IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜 作:幼馴染み最強伝説
厨二病もびっくりの妄言を吐くことで事無きを得た?記者会見の後、俺はこの世界の初めての授業となる二時限目の授業を受ける為にIS学園へと帰還し、意気揚々と教室に入った。
幸い、千冬に頼んでいたお蔭で教室に入った瞬間、女子の皆さんにもみくちゃにされるという事態には陥らず、席に着いたのだが、その代償として視線の嵐に晒される羽目になった。スポンジのように身体中が穴だらけになりそうなくらい見つめられているのではっきり言って居心地は宜しくない。しかも好奇の視線の中から殺気めいたものも感じる。編入して早々、殺気を向けてくる方がいる辺り、ひょっとして俺って迷惑なのかね。だが、生憎ともうここに残る決心はついたので今更そこを変えるつもりはないし、あっちから何か言ってくるようであれば話し合いで解決すればいい………あちらに話し合いをする気があればだが。
さて、授業が終わるまで残り十分。
質問責めから逃げる方法を考えよう。
俺が座っているのは中央の最前列………ではなく、その真ん中謂わば中央の中央の席。逃走する事を初めから考えられていたとしか思えないような配置。だって出席番号無視してる。五十音順でも、かといって千葉よろしく誕生日順とかでもない。いや、ひょっとしたら何か特別な意味があるのかもしれないが、ともかく俺は女子達によって包囲網を形成されている。
そうなると全力疾走で逃げるという方法は無理。怪我をさせてしまいかねない。
窓から逃げるという方法も無理。三階なのは問題ないが窓際じゃないから論外。
他に注意を逸らすのも無理。俺が一番目立ってるから…………あれ?逃げ場なくね?
いや、方法はあるか。
「先生、お腹が「はい、今日の授業はここまでです。後は自由にして下さい」痛くないです……」
まだ六分あるのに終わらせやがった。女子達の笑顔のサムズアップにドヤ顔で応えているだと……ッ⁉︎謀ったな、先生!かくなる上は………先手必勝!
「一人につき質問は一つまででお願いします。列を作って順番通りに、二回目の質問は受け付けません」
先にルールを作っておく。え?逃げるんじゃないのかって?人間諦めも肝心だよね。つまり逃げられないって事さ。はっはっはー。
何が凄いって俺が言った直後に列を作っている事。軍隊もびっくりの統率力に感嘆せざるを得ない。何時の時代もIS学園に入ってくる女子は利害が一致した時の統一性が半端ないらしい。
そんな訳で質問に答える羽目になった訳だが、何で皆似たような事ばかり聞いてくるんだろうか。
好きなタイプとか以前答えたはずなのに、ついでに誰とも付き合ってないことも。告白されたのは予想外だったが、丁重に断ったので大丈夫なはずだ。凄く落ち込んでたみたいだけど多分大丈夫なはずだ。頼むから大丈夫であってくれ。そして先生よ、もう授業が始まっているのに何故授業を始めないどころか貴女まで並んでいるんですか、ここ絶賛世界一のエリート校ですよ?そんなので良いんですか、公私の区別はしっかり分けるべきだと言いたい。
「副会長!交際を前提に結婚して下さい!もしくはメイドにして下さい!」
「前者はごめんだけど無理。後者も必要ないかな」
「そんなぁ〜、これならいけると思ってたのに……」
何をもってしてそれが大丈夫だと思ったのか、そして交際を前提に結婚て順序逆じゃね?逆でも無理だけどさ。それにこの歳でメイドさんなんて必要ない。俺は坊ちゃんでもお嬢様でもない。それならまだ執事になってくれと言われた方が可能性はある。嫌だけどね。
「次の人」
