IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜 作:幼馴染み最強伝説
次回は八月中には頑張って書くかも。まぁ、取り敢えず頑張ります。
急加速で抜け出た束はそのまま鈴目掛けて殴りかかろうとする。
けれど、その加速力は第一世代に毛が生えた程度で第二世代未満。
見た目の迫力と束の勢いに飲まれそうにはなったものの、鈴を庇うように前に躍り出たラウラが右手を突き出していた。
(射程までもう少し……!)
ラウラの機体ーーー『シュヴァルツェア・レーゲン』には《
普段であれば相手が複数いる場合は使用するのは愚の骨頂ではあるものの、質も量も上回っていると確信しているラウラは取り敢えず一人目を捕獲する事を優先とした。
だが、相手はいくら学生といえど稀代の大天才篠ノ之束であった。
理由も理屈もないが、接近する事の危険性を何処と無く感じ取った束はAICの射程に入る前に上に飛び上がり、その両手にマシンガンを出現させた。
「蜂の巣になっちゃえ!」
その言葉とともにマシンガンから吐き出される数百にも及ぶ弾雨は当然の如く躱され、そして今の攻撃で全員の戦闘スイッチが完全に入った。
(何を考えてるんだ、あの人は⁉︎今までも何考えてんのかわからない人だったけど、まさかテロリストに手を貸すなんて……)
「戦場のど真ん中で考え事とは……やはりお前にはこういう事は向いていない」
「ッ⁉︎千冬姉………じゃなかったな。お前、確か織斑マドカとか言ったな!」
回避した先に既に『暮桜』を展開して立っていた千冬に一夏は言う。
つい先月のこと、一夏は千冬と瓜二つの顔をした少女織斑マドカに命を狙われ、セシリアもまた怪我を負わされた。あの時、マドカはイギリスの第三世代機である『サイレント・ゼフィルス』を強奪していた為、今回も自分の姉の機体を奪い、搭乗しているのだと思った。
けれど、事情を知らない千冬は何の事だと首をかしげるだけだった。
「よく分からんが複雑な事情でもあるようだな。だが、まあ。今は私とお前は敵同士だ。全身全霊でかかってこい」
「言われなくても!」
そうして姉弟同士の対戦が始まったすぐ隣では『黒龍』を展開した静と『打鉄弐式』を展開した簪が対峙していた。
「ふむ。弱ったな。私は同族と闘うのはあまり好きではない」
静の指す同族というのは即ちオタクということ。
彼女は比較的好戦的な性格ではあるものの、相手を選ばないというわけではない。そして同族との争いにはあまり乗り気ではなかった。
対する簪は同族と言う言葉が一体何を指すのかわからなかったが、相手は学園を襲ってきたテロリストという事もあり、その手に近接武装である薙刀《夢現》を構える。
「仕方あるまい。そちらがやる気なら私も応戦させてもらうまでだ」
静の意志に呼応して光り出す拳に一瞬だけ目を輝かせる簪だが、すぐに思考を元に戻した。それを見た静は心の中でやれやれと溜息を吐いた。
(これだから同族の相手は気が引けるんだ)
そして静と簪の対峙している場所の上空では二人の楯無が見合っていた。
「アンティークを持ち出してきたと思えば見たこともないISにもう一人の男性IS操縦者………貴方達本当に何者?」
「それを今言って意味あると思います?それに貴方は更識で楯無なんでしょ?自分で考えるべきだと思いませんか?更識刀奈ちゃん?」
「ッ⁉︎何故貴女がそれをッ⁉︎」
華凛の口から告げられた名前に驚愕する刀奈。
更識刀奈とは楯無の本当の名前。本来家族以外の者に教える事は許されておらず、つい先日それを破って例外的に教えた一夏を除けば知るものはいない。いてはならない。
刀奈のその反応を見て、華凛は視線を僅かに下に落とした。
「そう………やっぱり刀奈ちゃんが継承してるんだ。ごめんなさい」
「何故貴女が謝るのかはわからないけれど、洗いざらい吐いてもらうわ。貴女が何を知り、何の目的でここに来たのかを!」
「実に暗部らしい考え方だね。でもね、一つだけ注意点があるよ、刀奈ちゃん。暗部なら暗部らしく……」
華凛が指を鳴らすと同時に刀奈の周囲が爆ぜた。
いきなり目の前の空間が爆ぜた事に目を白黒させる刀奈に華凛は小悪魔的な笑みを浮かべていう。
「姑息に小技の応酬で闘わないとね♪」
