IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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赤髪のお転婆姫

入学式から数日。

 

下級生からの襲撃は特になく、平和的な日常を送っていた。

 

てっきり恒例行事になるかと思ったが、存外そういうわけでもないらしい。良い事だ。

 

ただまあ……

 

「どうにかなんないもんかねぇ……」

 

「将輝君?どうかしたのかしら?溜め息なんてついて」

 

教室の自分の席で溜め息を吐いていると、不思議そうにミハエが問いかけてくる。

 

ちょうど去年の今頃くらいからミハエは俺を襲うことがなくなり、臨海学校終了後に告白してきたわけだが、今となっては初めからこうだったのではというくらい順応している。

 

「あー、実はな。あれを見てくれ」

 

俺が指差した先、其処には赤い物体がゆらゆらと揺れていた。つーか、髪の毛。

 

「あれがどうかしたのかしら?」

 

「いや、休み時間とか放課後とか、何時もついてきてるんだ。気になって、仕事に集中出来ないんだ」

 

「貴方のファンでしょう?この学園では珍しくもない人種だわ。寧ろ、デフォルトといっても過言ではないわ」

 

デフォルトで俺のファンとはこれいかに。まぁ、今更驚かないが。

 

「それとも、目障りなら消しましょうか?」

 

「おい、笑顔で怖いこと言うな。つーか、まだ武装はしたままなのか?」

 

満面の笑みで言うミハエはなんというか、出会った当初より威圧感があった。これがギャップというやつだろう。萌え要素ないけどな。

 

「いざという時、貴方の力になれないのは嫌よ。言っておくけれど、以前の事、私はまだ根に持っているのだから」

 

ミハエの言う以前の事とはつまり亡国企業壊滅の日の事を指す。

 

あの日、ミハエを俺はイギリス軍の軍人という国直属の組織に所属する人間として、手伝わせる事はさせなかったのだが、その気遣いがミハエ自身には疎外感を与えたらしく、しばらくの間、拗ねていた。もちろん拗ねていた時もそれはそれで可愛かった。

 

「安心してくれ。次からはミハエにも頼るからな」

 

「そ、それならいいわ」

 

「さて、目下問題は彼女をどうするかだが………」

 

「普通に話しかけるのでは駄目かしら?狂喜乱舞して、なんでも話してくれるわよ」

 

そ、そうなんですか。なんか宗教団体みたいで怖いな。他の子は全然そういう素振りがないのに。もしかして、見えないところでそういう反応してるのか?

 

「ここに入った時から、ここの生徒のプライバシーは殆ど貴方の権限でどうにかなるわ」

 

「いや、流石に生徒会長権限でも無理があるぞ」

 

「そうね。寧ろ千冬さんでは無理でしょう。貴方なら、あちらから訊いてもいない事を……」

 

「言わなくていい。取り敢えずは普通に話を聞いてみる」

 

そうでないと、なんか色々まずい気がする。というか、絶対にまずい。

 

次の休み時間にでも、話しかけてみるか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんで逃げる」

 

普通に話しかけようとして教室から出たものの、あの赤い物体は凄まじい速度で逃げていった。その逃げ足とくれば、束並み。言葉を発する前に逃げていた。

 

弱ったな。多分一年だとは思うんだが………

 

「……そうだ。こういう時……」

 

俺はある番号に電話をかける。

 

すると、ワンコール目が鳴り終わるか終わらないかくらいのタイミングで、相手が電話に出た。

 

『何か御用でしょうか?副会長閣下』

 

「実は聞きたいことがあるんだ。後、閣下はよしてくれないか」

 

『聞きたいこと……ですか?』

 

そう言うと何処かへ移動しているのか、電話越しに伝わる教室内の喧騒が遠くなっていくのがわかる。

 

『ナターシャ・ファイルスの事でしょうか?今の所、クラスの精神面における中心的存在ではありますが、これといって目立った動きは見せてはいませんが……』

 

「彼女の事じゃない。クラリッサ、君の学年に赤い髪の女の子はいるか?ロングで、染めているんじゃなくて地毛の」

 

『ええ、知っています。何度か言葉も交わしました。それが何か?』

 

「ちょっと引っ込み思案なのか、照れ屋なのかわからないけど、逃げられてね。付きまとわれているけど、こっちから行くと逃げられるから、困ってたんだ」

 

俺がそう言うと、クラリッサは向こうで黙り、呻る。まるで俺の言葉に疑問を抱くかのように。

 

『……おかしいですね。私の知る彼女はそういう人物ではないはずなのですが……』

 

「人違いの可能性は?」

 

『低いと思われます。この学園に入学するに辺り、私は全校生徒の顔と名前を覚えました。正規のルートで入学している以上、間違いである可能性は限りなく低いと思われます』

 

ぜ、全校生徒の顔と名前を覚えたのか?いくら俺でも流石に其処までいくのにかなりの時間を費やしたというのに……そして今でも朧気なのに。一年生なんて両手足の指で事足りるくらいしか覚えていない。

 

「じゃあ、人違いじゃないと仮定したら、その子はどんな子?」

 

