IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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ちょっと休憩平行世界編:6

将輝達が来てから、二週間あまりが経過した頃。

 

IS学園を拠点としつつも、元の世界よりも悠々自適の生活を送っていた。

 

難点な事といえば、千冬と束ぐらいではあったが、ほんの少し変装をするだけで周囲の目を欺く事は出来ていた。

 

「ねーねー、まーくん。次は何処行く~?」

 

「スペイン、オーストラリア、マカオ………後、何処に行ったっけ?」

 

「ブラジル。将輝が超次元サッカーやったじゃんか」

 

「そういや、そうだな。んー、じゃあ次はハワイかサイパンくらいにするか?」

 

「私は将輝が決めたところならば、何処でも構わないぞ」

 

「右に同じだ」

 

将輝の提案を千冬と静が同意し、束とヒカルノは同意しないまでも、既にハワイとサイパンについて調べ始めていた。

 

因みに華凛は絶賛姉妹と戯れ中で、ここにはおらず、真耶は飲み物を買いに外に出ていた。

 

二人が戻り次第、また出るかと考えていると不意に扉がノックされる。

 

ノックをするという事はまず華凛や真耶ではない。かといって、この部屋を訪れる人間はまずいないので、全員が顔を見合わせた後、将輝が立ち、扉を開ける。

 

「真耶………と、キミらか」

 

扉の先に立っていたのは、五人とその前で少し申し訳なさそうにしている真耶だった。

 

「すみません、先輩。どうも私じゃ力不足みたいで」

 

「んー、理由はわからないけど、取り敢えず俺に用があるって事でいいのか?」

 

「はい。多分、先輩が適役だと思います」

 

「OK」

 

真耶に言われるがまま、入れ違いになるように部屋の外へと出る将輝。

 

「でだ。一応適役らしいから変わったけど、何の話かな?」

 

「嫁の事だ」

 

将輝の質問にすぐさま答えたのは、腕組みをしたラウラ。

 

「一夏くんの事?」

 

「なんで今ので伝わんのよ……」

 

『嫁』という単語を即行で一夏であると答えた将輝に鈴はあり得ないとばかりに溜息を吐く。事情も知らない人間からしてみれば、同性愛の可能性も考慮してみるものの、知っている将輝からしてみれば、何てことはなかった。

 

「うーん、一夏くんの事を聞かれても、俺には答えようがないんだけど……」

 

正確に言えば、ないわけではないが、たった二、三ヶ月の付き合いでしかなったし、今の一夏は将輝の介入により完全に別人と化しているために、助言をしようにもあまり詳しい事は知らなかった。

 

「確かに一夏さんの事を貴方はご存知ありません。ですが、私達が本当に知りたいのは、一夏さんを、というよりは男性を、の方が正しいですわ」

 

付け加えるようにセシリアが言うと将輝は成る程と頷いた。

 

「それならある程度は答えられるね。いいよ、お悩み相談はよくやるし、世界は違うけど、これも何かの縁だ。生徒会副会長として、悩める生徒を救済してあげよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、六人はシャルロットとラウラの部屋に移動していた。

 

箒達は皆、ベッドの上に座り、将輝は壁にもたれかかった姿勢で話を始めた。

 

「さて、何から聞くべきか………そうだね。皆は何で織斑一夏くんが好きなのか……ってところから聞こうかな」

 

初歩も初歩。これからの悩みを聞く上で当たり前の事を将輝は何気なく問いかけてみたのだが、その質問にラウラを除く四人は顔を真っ赤にする。

 

(しまった。地雷踏んだか)

 

完全に失念していた。将輝の周囲にいる女子達は基本的にオープンラブ。聞こうが聞きまいがあちらから好意を示してきていたせいで、その辺りの配慮が完全に欠けていた。普通ならこういう反応が返ってくるのが自然なのだ。

 

「私は嫁の強い所が好きだ」

 

恥ずかしがる様子もなく、そう答えたラウラ。

 

そういえば、ラウラは良くも悪くも正直だったな、と将輝は懐かしむようにラウラを見やった。

 

「確かに彼は強いね。まだまだ未熟ではあるけれど、経験を積めば優秀なIS操縦者になれると思うよ」

 

「無論だ。私の嫁ならば、当然のことだ」

 

一夏の事を褒められて気を良くしたのか、ラウラは胸を張って答える。

 