既に三名ずつ双方の人間が闘いを始めた頃、意外にも………というよりは比較的予想通りに将輝達はそれを眺めて溜息を吐いていた。
「はぁ〜、きっかけはヒカルノの一言とはいえ、束が開戦の火蓋切るわ、悪ノリして千冬も楯無も自分の兄弟姉妹とやり始めるわ。まぁ、静は不可抗力にしてももう収拾つかなくなっちまったじゃねえか」
「どうします?先輩」
「どうもこうも……やるしかないんじゃねえの?ここまで来れば。束だってほら」
将輝の指差した先、其処にはISサイズのゲッターが地を駆け回りながら、鈴に向かってトマホークを両手に挑んでいるところだった。基本的に戦場に立たない束が自ら戦場に立ち、闘っているということはよほどぱちモンと呼ばれた事に腹が立っているのだと将輝は推理した。
「ああなると俺がなんかしてやらんと多分止まらん。そしてそれは十八禁行為だ。もう闘うしかねえ」
「あはは……じゃあ、私も闘った方が……」
「だな。真耶にはシャル……じゃない。あのオレンジの機体に乗ってる子の相手をヒカルノと一緒にしてくれる?あの子他のメンツに比べて機体性能は劣るけど、技術的には楯無が相手をしている子の次くらいに高いから、結構辛いと思うけど頑張ってくれ」
「先輩は?」
「ポニテの子と縦ロールの子と眼帯の子の相手をする」
「わかりました。先輩、ご武運を」
真耶は訓練機である『鋼』の発展機にあたる『錬鉄』を纏い、シャルロットのいる方へと向けて飛翔する。
「ヒカルノ。真耶の事、頼んだぞ」
「あいあい。こんな事なら私もISの実技マジメにしとくんだったにゃぁ」
「研究者気質だからな、お前。ま、これからはマジメにしとけ」
ヒカルノは悪態を吐くと真耶の補助へと向かう。
その場には将輝、そして箒とセシリアとラウラが残った。
「愚かだな。よりにもよって個々での闘いに臨むなど」
「かもしれないな。お蔭で三人まとめて相手にしなくちゃいけなくなった。久しぶりに疲れそうだ」
「その口ぶり。まさか勝てる気でいるのか?」
箒から投げかけられた問いには疑問と僅かに怒気が含まれていた。
だが、それも仕方のないことだ。
先もセシリアが言ったように質でも量でも将輝に勝ち目はない。一対一の闘いになったとしても圧倒的不利な状況だ。ましてや、以前までの彼女達ならともかく、今の彼女達は数々の激戦を越え、技術レベルも今までの一年生とは一線を介した強さを誇っていた。
もっとも、それはあくまでこちらの世界の話であるが。
箒の問いに将輝は一瞬目を丸くすると朗らかに笑い、まるで教師が生徒に対して教えるかのように優しい声音で、けれども確証のある口調で言う。
「当たり前だ。あいつらのいる前で俺が負ける事はないよ」
そういうと将輝は『夢幻』を纏い、近接武装《無想》の切っ先を三人へと向けた。
「あ、貴方がたは……何処までわたくし達をコケにするおつもりかしら……」
「さてね。……かかって来なよ、ルーキー。機体の性能の違いが、戦力の決定的差ではないと教えてあげるよ」
「ほざいたな、テロリスト!」
ガコンという音ともに既に照準の合わされたシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンから弾丸が吐き出され、将輝を襲う。
距離が距離であるため、普通であれば回避不可能のそれを将輝は………
「遅い」
斬った。
二つに分かれた音速の弾丸は将輝の横を通過し、その後方で爆ぜる。
その光景に驚くラウラではあるが、それならばと既に箒が仕掛けていた。
第一世代機と第四世代機。
最古と最新の機体の激突は本来であれば数秒と保たずにすぐさま性能で押し切られる。
だが、箒の振るう《雨月》と《空裂》の斬撃は悉くいなされ、躱されている。
それはあり得ない光景だ。
第三世代ISでさえ、近接戦闘時における箒の攻撃を回避するというのは非常に難易度が高い。
故に張り付かれないように高速で移動しながら戦闘を行うが、今将輝は張り付かれた状態のまま、避けていた。
箒の攻撃が遅いわけではない。寧ろ、この中の誰よりも近接戦闘レベルは高く、さらにISの性能が最も高い。
だというのに避けられるのは異常なまでの危険察知能力と反射神経による凄まじい回避能力だった。
(こいつ……私が次の攻撃をしようとした時には既に避けている。くっ………まるで攻撃全てが誘導されているようだっ!)
