IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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ちょっと休憩平行世界編:3

 

 

「副会長〜、ひーまー」

 

「もう少し待て。じきに出られる」

 

「そう言って、もう一時間経つよ、まーくん」

 

とある独房にも似た造りの部屋で、将輝達一行はいた。

 

慰安旅行と称して、数多ある平行世界のうち一つに渡った将輝達であったが、よりにもよって、そこは原作の、つまり正史の時間であり、そこで一夏達と戦う羽目になった。

 

結果として、誰一人怪我をすることはなく、完全勝利を収めたものの、時間をかけたことにより、完全に包囲され、将輝が相手の提案に乗る事を提案。結果として、将輝以外の全員はISを取り上げられる形となり、独房へと閉じ込められていた。

 

「どうしたもんかねぃ。逃げようと思えば何時でも逃げられるのに、ISを回収されたままじゃ、それもできないし」

 

「待つしかないだろう。理由はなんであれ、将輝がそうしようと言ったのだ。反論する意味は特にないだろう」

 

「違いない。それに別に何もできないというわけではあるまい」

 

静の一言にキョトンと全員が首をかしげる。

 

「何かありましたっけ?」

 

「大体のものは取り上げられたと思うんですけど……」

 

「考えてみろ。この部屋は密室。未だ人の来る気配は無し。無理矢理出るという選択肢が無い以上、私達から将輝は逃げられない……どういうことかわかるな?」

 

瞬間、全員に衝撃が走り、視線が全て将輝へと向けられた。

 

その瞬間に将輝は全員が何を考えているのかを悟り、引き攣った表情で後ずさる。

 

「ま、待て。ここは監視カメラあるんだぞ?俺達の方はともかく、撮られたら消せないんだぞ?」

 

「別に見られたところで、そういう趣向のプレイと思えばいい」

 

「どんな趣向だ!」

 

「何時になく、焦ってるナー。今回ばかりは本格的にピンチだからかにゃぁ?」

 

「そ、そんな事ねえよ。つーか、何時だって貞操の危機は脱せてねえよ」

 

「あは♪ついに副会長と愛し合う日が来たんですね。待ち侘びました……じゅるり」

 

「涎拭け涎!つーか、目がマジすぎるだろ、お前!」

 

「そ、その……なんだ。今回ばかりは…大人しく、してもらおう」

 

「恥ずかしいなら止める側に回ってくれよ………千冬までそっちに回るなよ!」

 

「わ、私も……その……恥ずかしいんですけど……仲間外れになるのは嫌なので……」

 

「真耶まで⁉︎」

 

「はっはっはー!まーくん逃げ場はないよ〜。だから大人しく私達をーー」

 

将輝に詰め寄っていた千冬達の魔の手が将輝に届きそうになっていたその時、パシュッという圧縮されていた空気の抜ける音と共に固く閉ざされていた扉が開き、中に一人の女性が入ってきた。

 

「待たせたな。取り調べの……何をやっている。貴様ら」

 

入ってきた黒いスーツを着た長身の女性ーー織斑千冬は今行われようとしている現状に訝しむ。

 

「あーあ、空気読もうよ、ちーちゃん」

 

「私に言うな。将輝を知らない時点であの私と今の私は完全に別の存在だ」

 

文句を言う束にそう言って反論する千冬。

 

千冬の中では、というよりも、千冬達にとっては平行世界の自分といえど、将輝と出会っていない時点で全くの別人ということになっている。それは今の自分を作っているのは他でもない将輝であるという事への裏付けであった。

 

それ故に束もそれ以上何も言わない。自分とて、来る前は同じ存在であるならと平行世界の自分に対する保証はしたものの、千冬に同じことを言われれば、千冬と同じように返していたからだ。

 

「ちふ……じゃない。あー……ブリュンヒルデ。少々、取り込んでいた。すぐそちらに行く」

 

こちらの世界で大人びた雰囲気を醸し出す千冬にも将輝は普段のように名前を呼びそうになり、すぐに訂正する。

 

千冬達の間を抜けて、将輝は織斑千冬の前まで行く。

 

「お前が主犯……リーダーということで良いんだな?」

 

「ええ。なので、話は俺だけで聞きますよ」

 

でないと、下手すると暴れそうなんで。

 

そう言いそうになって、将輝は口を噤んだ。

 

「ついてこい」

 

そう言って、織斑千冬は踵を返す。

 

敵がテロリストとわかっていてなお、彼女が将輝に背を向けられるのは逃げられてもすぐに取り押えることが出来るという自信があるからだ。

 

過去のモンド・グロッソで世界最強の称号ーーブリュンヒルデを得た織斑千冬はあまりそれで呼ばれる事を好ましく思っていないものの、それで自身の実力に対する自信はある。

 

