IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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境界の彼方

 

「モンド・グロッソねぇ……」

 

風呂上がりに生徒会役員に割り当てられた部屋に向かいながら、ぽつりとそんなことを呟いた。

 

モンド・グロッソ。

 

ISの世界大会にして千冬が優勝し、世界最強のIS乗りの称号『ブリュンヒルデ』を得る一大イベントだ。

 

そのはずなんだが………どうにもおかしい。

 

モンド・グロッソがISの世界大会である事には間違いない。千冬が優勝するのも間違いじゃないが………確か原作開始までにあれは二回あって、二回目は一夏が亡国企業に誘拐されて不戦敗になる。そして一夏の情報を提供してもらった礼として一年ドイツ軍の教官をした後、空白の期間を経て、IS学園の教師になる。そして入学初日の千冬のあの発言。「毎年何故こうも私のクラスにばかり馬鹿どもが集められるんだ」と。となると千冬は一年以上している事になるのだが…………計算がおかしくなる。

 

千冬が若過ぎるんだ。千冬だけじゃない。束もヒカルノも。多分……真耶も。

 

静と華凛、ミハエはわからない。果たして原作に存在したのかすらも。

 

イレギュラーに続くイレギュラーばかりでもう訳わからない事になってるんだが、そもそもIS学園は何時から存在しているのか。千冬達は同じ学校の生徒だっただけなのか、はたまたIS学園の生徒達だったのか。

 

「ぐぉぉぉ……頭がこんがらがってきた。何がどうなってんだ。全くわからんぞ」

 

そもそも何時から齟齬があったんだ?俺がISの世界に来た時からか?それとも過去に飛んで全部がしっちゃかめっちゃかになったのか?こんな事ならIS学園の事についてもう少し知っておくべきだった。

 

「こんなに悩んでてもお前らのフリーダムさを見てると何だか悩んでるのが阿呆らしくなるんだよな。マジで」

 

割り当てられた部屋に入った矢先に視界に飛び込んできたのは楽しそうに話している四人。ミハエがいないのは同じ部屋の人間にでも捕まってるか、はたまたミハエが来ることで他の生徒が押し寄せるのを防ぐ為に教員からの忠告があったのかのどちらかだろう?

 

それはともかく、楽しそうに話してるのは結構だ。年頃の少女達だし、話に花を咲かせる事もあるだろう。

 

「けどな…………下着姿のままってのはどうなんだ」

 

「だって、ほら。暖房効いてるし」

 

「じゃあ設定温度を下げろよ」

 

「良いではないか。別に減るものでもあるまい」

 

「お前らに羞恥心はないのか。俺の理性が減るわ」

 

「わお。それは大歓迎。このままお楽しみタイムに「行かねえよ」ちえ、残念」

 

ホント。何で俺はこんな状況に耐えられてるんだろうな。まだ憑依前も含めて童貞なのに。あれか?本当に悟り開いちゃってるのか?ならいっそ百式○音とか使えないかな。ISに通用するかは知らんが。多分通用するどころか圧倒しそうではある。

 

「お前らせめて千冬みたいに服着ろよ。ラフなのでいいから」

 

室内着用と思われる半袖のシャツと白いジャージのズボンを履いている千冬を指差してそう言うと束がキョトンと首をかしげた。

 

「服を着ればいいの?」

 

「は?寧ろ服着ない選択肢がある事に疑問を覚え………おい、なんでブラを外そうとしてんの?人の話聞いてる?」

 

「え?だってちーちゃんノーブラだよ?」

 

「嘘つけ。そんな訳……」

 

視線を束から千冬の方に向けると千冬は頬を赤らめて自分の身体を守るかのように抱く…………マジですか、千冬さん。

 

そういえば、千冬は結構自由人だったっけな。まさかノーブラっていうのは想定外だ。知ってしまうと逆に下着姿のままの三人よりも卑猥な気がする。

 

「あー!将輝の視線がなんかエロいぞ!もしかして将輝は着たままの方が燃えるのか⁉︎」

 

「ばっ⁉︎大声で何言ってんだ‼︎隣は先生の部屋だぞ‼︎」

 