「初めまして。学園の救世主さん?私はミハエ・リーリス。ただの代表候補生よ。ついでにいえば、これから貴方とはよろしくしたくない者の一人かしら」
初対面にして笑顔で拒絶されますた。そして教室内の空気が凍った件。ひそひそ声で話をしていただけで基本的に静かだった分、余計に声が通っていた。
「よろしくしたくないのに俺に質問?随分変わった趣向の持ち主だね。それともその隠す気もない殺気と何か特別な関係が?」
「ええ。例えばこんな感じかしら」
そう言って彼女が俺に向けたのは一丁のガバメント。見た感じでわかるが、相当精巧に作られてない限り、本物である可能性が極めて高い。
「俺を殺す気かい?やめときなよ、跳弾が皆に当たって怪我でもしたら、退学ものだよ」
「ッ⁉︎………随分と嘗められたものね。慢心が過ぎるのではないかしら?」
「いいや、結構真面目に言ってるんだけど」
慢心なんてしねえよ、そんな死亡フラグ筆頭みたいなやつ。もしくは敗北フラグ。それにいくら距離が近くても銃弾なんて撃たれる前に回避を取れば大丈夫さ。某探偵アニメのヒロインも「ハンドガンはライフルの弾丸の三分の一の速さしかない」っていう理屈で避けたし。あのお方が千冬以上の人外とは思えないし、まあ多分大丈夫だろう。
「そう………では死んでから自分の慢心に気づきなさい」
バンッ!と教室内に銃声が響く。いくら当たらない自信があったとはいえ、まさか本当に撃ってくるとは思わなかった。俺や千冬達でなければ机の上に脳漿をぶち撒けていたところだ。
「危ないな。殺す気かい?」
「………バケモノね」
「人聞きの悪い。これでも人間だよ」
「なら、これはどうなのかしら!」
殺す気満々の乱射、乱射、乱射。生徒達は既に教室の外に避難しており、千冬も外に出て、こちらの様子を伺っていた。出来れば止めていただきたいのが本音だが、これは俺が原因の一つでもある訳だから俺が解決するほかない。まあ、特に何もしないんですけどね。
しかし、これだけ乱射しているというのに机も椅子も窓ガラスも何故傷一つつかないのだろうか、防弾ガラスとかはわかるが、机と椅子は一体何で作ったんだ。是非とも、天災ダブルスに訊きたい所である。
「………まさか全て躱すなんて……」
弾を撃ち尽くした彼女は驚愕の表情で俺を見ていた。両手に弾を撃ち尽くした銃を構えた美少女とその足元には大量の薬莢、その一メートル前で無傷で立っている俺。何かアニメの世界だな。いや、アニメの世界か。
「皆、帰ってきても大丈夫だよ」
俺が教室の外に避難している生徒達と先生に言うと、皆「凄かったねー」と話しながら、また列をなした…………質問タイムは続けるんですね。というか、あのやり取りの後に白けない貴女方のメンタルは大物っすよ、マジで。
「俺を殺したいならご自由に。けど、授業中にするのは生徒会として見過ごせないから、それ相応の責任はとってもらうよ」
俺はともかく、この中には原作時までに何かしら影響を与える人物が複数存在してもおかしくない。俺が存在してしまったことで変化するのは確定だとはいえ、彼女達には是非とも大成していただきたい。尤も、諦めてくれるのが一番ありがたいがこの手の輩はかなりしつこいに違いない。
「次は……確実に仕留めるわ」
一度脱力した後、彼女はすれ違う瞬間にそう言って席へと戻っていった。
まさか今回のようなやり取りが十五回も続いてしまう事をその時の俺は知る由もなかった。
四時限目の授業が終わって昼休み。俺は安定の生徒会メンバー達と共に食堂で昼食を済ませていた。
周囲には他の生徒はいない。それは別に千冬や静が怖いとか、束が露骨に嫌な顔をするからとかではなく、単純に俺が大事な話があるから今回は一緒に食べられないと彼女達に話したからだ。
