IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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生徒会†無双

 

 

某国のとあるビルの地下五階の一室で、仮面を着けた数十人の人物が一同に会していた。

 

仮面で隠されている故、誰なのかはわからず、ボイスチェンジャーをしようしているのか、声も機械音声の為にわからない。当然名前も本名ではなく、偽名のような物を使用している。何故自身の素性を隠すような真似を彼等はしているのか?それは自身の素性を知られ、弱みを握られる事を良しとしない為であった。それが例え同じ組織の一員だったとしても。

 

「………全員、揃ったか?」

 

「いや、ZXがまだ来ていない」

 

「何時もの事よ。すぐに「しっつれーい、遅れましたぁ」ほら」

 

「すいませんねぇ、色々と立て込んでまして、遅れました」

 

「お前の決まり文句は聞き飽きたぞ、ZX。いい加減に間に合わせる事を考えろ」

 

「そんなに怒んなくてもいいじゃないですか、GEさん。それに今回は本当に大変だったんですから〜」

 

「それも聞き飽きた」

 

GEと呼ばれた人物はZXと呼ばれる人物のおちゃらけた対応にやや苛立った様子で言い返す。一年に一度の顔合わせ………といっても顔は隠しているのだが、このある意味重要な行事にZXは毎年遅れてくる。その度にGEとZXの間でこのようなやり取りがあるのは定例となっていた。

 

「さて、全員揃ったところで定例会を始める。皆、ここ半年の経過はどうだ?」

 

『いつも通り』

 

その場に集まっていたほぼ全ての人間が口を揃えてそういった。約二名を除いて。

 

「?ZX、JOKER。其方には何か問題があったか?」

 

JOKERと呼ばれた人物は首を横に振り、一人の人物に指をさす。

 

「私にはない。ただ、今回見過ごすべきではない問題を抱えているものがいるだろう?PRIDE?」

 

「………何の事だ」

 

「惚けるな。捕獲対象Xの事だ。あれだけ簡単な仕事だと息巻いていた割に高々学生一人も捕縛する事が出来ないのか?」

 

「カッカッカッ。そうさなぁ、「学生一人捕まえるなど片手間でも余裕」などと抜かしおった癖に成果は出ておらんようじゃなぁ」

 

「クッ……」

 

侮蔑と嘲笑の入り混じった視線を受けて、PRIDEは歯噛みする。以前、豪語した通り、捕獲対象Xの捕縛は今までの仕事の中で最も難易度の低い仕事の筈だった。ISを使用された時の事も考えて、わざわざ優秀な部下を数名向かわせた。だというのに結果は壊滅。逃げ延びた筈の一人も未だ帰ってきていない為に責任転嫁する事も出来ない。

 

「まあまあ皆さん、PRIDEさんをイジメるのは其処までにしてあげましょうよ。俺としてはGEさんの方が問題だと思いますよ」

 

「何?」

 

「知ってますよ〜、篠ノ之束の手綱を握り損ねたんでしょう?」

 

話すテンションは変わらずにふざけた様子で話すZX。だが、その言葉にその場の空気が凍った。それもそのはず、何せ来るべき時まで彼女自身には手を出さないというのが暗黙の了解だったからだ。それは彼女を敵に回すな、という事ではなく、体制が整うまで自分達を知覚されない為だった。

 

「GE殿、どういう訳ですかな?」

 

「どういう訳も何も私は彼女に接触していない」

 

「そうですねー、接触はしてませんよね。ただ、その家族を合理的に人質にしようとしただけですもんね〜」

 

「………」

 

カラカラと笑いながらZXは爆弾を投下する。

 

GEは仮面越しに睨むが、当の本人はどこ吹く風で席にふんぞり返ったまま、まるでこの状況を見て、楽しんでいるかのように鼻歌まで歌っていた。

 

「黙って手柄を立てて、組織を手駒に加えたいのはわかりますけど、ちゃんと相手の力量を把握しましょうね〜。じゃないと『底』を晒しちゃいますよ?GEさんーーーいや、早坂鉄郎さんって言った方が良いのかな?」

 

『ッ⁉︎』

 

ZXの言葉にその場にいた者達は驚愕した。

 

それは偏に彼がGEの本名を話した事もそうだが、それを幹部全員がいる場で話した事だ。

 

別に同じ幹部の素性を調べ上げ、その者の情報を握る事は悪くない。元々この組織ーーー亡国企業は一枚岩ではなく、同じ思想の幹部同士で派閥がある。弱みを握る事で他の派閥の幹部を利用するというのは過去にも何度か行われた行為だ。だが、それは他の幹部の弱みを自分自身だけが握っているからこそ、出来る芸当であり、それを全ての幹部が知れば何の得もない。GEの失脚のみを狙ったものであれば話は別であるが。