「くっ………流石は生徒会長というべきか………さり気なく私達を出し抜くとは……」

 

「いや、私は何時もこういう感じだが……」

 

「こうなったら…………じゃじゃーん!」

 

束がパチンと指を鳴らすと服装が下着姿から若干大きめのワイシャツに変わる。量子変換技術の応用か。こうしてみると染み染み天才であると実感させられるな。それはそうとあのワイシャツどっかで見たことあるような…………もしや。

 

「お前……そのワイシャツ」

 

「そ。まーくんが着てたやつ。あ、もちろん新しいものは用意してあるから心配しなくていいよ?」

 

「やっぱそうか⁉︎んな事だろうと思ってたよ‼︎何考えてんだ、今すぐ脱げ!」

 

「いいけど………今、私下着着けてないよ?」

 

「は?」

 

下着着けてない?あれか?裸ワイシャツとでも言うつもりか?つか、頬を赤らめてんじゃねーよ。それだとまるで俺がお前を襲おうとしてるみたいじゃねえか。

 

「もし疑ってるなら………触ってみる?」

 

「結構だ。碌なことにならんからな」

 

「ざーんねーん」

 

てへっ☆と言わんばかりに束がコツンと拳を頭に当てながら間延びした声で言う。何がざーんねーんだ。狙ってんのバレバレだっつーの。

 

「あ、それはそうとまーくん。モンド・グロッソだっけ?参加する気ないの?」

 

「うん?まあな。俺が参加すると色々問題起こりそうだしな」

 

「よく言うねぃ。私は将輝が参加しなかった時の方が問題っていうか暴動が起きそうだけどナー」

 

「違いない。お前は毎度ながらそういう選択をした時の後の事を覚えていないのか?十中八九、お前の考えている事と逆の事が起きているぞ」

 

むぅ。それはそうだが…………いくら何でも今回は別だと思うんだけどなぁ。

 

かといって今までも例外なく俺はさせられた訳だし、ぐうの音も出ない。

 

「………じゃあ、どうすればいい?」

 

「特別枠での参加とかどうよ?大会には関係ない感じで」

 

「あ、いいね、それ。何なら参加者の希望次第で全員と闘うというのもありなんじゃない?」

 

「それは間違いなく全員希望だな。世界最強と闘えるのだ。断る理由もあるまい」

 

「それに勝ち抜かずとも闘えるというのは皆にとってありがたい事だろうしな。私はどちらでも構わないが」

 

ふっと不敵な笑みを浮かべて千冬は言う。凄まじい自信だな。例え優勝者が俺と闘うことになったとしても自分が勝つから問題ないと言わんばかりだ。実際、千冬の実力は最強クラスだからな。

 

関係なくか。それなら特に迷惑はかからないな。

 

「ならそっちの方向性で話を進めてくれ。国の威信を背負った女性達が闘う大会だ。其処に男の俺が参加者として参戦するのは問題があるだろうからな」

 

「また変な事を考えて…………そういうものを気にする性格ではあるまい」

 

「頑張ってる人間の心情は気にするさ」

 

ただ、変なスイッチが入った時は見境無くなるかもしれないが。最近どうにも千冬や静の影響か戦闘狂の気が出てきたような気がする。まぁ、束やヒカルノに影響されてないだけマシか。

 

「あ、今まーくんが失礼な事考えた」

 

「でも事実だろ?」

 

「……確かに将輝が私達みたいになってるのは想像出来ないナー。というかなって欲しくないかも」

 

其処まで酷いと思うなら自重しろよ。

 

「まぁ、それは置いておいて!ここからは修学旅行の定番、恋バナにでも花を咲かせよ〜」

 

「そうか。じゃあ俺は寝「させるわけないじゃん。まーくんも参加」なんでだよ……」

 

恋バナっつーのは同性同士が異性に関する話で花を咲かせるのであって、異性も交えて、ましてやその対象がいる中で話すなんて聞いたことないぞ。そもそもした事なんてないけどさ。

 

「はい。まずまーくんから!」

 

「しかも俺からかよ……」

 

「だってまーくんあんまりそういう事話してくれないし。皆も気になるよね?」

 

