IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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日常

 

「だああああ!忙し過ぎて死にそう!」

 

普段の二倍以上の書類の山を捌きながら、俺は頭を抱えていた。

 

因みにその大半は一ヶ月後のトーナメント戦の事だ。設備の事だったり、一時的に貸し与えたISだったり、トーナメントを見物しにくる各国のお偉いさんの事だったりと取り敢えず面倒な事ばかりだ。肯定しておいてなんだが、もう嫌になる。

 

「文句言わないで下さい、副会長。それに以前はこれよりも多い書類をこなしていたそうじゃないですか」

 

「そうだけどな。最近はあんまり多くなかったからな」

 

一年の時はそれはもう凄まじい量だったが、其処まで大したものはなかったし、流し見程度で良かったのだが、今回のものは慎重に見ていかないと無茶苦茶な事を書かれていたら大問題だ。

 

「そういえば織斑会長と黒桐書記は何処に?」

 

「トーナメントに出場する生徒達の指導を任せてる。あの二人は俺と違って教えるのが上手だからな」

 

「篠ノ之博士と篝火会計は?」

 

「あいつらにはかなり無理してもらったからな。負担はかけられねえよ」

 

「それなんですけど、何頼んだんですか?」

 

「訓練機をトーナメントに参加する人数分揃えてもらうことだ」

 

「えぇっ⁉︎それをたった三週間でですか⁉︎」

 

俺と同じくデスクワークをしていた楯無が思わず立ち上がったが、驚くのも無理はない。

 

学園にある訓練機は全部で五機。トーナメントに参加する生徒は専用機持ちを除いて十七名と三分の一も乗れない。準備期間が僅か一ヶ月しかないというのに満足に訓練機による特訓が出来ないとなると専用機持ちには百パーセント勝ち目はない。それこそ俺の時のように武器を使わないというハンデを持たない限り。しかし、そんなあからさまなハンデをつけた状態で専用機持ちでないものが勝ったとして、はたして生徒会に相応しい人間なのかどうかはわからない。となると一番手っ取り早くのが、そもそも専用機持ちを参加させないか、専用機を使わせない事だが、それもそれで問題だ。なので一番困難であり、専用機持ちではないものに多少なりと負担をかけることになるが、訓練機を人数揃え、かつトーナメントには参加しない実力者たる千冬と静に指導をしてもらう事にした。本当なら俺も書類を捌きながら指導に回るべきなのだが、いかんせん俺には教える能力が欠如していて、千冬や静は秀でている以上、二人に任せるほかない。

 

「かなり無茶な事を頼んだっていうのに、達成してくれた束とヒカルノには感謝しなきゃな」

 

「一応聞きますけど、篠ノ之博士と篝火会計には何かしてあげるんですか?」

 

「寝るまで頭撫でながら腕枕」

 

二人同時には無理なので交互にという話になったのだが、本当にこんな簡単なものでいいのだろうか。もう少し欲を言われても叶えられる範囲で叶えるつもりだったのだが。

 

「副会長大丈夫なんですか?最近『理性が〜』的な事を言っていたのに」

 

「寝るまでだしな。なんとかなるさ」

 

「あー、真に受けているところ悪いんですけど、本当に篠ノ之博士と篝火会計が寝るまで(・・・・)で逃がしてくれると思います?私が二人の立場なら起きるまで(・・・・・)は逃がしませんけど」

 

……………や、やってしまった。

 

何を俺は勘違いしていたんだ。絶対にあの二人が……いや、七人全員に言えることだが、その程度で終わらせてくれるはずがない!楯無の言う通りだ。起きるまでは百パーセント逃がしてはくれないだろう。方法でいえば抱きついて離れない的な。束はオーバースペック筋力で、ヒカルノは力無いのにどういう訳か離れない。ギャグ補正というやつだろうか。

 

「ま、まあ、無茶な事頼んだし?これくらいは許容してやらないと……」

 

「声震えてますよ」

 

五月蝿え!俺だって勘違いくらいする時あるわ!ていうか、いっそ当日まで知らない方が幸せだった。

 

「まあ大丈夫ですよ。いざという時は私にその余りある性欲をぶつけて下さっても構いませんから。いっそ壊してくれてもOKです」

 

「いや、それ根本的な解決になってないから。第一、誰か抱いたら必然的に残る六人も抱かなきゃいけなくなるから、せめて学生時代だけは回避しようとしてんのに、お前にぶつけてどうするんだ」

 

「………チッ、ばれちゃいましたか」

 

「おい、今舌打ちしたろ。そんな事するやつは秘書クビにし「ごめんなさい。私が悪かったので許して下さいなんでもしますからぁ!」じゃあ、もっと手を動かせ」

 

変わり身早えな、おい。しかも椅子から流れるような動作で土下座した。かなり洗練された動きだ。

 

「ぶぅー、美少女が何でもするって言ってるんですから、其処は『ぐへへ、ならまずは裸になってもらおうか』とか言わないと」

 

「この部屋に盗聴器と盗撮カメラがなくて、お前が携帯で録音しようとしてなかったらしたかもな」

 

「ギクッ」

 

はぁー、バレてないと思ってたのか。まだまだ甘いな。少なくとも俺からそういう言葉を吐かせた上で言質を取りたいなら臨海学校時の束並みの事をやってのけない限り無理だ。あれは束の本心を使った演技だから、見破るのはまず不可能だ。またされたら疑うけど言葉には出せないだろうな。

 

そうこうしているうちに辛うじて半分終わった。残り半分一気に終わらせたいところだが、その前に束とヒカルノにどうしても聞きたい事があった。

 

「楯無。悪いけど、俺は束とヒカルノの所に行ってくるから、仕事任せる」

 

「マジですか………流石に無理ゲーな気が……」

 

「もし俺が帰ってくるまでに終わってたらご褒美「任せられました!何でもバチこいです!」お前ほんとに欲望に忠実だな」

 

さっきまでとは違って鬼神のごときスピードで仕事を始めた。うん。欲望に忠実で宜しい。この勢いがいつまで続くかは知らんが、多分終わらせるだろう。根性で。その時のために何してやるか、考えてやらないとな。そう考えつつ、俺は生徒会室を後にし、寮へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り敢えず束の部屋には来たものの、あいつ起きてるのかな。

 

ノックをしてみるが反応なし。鍵は……開いている。何で?

