IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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二、三話挟もうと思ったけど、二年生になってからが長そうだったので、もう入学式にしました。




IS学園の優等生

「う〜、寒っ」

 

もう四月だというのに、気温は十七度。春というには些か寒い気がする。そして俺は寒いのが苦手だ。冬にはフル装備でないと外に出たくない。

 

それでも背筋を伸ばして歩いているのは、今日四月十日はIS学園の入学式だからだ。

 

何時新入生やその親御さんに見られるかわかったものではない。俺が普通の生徒なら寒さに身を縮こまらせる事が出来るが、俺は生徒会副会長であり、それ以前にIS学園にただ一人存在する男なのだ。自然と視線は集まるものだ。

 

「おまけにまーた挨拶が俺ってどういう事だ。こういうのって会長の仕事だろうに」

 

一週間前から必死こいて書いた挨拶の文を見ながら、俺は溜息を吐く。

 

半年間、全ての行事の挨拶は俺が行っている。その方が生徒達も喜ぶと千冬達に言われた。特に生徒からの苦情も無いし、最近は狙われる事もめっきり減ったから、別に構わないが……………うん?

 

ホールに向かっていると、見知らぬ女子生徒を見かける。はて、学園の生徒達はもう全員ホールに集合しているかと思っていたが。

 

「そろそろ入学式が始まるけど、こんな所でどうしたんだい?」

 

「すみません。道に迷っていたもので」

 

そう言って振り向いた女子生徒の顔にはやはり見覚えがない。亜麻色セミロングの髪に千冬や静とは対照的に目はやや垂れている。自然と作られた微笑は人を惹きつける魅力がある。一瞥しただけでもスタイルの良さがよくわかる。身長も俺の肩より少し低い。胸元のリボンの色が千冬達と違うところを見るにどうやら彼女は新入生のようだ。

 

「じゃあ案内するから、ついてきて」

 

「はい」

 

初対面の女子と並んで歩くというのは気まずいので、俺は彼女の一歩前にでる形で歩き始めようとするが、その前に彼女には一つ釘を刺しておかないといけない。

 

「何をしてこようと君の勝手だが、今は時間がないから、大人しくしてくれていると助かるよ」

 

「あらら、バレちゃってる」

 

振り向きざまにそう言うと彼女はその手に握っていたクナイを懐にしまい込む。何で武装してんのこの子。そして何故にクナイ?ミハエみたいなタイプはかなり特殊な奴らだと踏んでいたが、早くも特殊な奴を見つけてしまった。

 

「何時から気づいてました?」

 

「君が俺を見た瞬間。バレないようにするなら、もっと自然にやらないと気づくさ」

 

彼女が俺を見た瞬間、明らかに何かをする気満々だった。好戦的というか、挑戦的というか、とにかく俺に何かしてくるのは明白だったので、敢えて隙を見せた上で釘を刺した。以前の俺なら考えられないような観察眼だが、この半年間の生活を鑑みれば妥当だと言える。教室に入ればミハエに狙われ、生徒会室に入れば束(稀に他のメンバー)に狙われる。その為、観察眼は一番突出して鍛えられてしまった。お蔭でこうして事前に気がつけるようになった訳だが。

 

「流石は化け物揃いと称されているIS学園生徒会の副会長。私では足元にも及ばないようですね」

 

「そう思うなら、その袖に隠してる物騒なものも俺に投げないでくれよ………ああ、後指摘されたからって靴に仕込んでる暗器もな」

 

順番に指をさして指摘すると彼女は大きく目を見開いた。ははは、俺の観察眼舐めるなよ。それに暗器の隠し方ならミハエの方が上手い。まああいつの場合は寧ろ持ち過ぎてるのに何であそこまで普通にいられるのか甚だ疑問だ。一度聞いてみたが「女性の秘密を知ろうとするなんて最低だわ」と言われたのでもう聞かない。

 

「俺に攻撃するのはやめてほしいが、生徒会メンバーに挑むのは生徒達に与えられた権利だから仕方ない。だが、君はまだ入学式を終えてない以上、正式なIS学園の生徒じゃない。やるなら入学式が終わってからにしてくれ」

 

「………そうですね。また後日改めます」

 

自分で言っておいてなんだが、後日改めるのではなく、永遠に来ないで頂きたい。一々気を張って生活をするのは疲れるんだ。

 

「じゃあ行こうか。君達の入学式に」

 

