱり凄いぜ、師匠!
「はぁ……相変わらず、俺の話が誇張されて伝わってるよな。俺の学生時代を知ってるやつなんてほぼいないはずなんだがなぁ」
「噂というのはそういうものだ。それに何一つ間違ってはいまい」
「そうですね。いつだって、先輩は私達の英雄でしたから」
困ったように頬をかく師匠に千冬姉と真耶さんは言う。
やっぱり千冬姉も真耶さんも師匠にベタ惚れなんだなぁとしみじみ思う。真耶さんは結構露骨に、千冬姉は長い間一緒にいた人間にしかわからないけど、雰囲気がすごく柔らかくなるし、女の子っぽくなる。
「んん。これでSHRは終わりだ。質疑応答はまた放課後に個人的に行うように。次はISの基礎理論の授業だ。しっかりと準備しておけ」
こうして、混沌と化した最初のSHRは終わりを告げた。
「ふぅ……疲れた……」
一時間目の授業を終えた俺は机に突っ伏してうなだれていた。
別に授業は疲れない。ただ、その前にあった質問責めで疲弊しているところを間髪入れずに授業が始まったので少し疲れているだけだ。
「大丈夫か?一夏」
疲労している俺を見兼ねたのか、それとも自分も「篠ノ之束の妹」として、質問責めに晒されたので、愚痴りに来たのかわからないけど、とにもかくにもこの学園での数少ない心の安寧を保ってくれる幼馴染みだった。
「なんとか。噂通りの学園だよ、ここ」
因みに噂通りの、というのは師匠や千冬姉から聞いたもの。話していた通り過ぎて逆に驚いた。
「まあ、その、なんだ。一夏も将輝さんと同じくらい……か、かっこいいからな。騒ぐのも無理はない」
「俺が師匠と同じくらい?ないない。あの人、最終的に学園中の女子に告白されるような人だぞ?」
真耶さんに聞いたが、あれは軽く伝説となってるそうな。告白祭りとかなかなかないぞ。
「いや、私はそういうことがいいたいのではなくてだな……」
「わかってる。俺を励ましてくれてるんだろ?箒も疲れてるのに、サンキューな」
「あ、当たり前だ。同じ高みを目指す者として、見過ごせないからな」
そう言って箒が腕を組み直した時、腰に帯刀されている刀が鳴る。
「よく帯刀許してくれたな」
「真剣ではないし、何より織斑先生の弟子なら問題ないと許可が下りたんだ。それにそういうお前も持っているではないか」
箒が指さしたのは、机の横に置かれている二振りの刀。
「俺も将輝兄の弟子だからって理由で。そこから師匠の話をさせられたのは疲れたけど……」
ホント、あの人どれだけ好かれてるんだろうか。
この学園にいる先生は全員師匠のことを知っていて、師匠の名前を出すとめちゃくちゃ食いついてくる。
特に同期生の人なんかは目がハートになっていると錯覚するくらい大好きらしく、卒業式の時に撮ったツーショットを肌身離さず持ち歩いてるんだとか。
「そういえば、箒は剣道部に入ったのか?」
「ああ。一応、三連覇を狙っている」
「流石は百年に一度の天才美少女剣士だな。優勝すること前提なんて」
「や、やめてくれ。恥ずかしいだろう……」
俺がそういうと、箒は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
というのも、箒は中学女子の剣道の総合体育大会で、対戦相手に気づかれないほどの速さで打ち込むことから『神速』とも呼ばれ、あまりの速さに審判も判定できないことから、ハイスピードカメラが導入される程だ。
きっと千冬姉も中学の時に部活動をやっていたらそんな感じだったんだろうけど、あいにくと俺の世話をしていたせいで高校からしかやっていないし、今となってはブリュンヒルデの名が轟いているので、あまり千冬姉の剣道の話題は上がらない。
「私などまだまだだ。それに一夏もその気になれば、男子で優勝くらいは出来ていただろう」
「俺のは剣術で我流だからな。ルールがあると反則負けになる」
と、師匠の受け売りを言ってみた。何せ完全に直感やら何やらで動くタイプだから、ルールとかあると全然だし。
「ところで一夏。一つ聞きたいのだが……」
「ああ。実は俺も聞いたいことがあるんだ……」
「「君(お前)は誰だ?」」
振り向いた俺と箒の視線の先……というか、すぐ隣。
そこに立っていたのは金髪の気品溢れる佇まいをしている女子生徒。
「あら?もうお話はよくて?」
「あ、うん」