 

「ったく、無用心過ぎ「まぁぁぁぁくぅぅぅぅん‼︎」おっと」

 

そんな事だろうとは思っていたが、扉を開いた途端、束が飛びついてきた。普段なら躱すところではあるが、今回ばかりは受け止めてやる事にした。

 

「わーい!まーくんが漸く私の愛を受け止めてくれた!じゃあ次は育む所から……」

 

「まだ早えよ。つーか、愛なら何時も受け止めてやってるだろうが」

 

言わせんなよ、恥ずかしい。これでも一応そういう覚悟くらいは決めてるつもりだ。

 

「きゃっほーい!まーくんがデレたー!」

 

「そうだな。デレデレだな。わかったから本題に入っても良いか?」

 

「んー、良いけど……もうすぐかな」

 

「もうすぐ?……ああ、そういう事か」

 

今度は真横から人が飛んできた。言わずもがな、目的の人物であるヒカルノだった。右腕で束を受け止めたまま、左腕のみでヒカルノを受け止めるのにはなかなか技術が必要だが、俺からしてみれば案外簡単だ。それよりもだ。よく俺がここにこの時間に来るのがわかったよな。予定よりも早くに来たってのに。

 

「まーくんなら予定よりも早くに来ると思ってたからね」

 

「私達ならどれくらいの時間に来るかも予測出来るぜ!」

 

なんだそりゃ。俺、こいつらとは鬼ごっことかかくれんぼとかしても勝ち目ないな。どれだけ逃げても隠れてもすぐに包囲されるし、見つかるだろうし、鬼になっても先読みされて永遠にエンカウントしない。まあ、呼びに行く手間が省けたし、それはそれで良いか。

 

「一旦、部屋の中に入るぞ。立ち話するのもなんだしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、一先ずはお疲れ様……と言いたいところだが、こんな短期間で十体以上のISをたった二人で造った訳だが、大丈夫か?」

 

「それは私達の事?それともISの事?」

 

「両方だ」

 

まあ、心配の割合でいえば7:3くらいだけどな。いくら天才二人とはいえ、脳味噌はともかく身体の方の限界はかなり早いはずだ。例え始めからコアだけは用意していて、造るのが第一世代の機体だとしても三週間で十二体も造るのはかなり無理がある。おそらく殆ど寝ていないだろうに。

 

「其処はお前達って言って欲しかったけど………まあ、まーくんの心配はわからないでもないよ。実際、急造で用意した訳だから、ちょーっと微妙なんだよね」

 

「具体的には?」

 

「性能的に時間をかけて準備された専用機には大なり小なり確実に劣ってるって事。まあ、まーくんの言う通り、安全性は第一に考えて造ってるから事故とかの危険性はないよ」

 

「ならいい」

 

鼻っから条件全部を五分五分に出来るだなんて思っていない。始めから出来る限りハンデをなくす事が目的だったからな。もし本当に専用機持ちとそうでないものの差をゼロにしようとするなら準備期間に半年は必要だ。だが、そんな事をしていては色々と遅いし、一応専用機持ちには試合の一週間前まで修練の類いは禁止しているのでなんとかなるだろう。後はトーナメントに参加する生徒達の努力次第だ。

 

「それはそうと本当に良いのかよ、将輝。この条件じゃ、まーやんが生徒会に入るのは結構厳しいと思うんだけど」

 

「仕方ないさ。あくまでもチャンスは平等に与えないとな。それにもし真耶が生徒会に入る事が出来れば、その時は一回り成長してるだろうさ」

 

「とかなんとか言って本当は心配してるんだよな。将輝は過保護だから」

 

「馬鹿。過保護じゃねえよ。真耶は必要以上に心配しちまうんだよ。こう、雰囲気的にな」

 

「あー、それはわかるかも」

 

「まーやん小動物系だからナー」

 

納得と言った表情で二人は頷いた。断じて過保護などてはない。山田真耶という人間はもう保護指定をかけていいレベルの生物だ。癒し系万歳。

 

「ところで将輝とタバねんはこのトーナメント。誰が優勝すると思う?贔屓目抜きで。因みに私はミハエだと思う」

 

「私もミハっちかな。唯一まーくんと闘える相手だし、マヤマヤに限らず他の生徒にはもキツイ相手だと思うなぁ」

 

確かに順当にいけば勝つのは十中八九ミハエだ。代表候補生であり、専用機持ちである上に試合経験は生徒会を除けば群を抜いて高い。それは偏に事あるごとに俺に挑み続けてきた副産物ではある。

 

「俺もこのままいけばミハエだと思う。実力も十分高いし、経験も申し分ない…………が、俺は真耶だと予想しておこう」

 

「ほえ?なんでさ?」

 

「そうそう。まーやんには悪いけど、勝てる見込みは殆どないと思うにゃぁ」

 

「まあな。でも試合はやってみないとわからないだろう?それに俺は真耶が勝てる見込みは十分あると思う」

 

何故なら真耶はーーー


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