IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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IFパニック2

 

「師よ、かなり拙い事になりました」

 

まさしく、一触即発の空気をアサシンの視覚聴覚通じて、見聞きしていたマスター、言峰綺礼は眉根を寄せて、共犯関係であり、ギルガメッシュのマスターである遠坂時臣に伝える。

 

『何がかね、綺礼』

 

「ギルガメッシュが……真名を自ら露呈させました」

 

『………馬鹿な』

 

宝石通信機越しに時臣が頭を抱えているのが綺礼にも伝わってきた。

 

戦場たる倉庫街から遠く離れた遠坂邸の地下においても、状況の把握に不自由はなかった。アサシンを操る綺礼との連携は期待した通りの成果を挙げている。態勢は万全のはずだった。

 

計算外があるとすれば、最強を期して呼び出した英霊ギルガメッシュが、よりにもよってアーチャーのクラスで現界を果たしたこと、そして、全ての男に対する最上級クラスの魅了を持ったサーヴァントが最優クラスのセイバーで現界した事だった。

 

ギルガメッシュの動員は最後の切り札でなければならず、今ここで真名を露呈するというのはあまりにも早すぎ、『どんな時でも余裕を持って優雅たれ』——遠坂に伝わる家訓もこの時ばかりは維持できる筈も無く、更に令呪を使用したところで相手に弱点だけ教えて帰還させるという愚行でしかなく、ここで取れる選択肢は一つ……。

 

「どうされますか?」

 

『これはチャンスでもある。英雄王は闘われるおつもりだ。ならば、早計ではあるが、攻勢に出ても構わないだろう』

 

努めていつも通りの口調で時臣は綺礼に言う。

 

確かにあの英雄王が自ら賊の討伐に動くというのであれば、それでいい。

 

最後にセイバーとギルガメッシュが残ったのであれば、あちらが闘うつもりがある以上、如何様にもなる。

 

ましてや、導師の決めた事だ。よほどの事で無い限り、意見するつもりも無い。

 

それに……。

 

「……あり得ない」

 

頭の中に浮かんだ一つの疑念を振り払い、綺礼はギルガメッシュの監視を続ける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、お前ら。ちょっと落ち着け」

 

今にも激戦の火蓋が切り落とされそうになっていた最中、セイバーが口を挟む。

 

敵を前にして他の者に視線をやれるはずも……普通にあり、ランサー、ライダー、アーチャーはセイバーへと視線を向けた。

 

「どうした、セイバー。今、そこの邪魔なサーヴァントを片付ける。だから少し待て」

 

「余もランサーと同意見だ。お主の話はまた後で聞く故」

 

「雑種共が、何をほざいている貴様らなぞ、今すぐにでも消しとばせる……が、我が妃が話すというのだ。死に急ぐのはそれからでも構わんだろう」

 

予想外にもアーチャーが待ちの姿勢を示した事話すとともかくとして、セイバーは一つ咳払いをして、三人を見やる。

 

「あのな。お前らが別に私の事をどう思おうが知った事じゃない。ラブコメしたいとか、蹂躙したいとか、溺れさせたいとか、そういうのは個人の意見だ………けどな、私の意思を無視するのはどうよ?私が目的なのに、力づくとか舐めてんのか?」

 

セイバーの意見はもっともだ。

 

さっきから勝手にいがみ合っていたものの、セイバーの意見は何一つ通ってないどころか、言わせてももらえていない。そもそも聞く気すら無い。

 

その事を指摘されて、騎士であるランサーはバツの悪い表情をするものの、ライダーとアーチャーは違った。

 

「余は征服王だ。他者のものと理解した上でなお、奪うのが余の流儀だ………なれば、例えそのものが戦士であり、女だとしても、その心を侵し尽くすのが征服王イスカンダルというもの」

 

「我の裁定だ。肯定も否定も、ありはしない。だが、そうだな。セイバーよ、今貴様が我が妃となる事を認めるというのであれば、聖杯とやら、くれてやっても良いぞ」

 

「え、マジで!?」

 

アーチャーの言葉に思わずセイバーは過剰に反応を示した。

 