(肝が冷えるな。やっぱり制限付きだとここまで一方的な展開になるんだな)
涼しい顔をしてはいるものの、密かに将輝は数分先に迫る敗北のビジョンに思考を張り巡らせていた。
「箒さん。下がってくださいまし!」
セシリアの声とともに箒はその場から離脱すると直後、様々な角度からエネルギーの一撃が将輝を襲う。
ビットによるオールレンジ攻撃。回避するのは至難の技ではあるものの、いかんせん相手が悪かった。
「っと。危ない」
だが、それを将輝はなんなく避ける。
ビットによる攻撃はあらかじめ察知していた。ハイパーセンサーによる事もそうだが、箒が攻撃している時もセシリアへの警戒は全く怠っていなかった。
立て続けに行われるビットによる射撃。それをなんなく躱しながら将輝はあることを思い出していた。
(そういえば、セシリアはまだ偏向射撃をものにしたばかりだったっけ。って事はもっとスウェーで避けても問題なさそうだ)
将輝は意識を集中し、さらに薄皮一枚のISのエネルギーが消費しないギリギリのラインでビットの射撃を避け始める。セシリア自身による射撃も躱し、身体を一瞬沈めるとそのまま瞬時加速を駆使して、セシリアに詰め寄った。
「やらせはしない!」
「そうくると思った」
割って入ってきた箒の剣戟を躱し、腕を掴んでそのまま投げ飛ばす。その行為では全くダメージこそないものの、とても軽く投げただけとは思えないほどに遠くへと投げ飛ばされ、箒は体勢を立て直す。
(なんだあの馬鹿げた力は⁉︎あれが第一世代だと⁉︎)
「先ずは一人」
「まだですわっ!」
接近してきた将輝に対してセシリアはミサイルビットを放つ。初見殺しのその一撃を将輝はなんなく躱した。
「なっ⁉︎」
「ごめんね、それを見るのは二度目だ」
縦一閃。セシリアの持っていた《スターライトMkⅢ》が斬られ、爆散する。
「くっ!」
咄嗟にセシリアは武装から手を離すことで爆発から巻き込まれるのを回避し、追撃されぬように滞空させていたビットで将輝に反撃しようとする………が。
「ブルー・ティアーズ⁈」
「んー?このドラグーン擬きはブルー・ティアーズって言うの?操縦者みたいに高慢そうな名前してるね」
鈴を追い回していたはずの束はいつの間にか四基のビットを脇に抱えて、立っていた。
「キミってばまーくんにゾッコン過ぎるよ。周りも警戒しとかないと、これは私達とキミ達の戦争だよ?そういうわけだから、これ没収ね」
そう言って、束はビットを踏み潰すとそのままラウラの方へと仕掛ける。
「束!」
「わかってるよー。まーくんの意向だからね。バラすのは勘弁したげる」
「くっ……たかだが第一世代IS如きで!」
「そうだね。でも、そのたかだが第一世代如きに圧倒されるくらいにキミ達は私達に劣っているんだよ。喧嘩を売る相手を間違えたね」
などというやり取りをしながら、束とラウラはプラズマ手刀と無骨な片刃の斧で鍔迫り合いを始める。威力の重さとしては束の方が上で、速さではラウラの方が上という状態ではあるものの、束の一撃が想像以上に重いために速さの利点は弾かれた際の隙を作らない程度に収まっていた。
「あいつ、煽るだけ煽りやがって………っと」
束の姿を見てごちりつつ、将輝は自らを襲う紅椿の射撃武装《穿千》をひらりと躱す。
「もらったぁぁぁ!」
「そういうのは当ててから言おうね」
不意をついたとばかりに後方から甲龍の主武装《双天牙月》で斬りかかったものの、その一撃は難なく受け止められる。だが、それに対して鈴はニヤリと笑った。
「あのぱちモンが言った通り、これがあんた達とあたしたちの戦争ってんなら……」
「ーーーーこういうのもありだよね?」
将輝の後方から、突進するように加速してきたのはパイルバンカーを展開したシャルロット。
一瞬の隙で真耶との戦闘から瞬時加速で離脱し、将輝に標的を切り替えたシャルロットはパイルバンカーを打ち込もうと左腕を突き出した。