「それでどうだった?結果は?」
「流石というべきか、今回は当たらなかった方が良かったというべきか。残念ながら今回も将輝の読みは当たっちゃったよ」
ISにとあるデータが送られてくる。あくまでISの中のデータを見ているので現状は俺にしか見えない。其処に映し出されているのは一夏達と同い年の少年。そしてその名前はーーー藤本将輝。俺が憑依する以前の俺だ。
殆どわかりきっていたことではあるが、七年前のこの世界に藤本将輝は存在した。当然といえば当然だ、何せ俺は過去に飛んできたのだ。いない方がおかしい。
もしかしたら平行世界の過去という可能性を考えてみたが、そもそも千冬達が生徒会に所属している事、原作ではいなかったであろう静が過去にも存在した事から鑑みるに俺のいた年代から過去にそのまま帰ったと考えるのが一番妥当だった。
だが、それでは一つ問題が発生してしまう。
本来あり得ないはずの同じ世界に存在する同一人物。今は人格面などは大きく変わるだろうが、もしそのままの流れを汲めば五年後には正真正銘何一つ変わらない藤本将輝が二人存在する事になり、ISを動かせる男子としてIS学園に入学してくるわけだ。強いて言うなら、無人機襲撃や福音事件がないだろうから命の危機がなく、過去に飛ぶ事もないだろう。つか、其処まで流れを汲まれたら数年周期で俺が量産される事になる。それは色々とマズい。というか気持ち悪い。何が悲しくてドッペルゲンガーみたいなのを大量生産しなければならないのか。
百歩譲ってもう一人俺が来た時如何するかだ。何から何まで原作二年前の俺と同じ。中学で箒と出会って、一緒に剣道して、転校して、高校で人格が変わる前の俺と約束を果たしたセシリアと出会う………そういえばあの約束、セシリアが最後になんと言ったのか終ぞわからなかったな。今となってはもう訊く事は出来ないが。
話は少し逸れたが、IS学園入学以前のイベントは回避しようがある。箒は転校させなければ良いし、セシリアは両親を助ければいい。箒はともかく、セシリアはそれによって原作同様に男を見下している可能性が高くなってしまうが、セシリアの慢心と二人の人間の命、天秤にかけるまでもない。それに慢心なら一夏が叩き直すだろうしな。入学だけは不可避だ。束にも俺がISを動かせた理由がわからない以上、あいつが意図的には起こしていないからだ。
どうしたものか………いっそ、日本に帰国させずにイギリスに在住させるか。どういう理由で日本に帰国したのかはわからないが、あっちにいれば俺が憑依したとして性格は変わるかもしれない。
「うーん………弱った」
「其処まで悩む事か?ドッペルゲンガーではないのだから、目の前に現れても問題あるまい」
「寧ろ過去と未来の同一人物で合体技的な事が出来る分楽しいだろうに」
「私達も将輝が一人増えるって意味では大歓迎だし」
「縛られるのは嫌いだけど、それならIS学園の講師になる可能性もあるよ」
「あのなぁ………七年前の自分ミクロ単位で同じでほぼ性格も一致してる奴が目の前で面白おかしく学生生活をエンジョイしてみろ。過去の恥ずかしい映像をリアルタイムで流されているようなもんだぞ、悶え死ぬわ」
『あぁー……』
いや、マジで。最悪恥ずかしさのあまり全力でぶん殴った挙句殺すかもしれない。入学時点では人間辞めてなかったから俺が全力で殴り飛ばせば確実に頭が消し飛ぶ。中身ごとな。殺人犯にはなりたくないでござる。しかも殺した相手が自分とかマジ勘弁な。
「それに何もかも一緒って言ってもお前達の事が好きって訳じゃないしな。特に千冬とヒカルノに関しては初対面に等しくなるわけだし」
束と静は例外。中学の時に会うし。
「まーくん……今のは聞き逃さなかったよ……」