聖杯さえあれば、元の世界に帰る事ができる。無駄に戦う必要もなく、さっさと帰る事ができるのだ………できるのだが、一つだけ、セイバーは見落としている事があった。

 

「因みにお前の妃になったら、私はどうなる?」

 

「どうしようが我の勝手だが……まあ良い。まずは身も心も隅々まで我のものに……」

 

「あ、じゃあ嫌だ」

 

即座に拒否した。

 

まずはの時点で貞操がなくなっていた。

 

幾ら何でも洒落になっていない。異世界で、しかも女性のままで貞操を散らすなどあってはならない事だ。いくらそれが残らないものだとしてもだ。

 

「よし決めた。私は絶対にお前達のものにはならねえ。全員ぶっ飛ばして、私が勝つ」

 

「良い答えだ、セイバー。俺もこの聖杯戦争を勝ち残り、お前と共にこの時代を過ごすと言うのも悪く無い」

 

「ほほう……つまり、最後に勝ち残れば良いのだな?先程とさして変わっておらぬが、その方が余としてもやりやすい」

 

「我以外の者が決めたルールを守る義理などないが……良い。貴様は特に赦す。此度は貴様の提案に乗ろうでは無いか、セイバー」

 

「え、いや、別に何も提案してないんだけど……」

 

勝利宣言が何故か『勝ったやつの女になる』宣言扱いされた事にセイバーは文句を言うが、それを聞き届けるはずもなかった。

 

「あ、アイリスフィール。どうしよう、私……」

 

「さ、さあ……」

 

こればかりはアイリスフィールではどうしようもない。そもそも、サーヴァント同士のやり取りに介入できるものはそういない。

 

もう泣いても良いかな……そうセイバーが思ったとき、どっとあらぬ場所から魔力の奔流が吹き荒れた。

 

居並ぶ全員が瞠目して見守る中で、巻き上がる魔力は次第に凝固して形を成し、屈強な人影して実体化を果たす。

 

「……また何か来たんですけど」

 

「ほぅ。またセイバーの色香に誘われた猛者が一人現れたようだな」

 

「なっ!?私のせいみたいに言うな!」

 

「しかしなぁ、あやつは恐らくバーサーカーだとは思うが、お主しか見ておらぬように見えるが?」

 

「そんなわけあるか!たまたま前に私がいるだけだ!」

 

「誰の許しを得て、我が妃を見ている?狂犬めが」

 

「誰がお前の妃だ、このやろぉぉぉぉ!」

 

セイバーの抗議も虚しく、アーチャーは真紅の双眸に純然たる怒気と殺意を秘め、眼下のバーサーカーへと向けると、その左右にあった宝剣と宝槍が、バーサーカーへと向けられる。

 

「せめて散りざまで我を興じさせよ、雑種」

 

冷厳なる宣告とともに、槍と剣とが虚空を奔る。

 

石礫のように無造作に投げられた宝具はそれでも絶大なる破壊力を秘め、まるで発破をかけられたかのように路面を大きく抉り、木っ端微塵に砕け散ったアスファルトが粉塵となって視野を覆い尽くした。

 

だが、次の瞬間には誰もが息を飲んだ。

 

濛々たる粉塵の中から、黒い長身の影が揺らめき現れる。

 

バーサーカーは健在だった。わずかにそれた足許では、路面がクレーター状にごっそりと抉られてはいるが、それはやや遅れて飛んだ槍の方が標的を外した結果で、槍より先に標的へと届いたはずの剣は、何の破壊ももたらしていないどころか、バーサーカーの手の中にあった。

 

「……奴め、本当にバーサーカーか?」

 

「狂化して理性をなくしてるにしては、えらく芸達者な奴よのぅ」

 

張り詰めた声で呟くランサーに、ライダーが唸り声を交えて応じる。

 

セイバーも先のバーサーカーの動きには舌を捲くほかなかった。

 

まず第一撃である宝剣を難なくつかみとり、そうやって獲得した得物で続く第二撃の宝槍を打ち払ったのである。

 

だが、それだけではない。

 

それだけでも十二分に凄いことではあるが、それを行ったバーサーカーはあろうことか、それらには直前まで目もくれず、たったの一瞥でやってのけ、未だ視線はセイバーへと向けられていた。

 

「……ur……!」

 

「は?」

 

「ar……ur……ッ!!」

 

ドンッ!