回避する方法がないわけではないものの、回避できる方向には箒が《穿千》を構えているため、どちらにしても多大なるダメージを受けるのは確定であった。
故に将輝はシャルロットからは目を切り、鈴の方へと視線を向ける。
「集団で個を潰す。良い手だが、あいにくだったな。こちらにもーー」
「ーーその戦法を取る事は可能だ」
横から割り込むようにして入ってきたのは千冬であった。
千冬もシャルロット同様に一瞬の隙をついて、将輝の援護に回ってきた。
瞬時加速を使用しての介入はいくら第一世代とはいえ、爆発的な加速であることに変わりはなく、不意を突くのには十分なものであった。
咄嗟に止まろうとするシャルロットだったが、既に時は遅く、千冬の手にもたれていた《雪片》はエネルギーの迸る刃を形成していた。
ギンッ!
振るわれた《雪片》は一刀の元、パイルバンカーを盾ごと断ち切る。
シャルロットは体勢を立て直し、千冬へ向けてアサルトライフルを撃とうとするが、その前に駆けつけた真耶がシャルロットへ向けて牽制の射撃を行う。
「すみません!慎重にやり過ぎました!」
「別にいいよ。真耶が怪我してないなら」
「私の心配はしてくれないのかよ」
「流石にISに乗ってないお前を狙うような鬼畜じゃないしな。それにいざとなったら、助けに行く」
開放回線で文句を言うヒカルノに将輝はそう返すとヒカルノは満足そうに「じゃあいい」と言い、再度真耶の援護に回る。
とはいえ、ヒカルノはISには乗っていないだけで、援護攻撃に関しては全て対IS用の武装であるため、シャルロットからしてみれば、先に無力化しておきたい。だが、相手がISに乗ってないから迂闊に攻撃できないという非常に面倒な状態に陥っている。そういう点も含め、将輝は真耶とヒカルノをセットでシャルロットへとぶつけた。
(それに今は華凛の方だ)
スラスターを吹かせて、アリーナ上空でかなり劣勢を強いられている華凛と楯無の闘いへと介入する。
「副会長⁉︎」
「大丈夫か?華凛」
「大丈夫です………って言えたら楽なんですけどね。刀奈ちゃん、すっごく強くて」
「まぁ、国家代表で、生徒会長だからな」
「マジですか………そんなの勝てるわけないじゃないですか……」
さらりと将輝が答えると華凛はうへえと苦々しい表情でごちる。
それも仕方のない事ではある。
現時点において、将輝達の世界には国家代表という概念は存在しない。代表候補生の中でまだ選出されている途中なのだ。
もっとも、千冬、静、華凛、真耶、ミハエは既にこちらの世界の国家代表と互角或いはそれ以上の闘いを演じる事が出来たりするのだが、いかんせん機体の性能差が大きすぎる。
代表候補生クラスであれば、なんとかなるものの、国家代表の楯無との闘いとなれば操縦技術に圧倒的な差があるわけではない為、第一世代と第三世代の差というものが嫌という程わかる。
その為に将輝は始め、楯無と闘うつもりでいたのだが、華凛が思うところがあって闘うといいだしたので、敢えて口出しはしなかったが、危険に晒されているとなれば例外。割って入ることも辞さないつもりだった。
「変わるか?」
将輝の問いに華凛は首を横にふる。
「いえ、ご心配してくださるのはすごく嬉しいんですけど、これは私が遺してしまった呪縛ですから。私がどうにかしないといけないんです………それにお姉ちゃんが妹に負けるなんて格好がつきませんしね」
「………わかった。けど、無理はするなよ。やばそうなら勝手に乱入するからな」
「了解です♪さぁ、刀奈ちゃん。続けましょうか」
「………バカね。二人掛かりならなんとかなるかもしれないのに。何故、そこまで私との闘い拘るの?」
「さぁ、何故でしょう!」
両手にブレードを構え、華凛は楯無へと仕掛ける。
一撃一撃のキレはやはりというべきか、凄まじいものであるが、国家代表である楯無はそれをランスでいなす。先程までの焼き回しのように行われるやり取りに楯無は幾分か余裕を持って対応していた。
(この流れなら五手先に刺突がくる。そのタイミングでカウンターを仕掛ける!)