束の振りに全員が三人とも頷いた。なんでそんな事を話さなきゃいけないんだ。はっきり言ってものすごく嫌なんだけど。

 

「こういうのは同性同士でするもんだ。其処に異性が交るってのはおかしいから却下」

 

「ほう。つまり、同性なら、いいわけだ」

 

「?まぁ、そうだな」

 

「ヒカルノ」

 

「あいあい、はいどーん」

 

ヒカルノはおもむろにバッグの中からおもちゃの銃?を取り出すとこちらに向けて引き金を引く。

 

そんなおもちゃの銃から普通は何も出るはずがないのだが、どういう理屈か銃からは虹色の光線が出てきて、それは俺に直撃すると体を包み込む。

 

「はぁ………今度は何しやがった………は?」

 

声が高くなってる。服も若干サイズがデカく…………待て、このくだり前にもあったぞ。

 

「にゃははは、どーやら成功したみたいだねぃ。性転換光線銃は」

 

「やっぱりそれかよ………」

 

「同性なら問題ないと言ったのは将輝だからな。因みに精神的には男という理屈は通用せんぞ?現時点では女なのだからな」

 

「かなり無茶苦茶な気もするが、今回は諦めろ」

 

絶対に諦めたくはないんだけど、諦めるしかないな、こりゃ。まぁ、身体がこうなってるからかはわからないけど、今の四人を見ても全然平気だし。いっそ寝る時はこの姿になったままってのもアリかもしれないな。

 

「恋バナって言われてもなぁ。俺、そういう表現はあまり得意じゃないんだよなぁ」

 

「それは百も承知だ。誰の何処が好きか、なんて言わなくてもいい。というか、言ったら私達の間で戦争が勃発する。だから何時頃くらいから私達を意識し始めたか、聞きたいんだ」

 

何時頃くらいからか…………うーん、何時ぐらいだろう。

 

「多分意識し始めたのは副会長になってすぐくらいからかな」

 

「ほう。私達が将輝の事を意識し始めた直後くらいか」

 

「そんなに早い段階で相思相愛だった事には喜びを隠せないが、何故一度は私達の告白を拒絶したのだ?」

 

「あー………なんていうか。俺はこの時代にいちゃいけない人間だったし。未来が大きく変わってしまうかもしれないって思ったし………それに………」

 

「それに?」

 

「その………誰かを好きになった事なんて……なかったし………本当にお前らの事が好きなのかわからなかったんだよ………」

 

生徒会が俺にとっても凄く居心地の良い場所という自覚はあった。千冬達の告白も本当は叫びたいくらい嬉しかった。でも、俺が過去に残るという事は最善の選択ではないと思っていたし、何より俺も千冬達の事が好きなのかわかっていなかった。わかったのは未来に帰る直前だ。

 

「だから………その………好きかどうかもわからないのに……お前らの告白を受け取れなかったっていうか………「まーくぅぅぅぅん!」うわっ!」

 

恥ずかしさをこらえて話してるってのに、束が飛びついて……というか、押し倒してきた。目がすごく危ない光が見えるんだけど。

 

「まーくん可愛いなぁ。そんな風に離されると束さん食べちゃいたくなるよ!」

 

「食べる⁉︎おい馬鹿!約束はどうした⁉︎」

 

「今のまーくんはまーちゃんだから適応外ですぅ〜。そしてこの性転換光線銃を私が浴びれば百合じゃなくてちゃんと出来るよ!大丈夫!痛いのは最初だけだっていつも言ってるから!まーちゃんの貞操は私が美味しくいただ「かせるわけなかろう。馬鹿者」あだっ⁉︎」

 

目から危険な光を迸らせながら矢継ぎ早に話す束を千冬が思いっきり蹴飛ばして壁に叩きつけた。常人なら心配するところではあるが、今は心配する必要ない。自業自得だ。

 

「助かった、千冬」

 

「束のあれにも困ったものだが、将輝もあまり刺激してくれるなよ」

 

「刺激したつもりはなかったんだが………」

 