「な、何がだ?」
「ほっほーう。つまり無意識というわけですな。そうなるとさっきのは確実に本音ということ!」
「だから何の事だよ」
そんなドヤ顔でずびしっと指さしてもわかりません。
「さっきまーくんは『何もかも一緒って言ってもお前達の事が好きって訳じゃないしな』って言った。つまり、まーくんは私達の事が好きだという事だっ!」
「あー、うん。そうだけど、それが今更どうしたんだ?」
「あ、あれ?何時ものまーくんなら『そ、そういう意味で言ったんじゃねえよ(汗)』的な反応なのに」
確かについ先日まではそういう対応してたからな。でもまあ、ここに残るって言った訳だし、俺をここに引き留めたのは紛れもなくこの四人なんだから。それにしてもさっきの束の台詞は俺を真似したのか?だとしたら普段の俺って凄いツンデレなんじゃないか?俺の真似されてるはずなのに『うわぁ……』ってなったもん。
「お前達が好きだから残ったって言ったろ?誤魔化す必要なんてあるかよ」
「良し、まーくん。結婚しよう」
「四年後にやり直せ」
「冷たっ⁉︎さっきのデレが嘘のように冷たいよ、まーくん!」
「デレとらんわ。さて、馬鹿は放っておいて、話の続きだが、何かいい案ないか?」
「二十四時間三百六十五日監視」
「洗脳」
「いっそ養子にする」
「取り敢えず様子見?」
上から千冬、ヒカルノ、静、束の順に解答が並べられる。おい、上二つ人権無くなってんじゃねえか。しかも二十四時間三百六十五日も誰が監視するんだよ。洗脳したらダメでしょうが、それ仮とはいえ俺なんですよ?養子したら俺は俺と共同生活しなきゃいけないじゃん。嫌だよ、何で俺と生活しなきゃいけないの。そして何故か一番マトモなのが束とはこれいかに。疑問系なのは気になるけど。
「やっぱ様子見が妥当か〜。先手を打っておきたいけど、受け身でいるしかないか」
「それに事情なら会ってから話しても遅くはないだろう。最初は疑われる可能性がかなり高いが、まあ将輝なら大丈夫だろう」
まあ、ISの世界に憑依転生してる時点で『過去に飛んで成長したお前だ』的な事を言っても余裕で通じるだろう。どちらにしても俺はそういうのには理解がある方だから疑う事はあれど全否定はない。
「この話は一旦保留にしない?時間も時間だし」
「あれ?次の授業なんだっけ?」
「実技じゃないの?授業開始まで残り五分しかないけど……」
実技………だと……⁉︎しかも残り五分⁉︎
「やばっ⁉︎入学初日に遅刻するとか洒落になってねえ!急ぐぞ、千冬、静……って、もう行ってるし⁉︎」
薄情な奴らだ!しかも人外スペックだから廊下にももう姿はないし!
鬼神のごとき全力疾走でアリーナに向かう事で俺は辛くも遅刻は免れたが、その授業で千冬と静と二連戦させられた時はマジで吐くかと思った。
今思えば入学初日にして、とても濃密な時間を送ってたんだな、俺。初めての連続だから時間が長く感じるとかそういうのじゃなくて、割とリアルに入学初日が一番長かった気がする。
つーか、こういう過去回想って死亡フラグじゃね?或いは行方不明フラグ。後者は束とヒカルノがいないからあり得ないとして死ぬのは嫌だ。前にも言ったが世界が滅ぶし、あの時から約二倍に増えたがあいつらを残していなくなるわけにはいかない。命を投げるには些か守るものが増え過ぎた。
だから亡国企業には惨めに壊滅してもらおう。誰一人死なず、殺させず、世間に悪行の限りを公表して、豚箱で死ぬまで懺悔してもらおう。俺たちが目指すのは完全な勝利だ。何も犠牲にしない、利益だけを一方的に得る夢物語のような闘い。
「その為にも打てる手は打っておかないとな」
ちょうどその時、俺の携帯電話に一本の電話がかかってきた。