 

「しかも聞いて驚いてください。この人、捕獲対象との論争で負けちゃってるんですよ。あわよくば、両方の手綱を握るつもりだったんでしょうけど………二兎を追う者は一兎をも得ずってやつですかね。古人はよく言ったものです」

 

「言いがかりはやめてもらおうか。お前のその発言の何処に証拠がある?」

 

「ははは、それ、犯人が追い詰められた時に言う台詞ですよ?第一、証拠っていうなら、俺が生き証人だし」

 

「?」

 

「わっかんないかなぁ〜…………俺だって言ってんだよ、おっさん」

 

ZXは着けていた仮面を脱ぎ捨て、その素顔を晒す。仮面の下から現れたのは彼らの呼ぶ捕獲対象Xーーー藤本将輝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇十分前◇

 

「将輝が部屋に入ったようだな………束」

 

部屋に入ったと同時に将輝が送ってきた通信を見て、ビルのエントランスで待機していた千冬と静はスッと立ち上がった。

 

『おーけぃ、ちーちゃん。ポチっとな』

 

無線機の通信越しに束がジャミング波を出す機械のボタンを押す。本来ならそれで彼女達も通信する事は不可能になるのだが、其処は天才。如何にでもなった。

 

『ルートAからがちーちゃん。ルートBからがシズちゃんだけど、二人とも準備万端?』

 

「「問題ない」」

 

『自信満々だナー、二人とも』

 

『仕方ないよ。何せ、人外タッグだからね〜』

 

『其処に将輝が入れば人外のスリーマンセルの完成だにゃぁ。おお、怖い怖い。敵に回したら死は不可避じゃん』

 

通信の向こう側で言いたい放題言っている天才二人に千冬と静は額に青筋を浮かべるが、今が作戦中である事と否定しきれないこと。何より将輝と同じならば人外だとしても悪くはないと思っている為に言い返す事はしなかったが、心の中で「これが終わったら、絶対殴る」と決めていた。

 

『まーくんが仕掛けるまで残り七分。一気に片付けちゃって!』

 

「やれやれ。無茶な事を言ってるくれるな」

 

「全くだ。自分達は片手間でも出来る簡単な作業をしているくせに」

 

『にゃははは、まあ餅は餅屋って言うしねぃ。ま、頑張ってよ』

 

『じゃあ、七分後にまた通信するから』

 

束の言葉を皮切りに二人は二手に分かれて、作戦を開始する。

 

将輝が二人に任せたのは『このビルに存在する亡国企業の人間を見つけ次第、無力化し、捕縛する事』。武器は普通に携帯する事は不可能であるため、ISの拡張領域内に収納し、無力化する時のみ、取り出すようにしている。

 

ビル内部には構成員の他にも一般人や彼等の事を知った上で交友関係を持つ者達もいるが、千冬と静には変装のためにかけられたサングラスでそれが判別される為、誤って攻撃してしまう事はない。

 

標的を見つければ、相手が気づくよりも早くに意識を刈り取る。常人には高難度な芸当であるが、人の枠組みから激しく逸脱している二人にしてみれば、其処まで難しい事ではない。

 

『戦果はどうだ、静』

 

『現時点では全員夢の世界を謳歌しているよ……それよりもだ。少し疑問に思った事がある』

 

『奇遇だな。私もだ。世界中の要人共が集まっている割には亡国企業の人間が少な過ぎる。そっちは何人殴った?』

 

『十五人だ、そちらは?』

 

『十八人。幾ら正体を隠しているとはいえ、些か無防備すぎる。これなら私達でなくとも十分に制圧出来るレベルだ』

 

『こういう時は大抵裏があるものだが…………チッ、やはりか』

 

『?どうした』

 

自動人形(オートマトン)だ。数は………数えるのも馬鹿らしいとだけ言っておく』

 

静は十メートル先の通路を埋め尽くすオートマトンの数に声を強張らせる。いかに静といえど一本道で自動人形を相手にするのは無謀だ。ましてや彼女が装備しているのは人間を気絶させる程度の電圧しかない装着型のグローブ。機械相手ではどうしようもない。ISを使用すれば話は別だが、今回の作戦においてISは使用出来ない為に肉弾戦で屠るしかない。しかし、かといって相手にしない訳にはいかないのも確かである為、静は拳を構えた。

 

『そちらに向かおうか?………と聞きたいところだが、すまない。そちらには行けそうにないようだ』

 

