IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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四月はキミの嘘

 

「つー訳で今日から改めて正式にIS学園に入学する事になりました。皆よろしく」

 

たった二ヶ月もの間に五回以上立つ事のあった壇上の上で俺は高らかに宣言した。

 

眼下に立っている生徒達は皆鳩が豆鉄砲を食ったような表情で惚けていて、教員達もまた同様だった。

 

それもそのはず、俺は昨日の時点で此処を……この時代を去る予定だったのだから。

 

だから俺は昨日の文化祭終了後に彼女らに笑顔で別れを告げ、彼女達もそれに笑顔で応えてくれた。後腐れなく、別れる筈だったのだが、予想以上に俺の心は此方の世界に繋ぎとめられていた。結果、俺は未来に帰る機械を千冬達の前で叩き斬り、この時代で生きる事を選んだ。それが正しいのか、間違っているのかなんて関係ない。俺がそうしたいと思ったから、ここにいる。

 

「皆が驚くのも無理はないよ。俺はこの二ヶ月間、IS操縦者の()の被験体として生活し、結局動かせる事は無かったから去るって事だったからね。けど、俺の未練が強かったからかな?昨日の深夜、俺はISを動かす事に成功したんだ」

 

俺が此処に残る為に最も必要なカミングアウト。俺が男でISが使えるという事実。IS学園であるなら此処に在籍するものは皆一流のIS操縦者となるための基礎を学んでいる。前提条件として此処にいるもの達はISに乗れなければならない。そうなると必然的にここは女子校になる。原則、男がISを起動させる事は不可能だからだ。

 

俺はこの二ヶ月間、名目上『男は本当にISを動かせないのか?』という疑問に基づいた実験の被験体として一時的に学園に在籍する事になった、となっている。もちろん公の場には明かしていないが、昨日の文化祭で男の俺がこの学園に仮としても在籍するという事実は他校生や企業の人間にもバレた為、ある意味問題なく俺が未来に帰るには昨日しかなかったと言える。

 

そしてお試し期間とも言える二ヶ月が終わり、何の成果も得られなかったという事にして俺が未来に帰らなかった以上、この学園に残るにはその逆ーーーつまりなんらかの成果を得たという事にするしかない。そうなると俺は必然的に彼女達に打ち明けなければならない。ISが動かせるという事実を。

 

「え………それってつまり……」

 

「世界で唯一の男性IS操縦者って事……?」

 

「という事は………卒業するまで副会長と一緒に居られるって事⁉︎」

 

『やった〜‼︎』

 

あ、驚くところそこなんだ。しかも世界で唯一の男性IS操縦者って所は軽く流したし。七年後には確定で現れるとはいえ、一応希少価値高いんだよ?付加価値みたいな感じになってるけどさ。

 

「あ、そうそう。俺は改めてこの学園に編入する訳だから、副会長じゃないよ?」

 

あくまであの時は臨時だったし、束との約束でなっただけだから、正式に編入した今、俺はただの生徒で副会長ではない。

 

「えー!どうしてですかー!」

 

「副会長は何があっても副会長じゃないんですかー⁉︎」

 

「私達のヒーロー=副会長の図式を壊さないで下さい!」

 

何その図式初めて聞いたよ。ていうか、俺何処ぞの宗教団体ばりに信仰されてる気がする。このまま放っておいたら暴動でも起きそうだな。理由はアレだけど。

 

だが、その辺りは問題ない。こんな事もあろうかと全部丸く収まるように千冬に頼んである。千冬にしてはえらく余裕綽々といった感じに返してきたのが引っかかるが、まあ大丈夫だろう。

 

そんな訳で千冬よろしく!

 

アイコンタクトを送ると千冬がキビキビとした足取りで壇上に立ち、マイクを取る。

 

「静粛に。藤本将輝の編入式の途中で悪いが、私の話を聞いてもらいたい」

 

千冬が話し始めた途端に騒いでいた生徒達が静まり返る。

 

「皆、将輝の編入に驚き、歓喜した事だと思う。まあ何よりも驚くべきは将輝がISを起動させた事………よりも副会長を辞めている事だ。私も聞いたときははっきり言って失神するかと思ったし、皆もそうだと思う。だが、昨日までの副会長就任はあくまで一時的なもの。副会長を辞任する事は予め決まっていた事である以上、仕方のない事だ……….だが解決策はある。皆の不満を解消する為のとっておきの策が」

 

滅茶苦茶自信ありげな表情の千冬。これには俺もどんな解決策なのかと内心期待せざるを得ない。

 

「昨日までの就任は一時的。ならばたった今から将輝を改めて副会長にしてしまえば良いと!」

 

拳を固く握り締め千冬は言い放った。その言葉に一呼吸遅れでホールがどっと沸いた。凄いカリスマだ………って、そうじゃない!