 

蹴った地が抉れ、砲弾のように飛び出した狂戦士は宝剣を振りかぶり、セイバーへと斬りつける。

 

「ぐっ……いきなり何しやがる……ひっ!?」

 

バーサーカーの一撃を受け止めて、睨みつけるセイバーだったが、次の瞬間には悲鳴をあげた。

 

それはバーサーカーから迸る負の……というか、邪なオーラを感じ取ったからだ。

 

ギルガメッシュの比ではない。理性を失った狂戦士は、ただ、己が欲望を最優先としてセイバーへと襲いかかる。それは男なら誰しもが持つ欲望であり、普段は理性が抑えているものである。

 

「成る程のぅ。理性のないバーサーカーに、セイバーは些か以上に美味いエサだということか」

 

「感心すんな!私は怖いんだよ!さっきから武器と服ばっかり狙ってくるし!息が荒いし!」

 

「そりゃあなぁ……いくらバーサーカーとはいえ、お主に傷をつけてはいかん事くらいは弁えておるだろう」

 

「知るかぁぁぁぁ!結局、レイプする気満々って事だろうが!ふざけるな!ていうか、助けーー」

 

「悪ふざけが過ぎるようだ。狂戦士」

 

バーサーカーを襲ったのは闇に閃いた一条の紅だった。

 

寸前で躱し、後方へと跳躍したバーサーカーとセイバーの間に入り込むように立つのはセイバーを庇うように立つランサーだった。

 

「そこのセイバーには、俺と先約があってな。……ましてや、彼女に傷をつけるようならば、その首。一つでは足りんと思え」

 

死闘?の最中ではあったものの、これにはセイバーも素直に嬉しかった。気分的にはレイプ魔に襲われかかっていたところをカッコよく助けられたのに等しいため、評価は上がっている。またアーチャーはともかく、ライダーから見ても、その行いは賞賛に値した。

 

だが、それはセイバーから見てであり、ランサーのマスターからしてみれば、非難すべき行いであった。

 

『何をしているランサー?セイバーを倒すなら、今こそが好機であろう』

 

姿無き声が冷厳に告げる。不興も露わな声音に、ランサーは意外なほど厳格な面持ちで、

 

「それは……出来ない。我が主よ」

 

『なんだと?ランサー、貴様よりにもよって、セイバーを討ち取れないと言ったか?』

 

苛立ちを隠そうともせず、ランサーのマスターは言う。

 

しかし、変わらず、ランサーはセイバーを庇う形のまま、姿勢を変えようとはしなかった。

 

『よろしい。貴様がそこまで言うのなら、致し方あるまい』

 

「おおっ……!ご理解いただき光栄の至りです、我が主!」

 

歓喜の声を上げるランサー。だが、次の瞬間に待っていたのはランサーの思っていた事とは全くの正反対の事であった。

 

『貴様がそこまで腑抜けだとは思わなかった。そうまでセイバーと闘うつもりがないというのなら、私が直々に命じてやろう』

 

「なっ––––」

 

驚愕に表情を染めるランサーは、次にマスターが行おうとしている行為が何であるかを悟った。

 

「それは駄目です、我が主!この状況で––」

 

『ランサー、バーサーカーの擁護して、セイバーを–––」

 

ランサーに絶対遵守の命令権。令呪を用いた命令を行おうとしていたマスターを野太い声が遮った。

 

「おう、ランサーのマスターよ。どこかは覗き見しておるのか知らんが、戦場を見てみよ。ランサーの意図を感じとれ。今、この状況でランサーをセイバーにけしかけるのがどれ程愚かな行為(・・・・・)かをな」

 

そこまで言ってから、声の主たるライダーは獰猛極まる含み笑いを見えざる相手に向ける。

 

「仮に貴様がランサーをセイバーにけしかけるようなら、余はセイバーに加勢する。そこの金ぴかもだ。余に与する気などさらさら無いだろうが、セイバーは別だろう?」

 