静の通信を聞いて応援に向かおうとした千冬の前にもまた自動人形の軍団が大挙で押し寄せてきていた。

 

『骨が折れそうだ。何分で片付けられる?』

 

『出来れば相手にしたくはないが………そうだな。五〜十分は必要だ』

 

『そうか。では三分で片付けよう。あまり作戦時間を伸ばしても、此方が不利になるだけだからな』

 

『だな。将輝に手間はかけられん』

 

離れた場所であるにもかかわらず、二人はまったく同時に自動人形の軍団へと突貫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暇だねー」

 

「暇だナー」

 

とある無人島のラボで束とヒカルノは机に突っ伏して、気怠そうに呟いた。

 

彼女達の仕事はビル内部の通信機器の妨害と別れて行動している生徒会メンバー達の仲介役、監視カメラやセキュリティのハッキングなど仕事量は将輝達よりも膨大だ。しかし、彼女たちにとって、それは凡そ仕事とは呼び難い難易度の低いもので、開始して僅か五分足らずでその全てをこなし、後は通信の仲介役のみとなっていた。

 

「暇つぶしにこいつらの情報を全世界にばら撒こうかな〜」

 

「そんな事したら将輝がキレるぞ、タバねん」

 

「だよねー。あー、暇!何か面白い事ないかなぁ」

 

「ないない。千冬も静も無双状態。将輝もなーんか普通に追い詰めてるから、ハラハラドキドキの展開は見られなさそうだし。良いことには良いんだけど、暇だナー。あーあ、私も皆みたいに腕っぷしが人間の領域を超えてたかったよ」

 

「いや〜、ヒカリんはそれで良いと思うよ?ぶっちゃけ、私も含めて皆人間辞めてるから、(肉体的には)普通の人がいないと加減がわからなくなるし」

 

「それなら楯無やまーやんがいるじゃん」

 

「たっちゃんは暗部+パワーアップで人外の領域に片足突っ込んでるし、マヤマヤは………あれだし」

 

「あー、あれだもんな」

 

束とヒカルノの脳内で再生されるのは忙しなく動き回る真耶の姿だが、三秒に一回くらいのペースで何でもないところでつまづいて転んでいる。流石に真耶も其処までは酷くないのだが、あれを果たして並と考えて良いのだろうかというのが、二人の考えだ。

 

「そんな訳でヒカリんはそのままで良いのさ。人間得手不得手って言うのがあるっていうし」

 

「尚、例外は私の身近に三人いる模様」

 

「私達は人外だからカウント外………あ!良いこと思いついた!」

 

「なになに?」

 

「まーくんの人外っぷりを全世界にアピールするのさ!もちろんリアルタイムでね!」

 

「それ、絶対後で怒られちゃうんじゃ……」

 

「むふふ、そこは束さん。理由は既に考えてあるのさっ!」

 

カタカタと滑らかにキーボードを叩く束。ものの十数秒でバラバラの画面に将輝、千冬、静が映し出される。

 

「後はこれを生中継で全世界のテレビに繋いで………良し、これで完了!」

 

(理由はどうであれ、多分タバねん、明日死んだな)

 

楽しそうに鼻唄を唄う束とは裏腹に心の中で黙祷を捧げるヒカルノだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亡国企業の幹部の皆さん。貴方方がお求めの藤本将輝でございます。初めまして、そしてさようなら」

 

幹部達の視界から将輝は消えた次の瞬間、ゴッ!という鈍い音と共に幹部の一人が地面に倒れていた。

 

「その様子だと達人級の方はいないと見た。いやぁ〜、楽でいいね。こちとらノーリスクハイリターンが信条でね。あんた達みたいにふんぞり返ってるだけの奴は捕まえるのが楽で……おっと」

 

幹部の一人が持っている銃から放たれた銃弾を事も無げに躱す将輝。少し前まで当たり前のように飛んできていた銃弾を躱しまくっていた将輝にしてみれば数メートル離れた位置から撃たれたところで何も怖くない。そして何より着ている服の下は防弾防刃加工のものであるため、当たっても痛いだけで死ぬことはまずない。

 

「貴様……何処から入った?」

 

「何処から?おかしな事を訊くな。正面から堂々とだよ。あんた達が自分の保身の為に素顔を隠しているおかげで変装するのはものすごく簡単だったよ。もし素顔を隠さないでいたら、それこそ力業でぶち抜くつもりだったけど…………さて、其処で問題。今、一見涼しい顔して実は焦ってるあんた。何で今護衛が来ないかって思ってるだろ?簡単な話だ、ここに来てるのは俺だけじゃないって事。そんでもって、この部屋にはジャミング張ってるから電波も飛ばないしな。つまり、あんた達は俺を殺して逃げなきゃいけないわけ」

