IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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菓子テログラフィティー

……とうとう今日という日が来てしまった。

 

二月十四日。

 

これが指す意味はだいたいの人がわかっているはずだ。俺だってわかっている。

 

今日はバレンタインデーだ。

 

男の誰もが夢見、女は勇気を出して告白したりする。

 

憑依前の非モテ系男子だった俺には全く無縁で、初めから夢も希望も見ていなかったが………この世界、この時代においては謎のモテ期によりモテている……いや、どちらかといえば教祖みたいな感じに信仰されているためにそれをモテていると捉えるべきかはわからないが。

 

昨年、一昨年とバレンタインデーはかなり盛り上がっていた。

 

別にIS学園で催しをしていたわけではないが、日頃の感謝と敬意、そして好意を持って手作りチョコを渡してくる人間が沢山……というがほぼ全員。

 

年を増すごとに渡してくる人間は増加の一途を辿り、今年は全校生徒凡そ三百六十人。

 

今までの計算だと、三百くらいは渡される可能性がある。

 

男として、これほど嬉しいことも名誉ある事もないわけだが………それはあくまでも渡されるまでだ。

 

そこからチョコを次の日までに完食するというのはさながら地獄のような所業で、二ヶ月くらいはチョコを見たくもないとすら思った。

 

しかし、生徒達の好意を無下にするわけにもいかず、俺はこうして死地に赴いている。わざわざ一ヶ月前からチョコ系統のものは食ってないから、これで百くらいはなんとかなるだろう。

 

深呼吸をして、教室の扉を何時ものように開く。

 

「皆、おは『副会長ー!』うわっ⁉︎」

 

扉を開けた途端、女子が雪崩のように攻め込んできた。

 

しかしながら、何時までも俺は彼女達の中で「副会長」らしい。嬉しいような気恥ずかしいような。

 

「何時もありがとうございます!これ、日頃のお礼……と愛です!」

 

「私の愛を受け取って下さい!」

 

「私と契約してご主人様になって下さい!」

 

とまあ、毎年こんな感じである。

 

そして最後の子みたいにおかしなことを言い出してくる子もしばしば。何が怖いって、それは冗談ではないらしく、割と本気で言っていることだ。

 

それはそうと、渡されたチョコはビニール袋に入れたりするのもアレなので、ISの拡張領域に入れている。普通はこんなことできないし、する意味なんてないが、こうしないとチョコが溶けるし、何より持ちきれない。後で美味しく頂くにはこれしかないのだ。

 

しかし、毎回のことながら、どう頑張ればこれだけの人数が教室に入りきるのだろうか。それだけが甚だ疑問である。

 

チョコを渡されること二十分。

 

ようやく三年生のほぼ全員から渡され終えたところで、待っていたと言わんばかりに近づいてくる人間がいた。

 

「今年も大変そうね。これを一日で食べきってしまうなんて、尊敬するわ」

 

「そうしないと作ってくれた子に申し訳ないしな……今年はミハエもくれるのか?」

 

「当たり前よ。飽きてしまうのは重々承知しているから、私はケーキをあげるわ」

 

「お、ありがとう。同じ甘いものとはいえ、助かるよ」

 

「礼には及ばないわ。夫を気遣うのもよき伴侶の務めよ」

 

……ついにミハエも恥じらいが欠片もなくなったか。

 

最初の方は恥じらいもあって、そこも可愛かったのだが、日に日に恥じらいもなくなっていき、案の定、千冬達同様に当たり前のように言うようになっていった。

 

「?どうかしたの?」

 

「いや、なんでもない」

 

感傷に浸る事はあれど、最早それをショックに思う事はない。慣れたのは彼女達だけじゃなくて、俺も慣れたんだ。

 

「そう。なら良いのだけれど……授業が始まるから席に着いた方がいいわ」

 

「それもそうだな」

 

それはわかっている。わかってはいるんだが……常にこの場にいない束はともかくとして、千冬や静やヒカルノまでいないのは絶対に何かある。

 

とはいえ、何かあるのはわかっていても回避は不可能なので、俺は気になりながらも授業を受ける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みにもなると、チョコ渡しが激化の一途をたどる。

