IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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神のみぞ知るセカイ

 

夏休みの前日。

 

本来ならしないのだが、今日は特別集会を開く事にしていた。

 

理由はただ一つ。少し前に内々で取り決めていた生徒会入会をかけたISトーナメントについてだ。

 

手回しは既に完璧。それに俺の頼んでおいた事も何とか間に合った。その所為で束もヒカルノもかなりグロッキー状態だった為、今日の集会は欠席させた。実際集会といっても殆どISトーナメントについての発表と説明しかしない訳だし。

 

「では我等が藤本副会長からの重大発表です!」

 

最早定番と化しているテンション高めの放送部の女子からの紹介を受けて壇上に上がる。それと同時に毎度のごとく歓声が上がり、会場が揺れる。これにも随分と慣れたものだ。しかも皆マイクの前に立つと静かになってくれるから嬉しい。

 

「あー、皆さん。夏休み前日だというのにこんな集会を開いてしまって申し訳ない。どうしても今のうちにいっておかなければいけない事だったから。理由はどうであれ、皆さんの中の多くは我が生徒会に入りたい。そう思っている生徒ばかりだ。俺としても皆の意思を尊重したい………が、幾ら何でもそんなに大勢の生徒を生徒会に入会させてしまえば、生徒会は組織性を失ってしまう。其処で!俺が考えたのはこれだ!」

 

パチンと指を鳴らすと一番後ろの生徒にも見えるように特大の投影ディスプレイが現れる。そして其処にデカデカと書かれていたのは『生徒会主催‼︎ISトーナメント‼︎』の文字。

 

「俺達生徒会が主催のISトーナメント。事前に言っておいた通り、先週行ったテストの結果、上位十名にのみ参加権を与える。学年で分けることはしない。優勝者は一、二年生を合わせてただ一人だ。当然俺たちは参加しないが、このままだと二年生のそれも専用機持ちは圧倒的に有利だ。完全に出来レースになる。そう思っている生徒もいるだろうが心配はいらない。専用機持ちを除いた出場権を持つ生徒にはそれぞれ訓練機を貸し与える。期間はトーナメントが終わるまで。謂わば即席の専用機持ちというわけだ。後でリセットするので『初期化』と『最適化』も出来るようになっている。それとハンデとして専用機持ちはトーナメント開催一週間前から特訓をする事とする。そして皆が気になっている優勝賞品とはーーーズバリ、生徒会入会権だ」

 

しーん………と静まり返っていたホールは一呼吸置くと今まで以上の大歓声に包まれた。それこそ窓ガラスが割れるのではないかというくらい振動しているし、俺も今は耳が若干聞こえづらくなっている。予想以上の反応だ。

 

「トーナメント開催は約一ヶ月後だ。出場を逃してしまった者は出場者のサポートに回ってくれると助かる。俺達も出来うる限りで助力は惜しまないが、あまり個々に何かを教える事は出来ない。贔屓になってしまうからね。一ヶ月後のトーナメントまで各々自身を磨く事を怠らなかったものこそが優勝を掴み取る事が出来る。皆、悔いを残さないように精一杯頑張ってほしい」

 

後はトーナメントについての説明か。参加しない生徒には悪いけどもう少しだけ付き合ってもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何時もながら、先輩は堂々としてますね。流石です)

 

壇上で雄弁に語っている(ように真耶には見えている)将輝を見て、真耶は深く感心させられていた。

 

真耶だけではなく、他の生徒達も将輝を見る目には尊敬の念はあれど軽蔑しているようなものは全くない。それもそのはずで実は将輝が知らないだけで将輝に関する噂は凄いことになっていた。

 

曰く、学園の実質的支配者や一人で世界を相手に戦争が出来るなどあり得ないにも程がある噂なのだが、いかんせん今までの経緯からそれを否定する者は誰もいない。実際、紆余曲折を経て殆どの決定権を持っている将輝は学園長に匹敵するの権力を有しているし、将輝一人では無理はあっても生徒会でならば世界を相手に戦争を起こしても十中八九勝つ。そしてそれは将輝が彼女らに呼びかければ考える必要性もなく実行に移す為、此方の噂もあながち間違いではない。

 

人類最強と称されている将輝の事を生徒達は畏敬の念を抱くと同時にそれ以上に藤本将輝という人間に対して憧れを抱いている。かくいう真耶もその一人なのだが、こうして彼が皆から好意を向けられ始めるよりも前に将輝の事を知っていた真耶には他の生徒とは違う感情もまたあった。

 

(先輩が私達の為に無理をして開催してくれたトーナメント…………絶対に優勝してみせます。そうしたら改めて先輩に………)

 

其処まで考えて真耶はボンッと顔を真っ赤に染める。

 

(ち、違います!こ、これは先輩達の頑張りを無碍にしない為で、決して私だけの為に開催してくれた訳じゃ……)

 

『真耶。優勝おめでとう。これで君は俺の物だ』

 

『ふぇ⁉︎あの、それってどういう……』

 

『生徒会入会なんて大義名分さ。俺は初めから真耶が優勝するのを信じてたからね。そして真耶は優勝した………だから今から真耶に俺を刻みこんで上げるよ」

 

『そ、そんな先輩……大胆ですぅ……』

 

以上。十代乙女の妄想劇。普通に考えて将輝がそんな事を言うはずがないのだが、そうとわかっていても、もしかしたらと考えてしまうのが乙女の性なのだ。

 

