IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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れでぃ×バト‼︎

その後、トーナメントは滞る事なく、順調に進んだ。

 

予定では昼をまたぐと思っていたが…………なんというか、二年はミハエが、一年は真耶が凄まじい無双っぷりを発揮した事と思いのほか、生徒達がやる気だった事もあり、当初の予定よりも二時間早い。だってそろそろ一回戦は全部終わったかなぁ……って思ってたら、準決勝戦ーーー学年ごとの決勝戦に突入してたんだから仰天だ。皆、張り切り過ぎ。後で試合映像見せてもらおう。

 

『もしもーし、副会長〜!話聞いてます〜?』

 

「ん?ああ、悪い。何だっけ」

 

『ぶぅー。ちゃんと聞いて下さいよ。結構重要なんですから』

 

「重要?」

 

『はい。捕まえてた方々が漸く吐いてくれたんですけど、どうもきな臭いんですよね』

 

「きな臭い?」

 

『彼等、どうも五人だけじゃないらしいです』

 

五人だけじゃない?他国も合わせて二十五人も居たっていうのにまだいるのか。

 

「後、何人だ?」

 

『二十五人です』

 

「は?」

 

『二十五人です』

 

「いや、聞こえてるぞ」

 

二十五だぁ?二倍いるじゃねえか。いくら一人ずつ潰すのが面倒だったから、あえて警備レベルをさげてやったからってどうやったらそんな人数入ってくるんだよ。馬鹿なんじゃないのか。

 

「それで?後二十五人(笑)は……探す必要は無さそうだな、これ」

 

『副会長?』

 

扉の前に大量に待ち伏せてらっしゃる。あの五人のうちの誰かが俺の人外っぷりを伝えたらしいな。隠密任務で幸いにもこの付近に俺以外がいないとはいえ、其処まで集まってたら隠密もへったくれもあったもんじゃない。

 

「楯無。決勝戦開始まで後何分だ」

 

『十分ですけど…………流石にその人数を一人で相手にするのは無理があるんじゃ……』

 

「生憎、皆大好き副会長サマなんでな。これくらいは一人で出来るさ。それよりもあいつら寝かしつけたら後は宜しくな」

 

『ちょっ………副会長⁉︎』

 

一方的にプライベート・チャネルを切る。そろそろ仕掛けてきそうだしな。

 

「てな訳で、挨拶代わりの一発目だこの野郎!」

 

俺は全力の蹴りで扉を蹴破る。すると扉に張り付いていたであろう男二人が吹っ飛び、壁と扉に挟まれる。

 

「やあ、侵入者諸君。俺流の挨拶はお気に召して………おっと」

 

ポカンとしている侵入者の中にも一人思いのほか立ち直りの早い奴がいた。金髪ロングの女性なのだが、浮かべている表情に獰猛さが滲み出ている。

 

「へぇ、ちったぁやるじゃねえか。噂は本当みてえだな。傭兵くずれ」

 

噂ってなんだ。傭兵くずれってなんだ。俺は表の世界しか知らない至って健全な男子高校生ですよ。

 

「おい、てめえら!何ぼさっとしてやがんだ!この餓鬼を半殺しにしてでも連れて帰るのが私達の任務だろうが、ビビってんじゃねえぞ!何ならこの餓鬼にのされる前に私が殺してやろう、か!」

 

そう言って目の前の金髪は横で間の抜けた表情をしていた男の額ににサバイバルナイフを突き立てた。男はまるで糸が切れた人形のようにその場にくずおれる。目の前で人が殺されるというのはなかなか来るな。しかもこの後始末を楯無に任せるとなると尚更だ。

 

残る二十二人。九分以内に片付ける!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いよいよですね………)

 

第二アリーナAピットにて、真耶は一人瞑目していた。

 

今までの試合を全て五分以内に敵を倒している真耶の実力はかなり高い。だが、次の対戦相手たるミハエ・リーリスは全試合二分以内に片をつけている。単純な話、真耶が一試合を終わらせるまでにミハエは二試合終わらせる事が出来る。これだけでも真耶とミハエの間には純粋な実力差がある。

 

そして真耶のスタイルは中遠距離によるヒットアンドアウェイを駆使しつつ、隙を見つけ、其処に最大火力を叩き込むもの。それはミハエも同じなのだが、彼女は将輝と戦っていることもあるせいか、アウェイのタイミングでも攻撃の手を緩めない為、ある意味真耶の戦闘スタイルの上位互換がミハエの戦闘スタイルなのだ。