 

 

食堂には待ってましたと言わんばかりに女子が並び、愛の告白をしつつ、チョコを渡してくる。無論、告白は受け止めてもきっちり断っている。

 

そしてそれも漸くひと段落つき、定食を注文して待っていると……。

 

「失礼します。お時間はよろしいでしょうか、将輝殿」

 

「ん?クラリッサか。いいよ、どうした?」

 

「日本では今日という日はバレンタインと呼ばれる特別な日だと聞きました。なんでも、親しい友人や意中の相手、はては尊敬する人物などに送るのだとか」

 

「んー……まあ、大体あってる」

 

「そこでです。我が国とは大分内容に差がありますが、『郷に入れば郷に従え』という日本語もありますし、不肖、クラリッサ・ハルフォーフ。チョコレートを作ってみたので、宜しければお受け取りください」

 

かなり遠回しな言い方ではあったが、端的に言うと「未熟だけど、手作りチョコを受け取って」という事らしい。

 

「そんなにかしこまらなくていいよ。ありがとう、クラリッサ」

 

「はっ。恐縮です」

 

相変わらず堅いなぁ……礼儀ができているのはいいけど、これはこれで距離感を感じる。もうちょい砕けてもいいとは思うんだけど……。

 

「やっはろー!フジさん!」

 

「よっと。やっはろー、ナタル」

 

挨拶ついでにドロップキックをかましてくるナタルをひらりとかわし、挨拶を返す。

 

こんな感じにいつもナタルの挨拶には攻撃が付属しているのだが、特に気にするような事でもないので、口頭で注意するだけにしている。そのせいか、直る気配は見えない。

 

「はぁ……ナタル。俺を襲うのはいいが、人が密集してるところではするなって言ってるだろ」

 

「まあまあ、それはおいておいて……はい、これ」

 

すっと差し出されたのはリボンのラッピングがされた赤い箱だった。

 

「いつもお世話になってるのでそのお礼。学校中の女子に渡されて飽きてるとは思うんだけど、形だけでも」

 

視線をそらしながらそう言うナタル。

 

日頃の行動からして、そういう事をしたという事実が恥ずかしいのだろう。頬を赤く染めていた。

 

「そんな事ないさ。ありがとう、ナタル。嬉しいよ」

 

「そ、それならいいけど……あ!お返しは期待しとくから!」

 

忘れていたとばかりにナタルはそうだけいうと、走り去って行った。

 

「はぁ……なんていうか、ナタルらしいな」

 

「将輝殿が優しすぎるのです。もう少し厳しくしても、良いと思います」

 

「いや、あれはあれでナタルの良いところだし、もう少し礼儀作法はしっかりすべきだけど……それも俺が言わなくても身につくよ」

 

「しかしですね……」

 

「まあまあ、ここは学校だし、そこまで厳しくしなくて良いよ。クラリッサももう少し肩の力を抜かないと疲れるよ?」

 

「と、申されましても、やはり尊敬すべき人物には敬意を持って接するべきかと……」

 

「そこまで徹底しなくていいよ。流石にそれは距離感があるし、寧ろ避けられてるのかと思うしね。だから、ある程度でいいさ。その様子だとクラスメイトにも余所余所しいんだろうし、もう少し俗世に染まってみるのも一つの手だよ」

 

「成る程……では、今日のところはここで失礼します。早速、実践してみたいので」

 

ぺこりと頭をさげると、そのまま立ち去るクラリッサ。なんなら一緒にご飯を食べようと思ってたんだけど、どうやらそれは無理らしい。仕方ない。誰か別の人と「あ、先輩!」ん?