どうやら気を利かせて待ってくれていたみたいだけど、むしろ気になりすぎて話したくても話ができそうになかった。
「では、改めて自己紹介を。わたくし、イギリスの国家代表候補生のセシリア・オルコットですわ。以後お見知りおきを」
そう言って、女子生徒ーーセシリア・オルコットさんはスカートの裾を軽くつまみ、礼をする。
「あなたがあのお方ーー藤本先生の弟子である織斑一夏さんでよろしくて?」
「え?ああ、うん」
「そうですか。やはりお話は本当でしたわね」
俺がそう返事をすると、嬉しそうにオルコットさんは頷いた。
「オルコット……と言ったな?何故、一夏があの人の弟子であることを知っている?」
箒の疑問はもっともだ。
あれは箒と先生達しか知らないし、わざわざ言いふらすようなこともしない以上、なんでこの子が知っているのかは俺も気になるところだ。
ところが、オルコットさんは目を瞬かせるだけだった。
「はい?普通に知ってますわよ?もちろん、あなたのことも知ってますわ、篠ノ之箒さん。師からお二人の事は聞きましたから」
「師?」
この子にも師匠がいるのか?ん?待てよ、イギリスの国家代表候補生ってことは……まさか。
「もしかして……ミハエさんの?」
「ええ!わたくし、世界最高の狙撃手であるミハエ・リーリス様を師と仰いでいますの。織斑さんと篠ノ之さんの話は我が師と藤本さんからお聞きしましたが……わたくしのことは聞いていませんの?」
「あー、ごめん。実はここ二年くらい師匠とゆっくり話す機会がなくってさ。よくわからないんだ」
「そうですの。それは失礼しました」
合点がいったかのようにオルコットさんは手をポンと叩く。
それにしても、ミハエさんのお弟子さんか………あの人も弟子をとってるとなると他の人も弟子を取ってそうだな。いや、取るというか志願されたというべきかもしれないけど。
キーンコーンカーンコーン。
「あら、もう時間ですわ。ではまた後ほど。あなた方のお話、是非とも聞かせてくださいまし」
くるりと踵を返して、オルコットさんは自分の席へと帰って行った。
うーん、思ったよりも世界って狭いなぁ。
side out
「スーツって息苦しいな、ホントに」
俺は学園内の廊下を歩きながら、一人そうごちた。
何せ、スーツを着るのは実に一年半ぶりのことである。堅苦しいと思うのは仕方のないことだと思っていただきたい。
とはいえ、仕方のないことだ。
原作通り、一夏がISを動かしてしまった以上、俺は一応護衛も含めて、一夏のサポートもしなければならない。
違うとすれば、やはりこの時代の俺は日本に帰らなかったらしく、イギリスであったときは顔こそ似ていたが、体つきは全くの別人だった。そういえば、俺のそっくりさんとしてテレビに出演したこともあったとか、そりゃそっくりだ。俺なんだから。
そしてその帳尻合わせなのかは知らないが………もう一人が気になる。
俺ではない、もう一人の男性IS操縦者。
顔がそこはかとなく見たことがあるような気がしなくもないが、どちらにしろイレギュラーである。警戒はしておかなければ………束を。
あいつは何しでかすかわからないからなぁ……いや、今はだいぶ丸くなってるから余程のことがない限り、変なことはしないと思うが。
コンコン。
ノックをすると、中から「どうぞ」という返事が聞こえる。
「失礼ーー」
「義兄さん!」
俺が扉を開けるやいなや、押し倒すような勢いで何者かが飛びかかってきた。いや、何者かって言っても知ってる子なんだけどさ。
「お久しぶりです。会いたかったんですよ、義兄さん。お姉ちゃんには会ってくれるのに、私の所には会いに来てくれないなんて、義兄さんのい・け・ず♪」
ウインクしながら、そういうのは楯無ーー俺の嫁の一人である華凛の妹の更識刀奈。
はぁぁ………ドウシテコウナッタ。
確か、全員と籍を入れた直後くらいまでは普通だったはずだ。
なのに、ある日突然こんなことになった。
いや、懐いているだけならそれでいい。
だが、刀奈のこれは普通に懐いているのとはわけが違う。
「ねえ、義兄さん。ここには私達しかいませんよ?」
「そうだな」
「ということは、何をしてもいいという事に……」
「ならない。何を言ってるんだ、お前は」
恐ろしいくらいに学生時代の華凛と同じような性格になってしまっているということだ……っ!