寧ろ何処に刺激した要素があったのか。あれか?羞恥心を押し殺してるやつを見るとイジめたくなるあれか?それは大いにわかるが、だからといって皆の前で襲うのはどうなんだ。いや、皆の前じゃないと俺は貞操を女の状態で散らしてたけどさ。

 

「まぁ、そういうわけだ。お前らと何も変わらねーよ。今の今まで人を好きになった事が無かったから、当たり前とか、常識の方を優先しちまってたんだ。蓋開けてみりゃ、あっさり手のひら返しちまったけどな」

 

誰かを好きになる事がそれほどまでに人間を変えてしまうとは知らなかった。千冬達は俺が来た事で変わったと言ったが、俺も他でもない千冬達によって変えられた。性能的にも精神的にも。

 

それが顕著だったのは亡国企業の時だ。あそこまで徹底的に叩き潰そうなんて少し前までなら微塵も考えなかった。そもそも目立つような事をしようとはしないだろうしな。

 

話を一旦区切った時、ベッドの上に無造作に置かれていた携帯電話から着信メロディーが流れる。

 

「もしもし………一夏か」

 

携帯電話の持ち主である千冬は電話相手が一夏であるのを確認すると表情を綻ばせる。安定のブラコン具合で何よりだ。

 

「いっくんが相手なの?私も話したーい!」

 

「駄目だ。お前は一夏に悪影響しか与えん」

 

諸行無常。取りつく島もない。だが、千冬が言っていることは百パーセント事実なので誰も援護しない。追撃することはあるだろうが。

 

「ぶぅ〜、ちーちゃんのいけず!こうなったら……………………えい!」

 

ドラ○もんよろしくポケットから丸い球体を出すと床の上に置く。

 

いきなり何をし出すのかと疑問に思っていたが、次の瞬間、その丸い球体から一夏が電話をしている映像が映し出された。

 

「束。なんだこれは」

 

「こんな事もあろうかと、ちーちゃんの家には防犯目的も兼ねてこういうのを用意してたんだよね〜。これさえあれば地球の裏側にいても、リアルタイムで話せるよ!いっくーん!聞こえる〜?」

 

『うわっ⁉︎なんか束さんの声が聞こえた気が……』

 

「気のせいじゃないよ〜、後ろ見てみ?」

 

『後ろ?って、千冬姉⁉︎束さんも!後、静さんにヒカルノさんまで⁉︎』

 

俺もいるんだけどね。今は俺じゃなくて私だが。と、不意に画面の向こう側にいる一夏の視線がある一点………もとい俺の方を凝視していた。いや、凝視しているというよりは視線が外せないというか、そんなところだろう。

 

数秒遅れで徐々に顔を真っ赤にしていった一夏は顔を背けた。

 

『え、あ、あの、えと服!服着てください‼︎お姉さん‼︎』

 

「だそうだよ、千冬」

 

「私は服を着ているぞ。一応束も。なら静かヒカルノではないのか?」

 

「どう考えても私達の方に向いていってないぞ」

 

「それに私達はさっき名前で呼ばれてたしねぃ。それに一夏くんが今の状態の将輝の名前を知らないから『お姉さん』なんじゃないかにゃぁ」

 

そう言われれば確かに今の俺はお兄さんじゃなくてお姉さんの上に服がワンサイズ大きい状態で束に襲われた事で割とはだけてる。ていうか、もう殆ど裸に近い。辛うじて見えてないくらい。そして俺はこの状態になる事は二度とないと思い、一夏に名前を言っていない。となると俺なのか。

 

別に男だし、今は年下の小学生の一夏に見られてもなんとも思わないが、仕方ないので着直す。やはりサイズが大きいから服に着られてるような感じだ。

 

「もう大丈夫だよ、一夏くん」

 

俺がそう言うと一夏はおそるおそるこちらを見てホッと息をついた。というか、下着姿はありなのか。静とヒカルノは服着てないんだが。

 

『お久しぶりです………その……』

 

「まさ……じゃない。紅音でいいよ」

 

うっかり名前言っちゃいそうになったよ。

 

『紅音さんですか………良い名前ですね』

 

「そうかい?それは何より」

 

つってもあの時咄嗟に容姿が似てるからって名前を借りただけなんだけど。

 

というか、一夏固すぎないか?前にあった時は警戒はしてたけど、もう少しくだけた感じだったのに。

 

「一夏くん。もう少しフレンドリーでいいよ?ほら、私は君のお姉さんの学友にあたるわけだし」

 

『で、でも、紅音さんは俺より年上ですし、束さんとは違って、まだ知り合ってあまり話してませんから……』

 

うーん、そういうもんかねぇ。でも一応これはこれでちゃんとしてるからいいのか?