 

まるで将輝の言葉を確かめるかのように幹部達は外部との連絡を取ろうとする………だが、すぐにそれが事実だとわかり、その表情は絶望、或いは憤怒の色に染まった。

 

「クソ……餓鬼の分際で……」

 

「いい加減その手の台詞は聞き飽きたよ。智略、謀略を張り巡らせる事に関してはあんた達に劣るだろうけどな、腕っぷしの方だけなら百パーセント俺の方が上だ。そんでもって今は完成に腕っぷしだけの勝負。生憎だがあんた達に勝ち目はない。早々に諦めて、無抵抗で捕縛されてくれると血を見ずに済むぜ?なーんてね」

 

「巫山戯るな‼︎貴様この組織の重要性がわかっているのか⁉︎」

 

「んん?うーん、そいつは知らなかった。ちょうどいい、その重要性とやらを俺に説いてくれると嬉しい」

 

将輝が亡国企業について知っている事はあくまで組織の規模と構成員であり、主だった目的というものは特に知らない。今の今まで特に気にしていなかったからに他にならない。自分だけでなく、千冬達や生徒を危険に晒した(・・・・・・・・・・・・)。それだけの理由があれば将輝には十分だったからだ。とはいえ、其処まで重要性を強調してくる以上、聞かない訳にもいかない。

 

「私達は何も世界を混乱させたい訳ではない。寧ろ、その逆だ。この世界のバランスを取るために裏で手を回しているのだよ」

 

「どの国家も突出しないように……ってか?今の時代に戦争起こそうとする馬鹿な政治家共がいるのかよ」

 

「残念ながらね。特にISが出てきてからは顕著だった。どの国家も篠ノ之博士に大使を送り、何とかして自身の国家を他国よりも優位立たせる為に賄賂を贈った。無謀にも恐喝に出ようとした者もいたが、その者を含め、世界のパワーバランスを崩そうとする危険思想を持つ者には退場してもらってきた」

 

退場ーーーつまりは死、或いはそれと同等の状態にその者達は陥っているということだ。彼等は世界の均衡を維持する為にそれらを排除してきた。

 

「ふーん。それで俺を誘拐しようとしたのは男でISを動かせるからか?」

 

「それだけではない。確かに男でISを動かせるというのは優位性もあるが、それが唯の一般人であるのなら其処まではしない。君の特殊な環境が故の苦渋の措置だよ」

 

(苦渋ね。どの口が言うんだか)

 

ISトーナメントを開催した際に将輝を捕獲しようとした者達はどう考えても捕獲するだけが目的ではなかった。非殺傷武器などなく、その何れもが人の命を容易に奪う事の出来るものばかり。其処から連想させられるのは捕獲が叶わなければ殺しても良い(・・・・・・)という命令が下っていた事の裏付けだった。

 

(問題はそれが個人の意思か、それとも総意か、だよな。もし本当にこいつらが世界の現状を維持する為に存在している組織なら壊滅させると寧ろ逆効果。調停者がいなくなる訳だし、混乱が起きる。だが、『世界平和』っていう大義名分を掲げて私利私欲の為に動く奴等なら…………リスク覚悟で潰すしかないよな)

 

もしその発言が正しければ、IS出現による軍事バランスの崩壊を止めたのは紛れもなく現亡国企業幹部達。その行いが善意から来るものか、それとも保身の為の悪意にも似たものからくるものか、其処が彼等を断罪するか否かの将輝にとっての最終ライン。前者であれば、監視をおいた上で見逃し、後者であれば即捕縛。永遠に外の世界に出ることは出来なくなるだろう。少なくとも、権力を駆使したところで出ることは不可能な場所を既に用意されている。

 

「あんた達って確か第二次世界大戦終了直後くらいから存在してるよな?組織が結成された理由もさっき言ってた事か?」

 

「ああ。第三次大戦勃発の阻止こそが我々の最大の目的にして行動理念だ」

 

「つまり世界の抑止力って事か。その為には軍事介入も躊躇わない………成る程、現実的で効率の良い行いだ。出来もしない事を掲げる政治家よりはずっと良い…………あんた、名前は?もちろん本名。国籍もよろしく」

 

「リオネルだ。リオネル・マルタンだ。国籍はフランスだが………それがどうした?」

 

「OK。本名を話してくれてなによりだ。じゃあ、俺の捕獲担当だったあんたは?」

 