 

「おい、待て千冬。俺はそんな話知らないぞ!」

 

「当たり前だ。話してないからな。因みに拒否権はないぞ。生徒会長権限だからな」

 

「職権乱用だ⁉︎」

 

「流石は会長!」

 

「私達に出来ないことを平然とやってのける!」

 

「其処に痺れます、憧れますゥ!」

 

いや、憧れちゃダメだから!職権乱用、ダメ絶対!学生のうちからそんな事してたら大人になった時、マトモな大人になれないよ!ていうか、千冬が妙に自信ありげだったのはこういうことか!

 

「そういうわけだ、将輝。改めて副会長就任おめでとう」

 

「いや、そんな無駄に良い笑顔で言われても…………はぁ、わかったよ」

 

どうせ、会長権限で拒否権はないから拒否しても無駄だもんな。それに多分副会長を務めようが、務めまいが、俺の所に厄介事が舞い込んでくるのは確定コースなんだから。ならいっそ、未然に防げるように近くにいた方がいいかもしれないな。

 

「たった今職権乱用で再度副会長に任命されたので、皆が嫌じゃなかったらまたやらせてもらうよ」

 

一縷の望みにかけて放った俺の言葉に返ってきたのは割れんばかりの大歓声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時期も時期なので編入した初日から俺は早速授業を受ける…………事はなく、今俺は世界各国から集められた記者達の前で束と共にフラッシュの嵐に晒されていた。眩しっ!目がチカチカする。こんな中でよくもまあ普通に目が開けられるよな。

 

「篠ノ之博士!彼がISを起動させたというのは本当ですか⁉︎」

 

「そだよ〜。何か触ったら起動した的な?」

 

「もしそれが本当なら他の男性もISを起動できるのでは⁈」

 

「かもしれないねぇ。けど其処はほら、全世界の皆さんが頑張ってるんじゃないかなぁ〜」

 

「彼がISを起動させたという証拠は?」

 

「はい、これ」

 

俺が黙っている間に束が手際よく記者をあしらっていく。なんというか、場慣れしているな。結構人前に立つ機会が多かったからだろうが、あしらい方が絶妙だ。

 

「後ねぇ〜、皆が気になってる質問を訊かれる前に答えてあげちゃうよ〜。ズバリ!藤本将輝くんが今に至るまでの出自をね」

 

束のその言葉に記者達は驚きに身を強張らせた。

 

ここに来ている記者達は全員国の長から選ばれた者のみ。文字通り選りすぐりの記者ばかりだ。

 

彼等は国の長から口を酸っぱくして言われていたことが、『藤本将輝の出自を知る事』だ。

 

その言葉に表の世界しか知らない者たちならば首をかしげる事だが、選りすぐりともなると裏社会についても多かれ少なかれ知る者ばかりでその言葉の意味の真意を理解出来るものばかりだ。故に彼等は篠ノ之束の機嫌を損ねず、訝しまれる事なく、出自の謎を知ろうと機会をうかがっていた矢先に束自らが切り出したのだ。驚くのは当然と言える。

 

とまあ、束の憶測と今の状態を鑑みての俺の感想だが、強ち間違いではないだろうな。実際、今までこれでもかとばかりにたかれていたフラッシュが一瞬止まった。

 

そんな記者達の姿など気にも留めずに束は話を始める。

 

「彼はね。確かに日本人なんだけど、私と始めて出会ったときはとある紛争地帯にいたんだ。あ、もちろん、何処かは教えないよ?教えちゃうと死人が出るだろうし。それで一目見たときからピンと来て、もしかしたらこの人なら動かせるかもって思ったんだ。信じてもらう為に文字通り骨を折ったけど、その結果私の予想通りありえない存在(イレギュラー)として彼はISを起動させることに成功したのさ。彼に関する情報が全くないのは彼が特殊な出自である以上、仕方のない事なんだよね。だからこの際言っておくけど下手に探りを入れても無駄だよ。以上、他に質問は?」

 

他に質問は、って………無理じゃん。質問させる気ねーよこの天災。

 

記者の皆さんの顔見てみろ、凄い微妙な表情してるじゃねえか。

 

とはいえ、ここで俺が口を挟んで空気を和ませるわけにはいかない。このまま微妙な空気のままで終わってくれなければ。疑問を抱かせてしまえば元も子もない。

 

「特になさそうだね。じゃあ帰ろ「待って下さい」んん?」

 

帰ろうとした矢先、一人の男性記者が声を上げた。

 

ピシッとした様相とはかけ離れたややくたびれたような服装。一見してとてもエリートとは呼べないが、どことなく面倒臭そうな雰囲気を醸し出している猫背の男性はやや不機嫌そうに睨みつける束を意にも介さず、質問を投げかけてきた。

 

「篠ノ之博士の話が本当であるとするなら、其処に座っている彼は今まで幾度となく命のやり取りを経験してきた………なら、自らの命を守る為とはいえ、何人かは人を殺めてきた事もあるのでは?」

