IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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プリンセスラバー

臨海学校二日目。

 

案の定、夜殆ど眠る事が出来なかった将輝は翌日、目の下に隈を作って授業に臨んだ。

 

授業とは言っても担当教員の浅井翔子は二日酔いの為におらず、結局生徒会主導で授業をする羽目になった。

 

もっとも一般生徒の授業内容は普段とあまり変わらず、各国の代表候補生は専用機の新武装などを試験運用していた。もちろん将輝は例外だ。

 

なんやかんやで二日目の日程は何一つ滞る事なく終了し、専用機持ち達は一足早く露天風呂に入っていた。

 

まだ時刻は午後四時であるのに彼女達が入浴しているのは試験運用に殆どの時間を費やした事で汗をかいているからだ。どういうわけか、ヒカルノや束などもいるが、其処は気にしてはいけないところだ。

 

「それで、何故私は貴方達に追い詰められているのかしら」

 

湯船の隅に浸かったミハエは自信を囲うようにして同じく湯船に浸かっている将輝を除く生徒会メンバーに疑問を投げかけた。

 

「「「「逃がさない為」」」」

 

口を揃えてそう答える四人に一体何からだと疑問を感じるが、それ以上に彼女としては彼女達と出会った時から気になる事があった。

 

(一体何を食べれば彼処まで大きくなるのかしら……)

 

ジーっと彼女が見つめるのは四人の胸部。自分とは違い、とても豊かに育ったそれを見て、非常に恨めしく思っている。

 

ミハエとて自分のスタイルに劣等感を抱いているわけではない。だが、人は自身に無いものを欲するのは人としての性だ。彼女のものは其処まで小さくはないのだが、何分目の前の四人が大きすぎる為にものすごく小さく見えてしまう。

 

「ミハっちもまだまだ成長期だから、ワンチャンあるよ」

 

「ッ⁉︎何のことを言っているのか……さっぱりだわ」

 

「流石に彼処までガン見しておいて、誤魔化せないだろう」

 

束と静の指摘にミハエは言葉を詰まらせる。確かにまるで穴が空かんばかりに見つめていれば、誰でも気がつく。ミハエもその辺りの自覚はあったので言い返す事が出来なかった。

 

「誤魔化せないと言ったら、将輝の事もだがな」

 

「だよナー。ある意味さっきよりもわかりやすいし」

 

「?彼がどうかしたの?」

 

「違う違う。リーリス、お前の事だ」

 

そう言われるが、ミハエは心当たりのない事だとキョトンと首をかしげる。四人はその反応にやはりかといった感じに呆れたような納得したような溜め息を吐いた。

 

「自覚なし……か」

 

「本当なら教えてやる必要はないんだけどねぃ」

 

「私達とて好き好んでライバルを増やしたくはない訳だしな」

 

「けど、教えてあげないとミハっちも一応可哀想だし、同類として最低限の配慮はしてあげるのが、ルールだしね〜」

 

「?貴方達何を言っているのかしら?本格的にわからないのだけれど」

 

「好きなんだろう?将輝の事が」

 

何を馬鹿な、そう言おうとしたミハエだったが、言葉が出ずに口をパクパクとさせていた。想像以上のリアクションに四人も驚くのだが、それ以上に驚いているのはミハエ本人だった。

 

何故言葉が出ないのか、一体何に対して驚いているのか、頭の中で様々な疑問が行き交う。けれど、その答えに自ら行き着くよりも早く、それを指摘したのは束だった。

 

「そんなに驚く事?まーくんを好きになった事実って、それともまさか自分が男に惚れるなんて思ってなかった?」

 

まるで自身の心を見透かしたかのような束の発言はミハエにさらなる衝撃を与えた。

 

(私は………好き……なの?彼の事が?)

 

「にゃははは、いきなり顔が乙女っぽくなっちゃって、心底惚れてんナー」

 

「わ、私は別に彼の事は何とも……」

 

「本当にか?では試しに下の名前で呼んでみろ」

 

「そんなの簡単な事だわ………ま、ま、まさ、将輝…」

 

ただ名前を呼ぶだけの簡単な行いだというのに、ミハエは何度も言葉を詰まらせる。彼女自身は全く気がついていないが、彼女は一度たりとも将輝の事を苗字ですら名前で呼んだことがなかった。将輝には『副会長』や『貴方』と言い、他人と話すときは『彼』と言う。かなり前から四人はこの事実に気がついていて、偶然にも他の専用機持ち達は既に上がっていて、此処には五人のみ。これを好機と見た四人はこうしてミハエに発破をかけに行こうと動き出したのだ。もちろん彼女達としてはその行為はお節介以外の何物でもないが、その辺りは将輝の影響が大きい。将輝が彼女達に影響されているように彼女達もまた将輝に影響されているのだ。

 

「いやぁ、ミハっちも軍人気質で堅い所があったけど………今や恋する乙女って感じだね〜。ちーちゃんと一緒だね」

 

「そういう言い方はやめろ」

 

「まさか、織斑会長も……?」

 

「ちーちゃんどころか束さんもシズちゃんもヒカリんも、それにマヤマヤもたっちゃんもみーんなまーくんが好きだよ?好感度メーターがカンストするくらいに」

 

あっけらかんと恥ずかしげもなく言う束に思わずミハエの方が恥ずかしさに駆られる。何故ここまで惜しげもなく本心を曝け出せるのかと。

 

「まぁぁぁくぅぅぅん‼︎大好きだぁぁぁぁ‼︎」

 

「おおっ!タバねんが露天風呂の中心で愛を叫んでる!私もするぞ〜!」

 

「おいおい、あまり五月蝿くしていると将輝が怒られるぞ…………聞いてないか」

 