視線を四人に移すと、まだ四人はもごもごとしていて、とても答えられる状態ではなかったために将輝は苦笑する。

 

「理由はともかくとして、皆がそれぞれ一夏くんの事を想っているのはわかったから、違う質問をするよ。皆はもし一夏くんが君達以外の誰かとデートしていたらどうする?」

 

「「「「「一夏を呼び出す」」」」」

 

今度は彼女達に迷いはなかった。なさ過ぎた。

 

おまけに目からはハイライトが消えていて、呼び出した後、一夏がどういう状態になるかは想像に難くない。

 

「ま、まぁ、呼び出した後の事は置いておくとして………もしかしたら、その人は一夏くんが好きな人かもしれないよ?そうしたらどうする?」

 

「そ、そんな筈があるか。一夏は超がつく程の鈍感で唐変木なのだぞ?異性を好きになるなどと……」

 

「それだとこの話自体が不毛になるよ?何せ、そうだと仮定すると、ここにいる五人には全く脈がないってことになる」

 

「うっ………た、確かに……」

 

「ですが、そういう事であれば、わたくし達に何の話も無いなどという事はあり得ませんわ」

 

「それはどうかな?一夏くんだって、それこそ姉であるブリュンヒルデにだって知られたくないことはあると思うよ?」

 

「それはそうですが……」

 

箒とセシリアは押し黙る。

 

確かに一夏の事を考えれば、その二つの可能性は大いにあり得るどころか、確率的にはそちらの方が高い事も事実だ。

 

だが、それはあくまでも希望的観測に過ぎない。この場合、確率論はあまり問題がないのだ。

 

「確かにあんたの言ってる事もあり得るかもしれないけど、この質問に何の意味があるの?ていうか、質問したいのは寧ろあたし達の方なんだけど」

 

「それもそうか。意地の悪い事を言って悪かったね」

 

これといって、特に意味があったわけではない。

 

ただ、一夏に彼女がいたとした時、彼女達がどういう反応をするか、知りたかっただけだ。

 

何より、好きになるのに理由なんていらない。そう言っていたのは、他ならない将輝自身なのだから。

 

もっとも、その思惑は上手くはいかなかっが。

 

「無駄口叩いて申し訳ない。さ、何でも聞いてくれていいよ」

 

そう聞いた時、誰よりも早く、けれど謙虚な様子で挙手したのはシャルロットだった。

 

「はい。じゃあ、シャルロットちゃん」

 

「………藤本さん……で合ってましたよね?藤本さんは誰と付き合ってますか?」

 

「誰と付き合ってるように見える?」

 

「えーと………以前教室に来られた方……ですか?」

 

「ああ。華凛の事?どうしてそう思った?」

 

「とても仲が良さそうだったので」

 

「まぁ、仲は良いよ。その点でいうなら、君達と一夏くんの関係もなかなかだと思うよ?」

 

将輝がそう言うと、五人は何処か嬉しそうに頬を緩ませる………が、逆に将輝は表情を引き締める。

 

「ああ。別に褒めたわけじゃないよ。俺が言いたいのは、よくもまあ『あれだけの事をしていて、一夏くんが君達と友好関係を築けているね』って、皮肉を言ったつもりだったんだけど、分からなかったかな?」

 

「ッ⁉︎どういう……意味ですか?」

 

「これはまた面白い事を聞くね。それは君達が一番良く理解しているんじゃないかな?事あるごとに出し抜いたり、迫ったりしたり、妨害している。それはいい。一人の人間を複数の人間が好きになったのなら、よくあることだ………でもね。それに一夏くんが巻き込まれるのは理解不能だよ。君達が勝手にしたことだろう?なのに、何故最終的に『一夏が悪い』に帰結するんだい?」

 

「それは一夏が……」

 

「鼻の下を伸ばしてるから、とか言うつもり?男なんだから可愛い女の子に迫られたら、鼻の下を伸ばすのは当然だろうし、それで喜ぶのは他でもない君達だろう?それとも何かい?君達は『自分以外の女に反応するな』なんて理不尽を言うつもりかい?付き合ってもないのに?」

 

もしこの場に将輝の事を知る人間がいれば、今の将輝を見て、さぞ驚くことだろう。

 

