IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜 作:幼馴染み最強伝説
「代表候補生の推薦?俺に?」
「ああ。私からそう伝えるように頼まれた」
放課後。生徒会室で書類の整理を行っている際、千冬からそう告げられた。
この時代。まだ国家代表という概念は存在しない。それ故に代表候補生が国家代表になるというのは苛烈を極める。その中でも千冬は日本の代表候補生で現在トップに君臨する訳だが…………俺が入った場合、おそらく国家代表は俺になる可能性が極めて高い。世界で唯一男でISを使えるというだけでも一目置かれる存在だというのに、まだこちらの世界では使われていない操作技術を持っていて、性能も現存するどのISよりも高い。いくら千冬が強くても、やはりその辺りの差は大きいだろう。
「つー訳で保留って日本政府に言っといてくれる?」
「わかった」
何も日本政府もすぐに返答は求めてないだろう。どうせ、日本人である以上、更識家のように自由国籍権でも持たない限り他国の代表候補生にはなれないのだから。遅くても、卒業までにはくらいのものだろう。
それにしても代表候補生……ね。一応その辺りは考えておくか。原作までにそれなりの地位を築いておいても損はないし、それ以前に起こるイベントもだ。
「そういや、一夏くん、元気してる?毎日電話してるんだろ?」
「………何故それを知っている」
そりゃ、千冬が超がつく程のブラコンだから。とは言えない。言ったら殴られる。千冬は身内ネタで弄られるのか嫌いだったからな。
「大切な弟が家で一人なら、姉が心配するのは当然だろ」
「釈然としないが………それもそうだな。ああ、一夏は元気にしているよ………電話をする度、将輝との関係は進展しているのかと聞かれるから困る」
「?悪い、もう一回言ってくれる?」
「な、何でもない」
電話をする度って所までは辛うじて聞こえたが、それ以降は聞き取れなかった。難聴になった記憶はないんだが…………まあ片手間で話をしてる訳だから、小声だと頭の中に入ってこないんだよな。まあ、元気にしているなら何よりだ。
「で、ずっとスルーしてたけど、何でこいつらのびてんの?」
俺は今の今まで全く言葉を発さずに机に突っ伏しているヒカルノと束を指差して聞く。こいつら?始めからいたよ。ずっと机に突っ伏して寝てるだけだ。
「寝る前に「三日三晩不眠不休で……」と言っていたが、何か徹夜で作っていたのではないか?ヒカルノも束もずっと部屋に篭っていたからな」
一仕事を終えて帰ってきた静がそう言う。天才二人がかりで三日三晩不眠不休?第二世代ISの制作にでも勤しんでいるのか?それなら良いが…………何だろう、嫌な予感しかしないんだが。
「千冬、静。ちょっと束の部屋までついてきてくれるか?何だか嫌な予感ーーー」
ドォォォォンッ!
突如起きた爆音に俺の言葉が遮られた。
因みにその音源はすぐ其処。つまるところ、生徒会室の壁が見事に消え去った。そしてその壁の向こう側から現れたのは……………一メートルくらいの二足歩行の兎達だった。
「「「兎?」」」
俺達の疑問に答えたのは在ろう事か、目の前の二足歩行兎だった。
「違う!我々は兎ではない!我々は束様とヒカルノ様によって生み出された超ハイテクロボットなのだ!」
「いや、どう見ても兎だろ」
「黙れ、人間!我々の何処をどう見て兎に見える!」
長い耳に突き出た前歯、赤い目に白い体。おまけに人参を頭に乗っけてる奴の何処をどう見れば兎以外の生物?に見えるのか。超ハイテクロボットとか言っていたが、もしかして阿呆なのか?
「ぬ?貴様今「こいつ阿呆なのか」と思ったな?」
「うん」
「少しは誤魔化せ!ええい!かくなる上は……」
兎は背負っていたバッグを漁ると、中からロケットランチャーを取り出した…………って、おい!どう見てもおかしいだろ⁉︎なんで幼稚園児の持つバッグみたいな奴の中から二メートルくらいある武器が出てくるんだよ!
「くたばれ、人間!」
「馬鹿!やめろ!ここにはおまえ達を作った奴らがいるんだぞ⁉︎」
「何……?」
流石に止まった「貴様、私に向かって馬鹿と言ったな!消え失せろ!」何でそうなるんだ⁉︎
「やっぱり阿呆だこいつ‼︎千冬、静、逃げるぞ!」
「逃げるって何処に!」
「取り敢えず何処かに!」
「束とヒカルノはどうする!」
「自業自得だ!くたばっても文句は言えねえよ!」
「ええい!逃がすな!撃てぇぇぇ‼︎」
俺達三人は爆音鳴り響く生徒会室から何とか逃げ出す。あぁぁ……また俺が怒られる………。そして死ぬ!さっきからロケットランチャーの弾がめちゃ飛んで来てるんですけど!本当あいつら三日三晩不眠不休で何てもん作ってんの⁉︎テロリストが来た時よりも酷い事になってるんですけど‼︎
「どうする、学園の守護神!学園を護らなくていいのか⁈後、私のポッキーも」
「相手が機械だからどうにも出来ねえよ!ていうか、何その異名、初めて聞いたんですけど!ポッキーはどうでもいい!」
「機械か………ならISを使うか?」
「良いのか、会長!それ条例違反の筈だけど!」
「非常事態だ。やむを得ん」
「会長からのお許しが出たぞ?学園の守護神?」
「了解だ!取り敢えずーーーぶった斬る!」
俺は走る足を止めず、先回りしていた兎ロボットを《無想》で叩き斬る。するとと、僅かに遅れてロボットは爆発した。死ぬ瞬間にキュ〜ッと鳴くのはやめてほしい。罪悪感があるから。
「千冬!静!」
「やってみせるさ!」
「光になれぇぇぇ‼︎」
千冬も自身の専用ISである『暮桜』の腕装甲と武装《雪片》を展開して両断する。静もまた専用IS『黒龍』の腕装甲のみを展開して、殴り潰した。
今言うのも何だが、生徒会の実働隊である俺達三人は皆、専用ISを所持している。生徒達の抑止力として、ISに乗っても難なく制圧出来るほどの実力を身に付けるため、代表候補生でなくとも専用ISを持つ事を許されている。もっとも千冬は代表候補生で俺は例外であるから、それに当てはまるのは静だけだ。因みに静の専用IS『黒龍』には剣や銃と言ったものが搭載されていない。初めから拳にはエネルギー波を生み出す装置が付いていて、それで攻撃する。射撃も拳から生み出したエネルギー波を飛ばして攻撃するのだが、どうにもエネルギー消費が激しい為、基本的にそれはここぞという場面でしか使わないそうだ。まあ、一応肩にはミサイルポッドが気休め程度についているらしいので、それで牽制するんだとか。おっと危ないな!