 

そこに経験の差も重なってくると真耶の勝率は格段に低い。今までの一般生徒の中でも圧倒的に高いが、それは一パーセントが十パーセント付近にまで上がっただけの話。結局の所、一割程度でしかない。

 

将輝や静であるならば『一割あれば上等だ』と言い切るが、千冬やミハエ、そして真耶はそうではない。十回中一回しか勝てない。『九回も負けるのであればそれは負け戦も同義』という。実際、実戦でそんな低い確率に賭けるというのは無謀極まりない。そして後三分後、真耶はその無謀な賭けに挑戦しようとしている。

 

(大丈夫でしょうか………私がリーリス先輩に勝てる見込みはほぼ無し。もし負けたら私は先輩に恩返しが出来るチャンスを失ってしまう…………そんなの嫌です!今ある私は先輩がいたからこそ、他の誰かじゃダメだったんです。私を変えてくれた先輩の為に………そして私自身の為にこの試合には絶対に勝つ!)

 

自身がこのトーナメントを制覇する為の決意を再度確認した真耶は気合いを入れるように頬をパシンと叩き、第一世代型IS『鋼』を身に纏い、アリーナへと飛び立つ。

 

大観衆がいるにもかかわらず、アリーナは異様な静寂に包まれている。

 

そんなアリーナの中央で金色に輝くIS『セラフ』を身に纏っているミハエ・リーリスは主武装である二メートル超のスナイパーライフル《ゴッドフリート》を展開して、静かに佇んでいた。

 

「お待たせしてしまってすみません」

 

「構わないわ。後輩を待つのも先輩の務めよ。それにこれが最後の試合なのだから、後の事は何も考える必要は………いえ、一つだけあったわね。私にも貴方にも考える事が」

 

「…………生徒会の事、ですか?」

 

「ええ。私も貴方も彼を愛している。そしてその想いが強かったから、こうして決勝戦の舞台で顔を合わせているわ。当然実力も彼等程ではないけれど、それなりに強いという証明よ」

 

「リーリス先輩に比べれば、私なんて大したことはありません」

 

「そう?なら、降参するのかしら?」

 

「しません。例え、殆ど勝ち目が無いとしても、私はーーー」

 

あの人の傍にいたいから。

 

試合開始のブザーが鳴ると同時に真耶は両手にアサルトライフルを呼び出して撃つ。

 

ミハエは二挺のアサルトライフルから放たれる弾丸の嵐をひらりひらりと華麗に舞うように躱す。そして、本来なら両手で撃つべき筈のスナイパーライフルをあろうことか片手で真耶めがけて撃ち放った。そんな事をすればかなりブレる筈なのだが、そのブレによる誤差を計算しての射撃は正確無比の一撃となり、足装甲を奪い取った。

 

(あの中で一番防御意識の薄い所を正確に攻撃してきた⁉︎でも、まだそんなに慌てるダメージじゃない。この人は今までの試合もまずは相手の冷静さを奪ってから勝負に出てきた。冷静さを失えばこの人には絶対に勝てない!)

 

(少し手元が狂った……?いえ、僅かにだけれど避けられたわね………面白いじゃない)

 

「これならどうかしら!」

 

ミハエはもう片方の手にハンドガンの副武装《メズマライズ》を呼び出し、スナイパーライフルで牽制しつつ、真耶の持つ得物を撃ち抜いた。

 

「ッ⁉︎」

 

爆発する直前に真耶はアサルトライフルを投げ捨てる事でダメージは免れ、そして次に彼女はミサイルポッドをミハエに向けてーーーではなく、空中に撃ち放つ。

 

「?」

 

ミハエは真耶のした行動に眉をひそめる。ちょうどミハエを囲うようにして放たれたミサイルポッドはボンという音を立てると煙を噴き出すとあっという間にアリーナの大半を覆う。

 

(目眩ましのつもり?確かにこれでは位置と攻撃のタイミングは特定出来ても何をしているかまではわからないわね。けれど、それは彼女も同じはず…………?)