「デューク・フリードリヒ。国籍ドイツ」

 

やや苛立った口調で、だが自身の置かれている状況を鑑みて、渋々答えるデューク。苛立つのは当然と言える。今自分自身の命がたかだか十七歳の子どもの手中にあるのだ。プライドの高いデュークにしてみればこの状況事態が耐え難いものであるが、今はこの場を乗り切り、後で将輝を如何にして嬲るかという事を考える事で爆発しそうな怒りを抑え込んでいた。

 

「デュークさんね。あんたには聞きたいことが幾つかある。まず一つは俺を捕まえる為に送り込んできたであろう刺客とそしてドイツの特殊部隊の人間。差し金は両方あんたか?」

 

「…………」

 

「黙りか。いや、別にあんたに聞く必要はないからいいけどな。他の方々に訊くが、もし俺が捕獲出来なかった場合『殺しても良い』というので了承してたのか?」

 

『ッ⁉︎』

 

将輝の確認の言葉にデューク以外の全員が驚愕の表情になった。

 

「その様子だと、あんたの独断みたいだが…………目的は大体わかってるぜ。俺をバラして研究。何で男でISを動かせるのか調べようとしてたんだろ?そんであわよくば俺のクローン大量生産しようって魂胆だった。そんで自国の軍事レベルを引き上げて、十年後くらいには自国が世界のトップに君臨して、表からも裏からも世界を掌握するはずだったんだろ」

 

「だとしたらなんだ?」

 

「イマドキ流行らねーよ。ナチスドイツの復興なんてな。お前らも合衆国もそうだが、其処までして世界のトップに立ちたいか?他国を下に置いて、常に自分達に頭を下げている状況が心地いいか?世界は十分平和なんだよ、わざわざ戦火の種を作ろうなんて考えないでほしいね」

 

呆れたように溜め息を吐く将輝。先程まで苛立ちを募らせていたデュークの怒りが爆発するかと思いきやくつくつと嗤いだした。

 

「何か勘違いしているようだな、少年。別に私とて戦争を望んでいる訳ではないのだよ。寧ろ、この中の誰よりも平和を尊んでいるくらいだ」

 

「大きく出たな。あんたの言う平和は『自国の』っていう前置きがつくんじゃないのか?」

 

「いいや、間違いなく全ての国家の平和だよ。ただ、今のように全ての国家に戦火の種が燻っているような状態ではない。我が国家が全ての国家の頂点に立つ事で争いそのものを起こさなくするのだよ」

 

デュークの思想は確かに全てが上手くいけば平和をもたらせる。ドイツが全ての国家を統べ、争う為の兵器を取り上げ、国家の存亡を頂点が握ることによってもたらされる平和。実現する事が叶えば、戦争や紛争の類いは世界から消える事になるだろう。争う為の武器を持っていないのだから。だが、それらを実現する為には何のリスクもなく、という訳には当然いかない。全ての国家が頂点に君臨しようとするだろう。そしてその先に待っているのは第三次世界大戦による実質的世界均衡の崩壊に他ならない。

 

「……あんたは数十年先の平和の為に何億人の血を流すつもりだ」

 

「何、必要な犠牲だよ。平和を築いていく上で何の犠牲も無いなどということはあり得ない。今ある平和も危険思想を持つものを排除し、不変にする事で築かれた血塗られたものだ。少数の犠牲を続けて危うい均衡を保つくらいなら、いっそ完全にやり直してしまった方が良いとは思わないかね?」

 

「その為に今生きている人間には死ねと?未来の為にお前達は犠牲になれとそういうつもりか?」

 

「そうなるな」

 

将輝の言葉をデュークは肯定する。デュークの言う平和は今を生きる人間を殺し、未来を生かす選択だ。頂点が全ての国家を統べる事と過去の大戦を黒歴史とし、二度と戦争を起こしてはならないという教訓にする事で平和をもたらすと同時に自国の揺るぎない頂点を築く為の。世界の平和がドイツの安泰にそのまま直結するようにしようとしていた。

 

「OKOK。あんたのやりたい事はわかったよ。俺も腹が決まった…………てめえだけは二度と外の世界には出させねえってな」

 

思いっきり床を蹴った将輝はデュークを殴り飛ばす。もちろん全力でではなく、死なないように加減された一撃ではあるものの、頬の骨がメキメキと音を立て砕けていた。

 