(よ、良し。先輩の為に頑張って優勝しないと!そ、そして先輩と……)

 

にへ〜っと頬をだらしなく緩ませて真耶の妄想劇は続いていくのだった。尚、そんな真耶を壇上から見ていた将輝はというと………

 

(さっきから一人で忙しそうだな、真耶。一体何考えてるんだろう)

 

と割と真面目に心配していた。

 

そしてその真耶の座る位置とは全く正反対に座る軍人少女ーーーミハエ・リーリスもまたトーナメントについて表面には出さないまでも闘志を燃やしていた。

 

(予想外の出来事だけれど、これはチャンスだわ。何としてでも優勝して、生徒会に入会しないと……)

 

ミハエにとって、このトーナメントは謂わば棚から牡丹餅。将輝への好意を自覚してから彼女は自分だけ生徒会に入れていない事に僅かながら焦りを覚えていた(真耶の事をミハエは詳しく知らない)。そんな時に生徒会主催のトーナメント、優勝すれば生徒会へ入会出来る。ミハエからすれば最早それは天命とすら感じた。

 

何故なら過去幾度となく将輝に挑み、敗北する事で成長を続けてきた彼女にとっては他の生徒など敵ではない。生徒会以外で唯一将輝とのIS戦が成立する、というのは響きこそ地味であるし、勝てるわけではないと軽く見られがちだが、その実力は間違いなくトップクラス。将輝を筆頭に生徒会があまりにも強過ぎるだけで決して彼女が弱いわけではないのだ。

 

(これを機に織斑会長達に遅れている分を取り戻すわ。その障害となる者は………何としてでも叩き潰す)

 

そして軍人たる彼女に油断や慢心などは存在しない。目的完遂の為ならどんな相手でも全身全霊をもって排除する。以前からその意識が強かった彼女は将輝という存在を得る事で更に強いものとなっていた。

 

(一ヶ月後が楽しみだわ。将輝君、すぐに貴方の所へ行くから待っていてちょうだい)

 

そう心の中で宣言する彼女の意識は既にここにはなく、一ヶ月後のトーナメントへと向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「将輝の奴、人前に立つのが大分慣れたようだな」

 

「流石の自称『あがり症』の副会長様もこう何度も大勢の前に立てば慣れるだろうさ」

 

生徒達とは離れた席の教員達に用意された席と同じ場所に座っている千冬と静は壇上にいる将輝を見て、去年の事を思い出していた。

 

十一回。この数字が何を指すのかというと今年の入学式を含めたイベントで将輝が生徒達の前に立った回数だ。そしてその回数は千冬よりも多いのだが、それを指摘するものは将輝以外にはいない。実際には大半の生徒がそれに気がついておきながらスルーしているのが現状だ。

 

「全く……これだけしているというのに、何故将輝は会長になりたがらないんだ?」

 

「謙虚というか及び腰というか、まあここまで来れば副会長で良いのではないか?」

 

静の言う通り、ここまで来れば最早帰る道理はない上にIS学園限定では副会長というのは会長よりも偉いという認識が為されている。もちろん、千冬とてその圧倒的なカリスマ性で生徒達からは憧憬の念を抱かれてはいるのだが、其処にあるのは強大すぎる存在に対するもので将輝のように身近に感じる存在とは対極に位置する為、信頼から来るものとは言い難い。だが、本来のIS学園生徒会長とはそういう意味での存在なので、将輝よりも千冬の方が適任である事は確かだ。会長が畏敬を持って生徒を統べ、副会長は誰よりも生徒達に身近な存在として、会長を補佐する。二人にこれ以上の適役は存在しない。

 

「そういえば、織斑会長様は誰が勝つと見る?」

 

「普通に考えればミハエだろうな。だがーーー」

 

「不確定要素でもあるのか?」

 

「ああ。それが実力差を覆す程かはわからないがな。勝敗を覆す程では無かったが、前例はあったしな」

 

「……確かに。予想外という点では前例はあるな」

 

千冬の言葉に思案する静だったが、すぐに思い至りポンと手を叩く。

 

「どちらにしろ。生徒会に入るのは私達の知っている者になるな」

 

「ああ。その辺りは変わらないだろう。それこそ、将輝のようにイレギュラーが服を着て歩いているようなものでもない限りな。もっとも、将輝のような存在がもう一人いれば由々しき事態だが」

 

「違いない。あのクラスの化け物は一人いれば充分だ」

 

静もその意見には大いに賛成だ。しかし、将輝程のイレギュラー(未来からきたISを動かせる人外憑依系男子+知識もあるよ)レベルのイレギュラーなど早々いない。というか、いるとマズい。

 

「我ながら人を辞めているとは思っていたが、将輝と出会ってからはまだまだ甘いと認識させられたよ」

 

「私もだ。全力を出しても将輝を止められないからな。今までの相手なら片手で充分だったのに」

 

「まあ、その分ハートが弱いというか何というか」

 

「イマイチヘタレ感が否めないな。いっそ我慢せずに踏み出して欲しいものだ」

 

其処から二人は更にヒートアップする。最早集会などそっちのけで十分程話し込んだ所で二人の話は落ち着きを見せ、それと同時に集会も終わろうとしていた。

 

「ーーー以上で集会を終了する訳だが………織斑会長と黒桐書記は残るように。とーってもお話したい重要な案件があるので」

 

ニコリと満面の笑みでそう告げた将輝の額には綺麗な青筋が立てられていた。


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