(ーーーーって、刀奈ちゃんは思ってるんだろうなぁ〜。でーも、残念。この二、三のやり取りは刷り込みなんだ♪)
一、二、三、四。
そして五撃目。
華凛が刺突するように見せかけるため、腕を引いた瞬間に楯無は一歩踏み込み、ランスを華凛に向けて突き出した。
(もらった!)
その一撃は吸い込まれるように華凛の腹部へ突き刺さる…………事はなかった。
「ざーんねん。それは悪手だね、刀奈ちゃん」
「ッ⁉︎」
腹部へと放たれたランスを華凛は絶妙な加減で捌いていた。
ブレードをランスの切っ先に当てることでギリギリ逸らした華凛はもう片方の手に持っていたブレードの剣先を
突如放たれた剣先に楯無は一瞬驚くが、流石は国家代表。咄嗟に躱し、距離を取ろうとする………が、何故か離れる事が出来なかった。脚部装甲から放たれていたワイヤーが楯無の腕に巻きついていたためだった。
(何時の間に⁉︎)
「凄いでしょ?篠ノ之博士が開発してくれた特殊ワイヤー。攻撃力なんて全くないけど、相手を捕まえるのには打ってつけなの。で、ここからーーーー」
「まだよっ!」
ズガガガガガガンッ‼︎
ランスの中にある四つの砲門からガトリングが放たれる。
楯無の駆る第三世代IS『ミステリアス・レイディ』の主武装たる《蒼流旋》は表面に超高周波振動の水を螺旋状に纏っているランスであるが、その中には4連装のガドリングガンが内蔵されている。基本的には牽制射撃などに用いられる事もあるものの、こうして相手がガトリングガンを内蔵している事を知りえない場合は超至近距離からの射撃を不意打ちで可能にする。
これにはさしもの華凛も完全に不意をつかれた。
超至近距離からのガトリングガンによる射撃に目を見開き、そしてニヤリと笑みを浮かべた。
「流石、刀奈ちゃん。完全に不意をつかれちゃった。でも残念。これじゃ、私には届かないかなぁ〜」
右手のブレードを投擲し、アサルトライフルを楯無目掛けて発砲する。
楯無はランスでワイヤーを斬りはらい、距離を取ると華凛の周囲が僅かに歪んで見えた。
「これも篠ノ之博士作の物理シールド。出すと其処から動けなくなる上に守れる範囲も限られてるけど、不意打ち対策には持ってこいの盾。あ、後、刀奈ちゃん。チェックメイト♪」
ビシッと指をさして、満面の笑みでそう告げる華凛に楯無は訝しむが、すぐにそれを理解する。
空気を切る音と共に突如、楯無は吸い込まれるように華凛の方へと引っ張られ、二人の距離がゼロとなった。
「貴女、一体何を……ッ⁉︎」
「それは秘密♪副会長達の闘いが終わるまで一緒に待ってましょうね〜」
空中で身動き一つ取れなくなった楯無と華凛。
それを見て、事情のわからない簪は焦った。
学園最強の名を冠する姉。
それを抜きにしても、一時期は自身のコンプレックスとなるほどの優秀な姉が敵に捕まった。
不意をつかれたのか、それとも実力をもって捕まえられたのかはわからなかったが、その状況は簪にとって焦るに十分な状況だった。
すぐさまそちらに飛んで行こうとするが、そこに静が立ち塞がる。
「どいて……!」
「通すわけにはいかないな。一応無傷で無力化したし………おっと」
ガギンッ!