もし隣の露天風呂に将輝がいれば公開処刑も良いところだが、幸いにも将輝は部屋で爆睡している為、束とヒカルノの口撃に晒されることはなかった。因みにこの四人の内誰かが暴走した暁にはもれなく将輝が責任を追及される事になる。将輝は爆睡する直前に千冬と静に二人のストッパーをするように頼んだものの、あまり意味をなしておらず、最終的には静も其処に混じるカオスな展開となっていた。

 

その光景に惚けているミハエの隣に千冬が移動してくる。

 

「不思議か?私達が将輝に惚れているという事が?」

 

「そうでも………いえ、きっとそう思っているのでしょうね」

 

「急に素直になったな………あの二人に影響されたか?」

 

「さて、どうかしら。のぼせてきただけなのかもしれないわ」

 

「そうか。なら、そのついでだ。リーリス………いや、ミハエは将輝の事が好きか?」

 

「……………わからない。というのがさっきまでの答えよ。だって、私は誰かを好きになった事なんて一度もないもの」

 

ミハエ・リーリスは一度たりとも誰かを好きになったことはなかった。それは別に彼女が色物好きというわけでも、かといって面食いだというわけでもない。ただただ興味がなかった。

 

幼少時から男臭い場所で育ってきた彼女はこれまで何人もの様々な男性を見てきた。その中にはアイドル並みの格好良さを備えていたものもいれば、漢という言葉が似合う益荒男もいた。彼女が中学生になるのと時を同じくしてISが出てきた事もあり、彼女の所属していた軍の男女比率は殆ど均等になった。その美貌から彼女は幾度となく歳上の男性から告白される事はあったが、全てを断った。しつこく食い下がるものは実力差を見せつけて諦めさせた。そういう事もあり彼女は軍の中で『不動の女王』という異名までも得るに至ったが、特に気にすることはなかった。彼女が告白を断るのは興味がないから、自分よりも弱いから。ただそれだけの事なのだ。興味がない相手をましてや歳上の癖に自分より弱い相手を恋人にするつもりなど毛頭ない。

 

「けれど彼は強かった。一見すると素人同然なのに、いざ相対して見るとその強さが身に染みたわ」

 

初めてぶつかった壁。テロリストを倒したメンバーの一人とはいえ、所詮は一般人。何のことはないと思っていた。将輝が正式にIS学園に入学した当日、彼女は将輝に銃口を向けた。一体どんな醜態を晒すのか。そう思っていたミハエだったが、返ってきた返事は凡そ自分が命を狙われている人間の言葉とは思えないものだった。

 

『やめときなよ。跳弾が皆に当たって怪我したら、退学ものだよ』

 

鼻っから自分が当たる事など計算外の発言。その発言に一瞬呆けた後、自分を格下扱いした将輝に激怒したミハエはクラスメイトが教室から出たのを見て、迷う事なく引き金をひいた。しかし、将輝は机に脳漿をぶち撒ける事はなく、何でもないかのようにそこに立っていた。あの距離から放たれた弾丸を避けるなんてあり得ない。ミハエは目の前で起きた出来事が信じられず、将輝に向けて何度も引き金を引いた。その度に全て躱される。初めての襲撃もそしてそれからもミハエの襲撃は失敗続きだった。そして十五回目の襲撃時には父から渡された大切な得物すら奪い取られ破壊されかけた。そしてそのすぐ後で行った初めての戦闘で圧倒的実力差を見せつけられた挙句、あんな状態にまで発展した。

 

今まで自分がどれだけ手を抜かれていたのか、身に染みてわかったミハエだったが、その後は『将輝を殺す』事を目的とせず、純粋に『何故強いのか?』という探究心に駆られ、生身ではなく、IS戦を挑み続けた。最初はあまりの実力差にそもそも闘いすら成立しなかったが、徐々に将輝との戦闘になれ始めた頃。あるトラブルが起きた。

 

日を殆ど空けずに挑み続けた結果、ISの方が不調を起こしたのだ。第二世代ならまだしも第一世代ではしっかりと調整しておかなければ不調を起こす。例え調整していたとしても幾度となく戦い続けていれば不調は起きるものだ。

 

それが将輝との戦闘終了直後に起きた。いつもの如く、絶妙な攻撃具合でエネルギー残量を1にさせられ、あと一撃入れば終わるその時、彼女のISのスラスターが不調を起こし、空中に浮かぶことが出来なくなった。その時、ミハエと将輝の距離はかなり離れていて、おまけに彼女はかなり高い位置に浮かんでいた。残量1での高所からの落下は無事ではすまない。将輝との距離もかなりあった為に死の覚悟すらしたミハエだったが、異変に気がついた将輝は『瞬時加速』を使用する事で彼女を救出する事に成功した。この後、落下の原因を聞いた将輝にこっぴどく怒られたが、彼女はそれを煩わしく思う事はなかった。

 

「彼ーーー将輝君はあれだけ命を狙っていた相手の命を助けて、剰え説教する程のお人好しだったわ。馬鹿な男……と言いたいところだけど、それが無ければ私はどうなっていたか、わからないわ」

 

「将輝はドが付く程のお人好しだからな。でなければ、私達の面倒を一人で見ようとは思わないさ。あいつは本当に馬鹿で優しい人間だ」

 

「ええ。だからーーー」

 

「「私は将輝(君)の事が好きなんだろうな(好きなのでしょうね)」」

 

二人はそう言って顔を見合わせると互いに笑った。お互い、何かと通じ合う部分があったからこそ、自然と零れた笑みだった。

 

 

 




そんな訳でオリキャラの回でした。

そして晴れてミハエも正妻候補になりました。もっとも、今作に正妻なんて概念があるかどうかはわかりませんけどねー。

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