「愚問だな、雑種。我の財を奪い合っているというだけでも不敬に値するというのに、我の妃に手を出すというのだ……肉片一つ残らんと思え」

 

『……』

 

ここに至って、ようやくランサーのマスターは気づいた。

 

ランサーは決して腑抜けていたわけでも、セイバーに惑わされて判断を怠っていたわけでも無い。

 

この状況、自身以外にもセイバーを狙う者がいる中で、あえてバーサーカーと共にセイバーを討ち取るというのは極めて愚かな行為だ。実力は未知数の征服王、規格外の英雄王、そしてセイバー。この三人を相手にランサーは戦士として、勝つのは––––否、生き残ることさえも至難の業であると理解していた。

 

それを直接的に伝えられなかったのは、自らの主人を立てるためであり、ランサーの忠義心によるものだ。決して、不義ではなかった。

 

「あー、止めてくれたのはありがたいけどさ。そっち止める前にあっち止めて欲しいんだけど……」

 

セイバーが指さしたのは今にも襲いかかってきそうなバーサーカー。

 

「むぅ。そうさな。ひとまずバーサーカーめを排除せん事には始まらんわいのう」

 

そう言ってバーサーカーを見やるライダー、ランサー、アーチャーの三名。

 

こんなタイミングで出てきてしまったが為に最早袋叩きは免れないバーサーカー。これがバーサーカーでなければ全員の殺気を受け、不利だと判断して撤退するのが当然であるのだが………

 

「aaaaaa!」

 

バーサーカーは退かなかった。

 

理性を奪われ、本能のみで動くこのサーヴァントに我慢などという概念はなく、ただセイバーという光めがけて突貫していった。

 

無謀。三騎の英霊を相手にマスターの援護もなく、突っ込んで言う様はまさしく無謀の一言に尽きた。

 

ライダーの持つ手綱に力が込められ、神牛が嘶く。

 

ランサーの魔槍を握る力が強くなり、迎撃姿勢に入る。

 

アーチャーの背後の空間が揺らめき、その十数にも及ぶ矛先が標的へ向けられる。

 

三者三様、向かってくる狂犬を討つべく、一同が攻撃姿勢に入った。

 

放たれる宝具。

 

それらをバーサーカーはあろう事か、第一撃を掴み取り、二撃目を弾く。

 

凡そバーサーカーとは思えない技術。誰もが思わず舌をまくほどの物ではあった。

 

だが、忘れる事なかれ。

 

正史はともかく、現在は敵がアーチャーだけではない事を。

 

「抉れーー破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!!」

 

宝具の雨を縫うように現れたランサーの不意の一撃は狂犬の右腕を貫いた。

 

それと同時にすぐに離れるランサー。

 

あの雨あられのような宝具の間を走り抜けてきたのには自分でも驚いている、というのがランサーの心情である。

 

決してアーチャーは気を使ってなどいない。そもそもこの場にいる相手ならセイバーに少し譲渡している程度で後は全くだ。

 

だというのにそれが実行できたのは、やはりーー。

 

(愛の力か……)

 

と的外れな事を考えているランサーだった。

 

そして片腕を負傷したバーサーカーはまさしく詰んでいた。

 

宝具群を捌き切る事が出来ず、徐々にその身を削り始めていた。

 

だというのに、その歩みを止めないのは、その視線の先にあるエサに対する異様なまでの執念だった。

 

一時展開していた宝具を撃ち尽くし、再度展開を余儀なくされるアーチャー。

 

その隙を見逃すバーサーカーではない。

 

すぐさま、ボロボロの身体を走らせ、セイバーの元へーー。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

その瞬間、横合いから迸る雷気を纏った戦車に轢殺された。

 

二頭の神牛が四本の前肢を持って踏みたおし、続く後肢をもって容赦なく踏み潰す。そこにさらにダメ押しとばかりに最大打撃による車輪の蹂躙が狂戦士を襲った。

 

ボロボロの身体に、不意の一撃を受けた狂戦士は実にあっけなく、魔力の粒子となって還った。

 

