IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜 作:幼馴染み最強伝説
ついに来てしまった。
今日は七月一日。時刻は午前十時五十分。
バスに揺られながら、俺は一番前の席で溜め息を吐いていた。
いや、臨海学校が嫌だとかいうわけじゃないんだ。それどころか、以前は福音戦が控えてるって事もあって全然楽しめなかった分、凄く楽しみではあった。部屋さえ問題がなければ。
部屋は俺一人ではない。かといって教員と一緒というわけでもない。俺は生徒会のメンバー四人と一緒の部屋に寝泊まりしなければならないのだ。美少女四人と寝泊まりとかラッキー!と考えられればどれ程幸せだったか。悲しいかな、全然ラッキーじゃない。自由さの欠片もないし、臨海学校の時ですら俺はのんびりする事が出来ない。それは偏に束を筆頭に四人が確実に暴走を起こすからだ。
因みに俺の脳内シミュレーションでは、睡眠時間は凡そ三時間。はっきり言って死ねる。しかも初日はほぼ自由時間だが、二日目からは授業があるのだ。もうやだ。
就寝時間には部屋を抜け出して廊下で寝ようかとすら思うが、どちらにしても身の(主に貞操の)危険は全く去らない。やはり束を始末するしか道はないのかもしれない。いっそ束の誘惑に応えてしまえば睡眠時間は確保出来るのかもしれないが、それだと確実に束一人では終わらない上にその流れで三時間の睡眠時間が零になりかねない。それに俺は今年でまだ十七歳だし、学生だ。責任が取れるような歳でもないし、かといって束に任せるわけにはいかない。俺って我慢は強い方だが、一回たかが外れると止まらなくなるからな。
「其処は大丈夫だよん。ほら、私達は四人いる訳だし。先に気を失うって事は無いと思うにゃぁ」
「だから思考読むなって。俺のプライバシーを侵害するな」
何でこいつらは揃いも揃って当たり前のように俺の思考を読むのだろうか。お蔭で俺は脳内ですら卑猥な事を考える事が出来ない。思春期の男子にそれは酷だというものだ。せめて妄想くらいは許してほしい。
「いいじゃん、減るもんでもなし。代わりに私の秘密を教えてやるから」
「色々減るし、教えてくれなくて結構だ」
絶対碌な事にならない。これまでの経験上から断言出来る。因みに束は勝手に秘密をベラベラと喋った挙句、「私の恥ずかしい秘密は教えたから、まーくんの恥ずかしいところを見せて?」とか意味不明なことを言ってきた。もちろん、二秒後には束の頭は壁に埋まっていたがな。
「それにしてもヒカルノ。束はどうした?」
ヒカルノは確か束の隣の席だった筈だ。だってヒカルノくらいしか無理だし。
「タバねんなら爆睡してるよん。夜の為に英気を養うって」
「良し。今すぐ叩き起こしてこい」
「あいあい。しゃあなしだな」
誰が英気を養わさせるか。ていうか、その為に英気を養うとか意味不明過ぎる。何で俺が手を出すことが前提なの?あれか?飯に薬でも盛る気か?…………ヤバい。ありそうな気がして、メシが食えねえ。おかしいぞ、何故に臨海学校でここまで警戒せにゃならんのだ。
まあ、あれだな。あいつらから目を離さなきゃなんとかなるか。
それはそうと、何でヒカルノの奴は束と一緒に寝ているのか。確か俺は叩き起こせといった筈だが。どういう脳内変換がなされたのか、是非とも聞きたいところだ。と言うことで早速聞きに行くか。叩き起こすついでに。
俺は左斜め後ろの席に座って寝ている二人の元に行く。何とも幸せそうな寝顔をしている。こいつら面倒さえ起こさなきゃただの天才美少女で済むのにな。それですまないのが世の常だが。
「おい、起き……ろ」
叩き起こすとは決めたものの、寝顔を見ているとそれは可哀想だったので、普通に肩を揺すって起こそうとしたのだが、絶妙のタイミングで二人が大きな欠伸をしたかと思うと見事に俺の手に噛み付いた。手首先が見事に二人の口の中に消えていて、おまけに凄い気持ち悪い。先の言葉は前言撤回。こいつらは寝てても黙っててもダメだ。
とりあえず両手が塞がっていたので、頭突きで叩き起こすか。
俺が二人に頭突きをかました直後、大音量の凄まじい悲鳴が車内に響き渡った。
二人が俺の頭突きで目を覚ましてまもなく、バスは旅館へと到着した。
ついた旅館はパンフレットでも見たとおり、原作と同じだ。そういえば毎年恒例的な事を言っていたような気もするし、当然といえば当然か。
挨拶をした旅館の女将は同一人物だったが、当然二十代なのでまだ女将というには大人の雰囲気というものはあまりなかった。
初日は終日自由時間であるため、すぐさま俺たちは旅館の中へと向かって、『生徒会』という張り紙の貼られた部屋に荷物を置きにきていた。
「うぅ………まだ頭がクラクラする」
「絶対にたんこぶ出来てるよ、これ。頭突きで起こすなんてどういう脳味噌してるんだ……」
「寝ぼけて人の手に噛み付く奴に言われたくねえ」