「ていうか、数多いな!」
次から次へと出てくる兎ロボットを破壊しているのだが、どういう訳か一向に数が減らない。おかしい、最低でも五十は倒したぞ!なのに何でまだ増えてるわけ⁉︎
「きゃぁっ!」
「大丈夫か⁉︎千冬!」
何時もの様子からは考えられない程の可愛らしい悲鳴を上げた千冬の方に振り向く。すると其処には大量の兎ロボットに物量で押し切られ、もみくちゃにされている千冬の姿があった。
「くっ……やめろ!変な所を触……んっ…!」
なんというか…………エロい。千冬の顔くらいしか見えないが、息遣いが荒いし、頬も赤くなっている。何だろう、この展開。すごく美味しいけど、許せない……………ああ、成る程。わかったぞ。
「てめえら、好き勝手ぶっ壊してる分際で何美味しいことしてんだ、このヤロー!」
やりたい放題やってるのに、こいつらには何も請求出来ないからだ。人間相手なら説教とか折檻とか出来るが機械だからそれが出来ない。おまけに先生方にも「機械のせいでこうなりました」とか言っても意味がない。つまり、怒られるのは俺なのに、機械の分際て良い思いをしているこいつらがものすごく許せないわけだ。まじでふざけんな。
「静!千冬は任せた!」
「わかったが、将輝はどうする!」
「あのファンシー野郎の親玉を叩き斬ってくる!」
「な⁉︎無茶だぞ!一体何匹……いや何体いると思って……」
「知るかぁ!全員スクラップ行きじゃあ!」
俺は降り注ぐ弾雨の中、《無想》を片手に突っ込んでいった。
「うーん……よく寝た!………あり?何これ?」
「ふぁぁ……どったのタバねん。って、何でここ、こんなに荒れてんの?」
「さあ?よくわかんない」
「そっか。じゃあもう一眠りしよう」
「それもそうだね。おやす「みの時間終わりだゴラ」あ、おはよう、まーくん、ちーちゃん、シズちゃん………あれ?なんでそんなに服がボロボロなの?そして何故ISを展開して、私に向けてるの⁉︎」
「さあ、何でかなぁぁぁああ?」
「自分の胸に手を当てて考えてみろ」
「そして懺悔しながら逝け」
「完結しちゃった⁉︎ちょっ、何でそんなに怒ってるの!本当に意味わからないんだけど!」
「その内わかるさ………後、ヒカルノ。てめえも連行だ」
「ファ⁉︎何故⁈どうして⁈説明を要求す「それは折檻が終わった後でだ」………さいですか」
束は千冬に、ヒカルノは静に仲良く連行されていった。そろそろあいつら部屋を同室にしようかな。しないと誰もあいつらの暴走止められないもんな。それにしてもどうしようか。生徒会室のある三階はほぼ壊滅して、瓦礫やらガラクタだらけ。二階に通じる階段は大破して使えない。修理に何日かかる事やら。まあ、被害が他の生徒に及ばなかっただけマシ……
「藤本副会長。学園長がお呼びしています。至急学園長室に来て下さい。この度の騒ぎについて、詳しくお話が伺いたいそうです」
また何で俺ェェェェ⁉︎其処は会長だろ!あの爺さん、会長と副会長の意味わかってるのか!俺はあくまで二番目なの!会長がいない時に限って責任負わなきゃいけなくなるだけで、俺が毎回責任を負うのはおかしいだろ!
と心の中で文句を言ったが、結局行かざるを得ず、学園長室で何も悪くない筈なのにこってり絞られた。だから俺は保護者じゃねえっつーの、という文句は胸の奥底に閉じ込めた。何故なら権力には勝てないから。
「あぁ……不幸だ…」
故に俺は某ウニ頭の少年のようにそう呟くしかなかった。
因みに後から聞いた話だと、あの兎ロボットは総勢四百体いて、IS学園を防衛する為に作った自立型ロボットだったそうだ。武器の取り出しはISの量子変換技術を駆使したそうだが、学園防衛の為に作ったロボットに学園を破壊されるのだから、それを聞いた時、最早乾いた笑いしか出てこなかったのは言うまでもない。