窘めたり、諌めたりするような事は生徒会副会長という立ち位置と、人外魔境生徒会の唯一のストッパーである事を考慮して、よくある事で、日常茶飯事であるのだが、怒りを含んだ口調で責めるというのはかなり珍しい光景だった。

 

無論、それを彼女達が知る由も無いし、自分達が責められているという現状にただ混乱していた。

 

「さっきのシャルロットちゃんの質問に答えよう。俺は別に『誰か』なんて個人と付き合ってるわけじゃない。俺は一緒に来たメンバー全員とあと一人。彼女達と付き合ってる。何なら、卒業と同時に籍を入れるつもりだ」

 

「はぁっ⁉︎あんた全員と付き合ってるって………無茶苦茶よ⁉︎」

 

「確かにね、その反応は正しいよ、鈴ちゃん。でもね、俺も彼女達もそれで納得している。それが俺達の中では『暗黙の了解』だった。だから、俺は彼女達を平等に愛するし、幸せにする。出来なかったら、全員と別れるつもりだ。それくらいの約束事も守れない男に、彼女達を幸せにする資格は無いからね」

 

「ならば私達にも同じ事をしろというのか?それで一夏が納得するとでも?」

 

「しないね、普通の感性なら。でも、今の状態はそれよりも酷い。それなら、まだ同じようにしたほうがマシだ」

 

「では、わたくし達にどうしろと仰るつもりですの?」

 

「それは自分達で考えること………と言いたいけどね。それを享受するのが、今回の役割って事だろうね。ここまでなら、真耶も指摘できた」

 

ふぅ、と一つ息を吐くと、将輝はポケットからメモ帳を取り出し、机の上に置くと、その上にペンを走らせる。

 

「俺から忠告するのはこれくらいだね」

 

そう言って、将輝はメモ帳をラウラへと渡すと、全員がそれを覗き込んで顔を顰めた。

 

「………なんだこれは?」

 

「これから君達が守る約束事さ」

 

「『例外なく一夏に暴力を振るわない』、『何でも一夏のせいにしない』、『一夏の意思を無視しない』と言うのはわかる。だが、最後の一つはどういう事だっ⁉︎」

 

箒の問いは全員が同じ事を思っていることだった。

 

その内容とは『抜け駆け禁止。アプローチをかけるときは公平な条件で順番を決めること』と書かれていたからだ。

 

「ふざけているのか?ルールを設けるなど」

 

「確かに恋愛には制限なんてない。けどね、それで相手に迷惑をかけるのは本末転倒だ。ましてや、君達の場合は抜け駆けしては全員が失敗しているし、結局それが一夏くんが悪いに帰結する。それなら、ルールを設けた方がかなり建設的だ。それなら、ブリュンヒルデにも邪魔はされないだろう」

 

「ひ、否定できませんわね……」

 

「それにこの最低限四つを守っていれば、まず嫌われる事はない。何時もあれだけの事をしていて、普通に友達としていられるなら、全員が卒業までに一夏くんと恋人になるチャンスがある。鈍感でも、別に同性愛者って事はないだろうし、少なくとも俺の世界の一夏くんには好きな人がいるみたいだしね」

 

最後の言葉は聞き流してもらうつもりで言ったのだが、五人は何よりもその言葉に反応した。

 

「嘘⁉︎一夏にも好きな人がいるの⁉︎誰よ!」

 

「そ、それはこれからの事を考えると知っておく必要はありますわね。致し方ありませんわ」

 

「千冬さん、というオチではないだろうな?しっかり他の異性なのか?」

 

「嫁が好きな人間だと?これは聞いておく必要があるな」

 

「ぼ、僕も気になるなぁ……あの、僕達が知っている人ですか?」

 

シャルロットが代表して問いかけると、将輝は困ったような表情で顎に手を当てた、

 

(流石は乙女。まさか、ここに食いついてくるとは思わなかったなぁ………それに俺も情報は知ってるけど名前は知らないし………また千冬に聞いてみようか)

 

「俺の同級生だから俺たちの世界じゃ七つ年上になるかな。なんでも見た目はキツそうだけど、根はとても優しくて面倒見が良いそうだ。後、一夏くんに通じるものがあるとか」

 

そう言うと、五人はなんとも微妙な表情をしていた。

 

それがはたして、「やはり年上か」という部分になのか、はたまた「一夏と同じような女子ってどういうやつなんだろう」というものなのかはわからない。或いは両者という可能性もあるものの、ともかく聞かないほうが良かったかもしれないと五人は思った。