非難の目で訴えてくる二人を一蹴する。確かに威力の調節はミスったかもしれないな。おかげで俺の手首に綺麗な歯型がついた。もっとも二人が言いたいのはそういう事ではないだろうが。
「まあ良かったじゃないか。結果的にいい目覚ましになったしな」
「なにそのバイオレンスな目覚まし。シズちゃんも喰らってみる?」
「ハハハ、死んでもごめんだ」
笑っているが、ガチで言っているな静の奴。目が笑ってない。別に傷つきはしないが、其処までマジになる程の俺の頭突きってどんだけ威力高いんだろうか。少し気になる。
「時々、将輝はものすごくズレた事を考えている時があるよな」
「結局のところ、将輝も私達と同類という事だろうな。まだマシだというだけであって。常人の神経なら私達と共にマトモな生活を送れる筈がない」
おい、いまさらっとものすごい事言ったぞ。というか、自分達がマトモでないという自覚はあったんだな。あった上での今までの言動ならタチが悪いどころの騒ぎじゃないが。しかし、心外だ。一体俺の何処がマトモではないと言うんだ。ISが動かせることはさておき、性格は至ってマトモだと思うが。
「「「「そういうところ」」」」
だから心読むなっつーの。後、シンクロするな。シンクロするのはスイミングと遊○王だけで良いんだよ。
「自分の事を『マトモ』といって、マトモだった奴は一人もいないな」
「そういう奴は大抵卑劣極まりない悪か、或いは倫理観がズレている正義を貫く主人公だな」
「因みに両方どうしようもない辺りがミソだよナー」
「良かったね、まーくん!私達と同類あだっ⁉︎何で⁉︎何でさ‼︎私だけ罰があるなんて、不公平だよ!」
「何言ってんだ。有史以来、世界が平等だった事なんて一度もないだろ」
俺がそう指摘すると束はおでこを抑えて、ぐぬぬと唸った。言い返せないのも無理はない。先程の台詞は束がIS学園の生徒に対して言った言葉。つまり、束自身の考えなのだ。言い返せる筈もない。因みに束だけにデコピンをしたのは一番近かったからというのも理由の一つだが、こいつが一番ウザい発言をしそうだったから。こいつに同類と言われるのは心外どころか、侵害だ。
「ところでこの後どうするんだ?俺はさっさと着替えて一泳ぎしたいんだが」
「私もそうするつもりだ。何なら競争でもしないか?」
「おおっ!これはなかなか熱い展開だ。会長と副会長の決闘とは!」
「決闘なんて高尚なもんじゃねえだろ。静はしないのか?」
「私はのんびりとするつもりだ。それに泳ぎはあまり得意ではないからな。チート二人に勝負を挑むには無謀極まりない」
チートか。まあ、確かに身体能力の高さはチート並だよな、俺。まあ、それもこれもISのお蔭なんだが。しかし意外だな。静は泳ぎが得意ではないのか。てっきりスポーツは軒並みこなせるかと思っていたけどな。
「で、お前らは?」
「私は海に挑むよん。我、覇の道を歩まん、ってね」
何か違くね?ていうか、結局挑むのかよ。じゃあやっぱりダイバースーツで良かったかもしれない。
「束さんも〜、シズちゃんと同じでのんびりするかなぁ〜」
実に束らしい発言だな。こいつの場合、泳ぐというより流されるという方が合っている。こうぽけ〜っとしてる感じに無人島に漂着する的な。こいつなら無人島で新しい文明を築きそうな気もするが。
「というわけで、さっさと着替えて波に流されてくるのだ〜!」
あ、やっぱり流されるんだ。
「あ、そうそう、まーくん」
「どうしたんだ?」
「覗きたいなら覗いてもいいよ♪」
束は満面の笑みでそう告げると更衣室までものすごい速さで走り去っていった。その所為で言い返すことも制裁することもできなかった。誰が覗くか誰が。束だけでも覗くつもりはないのに、他の女子がいる更衣室で覗きなんて絶対にしない。もれなく社会的に抹殺されるからな。
「あの阿呆は後で沈めるとして、お前らは着替えに行かないのか?」
「い、いや、私ももう少ししたら行く」
「そ、それに更衣室にはかなり人数がいるだろうしな」
「と、とにかく、将輝は先に行ってくれてOKだよん」
なんでこいつら、いきなり挙動不審になったんだ。まさかとは思うが俺が本当に覗きを働くのではないかと疑っているのか?…………ないな。今までの言動から察するにこいつらは寧ろ大歓迎するだろうから。となるとありそうな可能性は………
「自意識過剰って訳じゃないが、前例があるから釘刺しとくぞ………覗きに来たら三日間口聞いてやんねえからな」
男の俺が言うのは些かおかしいが、去年の俺の誕生日の事がある以上、釘を刺しておく事に越したことはない。図星だったのか、三人はビクッと肩を震わせて視線を宙に泳がせる。これでこいつらは大丈夫だろう。後は束だな。あいつの事だ、俺の読みが当たっているなら、おそらく女子更衣室ではなく、男子更衣室に行っているはずだ。あいつの場合、覗くのが駄目でもガン見はあり、とかいう意味不明な理論をおっ立てているに違いないからな。
案の定、俺の読みは当たり、着替えに行った更衣室には束がいた。なので、取り敢えず頭にアイアンクローをしたまま外に出て束をそのまま地面に埋めた。