「平和の為には流される血があるっていうのは理解出来るし、無血で築かれる平和がないのも事実だ。けどな、今の時代を生きる人間の前でその説得はねえだろうよ。それじゃあ殺してくださいって言ってるようなもんだ。第一、そういう危険思想を持つ奴に限って、絶対に自分だけは死なねえように頭を回してやがるしよ。ま、結論から言わせてもらえば、あんただけは絶対に逃がさ『おーい、まーくん』うん?どうした?」

 

突然の束からの通信に将輝は話を中断する。事が終わるまでの間、通信はしないという話をしていたが、唯一例外はあった。

 

『まーくんの読み通り。IS学園(あっち)にも刺客行ってるみたいだよ〜』

 

「そのテンションだと最悪の事態にはなってないみたいだな」

 

『まあね〜。いやぁ、あの手のタイプは私的には嫌いだけど、使い勝手の良さは良いよね〜」

 

「人を物みたいに言うなよ………まあ、報酬払えば裏切らないからそういう意味ではいいけどよ」

 

そう言いつつ、将輝は早坂を一瞥する。

 

「懲りないな、あんた。其処まで人の上に立ちたいか」

 

「おや?何のことかな?私は何もしていないが?…………ただ、私との連絡が途絶えた事で私を信頼する部下達が勝手に何かを仕出かしたかもしれないがね」

 

将輝の質問に対し、自身が今優位な立場に立っていると思った早坂は先程までの焦った様相から一転、余裕を持った表情へと変化する。

 

「私達を今すぐ解放してくれれば、部下達を止める事は出来るがどうする?」

 

「いや、あんた達を解放する必要はねえよ」

 

「何……?」

 

「これくらいは想定の範囲内。手は打ってるから、心配する事なんて何もねえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇IS学園門前◇

 

「………GE様からの定期連絡が途絶えた。これより緊急ミッションを開始する」

 

IS学園の門前で凡そこの場所には似つかわしくない重装備をした者達が闇夜に紛れ、静かに移動していた。

 

彼等は早坂の下で仕事をしている元傭兵の構成員達。誰も彼もが数多の死線を潜り抜け、血と硝煙の臭いに塗れた者ばかりだ。そんな彼等が戦場という言葉とは無縁の国で、剰え一学校を攻め込もうとしているのには理由があった。

 

彼等の上司である早坂は用心深い人間だ。どんな人間であろうと信頼を置くことはなく、部下である自分達の事もまた使い勝手の良い駒としか認識していない。だが、彼等としてもそれは同じだ。所詮は金で雇われた元傭兵に過ぎず、早坂が好条件を提示しているからこそ、部下でいるに過ぎない。ギブアンドテイクで成り立っているだけの関係であり、其処に信頼はない。だからこそ、今作戦のリーダーである男は疑問に思った。何故、自分の雇い主は危機的状況に瀕した時、この学園を人質に取れなどと言ったのかを。

 

確かにこの学園にはISには乗るために全世界から選りすぐりのエリートが集められている。だが、あくまで彼女達はただの学生。ましてや国の要人の血縁者と言えるものは殆どいない。

 

果たしてこの学園に人質としての価値ある人物はいるのだろうか?と。そしてそれは部隊のメンバー全ての人間も僅かにけれども確実に抱いている疑問だった。そしてそれ故に前方から接近してくる人物への警戒を怠ってしまった。

 

「よう、てめえら、GEのトコの部下だろ?」

 

「………オータムか」

 

彼等の前方から自然な足取りで接近してきたのはオータムだった。いきなり声を掛けてきたことに警戒レベルを高めたが、オータムである事を確認した為、銃を下ろした。

 

「其方はPRIDEの任務中か?」

 

「まあ、そんなところだな。任務が被っちまうってのはあんまりねえ事だが…………ま、せいぜい頑張れや」

 

そう言ってその場を立ち去ろうとするオータムから視線を外したその時、背後から部下達の悲鳴が聞こえた。

 

「どうした⁉︎」

 

リーダーである男が振り返った視線の先には腹部から鉄の爪のような物が貫通し、大量の血を地面へと流している部下の姿があった。そしてその元凶は今しがた立ち去ったはずのオータム。その背中からは無数に蠢く機械の脚が月の光に照らされて浮かんでいた。

 

「ヒャハハハハ!てめえら、それでも元傭兵かっつーの。何簡単に背中晒してんだよ、バーカ!」

 

心底楽しそうな笑い声を上げながら、オータムは串刺しにした男達を投げ捨てる。それを皮切りにするように残った者達はオータムを一斉に撃つが、鉄の脚に阻まれ、全く当たっていなかった。

 

「ったく、サイコーだな。このIS(オモチャ)はよ。これだけ思い通りに動く物が簡単に手に入るなら、私も後十年遅く生まれるべきだったぜ。まあ、結果的に手に入ったんだし、良いんだけどよ!」