 

「今日はお一人なんですね。織斑先輩方は?」

 

「朝から行方不明。十中八九、今日の事に関係してると思うよ」

 

「あー……なんとなく、わかりました」

 

どうやら真耶の脳裏にも束達が何かを企んでいる構図が浮かんだらしい。まぁ、真耶も基本的にはこちら側の人間だしな。

 

「将輝先輩。もし良かったら、お昼ご一緒してもいいですか?」

 

「いいよ。あっちにちょうど二人用の席が空いてるし、そこ使おう」

 

食堂のおばちゃんから定食セットを受け取り、二人用の席へと移動する。

 

何時もなら大人数のテーブルを使っているので、二人用はあまり使わない……というか、よくよく考えてみたら、ここに来た頃以外は使った記憶がない。

 

「「いただきます」」

 

それにしても真耶と二人でご飯を食べるっていうのはなかなかレアだな。そもそも誰かと二人きりで食べるような事がないからレアにレアを重ねているような状態だが。

 

「二人きりで食べるなんて新鮮ですね〜」

 

「基本的にうるさいしな。あれはあれで慣れれば楽だが、静かなのに越したことはない」

 

静かなのは時間に換算して凡そ一時間くらいだろうか。流石に寝てる時間を除いてだが、毎日毎日騒がしい時間を送っているため、例え周りがある程度騒がしくても静かな方なのだ。いや、本当に。

 

「そ、それはそうと先輩。き、今日は……その、バレンタイン!……ですよね!」

 

「そうだね」

 

「あの、ですね。今回も作ってみたんです。先輩は皆さんから好かれてますので、飽きてるかもしれませんけど……」

 

「気にしなくて良い。くれるなら喜んでもらうよ、特に真耶達のはね」

 

俺がそう言うと真耶は花を咲かせたようにぱあっと明るくさせる。

 

「で、では、どうぞ!」

 

「ん。ありがとう、真耶」

 

「い、いえ、こちらこそありがとうございます!本当は辛い筈なのに……」

 

「辛くないさ。皆の想いが篭ってるからね」

 

正直言うと次の日がやばいが、好意はありがたく受け取るのが男だ。そしてそれに付属する苦難を乗り越えてこそ漢なのだ……コーヒー先輩の手助けを借りてな。

 

「先輩。話は変わりますけど、先輩って卒業したらどうなさるんですか?」

 

「ああ、まだ真耶には……っていうか、誰にも行ってなかったっけ。一応ISの操縦者になるんだ」

 

「ということは、やっぱり国家代表ですか?」

 

「それとはちょっと違うな。予定より遅れたけど、半年後に世界大会があるだろう?それに参加する選手全員と試合したり、IS関係の事件の調査して可能なら解決とか。世界中を飛び回る事になるけど、特に縛られないし、指示を出してくるのがあのぼっち総理だから、ざっくり言うと『収入の良い旅人』的な感じだな」

 

「本当にざっくりですね……」

 

いや、真耶の言いたい事はよくわかるが、残念ながらこれが最も俺に適している職種である事は俺が一番よく知っている。金が良いとかそういうのではなく、原作を知り、未来を知っているからこそ、俺はその日までに出来ることをしておかなければならない。いくら元凶である亡国企業が無くなっていたとしても全員捕まえたわけじゃないし、警戒しておくに越した事はない。

 

「まあ、俺は好きな時に好きな人達と会えるから、堅苦しい職業じゃなくて良かったと常々思う。もちろん、真耶もその一人だ」

 

俺がそう言うと真耶は茹でダコのように顔を真っ赤にする。真耶のこういう反応は本当に可愛い。原作を読んでいても思ったが、なんでモテなかったんだこの子?

 

「わ、わわ私も……その。先輩と一緒に居られるのはとても嬉しいです……けど、そういうのは……その、二人きりの時にお願いします……恥ずかしさで死んでしまいそうになりますから」

 

え……二人きりの方が恥ずかしいと思うんだが……本人が良いなら良いか。後で気付いた時が面白そうだ。

 

「それはそうと、真耶は将来何になるか、決めてるのか?」

 

「はい。私は先生になりたいんです。先輩方のお蔭で今の私があります……ですから、私も先輩みたいに誰かの為に貢献できる教師になろうかなぁ〜って」

 

「真耶らしいな。頑張れ、応援してるからな」

 

「はい!あ。そ、それでですけど……わ、私が先生に慣れたら……その、ご、ご褒美なんかを……」

 