それは慢心ではない。寧ろ、実力に比べれば控えめなものだった。

 

だが、それを千冬達の前で晒すのは明らかな愚行にも見えた。

 

この場には織斑千冬に匹敵する実力を持つものが数名いることを本人は知る由もない。それ故に千冬達が敵意を滲ませ、踏み込もうと足に力を入れるーーが。

 

「大人しくしてろ。ややこしい事になるぞ」

 

将輝による制止の声に千冬達から敵意が霧散した。

 

その事に安心した将輝はひらひらと千冬達に手を振って、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と部下に信頼されているようだな」

 

別の部屋へと向かう途中、織斑千冬はそう口にした。

 

あの敵意には千冬も反応していた。襲われれば無力化する気ではあったが、それよりも早くに将輝が千冬達を制止し、逃げ出す好機を逃した事に僅かばかり驚きを覚えていた。

 

「部下じゃありませんよ。あいつらを自分よりも下と思った事なんて、一度もない」

 

「そうか」

 

織斑千冬は短くそう返すだけで、それ以上は何も聞かなかった。

 

将輝にとって、千冬達は皆等しく、自分よりも上の存在だと思っている。

 

それは彼女達の生き方であり、在り方に敬意を表しているからだ。

 

どんな形であれ、千冬達は皆、自分に正直に生きている。

 

そんな彼女達を将輝は上に見ることはあっても、下に見ることなど到底出来ない。

 

「ついたぞ、入れ」

 

着いたのは先程と同様に無機質な机と椅子以外何もない部屋。

 

だが、その至る所には監視カメラが仕掛けられていて、一挙手一投足も見逃さないとばかりに四方八方から将輝を捉えていた。

 

「無駄話は好きではない。単刀直入に聞かせてもらおう…………この学園を襲撃したのは何故だ?」

 

向かい合わせに座る織斑千冬は鋭い眼光で将輝を見据えた。その瞳は嘘は何一つ許さないと訴えており、大抵のものはそれだけですくみ上がりそうになるが、将輝はその視線を全く意に介していなかった。

 

「襲撃した……という事には語弊はありますね。俺達だって、ここに来るつもりはなかった」

 

この世界に来るつもりはあれ、将輝達はこの学園に来るつもりなど毛頭なかった。来てしまったのは全くの偶然だ。

 

しかし、そんな事を知らない織斑千冬からしてみれば、ならば何故ここにいる。と疑問を抱かせるだけだった。

 

「では次の質問だ。何故、貴様の仲間は私の専用機をーー暮桜を持っていた?あれの所在は誰も知らないはずだ」

 

「貴女と篠ノ之束を除いて……ですか?」

 

「質問に答えろ」

 

一層鋭くなった千冬の眼光から明確な敵意が宿っていた。

 

それに対しても、将輝は飄々とした態度を崩さずに答える。

 

「さあ?でも、貴女はあれが暮桜であって、そうではない事を知っていると思いますが?」

 

将輝の答えに織斑千冬は押し黙った。

 

その通りだった。あのISが既に暮桜ではない事は分かっている。

 

同じコアと酷似している見た目ゆえ、その誰もがあれを暮桜だと認識した。

 

だが、持ち主であったからこそ、わかる。あれはあくまで暮桜ではないということが。

 

しかし、それと同時にあり得ない事が起きているという現実がそこにはあった。

 

ISのコアは篠ノ之束によってのみ作られ、そのコアの何れにもコアナンバーが登録されている。

 

もちろん、例外は存在するものの、何一つ変わらないなどというのは存在しない。それこそ、複製でもしない限り。

 

そして複製など出来る人間は篠ノ之束本人しか居ない上に、本人は同じ事をしたり、継続する事を酷く嫌う。それは単に彼女が飽き性だからである。

 

(ならばあのISはなんだ?いや、そもそもこいつはなんなんだ?一夏以外の男性IS操縦者。そしてその仲間である者達……数名を除いて、知っている顔だ。束め……一体何を考えている……!)

 

(あらら、誤解を解いたら、警戒が強くなった。多分、束のせいって考えてるんだろうな………大体当たりだけど)

 

見るからに警戒心の高まった織斑千冬を見て、将輝は内心で苦笑する。

 

「失礼だが、ブリュンヒルデ。事は貴女が思っている程、悪くもないし、深刻でもない」

 

「何?」

 

「貴女の疑問を解決出来るかはわからないが………俺から言えることは、俺達がここに来たのはまったくの偶然で、俺の仲間も俺自身もこの世界の人間じゃない事ぐらいだ」

 

「…………では何か?貴様は他の世界から来ましたなどと法螺を吹くつもりか?」

 

「あ、話が早い。その方向性で話を進めたいんですけど」

 

あっけらかんとそう言ってのけた将輝に織斑千冬は巫山戯るなとそう内心で毒づく。

 