簪の持つ薙刀と静の拳がぶつかる。
本来、ISの武装と拳が当たれば、攻撃が当たったということになり、エネルギーが消費されるのだが、静のISは少々特別で、本来のISの拳の上にさらに厚い籠手のようなものがついていて、そこにISのエネルギーを纏ったり、溜めて放ったりする事で攻撃をするため、それ以外での消費はない。
攻撃を弾かれてのけぞる簪。
静は薙刀を破壊する為に追撃の拳を放つがその前に簪が後方に下がった。
(強い………近接戦じゃ、私の方が不利。ならーー!)
「これで……!」
「む?」
簪が両手を広げると六つのミサイルポッドが出現し、そしてその中から八発の小型ミサイルが放たれる。
八連装ミサイルポッド《山嵐》。
マルチロックオンシステムによる最大数四十八発の高性能誘導ミサイルが一斉に静に向けて殺到する。
それに対して、静は大きく深呼吸をした後…………向かってくるミサイルを全て迎え撃った。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」
向かってきた全てのミサイルを全て殴り砕く。
その姿はまさしく悪魔のごとく。
簪があっけに取られている中、静は肩をぐるぐると回す。
「ふむ。一度はやってみたかったラッシュだが、なかなかに疲れるな。特に息が続かん。やはりスタンドだからあんなに余裕綽々で言えるんだな、うん」
「う、うそ……ミサイルを全部叩き落すなんて……」
「そんなに驚く事か?………まぁ、一般人から見ればそういうものか。まだやるか?」
「ッ⁉︎そ、そんなの当たり前……っ!」
ガシャンという音と共に背中に搭載された二門の速射荷電粒子砲が静へと向けられ、放たれる。
だが、それを静は難なく拳で弾いた。
いくら至近距離からの四十八発のミサイルだろうと、速射砲だろうと、静にとってはそんな見え透いた攻撃は全て遅過ぎる。不意をつけば話は別ではあるが、正面から堂々と攻撃をしてくるのであればそれくらいは造作もない。
「諦めろ。束の阿呆はともかく、私達はハナからお前達と事を構える気などない。そちらが何もしなければ、私達も何もしない。しようとすれば、将輝が止める」
「そんな事、信じられるわけ……」
「信じる信じないは勝手だが、これ以上は不毛だ。お前と私、実力差は歴然だからな」
「………」
静のふてぶてしい物言いに簪は薙刀を強く握りしめる。
だが、静の言っていることを簪は理解していた。
これ以上、どう足掻こうと自分に勝ち目はない。無駄に消費するだけだ。大したダメージを与えることもできずに疲弊しきった状態を晒してしまいかねない。
故に簪は矛先を下げた。もしものために温存することを選んだのだ。
「ふむ。物分かりのいい奴は好きだ。同類だとなおさらな」
腕組みをしたまま、頷く静の視線は千冬のいる方向に向いていた。
ガギンッ!
二つの《雪片》が金属音を響かせ、鍔迫り合う。
徐々に苛烈さを増す鍔迫り合いの中で、一夏は焦りを感じていた。
こうして一夏が
いくら似せていても、結局のところはクローンであり、千冬本人ではない。ましてや、千冬の専用機を持ち出したとしても第一世代と第四世代。性能差で言えば、そもそも闘いにすらならない。それでも実力が拮抗しているのは千冬の人外スペックと将輝達との闘いで培われた経験からくるものだが、逆に千冬が一夏を押し切れないのは性能差以外にも一夏が千冬のISによる試合を密かに見ていた為だ。
(イマイチ決定打が出ないな。粗削りだが……やはり一夏は一夏か)
(ラウラの時とは違う。やっぱりデータとクローンじゃ違うのか!)