 

「まぁ、世界が違うし、好みも同じとは限らない。結局のところは君達次第だよ。不器用でも、自分なりに自分の想いを伝えれば、相手には通じるものさ。少なくとも……」

 

俺はそうだった。

 

そう言いかけて、将輝は言葉を飲み込む。

 

「ま、頑張りなよ。恋なんてのは生きてるうちに何回だって出来るけど、初恋は一度きりだ。それをものにするか否かは他でもない君達次第だ」

 

去り際にそう言うと、将輝は部屋から出ようとして………扉を蹴り開けた。

 

「「「ふぎゃっ⁉︎」」」

 

おおよそ、女子のあげていいような声でない声を出して、三人の女子か吹っ飛んだ。

 

「あのなぁ、聞くなとは言わんが、盗み聞きはするなよ。ついでにニヤニヤするな、ぶっとばすぞ」

 

「も、もうぶっとばしてるよ、まーくん」

 

「酷いですよ、副会長。篝火会計なんて気絶してますよ」

 

痛そうに立つ束と華凛に、完全にのびているヒカルノを見て、流石に加減をミスったかと思い、将輝は外れた扉を取った。

 

「マズったな。ドア直さないと」

 

「そっちじゃないよ⁉︎私達の方を心配しようよ、まーくん⁉︎」

 

「そうですよ!花も恥じらうか弱い乙女ですよ、私達!」

 

「ヒカルノはともかく、お前らは人類超越者と暗部の長だろ。何処がか弱いんだ」

 

壊れてしまったドアを壁に立てかけ、将輝はのびたままのヒカルノを抱き上げる。

 

「部屋に帰るぞ。話はその後でな」

 

「あー、まーくん。その事なんだけどね」

 

「ん?どうした?まさかとは思うが、部屋ぶっ壊したとかいうつもりじゃねえよな?」

 

「違いますよ。ただ単にタイムリミットみたいなんです」

 

「はぁ?どういうーー」

 

意味だ。そう言い切る前に将輝達は文字通りこの世界から『消えた』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む。帰ってきたか」

 

光が消えた時、将輝が立っていたのは寮の廊下ではなく、IS学園の生徒会室だった。

 

そこでようやく気づいた。元の世界に帰ってきたということに。

 

「あはは、もう一個作らなくても時間制限があったみたい。いきなりちーちゃんが消えて、その次にシズちゃん、マヤマヤが消えたからもしやと思ったけど」

 

「まぁ、偶にはそういう事もありますよ。それに私は今回結構楽しかったですよ?成長した妹に会えましたし」

 

「そうですね。短い期間でしたけど、旅行もできましたし。つ、次に行くときはし、しし新婚旅行ですね…」

 

「気が早いな、真耶。まだ私達には卒業旅行もあるんだぞ……ああ、真耶は行けないんだったな」

 

「……羨ましいです。私も先輩と卒業旅行に行きたいのに……」

 

「仕方ないよ、真耶ちゃん。こればっかりは生まれるのが遅かった事を悔やむしかないもん」

 

よよよとわざとらしく泣き真似をしながら、チラチラと将輝の方を見る華凛だが、将輝はその視線をスルーして、窓の外を見やる。

 

束の言っていたように跳んだときから時間は経過していなかったようで、グラウンドでは今も色んな部が練習をしている。

 

将輝はあちらの世界にいると、不意に元いた未来の世界を思い出してしまう。

 

もし自分が未来に帰っていれば、一体どうなっていたのだろうかと。

 

だが、自分の護りたい者達を見る度にそんな考えは馬鹿らしいと振り払っていたが、帰ってきてみれば、やはりその考えは実に馬鹿らしいものだと悟った。

 

「う〜ん………ん?将輝?なんで笑ってるんだ?」

 

「なんでもない。当たり前の事を当たり前だって思ってただけだ」

 

ーー比較するでもなく、俺の生きる世界はここしかない。

 

その心の呟きは、珍しく誰にも届くことはなかった。

 

 




そんな訳で閑話休題は終了です。地味に長かったですね。

一応書きたいこともありましたが、長くなりすぎると問題なのでいくつかカットしました。

次回から本編に帰りますが、他作品の関係もあるのですぐには無理です。どうかゆっくりと待っていてください。

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