俺の言葉に彼女は静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは新入生への挨拶を生徒会副会長、藤本将輝さん。お願いします」

 

行事の定番とも言える長ったらしい祝辞や挨拶の大半が終わり、残す所は新入生への挨拶とそれに対する新入生代表の挨拶だ。新入生代表の挨拶は新入生の中で成績トップの者がするらしいのだが、聞いたところによると今年は二人いるのだとか。挨拶に関しては片方が辞退した為、代表者はもう片方に決まったらしい。

 

「新入生の皆さん、初めまして。昨年の夏から生徒会副会長を務めさせてもらっています、藤本将輝です。先ずは入学おめでとう。厳しい試験を超えて、数百万人の中から選ばれた君達は例外なくエリートです。努力を怠らず、切磋琢磨し、国家代表を目指しつつ、この学園で三年間の青春時代を思う存分過ごして下さい」

 

本当ならここで以上です、と言いたいところだが、今後の彼女達のためにも言っておかなければならない事がある。

 

「早速だが君達の中には何故男が生徒会の副会長をやっているのか?という疑問を持った者がいるだろう。私の方から見ても凡そ六割の人間がそう思っていると見える。そしてその疑問に対する答えはただ一つーーー強いからだ。知っての通り、このIS学園の生徒会は君達エリートの中でも更に優秀な者達で結成された組織だ。皆、例外なく強いと思ってくれて構わない。だが、今の君達にこうして言葉で伝えたところで説得力なんてものはないだろう。この中には国ごとに国家代表候補生もいるはずだ。腕に覚えのある者も多い。だからこそ、君達の中で俺の事が気に入らないものは『生徒会への挑戦権』を用いて、この首を取りに来い。時間さえ守れば何人だって相手をしてやる。対人戦だろうがIS戦だろうが負けるつもりはないので、挑んでくる時はそれなりの覚悟を持ってくるように。以上」

 

そう言って壇上を降りて、千冬達の方に帰ると皆、頭を抱えていた。何故に?

 

「お前、前は狙われるから勘弁してくれと言っていなかったか?」

 

「まあな。今だって勘弁してほしいが、あの子達の不満を解消するにはそれしかないしな」

 

本当なら女子相手にIS戦はともかく、格闘戦なんてしたくない。だが、壇上から見ていてわかったが、彼女達の大半は自分の実力を鼻にかけているのがわかった。まだ入学して間もないのに何故そう天狗になるのかはわからないが、その手の人間は口で言いくるめるよりもその身で実力差を感じさせた方が説得力もあるし、今後彼女達の為になる。人間、挫折を知らなきゃ強くなれない。それにこの学園に来た以上、人格的に問題を持ったまま、卒業されるのはごめんだ。せめて彼女達には女尊男卑の風潮に流されず、自らの目で人間を評価してもらいたい。

 

「ま、基本的に狙われるのは将輝だし、私達には関係ないから、別にいいけどねぃ」

 

「これで私達まで狙われたらたまったものではないが、ヒカルノの言う通り、私達が狙われないなら別に良い」

 

ヒカルノも静も基本的に面倒くさがりなので、もしこれで狙われるような事があれば、おそらく何かしらの見返りが俺に帰ってくるかもしれないので狙われて欲しくないが、二人とて生徒会メンバー。負ける可能性はほぼないから、その辺りの心配はしていない。因みにこの場にはいないが、束の場合はその立場から狙うような馬鹿はいない。千冬は雰囲気がヤバそうだから挑もうとする猛者はいない。と言っても彼女自身の性格は温厚?なので、打ち解けてしまえば普通に話せる。まあ、打ち解けるまでが長いんだけどな。

 

「続きまして、新入生代表の挨拶を更識楯無(・・・・)さん、お願いします」

 

更識楯無……だと?

 

俺は呼ばれた少女の名前を聞いて、思わず眉を顰めた。

 

更識楯無。原作でIS学園の生徒会長を務めたロシアの国家代表の少女の名前だ。もっとも本名は更識刀奈で、楯無というのは代々更識の当主が継ぐ名前だ。そしてその更識というのは対暗部用暗部という裏の家系だ。それ故に本人もなかなか強く、原作でも何かと活躍する事が多かったような気がする。だが、彼女は原作時は二年生だ。つまり一夏の一つ上でしかない。そして一夏は今年で十歳の小学四年生。俺の知っている更識楯無なりまだ小学五年生のはずだ。

 