 

「どういう事だ、オータム!これは貴様の意志か⁉︎それともPRIDEの命令か⁉︎」

 

「あぁん?どっちでもねえよ。私の新しい依頼主サマのご命令だ。IS学園(ここ)を襲撃しにくる馬鹿どもをどうにかしろってな。生かそうが殺そうが私の勝手だとよ。餓鬼の割には殺すななんてなまっちょろい事を言わないトコは嫌いじゃねえな」

 

「クッ……!」

 

予期せぬ反撃。ただでさえ、この任務自体に疑問を抱いていたというのに、其処に現れた派閥は違えど同じ組織の一員は以前まで持ち得ていなかった筈のISを使用していた。

 

勝ち目はない。同じ元傭兵の構成員であり、技能においても装備レベルにおいてもオータムの方が高い。何より、ISを持ち出された時点で並の人間では勝負にすらなり得ない。

 

「どうするよ?このまま私に殺されるか、尻尾巻いて逃げるか。好きな方を選べ」

 

「………わかった。この場は退かせ……ガハッ!」

 

銃口を下ろし、無抵抗の意志を示そうとした直後、男は鉄の脚に殴り飛ばされた。

 

「ま、逃がさねえけどな。抵抗して殺されるか、無抵抗で殺されるか、結局死んじまうけど好きな方を選べよ………ハハハハ!」

 

オータムの実質的死刑宣告に全員茫然自失となる。抵抗しても逃げても殺される。抗えない現実に男達はあっさりと死を受け入れてしまった。その反応にオータムはつまらなさそうに舌打ちするとその圧倒的で暴力的な力を思うがままに振るう。まるで石ころのように弾き飛ばされ、地面に力なく男達は倒れる。

 

「つまんねえな。もうちと抵抗すると思ってたんだが………まあ、何はともあれ、これで終いッ⁉︎」

 

振り上げられた鉄の脚が男の目前で止まる。

 

「はい、ストップでーす。オータムさん」

 

何とも場違いな間延びした声にオータムは舌打ちしつつ、振り向く。そこに立っていたのはISスーツを着ている更識楯無の姿があった。右腕はISの装甲が部分展開されており、装甲から幾重にも射出されたワイヤーがオータムの振り上げた鉄の脚を雁字搦めにしていた。

 

「チッ。今いいトコなんだから邪魔してんじゃねーよ」

 

「邪魔しますよ。血の匂いが残っちゃうとあの人気づいちゃうじゃないですかぁ〜。副会長は貴方が敵を『無力化した』って事になってるんですから。嘘がバレると嫌われちゃいますから。それにリーダーっぽそうなその人は生かしておいても損は無さそうですし」

 

「知るかよ、んな事。私は私のやりたいようにやるだけだ」

 

「もぉ〜、ダメですよ〜。一応私達が依頼主なんですから…………それとも今ここで肉塊になります?」

 

先程までの雰囲気は何処へやら、楯無の目は細められ、射殺さんばかりの視線がオータムへと注がれていた。

 

「あくまで副会長が今回の作戦に適任だからと言ったから、篠ノ之博士も専用機を貴女に作ってあげただけなんですよ?あんまり出過ぎた事をするようでしたら、其処で寝てる彼等程度では済みませんから」

 

「ケッ、脅してるつもりかよ、それッ⁉︎」

 

忠告に全く耳を貸さないオータムはそのまま命を刈り取ろうと力を込めようとする。だが、次の瞬間、更に大量のワイヤーがオータムの身体へと巻きついていた。

 

「脅してるつもりなんかじゃありませんよ。『やめろ』って言ってるんです。拒否するならどうぞ、ご勝手に。その代償はもれなく命ですが」

 

「…………チッ。わーったよ、私の仕事はこれで終いだ。帰ってもいいな?」

 

「はい。後の方は私に任せてください」

 

渋々、オータムはIS展開を解除すると、楯無もワイヤーを解除し、今度は男の方に巻きつけ、自身の方へと引き寄せる。もちろん、周囲で絶命している者達も一緒に。

 

「それじゃあ、さようなら〜。願わくば、二度と会わない事を祈ってます」

 

「こっちの台詞だ、クソ餓鬼」

 

立ち去っていくオータムに満面の笑みで手を振る楯無。彼女が見えなくなるまで手を振った後、「さて」と一呼吸置いて、男の方に向いた。

 

「作戦終了の旨は伝えたので、ここからは貴方と私で尋問タイム(お楽しみの時間)の始まりですよ〜」

 