バーサーカーに正常な判断能力があれば。

 

そのマスターにバーサーカーを御すことが出来る余裕があれば、こんなにも早くバーサーカーは脱落することはなかった。

 

より正確に言うのなら、そもこのセイバーでさえなければ、この三騎の英霊を同時に相手取る事はまずなかっただろう。

 

何よりの不運はその一点に尽きた。

 

「これで邪魔者はいなくなったわけだ。後は我ら三名で雌雄を決する……と言いたいところだが」

 

「ふん。興醒めだ」

 

アーチャーはそう呟くと、宝具を全て回収し、敵意をひそめる。

 

「今宵はここまでだ。命拾いしたな、雑種共」

 

「どうだかな、アーチャー。俺はお前に負けるなど毛頭思ってはいない」

 

「ほざけ、雑種。……セイバーよ、次に相見えるその時、貴様の口から答えを聞こう。無論、その答えなど決まっているがな」

 

セイバーを一瞥して不敵な笑みを浮かべると、アーチャーは黄金の残滓だけを残して消えていく。

 

「アーチャーの言う通りだな。今宵はここまでにしておこう。そら、帰るぞ。坊主」

 

ライダーは自らのマスターに言うが、先の宝具による一撃の反動で戦車の中で気を失っているのを見やり、やれやれと呆れたような溜息を吐いた。

 

「坊主にも、もうちと剛毅さがあればなぁ……仕方ない。呆気ない幕切れではあったが、セイバー。余は必ずやお主を伴侶として迎えるつもりであるから、覚悟しておくよう。余は決めたらからには確実に実行するでな。さらば!」

 

轟雷の響きとともに、ライダーの戦車は南の空の彼方へと駆け去っていく。

 

それを見届けた後、ランサーもまた構えを解き、矛先を下ろした。

 

「セイバー。今回は邪魔が入ったが、次こそ我らの決着を果たそう。そしてその暁には……お前の心積もりを聞きたいところだ」

 

「いや、心積もりも何も私にその気は……」

 

「ではな、セイバー。数度のやり取りであったが、此度の死合は素晴らしいものだった」

 

セイバーの返答などなんのその。ランサーもまた霊体となってその場から消える。

 

三者三様、誰も彼もセイバーの意見を右から左へと受け流すこの状況に、セイバーはもう溜め息を吐くだけだった。

 

死闘の時よりも憔悴しきったセイバーにアイリスフィールはなんとか気分を変えてもらおうと声をかける。

 

「じょ、序盤からここまで派手な聖杯戦争なんてあったのかしらね……」

 

「……なかったんじゃね?アサシンはともかく、バーサーカーは確実に脱落。馬鹿な王様二人が真名暴露。一人のサーヴァント相手に求婚……はっ、こんなお馬鹿な聖杯戦争、過去に何度もあってたまるか」

 

「(駄目だわ、この子……相当病んでる……)は、早く帰りましょう、セイバー。悪い事は忘れた方が……」

 

「……ああ。でも、その前にしなきゃいけないことがあるんだ。アイリスフィールもついてきてくれ」

 

「?」

 

肩を落としていたセイバーはとぼとぼと歩いて行くと、宝具の一撃を持って、地を切り裂く。

 

「セイバー!?あなた、何を……」

 

「えーっと、多分この辺に……あったあった」

 

セイバーに駆け寄るアイリスフィールだが、そのセイバーは切り裂いたアスファルトの隙間から下に降りる。

 

「アイリスフィール。ちょっと汚いけど来てくれ。一人でいると危ないから」

 

「え、ええ。でも……」

 

「大丈夫。私がちゃんと受け止めるから」

 

アイリスフィールはとりあえずセイバーの言われた通り、セイバーへむけて飛びつく。

 

特に態勢を崩さず、セイバーはアイリスフィールを受け止める。

 

「悪いな、アイリスフィール。一人にするとアサシンに何されるかわからないからな」

 

「アサシン……?でも、アサシンはアーチャーに」

 

「やられた。でも、それにしたって行動が軽率すぎるんですよ。暗殺者、それも歴代に名を残すほどの方々があんな雑な暗殺しに行きますかね」

 