拍手の中、壇上に上がった人物の顔を見て、何時ぶりかわからない程の目眩がした。何故なら彼女とは既に面識があったのだから。

 

「この度新入生代表挨拶という、名誉ある役割をさせていただく事になりました。先ずは私達の為にこのような場を用意して下さった方々へこの場を借りてお礼の言葉を述べさせていただきたいと思います。そしてこのような場で言うのも不躾ではありますが、今後の目標を述べると共に新入生を代表して、一つ宣言をしたいと思います」

 

彼女は設置されていたマイクを外すと壇上を降り、亜麻色の髪を揺らしながら俺の目の前まで歩いてくるとビシッと指をさして高らかに宣言した。

 

「私はこの場を借りてーーー藤本生徒会副会長に宣戦布告します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新入生代表挨拶という場を利用しての宣戦布告は生徒、教職員、保護者全員を大いに驚かせた。

 

彼女は初めからそれを宣言するつもりだったらしく、その後、一礼して元の席に帰っていった。

 

流石に後日改めて挑んでこいと言って、僅か二時間で宣戦布告されるとは思っていなかったが、狙われる事など日常茶飯事だった頃に比べれば寧ろ宣言して襲ってくる相手というのはとてもありがたい。おまけに彼女が俺に宣戦布告をした為に他に俺を狙っていた者達も動けなくなっただろう。

 

ただ問題は彼女は宣戦布告をしたまではいい。だが、何時、何処で、何の勝負をするかを決めていないのだ。その為、彼女と会わなければいけないのだが、生徒会は後片付けをしなければならないので、後回しだ。

 

「それにしても最後まで束の奴、来なかったな」

 

「あいつにとって、この行事はただの面倒事でしかないからな」

 

「せめて片付けくらいは手伝って欲しいところだが、あいつの性格上、絶対に来ないな」

 

「まーやんが新入生代表だったら、いたかもしれないけどナー」

 

ヒカルノの言う通り、真耶が新入生代表だったら、束はこの場にいたかもしれない。以前の学園祭で良いのか悪いのかはわからないが、真耶は束に目をつけられた。まあ、IS関係者としては良いことだろう。

 

「そういえば、新入生のもう一人の成績トップって誰だ?」

 

「ああ、それならーーー」

 

「私ですよ。先輩」

 

久しぶりに聞く声に後ろを振り向くと、其処にいたのはIS学園の制服を身に纏った緑髪の眼鏡少女、山田真耶だった。なんというか、他は変わらないのに大きくなったな…………何処とは言わないが。

 

「あ、今失礼な事考えましたね、先輩」

 

「……ソンナコトナイゾ」

 

「じゃあ、何でこっち見ないんですか!私の目を見ていってください!」

 

ずずいっと身を寄せてくる真耶。そう寄ってこられると余計に視線を向けられなくなる。だって、真耶の母性が俺の理性を攻撃してくるんだもん。これを視界に入れて注意を引かれない男はどうかしている。お願いだから、目の前でぴょんぴょん跳ねないでくれ、見てないけど凄い揺れてるってのは想像に難くない。

 

「そ、それよりも、真耶も更識と同じで成績トップだったのか?」

 

「あ、はい。そうですね」

 

「何で代表挨拶を辞退したんだ?やっぱり人前に立つのは苦手なのか?」

 

「そういうのじゃなくて、その……」

 

「?」

 

「更識さんが「どうしてもしたい事があるから」と言われましたので…………それがまさかあんな事になるなんて」

 

そりゃ、あんな事になるなんて誰も想像してなかっただろうな。ていうか、俺に宣戦布告する為だけに新入生代表挨拶を使ったのか。随分とまあ大それた事をしたもんだ。

 

「流石は更識。血は争えないか」

 

「知っているのか?更識の事を」

 

「知ってるのは彼女じゃない更識だけどな」

 

「?同じ苗字の知り合いがいるんですか?」

 

「概ね、そんな感じだ」

 

俺がそう言うと千冬達は察したが、真耶はきょとんと首をかしげた。真耶は俺が未来から来た事を知らないからな。特に教える必要はないし、結局帰るか帰らないかを決めたのはギリギリだったしな。まあ、そのうち教える事になるんだろうな。教えないと心の中で思ったなら、その時既に相手に知られているんだぜ!的な。つまり教えないっていうのは知られるというフラグということだ。これ、豆知識な!