にこりと向けられた微笑みはまさしく悪魔の微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まーくん。たっちゃんから無事作戦終了って連絡来たよ〜』

 

「そっか。被害ゼロで何よりだ…………さて、後はあんた達を何とかしなきゃ」

 

ドォォォォン‼︎

 

突然の爆発音と共に扉が消し飛び、部屋の中に一気に爆風や爆煙が舞い込んでくる。

 

「な、何だ⁉︎」

 

「はぁ………穏便に済ませろって言ったろ…………静」

 

「む、しまった。ここは将輝達のいる部屋だったか」

 

煙の中から現れたのはつい今しがたまで自動人形と激戦を繰り広げていた静だった。その手には鉄塊が握られており、足元にも似たような物が転がっていた。

 

「まあ、何だ。大体片付けたから問題ーーー」

 

今度は扉ではなく、天井が崩れ落ち、瓦礫と共に一人と凡そ六十近くの自動人形と無数の残骸が降り注いだ。

 

「生き埋めにするつもりが、間違ったか」

 

「危うく俺が生き埋めになりかけたけどな。お前ら、本当俺のお願いを聞いてくれた試しないよな」

 

穏便に、騒ぎを大きくしないように片付けろ、将輝は千冬と静にそう頼んでいた。もっとも、この時点で穏便に済む可能性は限りなくゼロパーセントに近かったのだが、一応念は押しておこうという考えだったのだが、案の定、彼女達は自動人形を無力化する為にビル内部を駆け巡り、最終的に将輝のいる場所に来るに至った…………大量の自動人形を連れて。

 

「それは護衛用の自動人形⁉︎馬鹿な!唯の人間に壊せるような柔な代物ではないぞ⁉︎」

 

リオネルは驚きの声を上げる。

 

護衛に自動人形を採用したのは他でもないリオネルだった。他のテロ組織などに襲撃され、護衛の構成員達の約八割が無力化、或いは死亡した時、襲撃者を撃退する為に念の為ビルの至る所に配備されていた。二足歩行の人型や四足歩行の犬型、ガン○ンクのような物だったり、ドローンもあった。そのどれもが強度はハンドガン程度では傷一つ付かず、一撃で破壊するにはゼロ距離からの爆破クラスの威力でなければならない。それを事もあろうに静と千冬は武器を使用しているとはいえ、生身の人間でやってのけた。彼等から見れば、到底理解出来ない事態であった。

 

「だってよ、二人共」

 

「「将輝の方が酷いから問題ない」」

 

「酷え。ま、否定はしないけどよ!」

 

足元に転がって鉄塊をシュートするかのように自動人形の軍団に目掛けて蹴る。凄まじい速度で飛んでいくと数体の自動人形を巻き込みながら、壁に減り込んだ。

 

「ストライークってか?さて、おっさん達は死にたくないなら其処から動かねえこったな」

 

其処から始まったのは圧倒的なまでの蹂躙だった。

 

人間殺戮兵器と言っても過言ではない自動人形達がたった三人の少年少女によって破壊しつくされていく。ただでさえ、その異様な光景には戦慄を覚えてしまうというのに、自動人形を蹂躙する将輝の表情は愉悦の色に染まっていた。無論、無意識のうちという訳ではなく、この状況を側から見ているであろう者達に自身を異常であると思わせる為だったのだが、想像以上に状況と彼等の追い詰められた精神状態が噛み合い、彼等には将輝が人の体をなした悪魔にすら見えた。

 

「こいつで終わりか。あー、くそ、オイル塗れになっちまった」

 

返り血のように顔に付着したオイルを袖で拭いながら、将輝は溜め息を吐く。そしてその直後、タイミングを見計らっていたかのように束とヒカルノからの通信が入った。

 

『まーくん、終わったー?』

 

「終わったー?じゃねえよ。見てただろ、お前ら」

 

『にしし、まあねぃ。カッコよかったよん、将輝』

 

「ったく、お前らがこれをさっさと機能停止させておけばこんなオイル臭くならなくて済んだっつーの………ただまあ、ある意味正解だったかもしれないけど…………では皆さん」

 

将輝は満面の笑みを浮かべ、幹部達に告げた。

 

「貴方達を犯罪者のワンダーランドへご招待しましょう」

 

彼等は死の間際まで語る事となる。

 

『藤本将輝は間違いなく、地球に産み落とされた最恐最悪の怪物である』と。

 

そしてそれは一週間後、束の手によって、全世界へと知れ渡る事となる。

 

 

 

某国某日。亡国企業(ファントム・タスク)ーーーーー崩壊。


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