『そうですね……事あるごとにちょっかいをかけてきて、隊を乱します。ルールはあまり守りませんし、時間にもルーズ。おまけに服は着崩していることが多く、例外はありませんでした。性格は副会長閣下の仰られた事とは正反対で、興味対象にはしつこい程に絡みます』

 

「……了解」

 

また面倒なのが入ってきたなぁ。構ってちゃんも構いっこちゃんも少ないのがいいのに。

 

となると、あれか?今の所は様子見のつもりなのだろうか。

 

少なくとも、現状俺と話すつもりはないと捉えるべき………じゃないな。

 

「あれか?毎年毎年、新入生は相手の裏をかけとでも教えられているのか?」

 

一つため息を吐いて、後ろを向くと、其処には俺から逃げ出したはずの少女がいた。

 

「あらら、バレちゃったのサ」

 

俺が気づいたことに対して、別段驚くでもなく、残念がるでもなく、赤い髪の女の子はそう言った。

 

「流石は世界最強。そうやすやすと背後を取らせては貰えないネェ」

 

「まぁ、そう簡単に取られると世界最強だなんて噂はされないさ………で、何の用かな?」

 

「特にないのサ。ただ、世界最強がどれほどのものが、確かめておこうと思ってサ」

 

またそういうノリか。

 

「感想は?」

 

「想像以上サね。これは相手をするには実力も経験も不足してるんだナァ」

 

「話が早くて助かるよ」

 

一応生徒達には挑戦権こそ与えているが、心を折らずに成長を促すだけの敗北を与えるというのはなかなかに神経を使う。今の所は問題ないが、失敗するとその子達のIS操縦者としての道を断ちかねない。

 

「ところで君の名前は?在校生は覚えているし、新入生の名簿に目は通したけど、見ない顔だ」

 

「それもそうサね。私は年齢は(・・・)そちらと同じ今年で十八歳。諸事情で一年生からやらせてもらってるのサ。顔を覚えてないのは、私が動きやすいように髪を染めたり、メイクをしたりして、地味な顔にしたからサ」

 

ああ……成る程、道理で。

 

となると、クラリッサの見たものと、俺が見たものでは全く違うわけか。計り知れんな、ドイツ軍の諜報力。

 

「私の名前はアリーシャ。アリーシャ・ジョセスターフ。アーリィと呼ぶといいのサ、世界最強♪」

 

「そうかい。じゃあ、こちらも宜しく頼むよ、アーリィ。ただ、世界最強って呼ぶのは止めてくれ。藤本とか、副会長とか、他の呼び方にしてくれると助かるよ」

 

流石に年齢的に同年代の人間相手に先輩呼ばわりされるのには抵抗がある。というか、年下相手にすら、敬語を使われるのにはやっと慣れ始めた頃だ。

 

「あはは、流石の誑しッぷりなのサ。距離の詰め方が独特だ」

 

おかしそうに言うアーリィだが、全くもって心外だった。誰が誑しだ、誰が。

 

「また会いに来るのサ、世界最強。思っていたよりも、ずっと楽しめそうなのサ」

 

鼻歌交じりに来た道を帰っていく彼女の背は、確実に何かを企んでいるという意思が見え隠れしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーリィさんと会ったんですか、副会長」

 

放課後。

 

生徒会室に行くと、やはり俺より一足先に華凛が部屋の掃除をしていた。

 

毎度ながら、誰よりも早くに来ているわけだが、華凛よりも早くに来れた試しはあまりない。

 

別段、気にしてはいないので、今日会ったアーリィの話をすると、華凛はそう言ったら、

 

「知ってるのか?」

 

「知ってるいるも何も、私はあの人と代表候補生と専用機持ちの座をかけて戦いましたし」

 

あっけらかんとそう言う華凛だが、割と重要な話だった。

 

この時代において、代表候補生という存在は当然のごとく、あまりいない。

 

というのも、ISのコアが最近漸く二百を超え、各企業や国家が第一世代をカスタムし、一・五世代くらいになりつつある現状において、代表候補生という存在は其処まで人数が必要無かったのだ。

 

国によっては、一人か二人の代表候補生を重点的に鍛える事を主としているところもあり、それ故に代表候補生=国家代表といっても過言ではなかったのだが、最近はコアの増加に合わせて、年代を重ねるごとに代表候補生は増えている。

 

イタリアの代表候補生は実質的には華凛と、もう一人の女性がそうだと聞いていたのだが、そのもう一人が件のアーリィらしい。

 

「あの人、強かったんですよねー。人間辞めてる生徒会の方々はともかくとして……あ、ミハエさんもカウント外。例外を除いて、あの人が一番強かったんです」

 

「例外多いのな」

 

「仕方ありません。人外の魔窟ですから、ここ」

 

それは否定できないが、多分ミハエは今のを否定すると思う。

 

「でも、勝ったのはお前だろ?」

 

「ええ、まあ。一応は」

 

華凛にしては妙に歯切れが悪そうに曖昧な返事を返してきた。

 

「一応?どういう事だ?」

 

「ほら、私ってばあの頃かなり無茶してたじゃないですか」

 

確かにあの頃の華凛は無茶とかそういうレベルじゃなかった。自爆特攻とかするぐらいだしな。

 