今ではヤる事やってしまったせいか、あんなにはっちゃけてないし、欲求不満そうではないが、その代わりと言わんばかりに刀奈の方が華凛のようになってしまった。
もう頭が痛い。なんでよりにもよって、悪いところを引き継ぐのか。前まではもっと礼儀正しい子だったのに。
「だってー!お姉ちゃんが義兄さんと会う度に惚気話とかしてくるんですもん!私だって甘えたいんです!」
「じゃあ、彼氏とか作ればいいじゃないか。刀奈なら付き合えない相手なんていないだろう」
「絶賛、目の前にいますけどね」
「俺は論外だろう。姉の婚約者だぞ?」
「でも、合意の上で七人と婚約してるじゃないですか!今更一人や二人増えたところで」
「問題しかない。歳の差を考えろ。教師と生徒だぞ」
「先生だけど、愛さえあれば関係ないよねっ!」
関係大有りです。完全に俺がロリコンの性犯罪者扱いされてしまう。
「あのな、刀奈。俺よりもかっこいいやつなんてこの世に五万といるぞ?」
「じゃあ連れてきてください。完膚無きまでに叩きのめしてあげますから。義兄さんよりもかっこいい人間?はっ!いるわけないじゃないですか」
鼻で笑われた。しかも連れてきたとしても完膚なきまでに叩きのめされるとかマジで可哀想なのでしない。
「さてと、私情は置いておくとして………ご用件はもう一人の男の子の事だと思いますので、既に資料は用意しています」
「おっ、ありがとう、刀奈。助かるよ」
「いえいえ〜、私の家は義兄さんの為にありますから〜」
一瞬だけ真剣な表情になったが、俺が頭を撫でるとすぐに元通りになった。
何時からか、更識の家は俺の直属の暗部となっていた。
というのも、現当主である華凛と、その補佐役である刀奈が『国の為に働くくらいなら、あの人の為に働きます』という私情全開宣言をした結果、実にあっさりとこういう形に落ち着いた。
どうにも、俺が華凛を助けたという事実が誇張して伝えられていたらしく、重婚になるにもかかわらず、俺は華凛の両親にめちゃくちゃ好かれていた。
「じゃあ、はい、義兄さん。お礼のちゅーして下さい」
「いやだ」
「なんでですか‼︎私達は家族なんですから!普通ですよ!」
「そんな性的な目で義兄を見る義妹とキスすることがか?」
「性的な目ってそんな……ちょっと、大好き過ぎて抱いてほしいなぁって思ってるだけで……」
「頭大丈夫か?」
思わずそう聞いてしまうほどに刀奈は残念だった。
これでこの学園の生徒会長なんだから、公私の区別は俺以外ではきっちりしてるんだろうな。
「コホン。というわけで、邪な気持ちはありません!」
「そこまでくるといっそ清々しいな」
邪な気持ちしかないように見えるのは俺だけじゃないはずだ。この子は本当に大丈夫か?
「ぶぅ〜、折角、義兄さんの為に授業を抜け出して持ってきたのに……」
頬を膨らませて、抗議をしてくる刀奈。
はぁ……どこまで姉に似たんだか。別に俺を好きなところまで似なくても良かったのに。
「刀奈」
「なんですか?世間一般の常識なら、私たちには通用しな……い……?」
刀奈の目が大きく見開かれ、そのまま固まった。
別になんてことはない。軽く額にキスをしただけである。
これならば、家族としてのスキンシップ程度で許される。それに姉妹揃って、いざされると思考がフリーズするところもそっくりだ。
「今回のはお礼だが、それ以上はしてやらん。じゃあな」
刀奈が復活するのは何分後になるだろうか、もしかしたら一日中復活しない可能性もあるが、会長権限でなんとかなるだろうし、大丈夫だろう。
俺は刀奈から受け取ったもう一人の資料を懐にしまい込み、職員室へと帰って行った。