「ん?ああ、いいよ。俺に出来る範囲なら」

 

「ほ、本当ですか⁉︎約束ですよ!絶対ですからね!」

 

さっきまでの小声が嘘のように真耶はずずいっと詰め寄ってきて、やや興奮気味に言う。こういうところを見てみると、やっぱり真耶も生徒会の一員なんだなとしみじみ思う。というか、いきなり大声出すものだから、皆がこっちに注目してる。

 

「真耶、ストップ。皆が見てる」

 

「す、すみません!急に大声出して!」

 

そしてこういうところは他の面々とは少し違う。他は俺が言わないと基本的にうるさいから。あ、クラリッサも静かだな。静かすぎるくらいだ。

 

「さて……そろそろ行こう。時間も結構経ってるし」

 

時計を見てみれば、残り十二分。そろそろ皆が教室に帰り始める時間だ。廊下が一気に混むので、早めに帰った方がいい。

 

「ですね。先輩、また放課後に」

 

「ああ」

 

ひらひらと手を振って、真耶に別れを告げ、俺も自分の教室へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になるまで、終ぞあの四人は現れなかった。

 

心配がないわけではない……否、それどころか去年一昨年と普通に平常運転で愛を叫びながら渡してきたので、ここまで来ると怖いものがある。あいつらは一体何を企んでいるのか。

 

もしや、生徒会室に何か仕掛けているのだろうか?だが、そんなわかりやすい罠を仕掛けてるとは思えな……ん?

 

不意に誰かに背中を突っつかれた。

 

これほど容易に俺の背後を取れるなんて……自分で言うのもなんだが、余程人畜無害な奴か、それか空気レベルに気配を消してかつ、全く雑念を感じさせない人間……前者はともかく、後者は普通の人間じゃない上に俺達レベルの人外になる。

 

「誰……束?」

 

振り返るとそこには束がいた。

 

そんな馬鹿な。こいつ程の雑念と邪念に満ち溢れた奴が、何も感じさせず、俺の背後に立つなんて……あれ?

 

「束。お前、カチューシャはどうした?」

 

よく見れば、カチューシャをしていなかった。

 

あれがないと自信が無くなるとかなんとかで俺相手にさえ、外されるのは限定的な状況しか嫌だと言っていたのに……どういう心境の変化だ?

 

首を傾げていると、束はスッと一枚の紙を差し出してきた。

 

『ヤッホー、まーくん!今日はバレンタインだね!いつもみたいに一杯チョコもらってるまーくんに今日は趣向を変えて渡すことにしてみたよー!一杯萌え萌えしてね!』

 

「……なんだこれ?」

 

俺が問いかけてみるも、束は顔を真っ赤にしてそっぽを向くだけだった。

 

……そうか。この時の束は自分が何時ものテンションでした事すらも恥ずかしいんだ。

 

確かに……これは萌えるな。

 

「束」

 

幸い、この辺は生徒会の役員くらいしか通らず、つまり、今は俺と束しかいない。

 

「……な、なに、かな……?」

 

「今日はバレンタインだな」

 

「そ、そうだね……」

 

「という事はだ。こういう事をしてもおかしくないよな?」

 

そう言って、俺は壁ドン股ドン顎クイの三連コンボを決めた。

 

いつもの束なら、おそらくは効かないだろう行為だが、今の束には効果は抜群だ。何故なら、今、現時点で束の顔は真っ赤で今にも卒倒しそうなぐらい慌てているのが雰囲気でわかった。本当、可愛いな。

 

「それで?さっきの紙には趣向を変えて渡すって書いてあったが、チョコは……マジか」

 

顎クイをしているということで上から見てようやく気付いた。

 

……こいつ谷間に入れてやがる。

 

チョコが溶ける云々よりも何してんだこいつ。さては、この状態なら何をしても許されると思ってやがるな。

 

はっはっはー。確かに何時ものように制裁はしない……が、別方向ならするんだぜ?