「え、えーと、セイバー?」

 

「第一、アサシン実体化から、アーチャーの攻撃のラグが短すぎ。早い段階で察知したにしては気配遮断を持つアサシンがそんな間抜けな事はしませんし、これはもうアーチャーがアサシンを倒すところを見て欲しかったとしか思えません。ええ、それ以外ありません」

 

ペラペラと話すセイバーの様子は先程とどこか違う様子であった。

 

その様子にポカンとしていると、セイバーははっとして、恥ずかしそうに頬をかく。

 

「……悪い。どうにも、色々と混ざってて。専門の事になると本体()よりも他の奴の方が強くなっちまう」

 

「それって、前に言っていた男なら宝具として呼び出せる人達の事?」

 

「そ。セイバーが一人、アーチャーが二人、キャスターが二人、バーサーカーが一人、アサシンが一人、単体で呼び出せるのはこの七人。で、後は全員でしか呼び出せなくて全員ライダークラス」

 

「全員って……何人ぐらいいるの?」

 

「二百か……三百弱かな。能力の方はちょっと曖昧だけど、基本的に強いよ。男の時はそれが奥の手」

 

この規格外のステータスを持つサーヴァントにして、宝具も更に規格外であったことにアイリスフィールは驚きを隠せなかった。

 

だからこそ、悔やまれるのはこの英霊が女性として現界した事にある。

 

異性のサーヴァントに対して絶対の効果を発揮する魅了の呪いを持つのは此度の聖杯戦争において、かなり有効に働いてはいるものの、英雄王、征服王のように倒してから自分のものにするといったサーヴァントがいる状況で、果たしてそれが最高の武器たり得るかと聞かれれば否と答えるほかない。

 

「この状態じゃその宝具は使えないけど、幾つか利点もある。混ざってるのは人格だけじゃなくて、知識とか技術、経験も混ざってるから、さっきみたいに口調が多少変わるけど、専門的な事も出来るし、天才二人が私の中にいるから、I.Qも跳ね上がったよ。多分三倍か四倍くらいに」

 

「じゃあ、セイバーは剣以外でも闘えるの?」

 

「元々は素手の方が主流だったんだ。セイバーとして呼ばれた以上、剣で戦った方がいいし、それも私の中にいるやつの力も足してるから尚更。弓は使えないけど、銃火器ならぶっ放させるし、暗器も使える。後は……お、いたいた」

 

と、セイバーが何かを見つけたように足を止めた。

 

アイリスフィールは何事かとセイバーの肩口から覗き込んでみると、そこにいたのは全身血まみれのまま、地面に倒れこんだ一人の男だった。

 

何故こんなところに、とは口にしない。

 

この時間、先程までのやり取りでこの人間がどんな人物であり、何者であるかなど火を見るよりも明らかだった。そして誰のマスターであるのかも。

 

「……彼がバーサーカーの?」

 

「多分な。マスターの協力者ーー舞弥に冬木とその周辺の地図、参加したマスターの情報を見させてもらった時にピンと来た。バーサーカーが単独行動スキルでも持たない限り、この辺にそのマスターはいるってな」

 

しゃがみこんでバーサーカーのマスターを見たセイバーは顔を顰める。

 

バーサーカーのマスターのその状態はとても生きた人間とは思えなかったからだ。殆ど重度の放射能被曝の末期状態と大差がない。生物として生存している事が許されていない状態だった。

 

「……その人、生きているの?」

 

「自信はないけど。浅いけど呼吸音が聞こえる。十分の九死んでるけど、十分の一だけ生き延びてる。どういう理屈なのかは知らないけど、なっと」

 

そう言ってセイバーはバーサーカーのマスターを担ぐ。その行動にアイリスフィールは疑問を投げかけた。

 

「どうするつもりなの、セイバー?」

 

「連れて帰って治療する。もしかしたら、使えるかもしれない」

 

「治療って……セイバーは医療の知識もあるの?」

 

アイリスフィールの問いにセイバーは満面の笑みを持って答えた。

 

「治療も人体改造も、概ね同じだよ」

 

 


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