 

その時、ミハエは煙の中に何かが混じっている事に気がついた。さらさらとした粉のような物だ、そう思った時、彼女はハッとする。

 

(本命は目眩ましじゃない!本当の狙いはーーー)

 

粉塵爆発(これ)ならどうですか!」

 

ミハエが気づくのとほぼ同時に真耶の投擲したグレネードが煙の中で爆ぜ、そして凄まじい爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「粉塵爆発だねぃ」

 

「粉塵爆発?」

 

「そ。大気中にある一定濃度の可燃性の粉塵。例えば小麦粉なんかが浮遊した状態で火花なんかに引火したら大爆発が起きるっていう寸法さね」

 

観客席の一角。静とヒカルノは目の前で起きた大爆発について話をしていた。本来、彼女達も見回りをしているはずなのだが、数分前に将輝から「標的は全員釣れたから試合を見ててもいい」との連絡が入った事で彼女らも試合を観戦する事となった。

 

「しかも爆風で未燃焼の粉塵が舞い上げられて、また爆発が起きるなんて二次災害も良くある話だにゃぁ。ま、バリアーで囲われてるアリーナなら問題ないけどねぃ」

 

その分、風が吹かないから破壊力も絶大だけどナー。とヒカルノは付け足す。

 

実際、あの大爆発に巻き込まれれば無事では済まない。もし、自分があの場にいたらと考えると静は背筋に嫌な汗を感じるーーーどころか、高揚を覚えていた。

 

「私も参加したかった……」

 

「私達主催だから無理だよん」

 

「わかっているさ。しかし、こう熱いバトルを繰り広げられると身体が疼くというか……」

 

「身体が疼くって響きが卑猥だナー。今度将輝の前で言ってみるかにゃぁ」

 

「からかい甲斐がありそうだな」

 

試合をよそになはははは、と笑う二人。彼女達とて試合に興味がないわけではない。それどころか先程から全く関係のない話になってからも視線は爆煙から一度も逸らされてはいない。

 

そして爆煙が徐々に薄れ始めた頃、一筋の閃光が真耶のISの肩装甲を撃ち抜き、弾き飛ばした。

 

「四割というところか?」

 

「いんや、六割と見るねぃ。気づくのがコンマ数秒遅かったし。まあ、後一秒遅れてたら決まってたかもナー」

 

煙の中から出てきたのは所々ISの装甲を破損させているミハエだった。鮮やかな金色は爆発のせいか、やや黒ずみ美しさが消えている。

 

「形成逆転………と周りは思っているだろうが………真耶はおそらく」

 

「万策尽きたかもねぃ。多分、あれが奥の手だろうし」

 

今の今まで使わなかった手をこの状況で切ったのだ。そう見るのが妥当。そして奥の手を使うまで真耶は押されていたのだ。ほぼ詰んでいる、と言っても過言ではない。

 

「良い線までいって…………ん?」

 

「どしたよ、静」

 

「いや、真耶の動きが何かを狙っているような気がしてな」

 

ミハエの攻撃を只管避け続ける真耶に静は僅かながらに違和感を感じるもそれが何なのかわからずにいた。

 

「この状況で?まーやん打つ手ないと思うけど………」

 

「その筈だが………私の気のせいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(結局、将輝は間に合わなかったようだな)

 

試合の解説役をしながら、本来ここにいるべき人物が未だに姿を現さない事に千冬は少し心配していた。

 

基本的に将輝は有言実行だ。少し前に「試合までに片をつける」という連絡が来てからそれ以降返事がない。

 

(殊の外相手が強かったか、想定外の事態に陥ったかのどちらかだろうな。どちらにしてもこれはこれで良かったのかもしれない。これから真耶がしようとしている事を考えれば、将輝は確実に気づく)

 

「先程の粉塵爆発の直後、リーリスさんの攻撃を山田さんは反応出来ていなかったようですが、どうしてでしょうか?」

 

「おそらく真耶は今の一撃で決める覚悟だった。だが、それよりもミハエの方が上手だった。何かしらの方法で凌ぎ、真耶にとってはそれが想定外だったという事だろう」

 

「確かにあれ程の爆発、凌ぎ切られるのは想定外でしょう」

 

「だが、どんな時でも想定外の事態を想定して、次の手を考えておかなければならない。その点、まだまだ真耶は経験の浅さがあると言わざるを得ない」

 

「でもまあ、今のは仕方ないんじゃないか?俺もあれをミハエが凌ぐのは想定外も想定外だよ」

 

管制室に姿を現したのは一足遅れで到着した将輝なのだが、服が所々破れ、其処から露出している肌は多少なり切り傷を負っていた。

 

「おおっと、ここで遅れて副会長が到着しました!肌が少しだけ露出しているというのが何処となくエロいです!眼福です!今日一日実況役をした甲斐があります。鼻血が止まりません!」

 

「だ、大丈夫?保険室に行った方が良いよ」

 

「お構いなく。これでも放送部部長!血の一リットルや二リットル流れたところでどうってことはありません!」

 