そんなあり得もしない夢物語で話を進めようなどと考えている将輝に対して、苛立ちが募るが、それと同じく、もしかしたらという疑問も募っていた。

 

というのも、若干一名にはそれが出来るのではないかと疑問を抱いているからだ。

 

「仮に……仮にだ。お前が他の世界、他の時間軸から来た人間として、何のためにこの世界に来た?」

 

故にさらなる疑問が彼女の中に生まれる。

 

意図せずして来たとすれば、時間軸や座標軸を選んで来ることはできない。

 

そんな不安定なことを何が目的でしたのか?それほど重要な事なのか。

 

そういった意味合いを込めて疑問を投げかけた時、将輝から帰ってきたのは拍子抜けする理由であった。

 

「慰安旅行」

 

「………何?」

 

「だから慰安旅行」

 

織斑千冬は目を瞬かせた後、一気に頭痛が酷くなるのを感じた。

 

どれ程の重要な目的があるのかと勘ぐって見れば、帰ってきた言葉は慰安旅行の一言。

 

思わず、自らの友人である束を相手にしているのかとすら錯覚してしまっていた。

 

「はぁ……なら、何故抵抗した?」

 

「いや、抵抗する気は無かったんですけどね。そっちの生徒とこっちのメンツが売り言葉に買い言葉で喧嘩になったというか……」

 

「ああ、わかった……もういい」

 

それ以上は聞かなくとも、織斑千冬には展開が読めた。

 

誰が煽り、煽られ、火蓋を切ったのか、想像に難くなかった。

 

「こちらの生徒がほぼ無傷だったのはそれが理由か」

 

「ええ。不本意な戦闘だったので、戦闘力だけ削ごうかと」

 

「よくもまあ、第一世代のISでそんな芸当が出来たものだな。約一名を除けば国家代表とその候補生だぞ?未熟ではあるがな」

 

「まあ、なんというか。彼女達は『試合』には強いかもしれませんが、『戦』には強くない。本人達に自覚があるかは知りませんが、彼女達は自分達が思っている程強くない。少なくとも……」

 

「機体性能の差があってなお、本気で闘わなくてもいい程度にか?」

 

「ええ、まあ。指揮官の子だけは例外ですが」

 

さらりと将輝はそう口にした。

 

本人達がいない故の発言だが、その言葉通り、将輝はその時のほぼ全力では闘っていたものの、本気ではない。

 

ほぼ全力で相手を無力化することのみに集中していたため、普段千冬達と模擬戦を行った時のように勝敗を気にした闘いではない。あくまでも戦闘力だけ削ぐことが目的だったからだ。

 

故に本気ではない。将輝に本気を出させる人間など数える程だろう。この世界の織斑千冬のように。

 

「話せる事は大体話しましたけど、これで解放してくれますか?」

 

「私としてはそれでもいいと考えるが………そういう訳にもいかない」

 

「まぁ、そうなりますよね」

 

当然の事だ。

 

将輝達の存在が確認された時点で既にその存在は日本政府にも伝えられている。

 

理由はどうであれ、将輝達はあくまで不法侵入者であり、襲撃者。何より、将輝はこの世界では二人目の男性IS操縦者となる。そんな複雑な立場の人間を問題なしとして外に出せるほど、織斑千冬の立場は強くない。

 

「らしいけど、どうだ?」

 

『んー、こっちも今平和的に話し終わったよ〜♪』

 

「ッ⁉︎今の声は」

 

「こっちの束です。実は俺の着てる服は少々特別仕様で、通信機能なんて付いてたりするんですよ」

 

「やれやれ……今までの話は全て筒抜けというわけか」

 

『そういう事だよ、別世界のちーちゃん。日本政府には誠意を持って説得したから、なーんの問題もないよ〜』

 

「誠意か……どうせ、脅したのだろう?」

 

「ご想像にお任せしますよ、ブリュンヒルデ」

 

そう言って将輝は肩を竦めた。

 

今回ばかりは束の一存で手段を決めさせたものの、どういった手段を取ったのかは想像に難くない。織斑千冬の言う通り、十中八九脅しているだろう。

 

「日本政府が首を縦に振った以上、私もお前たちを止めておく理由はない。好きにするといい」

 

「ああ、そのことなんですけどね」

 

「?」

 

「実は慰安旅行に行くと決めたまでは良かったんですけど。いつの時代に着くかわからなかったわけなんです」

 

「ここに来たのも偶然といっていたな。……それがどうかしたのか?」

 

「ぶっちゃけますと、まだ何をするか決めてないんで、二、三日泊めてもらっていいですか?」

 

かなり真剣な表情でそう提案する将輝。

 

これにはさしもの織斑千冬も椅子からずり落ちた。

 

 


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