 

「そりゃそうだろうね。で、それが何か問題?自分の命を守る為とはいえ人殺しをISに乗せるのは危険だ、とでも言うつもり?」

 

「まさか。その辺は篠ノ之博士が熟考した上で現状に至ると考えてますよ。だから私が言いたいのはそういう事じゃない。失礼、ここで全く関係ない話をしますが、今でこそ私は記者なんて野次馬根性丸出しの職業をやってますがね。昔は雇われ傭兵なんていう血なまぐさい事してたんですが…………当然、其処じゃ幼稚園くらいの子どもから還暦過ぎてる爺さんくらいの奴までいたんですがね、そいつらに比べてそちらの彼は随分と綺麗な目をしている」

 

目を細めながら男性はそう言った。

 

この人が言いたい事はわかる。戦場で生きてきた人間はどんな理由であれ、人を殺めている。殺さないなんてのはなまっちょろい戯言で正しく愚の骨頂だ。紛争地帯なんかではそれが特に顕著だと聞く。どんな手を使ってでも生き延びる。それが例え多くの屍の上に築かれた生だとしても。

 

そして俺は表面上、そういう生き方をしてきた人間となっている。俺のISと同化する事によって引き上げられた超人的な身体能力を戦場で培った物とし、俺に関する戸籍などの情報を曖昧にする為だ。しかし、それが今まさに裏目に出ようとしている。確かに俺は命のやり取りは二度した。だが、それは血なまぐさい戦場ではなく、原作で起きたイベントの延長線上でしかない。故に俺の目が綺麗なままだというのは当然の事だ。予想外があるとすればそれはこの場でその事を訊かれる事くらいか。

 

とはいえ、其処は自称稀代の大天才様だ。こういう事もあろうかと手札は持っているはず…………

 

「………やば、どうしよ……」

 

何も考えてなかった⁉︎平静を装ってはいるけど、聞こえないように愚痴ったのだろうが、俺にはバリバリ聞こえたぞ⁉︎

 

しかもいつも通りの表情だけど無言な所為で図星ですって言ってるようなものだし!その所為で奴さんバリバリ怪しんで来てるし!

 

ええい!どうする⁉︎考えろ、俺!この場を乗り切れそうな盛大な嘘をかませ!何か!何かないか……………………………これで行くか?通じるかは知らんが無言よりはマシだ!

 

「目が綺麗か………紛争地帯(あっち)にいた頃はよく言われたよ。『まるで産まれたての赤ん坊みたいだ』とか『聖人みたいだ』とかね。俺は別にそんな高尚なものじゃないさ。ただ単に人が生きようが死のうが何とも思わないだけ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)さ。生きているものはいずれ死ぬんだ。それが衰弱か病気かはたまた鉛の弾か、それくらいの差でしかない。たかだか人一人死ぬ程度で無駄な感傷に浸るから濁ったりするんだ」

 

「………なら君は人の死に何の感情も持ち得ないと?」

 

「質問に質問で返すようで悪いのですが、貴方達は虫を殺してしまった時、罪悪感に心を痛めますか?それを罪だと認識しますか?もしそうなら謝罪しますが、少なくとも俺にとっては所詮虫を殺すのと人間を殺す事はイコールでしかない。その程度の事で傷めるような心なら俺はとうの昔に狂っていますよ」

 

我ながら厨二病もびっくりな妄言を吐いている事に思うず失笑してしまった。よくもまあこんな嘘が吐けるな、俺。自分で自分をリスペクト出来るよ。

 

「………失礼。どうやら私の読み違いのようだ。てっきり何かを隠す為にバレバレの嘘でも吐いているのかと思いましたが………成る程。間違いなく、君は狂人(そちら側)の人間だ。息をするように人を殺し、築かれた屍の中でまるで友達と話しているように話せるタイプのね」

 

無理です。人を殺す事に全力で躊躇うし、屍の真ん中で普通にはいられません。ていうか、自分で誤魔化しておいてなんだけど、そんな奴をIS学園に入れて大丈夫か?というか、納得するのか全世界のトップの皆さん。俺なら間違いなく反対するね。暇つぶしに国とか滅ぼしそうだもん。危なすぎるだろ、ソイツ……………あ、俺か。

 

「質問は以上で?」

 

「ええ。此方が納得のいく答えを得られたので質問は以上で」

 

「納得のいく答えを返せて何よりです。それではIS学園の授業に遅れるのでこれで」

 

束の腕を掴んで会見場から去るのだが、先程の発言からか俺達の道を阻もうとするものは誰一人おらず、全員の目には怯えの色が見て取れた。ははは、これで明日から世界中で狂人扱いか。大丈夫かな、俺の学園生活。

 

余談だが、リアルタイムで見ていた(束が俺に黙って用意していたどデカイモニターで)全校生徒にはそういうキャラという事であっさりと受け入れられ、逆に人気に拍車がかかった。


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