「そんなに流れたら死んじゃうから」

 

ドバドバと滝のように鼻血を流している所為か、管制室が軽く殺人現場のようになってしまっているが、お構いなしにテンションMAXで実況を続ける。

 

「私同様、二人の試合もヒートアップ!そろそろ試合もフィナーレが近いようです!さて、ここで会長と副会長に聞きたいと思います!ズバリ!勝つのはどちらと予想されますか⁉︎」

 

最早、放送部というよりも新聞部ばりにずずいっと放送部部長。そんな気迫に僅かに気圧されながらも将輝と千冬は口を揃えてこう答えた。

 

「「真耶」」

 

「おおっと!これは予想外です!会長、副会長共にやや劣勢気味の山田さんを勝者と予想しています!それでは理由を聞いてみたいと思います。まずは会長から!」

 

何故か副会長よりも先に会長が先に説明を要求するのはこの学園ではご愛嬌。ツッコむ事はない。

 

「これといって深い意味はない。ただ、何となくだ」

 

「意外や意外。織斑会長は特に理由はないようです。では、次は副会長どうぞ!」

 

「彼女は何か秘策を隠しているみたいだから、それが成功すればミハエのエネルギーを削り切る事が出来るんじゃないかな…………何処かの誰かさんが真耶に入れ知恵したみたいだからな」

 

「ッ⁉︎」

 

最後の部分だけ将輝は千冬の耳元で小声で話す。

 

「ま、将輝、これは……その……」

 

「うん?どうした?織斑会長。そろそろ『あれ』を使うみたいだから、完成度の高さを見ておく必要があるんじゃないかな?」

 

「いや、その前に………」

 

「お・り・む・ら、会長。お話は後でたっぷりしてあげますから、今は試合ですよ」

 

「は、はい………」

 

「そこはかとなく主従関係が逆転しているような雰囲気ですが、副会長の言う通り!今は試合に注目しましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(粉塵爆発だなんて、気づくのが後一歩遅ければ手遅れだったでしょうね)

 

ミハエが先程の粉塵爆発から助かった理由は二つある。

 

一つ目は軍人であるが故に彼女が粉塵爆発の事を知っていた為だ。彼女自身、戦場に出て見たわけではないが、父や祖父から何度か聞かされていた。粉塵爆発の恐るべき破壊力を。だから彼女は爆発するよりもほんの僅かに早く察知し、対処する事が出来た。

 

二つ目は彼女の対処の仕方だ。気づけたとはいえ、爆発の数瞬前、スラスターを吹かせたところでその場からの離脱はほぼ不可能。だが、防御なら話は別だ。彼女は搭載こそされていたが、今の今まで全く使うことの無かった実体シールドを前方に展開し、爆発の被害を抑えた。焼け石に水とも思われかねないが、この実体シールドは思いの外厚く、強固に作られていた為、全損するダメージを六割超程度まで抑える事に成功した。

 

とはいえ、ミハエとしてはこれ程の大ダメージを与えられたのは将輝以来で動揺はしたが、粉塵を紛させるために煙幕を張ってくれていたお蔭で立ち直るまでの時間は容易にあった。

 

(盾はもう使い物にはならないけれど、使う必要はもう無いから関係ないわね」

 

副武装は盾展開時に捨ててしまった為、手元には無いものの、主武装たる《ゴッドフリート》は未だ手元にあり、まだ他の武装も残っている以上、追い詰められてはいない。

 

(彼女が私の不意をつけるような何かしてこない限り、私の勝ちね)

 

攻撃を避け続けている真耶は回避に専念しているというのにじわじわとシールドエネルギーを削られていた。

 

万策尽き、打つ手がないため、その為の時間稼ぎをしているという訳ではない。確かに先の粉塵爆発では手応えがあり、攻撃された際にはISの警告音が鳴っていたにもかかわらず、避ける事が出来ずに二割ほど持って行かれた。こうして避け続けている間にも確実にエネルギーは消費されていて、そろそろ半分を切ろうとしていた。

 

だが、真耶は焦らない。本当の奥の手を使うタイミングを追い詰められながら虎視眈々とその瞬間を狙っていた。

 

以前、真耶は何とか自身のIS操縦の参考にならないかと過去のIS戦闘の動画を観ていた。そのどれもが生徒会の圧倒的強さにより、ありとあらゆる手が通用せず、唯一通じたのが同級生、更識楯無の自爆特攻だった。そしてその自爆特攻でさえ、将輝のシールドエネルギーをほんのちょっと削る事しか出来なかった。楯無の自爆特攻から実力者相手には防御が困難な超近距離からの攻撃、或いは全方位からの爆発が有効であると見出した。だが、彼女が過去のIS戦闘から見出したのはそれだけではなかった。