 

「へぇ〜、私以外(・・・)の更識ですか。是非とも教えて欲しい限りですね、藤本副会長?」

 

妖艶な笑みを浮かべて現れたのは、更識楯無。口調は今朝の時と変わらないが、その雰囲気は全く違う。完全にスイッチが入っていて、瞳に宿っているものが一般人のそれとはかけ離れている。当然か、楯無って名前なら既に当主の座を引き継いでいるという事だからな。

 

だがおかしい、俺達が話してる場所と入り口からは距離がある。小声では無かったが、入り口まで聞こえる程の大声でもなかった。盗聴器の類いもつけられるような事はしていないし、こちらの生徒会もそういうのには聡い………まさか。

 

「ヒカルノ。真耶の身体を調べてくれ」

 

「もう調べてるよん。そんでもって黒だ。まーやん、ブレザー脱いでみ」

 

「は、はい」

 

ヒカルノに促されて真耶はブレザーを脱ぐ。やはりデカい。ブレザーを脱ぐと更にその大きさがわかるな。だが今はかなり真剣な場面なのであまり変な事は考えられない。ヒカルノは真耶からブレザーを渡してもらうと袖のあたりからものすごく小さいもの何かをつまみ取る。

 

「盗聴器か。とても一高校生が持っているような代物ではないな」

 

「わかるのか、静?」

 

「まあ…な」

 

一瞬妙な間があった辺り、その手の知識はおそらく漫画やアニメから得た知識だろう。そういう時の静は返事をするとき、妙な間があったり、苦虫を噛み潰したみたいな表情になる。因みに千冬は機械に対して一般レベルなのでわからない。真耶も盗聴器などのものには詳しくないようだ。銃の知識なら尋常ではないが。

 

「山田さんと副会長が面識がある事は山田さんの話でわかったので、盗聴器で弱点とかを調べあげられないかと思ったんですけど…………これは別の意味で大きいのが取れましたね。あ、しらばっくれるのは無しにしてくれます?私、あんまり無駄話はしたくない方なんで」

 

これは想像以上にヤバい。俺の正体が知られかねない事態だ。いざという時は束に記憶操作でもして貰えばいいが、そんな手は使いたくないし、それはあくまで更識が俺の正体を知った時世間に公表しようとした場合だ。人の記憶を弄るのは非人道的すぎる行いだ。外道になんて堕ちたくない。

 

「だんまりですか?それもやめていただきたいですね。時間の無駄なんで」

 

「あー、悪い。別にだんまりを決め込もうなんて思ってない。まさか盗聴されるなんて思ってなかったから」

 

「……その割には驚いてませんね。もしかして私の『家』の事も知ってます?」

 

「さてね。ただ一々驚いていたら、君達を挑発なんて出来ないよ。不意打ち、闇討ちその他諸々に対応出来ないから」

 

大体盗聴器程度で驚いていたら、束と同じ組織に属しているだけでショック死するわ。篠ノ之束と関わるとまず鍛えられるのが観察眼と肝っ玉の大きさだからな。あの傍若無人の人間災害と付き合っていくには色々と普通じゃなくならないと無理だ。

 

「………何時もなら無理矢理にでも話を聞くところですけど、貴方との肉弾戦は既に負けています。本当は色々と用意した上で闇討ちでも仕掛けようかと思いましたが、それもやめます。その代わり、一週間後、私とISで戦ってください」

 

「わかった」

 

「………まだルールを決めてませんけど」

 

「そうだけど、例え君が試合前に罠を張り巡らせた状態で、俺に武器の使用を禁止して、剰え攻撃を避けるなと言っても俺は勝負を受けなきゃいけない。もっともそれをもって勝負と呼ぶかは疑問だけど」

 

「ハンデなんて必要ありません。ただ私が勝てば、貴方の秘密を洗いざらい話してもらいます。私が負ければ煮るなり焼くなり好きにしてください」

 

いや、煮る気も焼く気もないんだけど…………それに好きにしてくれなんて、女子が思春期の男子に向けて言う言葉ではない。口止めくらいで良い気もするが、まあいいか。

 

こうして波乱の入学式は一週間後にIS戦を行うという形で幕を閉じ、図らずも原作の一夏とセシリアと同じ展開になってしまったのだった。




そんなこんなでオリキャラ出現。そして今作初めてのISバトルを次回出来たらいいなーと考えてます。

過去改変の有無について聞かれましたが、ここまで来ると改変しないほうが難しいので、バンバン改変します。

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