VT事件において、過去のモンド・グロッソの千冬のデータを基にしたラウラとの戦闘を文字通り一撃で終わらせた一夏ではあるものの、今の相手は千冬本人であり、また生きている人間なのだ。機械のような決められた動きではなく、その時その時において柔軟に変化する戦闘スタイルには決められた法則は多少あれど、確定ではない。
だからこそ、一夏は許せない。
自分の姉の偽物がいることが。それを作った人間がいて、それを従えている人間がいる事が。
(こんな偽物に負けてたまるかぁぁぁ!)
(思ったよりも強いが………怒っているのか?動きが単調になった)
激昂する一夏に事情を知らない千冬は内心で疑問を抱きながらもその攻撃をひらりひらりと躱していく。
確かに一夏の激情により、攻撃の苛烈さこそ増したものの、その想いは些か強過ぎるのか、冷静さを失い、攻撃が単調になっていた。
図らずも千冬に有利に進む状況とは裏腹に真耶達の方は予想以上に拮抗していた。
(今までの無人機と違って、相手が人間だからやり辛い。それに機体性能差がハンデにならないくらいに操縦技能が高い!)
(先輩が言ってた通り、この人強い………篝火先輩の援護が無かったら、今頃やられてたかも……)
(私とまーやん足して互角かぁ……困りもんだねぃ。ま、それも見越してたんだろうなぁ、将輝は)
そう内心でごちて、ヒカルノは将輝の方を見やると闘っている将輝と目が合い、将輝はニヤリと笑う。
(やっぱり確信犯だねぃ。仕方ない。期待されれば応えるのが良妻の務めってもんだ!)
ヒカルノは滑らかな動きでディスプレイに指を走らせる。束に匹敵するだけの速さで打ち込まれるそれに合わせて、ヒカルノの両隣にナニカが構築されていく。
「………これで完了っと」
最後にヒカルノがエンターキーを押すと同時にナニカが紫電を走らせ、その姿を現した。
五メートルを超える砲身にそれを支える四本の無骨な機械脚。
見るからに物騒極まりないそれの出現に全員の視線がそちらち釘付けになった。
「にゃははは!私作!対IS用最終兵器ハイパーレールガンさね!これさえあれば、ISなんて木っ端微塵………あ、殺しちゃダメなんだった」
『何やってんの⁉︎』
将輝達からのツッコミを受けて、ヒカルノは引き攣った笑いを浮かべて、指を動かすが…………ハイパーレールガンは消えるどころか徐々にエネルギーを収束させていく。
「うは、うははは、天才だって失敗の一つや二つ………あり?消えない」
笑って誤魔化そうとしていたヒカルノも、消えない事に僅かに焦り始めた。というか、汗をダラダラと流し始めた。
「篝火会計⁉︎それマズくないですか⁉︎具体的には向いてる方向が!」
華凛がそう叫ぶのも無理はない。ハイパーレールガンの向いている方向は見事に華凛と楯無がいる方向であり、その直線上にはIS学園の校舎があった。
つまり、華凛や楯無を助けたとしても、IS学園の校舎は消し飛び、そこにいる生徒は跡形もなく消え去るということになる。
それを瞬間的に悟った将輝は叫んだ。
「千冬!一夏!
「わかった!」
「なんでそんなこと……」
「このままだと学園の生徒が塵になるぞ!」
「ッ⁉︎わかったよ!」
一足早く、ハイパーレールガンの方に向かった千冬に続き、一夏が零落白夜を発動させて、瞬時加速で接近する。
「「はああああっ!」」
ギンッ!
二刀により、ハイパーレールガンはバラバラになり、数秒遅れで爆散する。
「あ゛〜、死ぬかと思った」
「お前が言うな」
爆散する前に間一髪でヒカルノを救出していた将輝は内心でため息を吐く。
(こういうのは束だけの役割だと思っていたが、ヒカルノもそろそろ天災認定が必要か)
「はっ!今私の事を天才って思っただろ!」
「不名誉な天災だけどな。…………さて、目下の問題はあいつらだよなぁ……」
将輝が見下ろすと同時に其処にはISを纏った教員達がぞろぞろと現れていたのだった。