だが、それは華凛の余命がもう少ない事による、自暴自棄にも似た戦術であって、今となってはそんな事はしない。さらに小技の応酬になった。

 

「ですから、勝つ為に色々と策を弄してたんですけどね。ほぼ無傷で全部突破されたんです」

 

「それでよく勝てたな」

 

「まぁ、あの時私の方がISについて詳しかったし、あの人はどうも感覚で動かすタイプだったらしくて、付け入る隙はありました」

 

「だから『一応』なのか」

 

俺が最初の方、千冬や静を相手に技術で翻弄していた時と同じか。

 

知っているのと知らないのでは大きく変わってくる。

 

俺なんかは未来で先の知識や技術をある程度身につけているわけだから、当然のごとく、最初は圧勝していた。

 

最近じゃ、かなり苦戦を強いられているが、最初の方を抜きにしても俺の方が勝率は高い。

 

「ですが、今となってはそういう隙もないと思います。私やあの人がISに関わろうとしたのは、副会長。貴方の存在がキッカケですから。その副会長に一度は仕掛けようと様子見をしていたということは、イタリア(あちら)で出来ることは全てやってきたという事でしょう。まぁ、それでも副会長と対等にやりあおうなんて一万年と二千年くらい足りませんけど」

 

アクエ○オンじゃねえよ……。創世合体!ってか?

 

「あ、でも気をつけてください、副会長」

 

「何を?」

 

「あの人、私と通ずるものがありますし、それと同じくらい織斑会長や黒桐書記に通ずるものがありますから」

 

「ようは愉快犯じみた戦闘狂ってわけか。何の冗談だ、それ」

 

「もしかしたら、近いうちに何かしてくるかもしれませんね。闇討ちとか」

 

「それならいい」

 

「闇討ちがいいって、やっぱり副会長の感性も毒されてますよね」

 

「ここにいれば、それくらいの心境の変化はあるさ」

 

闇討ちっつーか、夜這いの方が嫌だし。

 

それに華凛は知らないが、初めの頃は襲われる事はかなりあったからなぁ……今となっては懐かしい思い出ではある。

 

「取り敢えずはクラリッサにでも、見張っててもらうよ。ドイツ軍の特殊部隊の人間なら、バレずに偵察くらいは片手間だろうし」

 

「私に頼ってくれても良いんですよ、副会長。寧ろ頼ってください」

 

「わかってる。けど、お前の場合は学年が違うから、バレたら逆説的に俺が監視してるってバレそうだしな。迂闊につけるわけにもいかん」

 

「それもそうですけど……」

 

少し納得がいかなさそうな表情で華凛は頬を膨らませる。

 

どうにも、今の俺の発言が華凛の実力よりもクラリッサの方が上だと暗に言っているように聞こえたらしい。

 

「安心しろ。お前は俺の秘書だ、信頼してる」

 

そう言って頭を撫でてやると、華凛は不満気な表情から一転、喜色満面の様子で頬を緩ませた。

 

「なら良いんです。また何時でも私と、私の家の力は使ってください。私という人間は、貴方の為に存在しているんですから」

 

迷いのない表情で言う華凛。こういうスタンスは相変わらずといったところだ。

 

「そういうわけですから、溜まったら何時でも痛ぁっ⁉︎」

 

「言わせるか」

 

本当に全く変わらない。この生徒会のメンバーは何処までも欲望に忠実で、自分に正直だ。

 

だからこそ、信頼できる。

 

「後、副会長」

 

「今度はなんだ」

 

「さっき織斑会長や黒桐書記に通ずるものがあるって言いましたけど、それは何も戦闘狂って部分だけじゃないんです」

 

「他に何かあるのか?」

 

寧ろ、あの二人に共通してるのって、それ以外は…………雰囲気とか思考とか体つきとかぐらいだな。

 

「間違いなく、あの人も『天才』と呼ばれる部類の人間です。ポテンシャルの高さで言えば、私よりも圧倒的に上でした。流石に篠ノ之博士ほどじゃありませんけど」

 

また天才か………勘弁してくれ。

 

いくら守るべき大切な人間達でも、嫉妬くらいはする。こうも才能に溢れていたら、俺の凡人さ加減が身にしみてわかってしまうしな。かといって、才能の所為にして世界最強の称号を誰かに譲れるほど、俺の立場は軽いものじゃないから、結局努力するしかないわけだが。

 

それにしても、アリーシャ・ジョセスターフか。

 

どうにも、ポッと出というわけじゃなさそうだな。天才だし。

 

俺が憑依転生を果たした時にはまだ原作は9巻までしか出ていなかった。

 

静はともかくとして、ミハエや華凛もまた、俺が知らないだけで実は存在していたという可能性はゼロではない。

 

ともすれば、案外重要な存在なのかもしれないが…………

 

まぁ、なんとかなるだろう。

 




そんなわけでさりげなくアリーシャ登場。

でもオリは当然ながら知りません。まぁ、執筆時期も考えてこんなところだと思います。

ただ、華凛の関係上、立ち位置が微妙に無理矢理になってしまいましたが。

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