 

「………おいおい、お姉さん。弟くんまでやられているぞ」

 

「にゃはは、見境ないナー。一応男の時のままじゃないことに安心するべきなのかねぃ」

 

「まーくん凄いね。シズちゃん風に言うとラノベの主人公にして少女漫画の主人公だもんね」

 

「………姉としてこれは喜んでいいのだろうか?」

 

おい、話すなら俺に聞こえないところでやれ。誰がラノベの主人公にして少女漫画の主人公だ。百歩譲って前者は経験上認めざるを得ないが、後者は違うだろ。俺がいつ男にモテた。モテたくなんてない。

 

『そ、そういえば!将輝さんの姿が見えないんですけど……』

 

「ん?ああ、彼ならお風呂じゃないかな?いつも気苦労が絶えないみたいだからね」

 

そう言って四人の方を見たら全力で顔を背けられた。自覚あるならやめろや。

 

ていうか、自分を他人ぽく言うのはやっぱりむず痒いな。

 

「ちょうどいい。そろそろ私は眠るからついでに彼も呼んできてあげるよ」

 

『あ……』

 

「うん?どうかした?」

 

『あ、いえ、何でもないです……』

 

「そうかい?ならいいけど……」

 

なんかぎこちないなぁ。他人行儀っていうか、何処となく初めて会った日の真耶を彷彿とさせる言動だ。

 

「それじゃ、おやすみ。一夏くん」

 

こういう時こそ次回のために(必要ないが)笑顔で締める。ただでさえ、この状態は目つきが鋭いから、真顔だと威圧してるようにしか見えないからな。

 

『〜〜ッ⁉︎』

 

なんか部屋を出て行くときに四人が『キッチリとどめさして行ったよ』とボヤいたのは聞こえない。なんのことだかさっぱりだからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十分後。

 

俺は時間差でヒカルノを呼び出し、男に戻った後何食わぬ顔で帰ってきた。

 

服こそ別の物に着替えたが、ついさっきまで話してたからなんともむず痒い。

 

しかし、さっきから一夏がぽけーっとしたまま、反応が無いな。俺が来たのに気がついてないのか?

 

そして何故あの一夏を見て、四人は笑いを堪えているのか、何かやらかしたか一夏。

 

「もしもーし、一夏くーん!」

 

『え?わわっ⁉︎将輝さん何時の間にいたんですか⁉︎』

 

「ついさっき」

 

『そうですか。すみません、ぼーっとしてまして………あ、何時も千冬姉がお世話になってます』

 

先程までの様子は何処へやら一夏は映像の向こう側でぺこりと綺麗にお辞儀をする。相変わらずのオカン体質だ。まぁ、鈍感唐変木っていう弱点さえ抜けば最強の男子だからな。弱点が致命的だが。

 

『少し前のニュースですけど、将輝さんは凄いですね』

 

「そうでもないさ。俺一人じゃ出来なかったしな」

 

「「「「嘘つけ嘘を」」」」

 

「喧しい」

 

嘘じゃないやい。俺は人間はやめたかもしれんが、人外であっても化け物じゃない。

 

『あはは、本当に仲良いですね。皆っていうのは少し複雑ですけど』

 

「何が?」

 

『去年の話なんですけど、覚えてますか?俺がIS学園の学園祭で言った事』

 

去年の学園祭か…………懐かしいな。準備期間に束に始まり、静、ヒカルノに告られ、当日には千冬に告られた。おまけに真耶も。かなり衝撃的だったな。

 

一夏が言ったことねぇ……………ああ、『千冬が変わった〜』の話か。

 

「一応覚えてるよ。それがどうかした?」

 