 

「なあ、束。流石にそこにある物を俺が取るっていうのは、風紀的にマズいよな?」

 

「う、うん……」

 

「しかしだ。こんなにお前が頑張ってるのに、無碍にするのも気が引ける。だから、俺が取りたいと思えるようにしてくれるか?」

 

「ッ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

ふむ。察しの良さはやはり束か。理解するのに少しかかると思ったが、あっさりと理解した。しかし、ひょっとして天然なのか?こんなに恥ずかしいなら、普通に手渡しすればいいのに。

 

「で?どうなんだ?」

 

「うぅぅ………………わ、わかーー」

 

と、その時、数メートル先の生徒会室の扉が爆発音と共に吹き飛び、部屋の中から黒煙が上がっていた。

 

「な、何だ⁉︎」

 

「あ……やっぱり……」

 

「やっぱりって……束、お前何か知ってるのか?」

 

「……見てみればわかるよ」

 

言われるがまま、俺は生徒会室へと走っていく。

 

すると、入り口付近に誰か倒れていた。

 

「ッ⁉︎楯無!大丈夫か⁉︎」

 

「ふ、副会長……わ、私は、止めたんです……」

 

「止めたって……何が」

 

「私は無力……です……がくり」

 

そうだけ言うと、楯無は力尽きた。いや、マジで何があったんだ⁉︎

 

少なくとも、テロをされた……というわけではなさそうだ。こんなピンポイントで生徒会室は狙ってこないだろうし、そもそも今のIS学園の防衛力はISでも使うか、核攻撃でも仕掛けられない限り、絶対に抜けないはずだ。

 

おそるおそる部屋の中に入ってみると、そこには……。

 

「ゲホゲホッ……ん?将輝か」

 

「「「「………」」」」

 

沈黙している静、ヒカルノ、真耶、クラリッサと灰まみれになりながらも、その手にチョコレート(ダークマター)をしっかり握った千冬がいた。

 

は、犯人はこいつか……し、しかもあれはどう考えても人間が食べていい物じゃないやつだ……な、何でだ!昨年一昨年は普通のチョコレートだったのに!

 

「今年は学生生活最後のバレンタインだからな。私だけの力で作ってみたかったんだ……」

 

「尊い犠牲だった……みたいな顔をするな。頑張るのはいいが、一応原材料を聞いていいか?」

 

「将輝は刺激物が好きだろう?だから……ニトログリセリンを」

 

「お前は俺を殺す気か⁉︎」

 

「冗談だ」

 

ヤバい……こいつだと何の冗談にも聞こえねえ……本当にニトログリセリンをいたのかと思った。

 

「タバスコをひと瓶入れて、《雪片》の最大エネルギーで一気に火を通そうかと思ったのだが、何故か爆発してな」

 

「はぁ……それも冗談か?」

 

「いや、これは本当の事だ」

 

「………」

 

最早言葉も無かった。

 

いくら家事が出来ないからってこれはないよね?原作のセシリア並みだよ?まだラウラの方が料理出来てるよ?確かに美少女が料理を出来ないのはある種のステイタスだけど、限度があるよ。

 

「千冬」

 

「なんだ?」

 

「これから料理やお菓子作りをする時は俺と一緒にしよう。(俺達が)危ないから、な?」

 

「む……そ、そうか。わかった。そうしよう」

 

ほっ……納得してくれたか。じゃあ、後は……皆の犠牲を無駄にしないことか。

 

「千冬。そのチョコレートをくれ」

 

「ああ……んん!あ、あーん」

 

やや恥ずかしがりながらしてくる千冬は可愛い……が、その手にあるダークマターのせいで色々と台無しであるが。

 

「あ、あーん」

 

カリッ。

 

ん?歯ごたえは良い。

 

甘……くはない。ものすごく辛い……が、ひと瓶入れたという割には死ぬ程辛くない。というか、これはチョコとして食べなければ普通に美味い。あれ?これ革命が起こったんじゃないか?

 

「これ普通にーー」

 

美味いと言おうとしたが、その前に俺の身体から急速に力が抜けていく。

 

あ、忘れてた。俺の身体痛みにはすこぶる鈍いんだった。

 

結論。やっぱり千冬の作った食べ物は兵器でした。


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