 

真耶の駆るIS『鋼』のエネルギー残量が三割を切りかけた時、チャンスは訪れた。

 

ミハエは相手を攻撃する際、多少なり精度は落ちるが片手で連射するように撃つ。それはスナイパーライフルから放たれるのが実弾ではないために反動がない故だが、リロードはする必要がある。既存の兵器とは違い、リロードするのはほんの一瞬の出来事ではあるが、それでも一瞬だけ確実に攻撃は止む。真耶はそのタイミングをずっと観察していた。

 

(三、二、一………このタイミング!)

 

ミハエがリロードするタイミングで真耶が使ったのは紛れもなく『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』だった。

 

二週間前、千冬と話していた時、真耶は聞いた。将輝が楯無戦で使ったあの瞬時加速を千冬も使えるのかと。そしてその質問に対する答えは是だった。生徒達は知らない事だが、将輝と千冬は何度か試合をした事がある。結果は四勝二敗で将輝が勝ち越している状態だが、そんな中で千冬もまた将輝に教えを乞うた。如何に使えないものかと。そして幾つかある内の一つを千冬は真耶に教えた。それが瞬時加速。

 

近接格闘を主とする千冬にとっては重要な技能。しかし、中距離射撃型の真耶にはあまり必要ではない技能。何故なら真耶にとって自ら距離を詰めるというのは悪手以外の何物でもない。

 

だが、相手が同じく中距離射撃型であり、その戦術を心得ているミハエにとってその悪手は不意を突くには絶大な効果を発揮した。

 

瞬時加速を使用すると同時に両手に一メートル超の近接ブレードを展開し、予想外の出来事に身を硬直させたミハエに肉薄する。

 

「やああああ‼︎」

 

一撃目が入り、二撃目が入りかけた時、ミハエはスナイパーライフルを収納し、その手に近接ブレード《エクスカリバー》を展開し、真耶に振り下ろすが、二つのブレードでそれを受け止める。

 

「驚いたわ……近接格闘戦を挑んでくる事もそうだけれど、まさか彼と同じ技能を習得しているなんて……!」

 

「私は先輩に勝たなければいけません………!他ならない私自身の願いを叶える為に……!」

 

「それは私も同じよ。私も彼の傍にいたいもの……!」

 

「「絶対に負けない‼︎」」

 

そうして二人の激しい剣戟戦が始まった。

 

近接格闘が本分ではない。二人とも苦手という訳ではないが、やはり中距離戦こそが彼女達のスタイルなのだが、現時点では二人とも互いに離れることは出来ない。一度離れてしまえば成功率半々の瞬時加速ではもう一度距離を詰めようにも失敗する可能性もある以上、ここで決めておきたい真耶。距離を取って、再度瞬時加速の突進力を利用した一撃を食らえば、隙を生じる事になりかねない以上迂闊に距離を取れないミハエ。故に二人は自らの土俵ではない近接格闘戦を繰り広げる事になった。

 

(あちらの方が手数は多いけれど、一撃はこちらの方が重い。なら、このまま押し切る!)

 

(このままじゃ押し切られる⁉︎ここは一旦距離を………ダメ!距離を取ったら確実に負けてしまいます!ならば此方も!)

 

スラスターを吹かせ、力で押し切ろうとするミハエに対し、真耶も同じようにスラスターを吹かせる。本来であれば性能差故にミハエが押し切るのは確実だが、真耶は一か八か、再度瞬時加速を成功させてミハエを押し切る。しかし………

 

ガギンッ!という音と共に二人の距離が離れる。瞬時加速の推進力が予想以上の力を生み出してしまったのだ。

 

偶然にも出来た好機をミハエは見逃さない。ブレードを収納し、ライフルを展開すると真耶の胴体に照準を合わせる。

 

(この距離とエネルギー残量なら何処を狙っても同じ!)

 

(距離が開いた⁈射撃兵装に……違う!この距離ならこっちの方が速い!)

 

真耶が手にしていた二本の近接ブレードが投擲され、ミハエもまた引き金を引く。

 

その直後にブザーが試合終了を告げ、管制室から実況である放送部部長……ではなく、将輝の声が聞こえた。

 

『試合終了。勝者ーーーミハエ・リーリス』

 


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