『その……話したいんですけど、これ、どうにかしてくれませんか?流石に本人に聞かれるのは……』

 

困ったような表情で一夏は映像を出しているであろう物体を指差した。流石に恥ずかしいか。

 

「束。割と大事な話だから消してやれ」

 

「え〜。気になるのに〜」

 

「いいから切れ。叩き壊すぞ」

 

「それはマズいから言うこと聞くよ。まーくんてば時々強引なんだから…………あ、今の束さん的にポイント高い!」

 

お前は何処の小町ちゃんだ。ていうか、どうせポイントカンストしてるだろうに。今更上がる要素あるのか。

 

「千冬。携帯借りていいか?」

 

「ああ。構わんぞ」

 

千冬から携帯電話を受け取り、部屋を出た後に織斑家に電話をかけるとワンコールもしないうちに一夏が出た。

 

「さ、一夏くん。さっきの話の続きをしようか」

 

『それでさっきの話なんですけど、やっぱり一夫多妻だと、弟としては不安というか………あ、別に将輝さんの事を疑ってるとかじゃないんです。寧ろ、千冬姉には将輝さんしかいませんし、他の人は考えられないんですけど………こう、複雑というか……』

 

不安になる一夏の気持ちは大いにわかる。というか、これが割と普通の反応だ。

 

普通に考えて日本で一夫多妻を築こうなんてあり得ん。そのあり得ないことをしでかそうとしている俺が言うのもなんだが、周りの奴らが同意的過ぎて常識的な要素が最近かけてきた。

 

「一夏くんはどうしてほしい?」

 

『どうしてほしいと言われても………俺にもよくわからないんです。千冬姉は今でも十分幸せそうです。毎日電話する度に千冬姉が毎日楽しそうに過ごしてるのはよくわかります。だからどうしてほしいとかは………』

 

「そうか…………じゃあこうしよう。一夏くん、君は千冬の事なら俺以上に詳しいし、敏感なはずだ。だから、もし君が千冬が幸せそうじゃないとか苦痛に感じてるって思ったなら俺を思いっきりぶん殴れ」

 

『はい………って、ええっ⁉︎』

 

「なんならぶっ殺してくれてもいい。その時は言ってくれれば喜んで殺されてあげよう」

 

『いや、それはマズいでしょう⁉︎ていうか、将輝さんは千冬姉の恋人ですよ⁉︎束さんも静さんもヒカルノさんとも!』

 

「そうだね。だけど、誰か一人が不幸になるなら俺には彼女達といる権利なんてなかったって事だ。その時は合意の上で全員と別れる。ま、一悶着あるだろうけど」

 

合意の上とはいえ、複数の異性と関係を持つという選択肢を取った以上、誰かが不幸になったり、苦痛を感じるような状況を作ってしまうのなら、俺には始めから千冬達と恋人になる権利も器もなかったって事だ。誰か一人を切り捨てるくらいなら、俺は彼女達との関係を断つほか無い。俺は誰かの不幸の上で彼女達を幸せにしようだなんて思えない。

 

『…………わかりました。将輝さんがそう言うなら、俺がそう感じた時は思いっきりぶん殴ります………でも、別れたりはしないでください。きっとそうなると皆が不幸になりますから』

 

「善処するよ。もっとも、俺は誰も不幸にする気なんてないけどな」

 

『はい、その言葉を俺は信じます。どうか、これからも千冬姉の事をよろしくお願いします』

 

「任せとけ」

 

そう言って俺は電話を切る。

 

それにしても一夏のシスコン具合は良くなるどころか悪化の一途を辿っているような気がしなくもない。

 

「さて、寝るか」

 

時間を見ればもう就寝時間だ。生徒達の手本となる役割である以上、俺が夜更かしするわけにはいかないしな。

 

「お前ら、寝るぞ………って、もう寝てるよ」

 

僅か数分の間に既に四人は寝息を立てていた。ちゃんと布団も被ってるな。

 

「おやすみ」

 

想像以上に疲れていたようで俺はベッドに入るとすぐに意識を落とした。

 

…………次の日の朝、全員が俺のベッドに潜り込んできていたのは言うまでもない。

 


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