IFストーリー〜もしも過去に残っていたら〜   作:幼馴染み最強伝説

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三回書き直した結果、投稿が遅れましたが、一万文字を超えました。

それに皆さんがこの作品を評価して下さっている事に作者としてもとても嬉しいです。

そんな訳でバンバン原作改変していくぞー!


おまもりほうき

五月中旬。

 

先月、生徒会に俺の秘書として入った楯無もようやくここでの仕事に慣れ始めた頃、それは楯無の言葉がきっかけだった。

 

「あれ?篠ノ之博士、此処にいて良いんですか?」

 

唐突なその疑問に束はもちろん俺達も首を傾げる。因みに楯無は束の事を『篠ノ之博士』と呼ぶ。それは敬意を払っての意味合いもあるらしいが、何でも特別顧問というニュアンスは言い辛いらしい。だから篠ノ之博士と呼ぶ。それはさておき、楯無としても俺達はともかく束が首を傾げた事に疑問を感じているようだ。

 

「てっきり篠ノ之博士はもう知ってるかと思ってましたけど……」

 

「うん?何の事だがさっぱり。ていうか、私最近篭ってたから情報が五日前から止まってるんだよね。んで、何?」

 

聞き返された楯無はあちゃーと言った感じに額に手を当て、言い淀む。だが、彼女としても束は命の恩人である為か、ここだけの話であると釘を刺して、話を始めた。

 

「実はですね。最近政府の方である話が進んでるですよ。何でも日本にとって重要な人物を保護する為の政策を打ち出してる訳なんですけど、それの名前が「重要人物保護プログラム」そうなんですよ………って、何で副会長知ってるんですか?」

 

楯無の話を聞いている内に俺の口からそんな言葉が漏れ、それを楯無は肯定した。

 

重要人物保護プログラム。

 

それは原作で束を除く篠ノ之一家が受けたものだ。

 

自由奔放でいつ何処にいるのかわからない束を捕らえる事など到底出来ない。その為、各国が何らかの形で彼女の血縁者を人質に取り、篠ノ之束という天才を自国に縛ろうとする輩やISの存在を憎む人間達から彼女達を守るために政府が打ち出した政策なのだが、もちろん其処に篠ノ之一家の意志はない。

 

おまけに一家は離散し、誰が何処にいるのかすらもわからない。おそらく誰かが連れ去られても情報漏洩を防ぐ為なのだが、それを束の両親はともかくまだ小学四年生の箒が一人で耐えられるはずが無い。

 

剰え、箒は転校する日々+尋問なども政府からされていて、心は荒んでしまっていた。その所為で感情の起伏が激しい一面もあり、何かと暴力行為に走ってしまいがちなのもそれが一因していた。

 

ある意味ではかなり重要なイベントなのだが、確かあれは小学四年生の終わりの方に転校する筈だ。そして入れ違いにセカンド幼馴染み(一夏命名)である鈴が転校してくる。

 

だが今は五月の中旬。まだ転校するにはあまりにも早過ぎ、明らかに誤差の範囲を超えている。

 

ともすれば原因は間違いなく俺だ。

 

理由はどうであれ、確実に俺がそのイベントを早めてしまった。ただでさえ、剣道大会を前日に控えた日に急遽転校を余儀なくされた事が原因で箒と束の間には確執が出来てしまった。ただの剣道大会ならまだしもあの時の箒は優勝すれば一夏に告白しようと画策していたのだ。確執が生まれてもおかしくはない。

 

「副会長〜、話聞いてます?」

 

「………ああ、悪い。それより話を進めてくれ」

 

「はい。それでですね、本来なら篠ノ之博士を保護しなければいけないんですけど、篠ノ之博士は日本政府との間で行動の制限は出来ないようになっています。ですが、篠ノ之博士の家族は別です。身体能力、知能共にトップクラスの篠ノ之博士を捕縛するのはある意味宝くじよりも確率が低い………ともすればその家族が人質として狙われるのは必然といっても過言ではないですね。寧ろ、今の今まで何事もなかったのが不思議なくらいです。おそらく、ISが世界に浸透しきっていなかったという事もあるんでしょうけど、もうそろそろ色々な組織が篠ノ之博士或いはその血縁者を狙ってもおかしな事はありません。ですので、政府はその危険から守る為に血縁者を保護しようとしている訳です」

 

確かに名目上は保護だ。だが其処に自由などありはしない。ただの隔離にも等しい。

 

そしてその結果を招いたのは紛れもなく、篠ノ之束だ。

 

彼女は何かに縛られる事を何よりも嫌がる。そのため、束は何らかの形で自由を制限されない為に日本政府と交渉をしたのだろう。もっとも交渉などという生易しいものではないだろうが。

 

「それで?それが実行に移されるのは何時だ?」

 

「えーとですね。長く見積もって十日。最速で三日くらいですかね。何分、日本政府としては一刻も早く安全を確保したい訳ですから」

 

安全を確保したい、ね。その安全はほぼ間違いなく束が他国に利用される可能性で今科学の最先端を走る日本国家の安全の確保であって、箒達の安全などは微塵考えていない。それどころか、束を日本に縛り付ける鎖として自分達の手元から離したくないのだろう。全く、何時の時代も政治家という人間は利己的だ。利己的であり、狡猾であるからこそ彼等はその地位を確立出来るわけだが。

 

しかし、最速で三日か。となるとその案が通るのは今日か明日という事になる。つまりそれに横槍を入れる(・・・・・・)なら今日しかないわけだ。

 

打つ手もない訳ではないが…………上手くいくか、不安だなぁ。

 

「将輝。また何かとんでも無い事を考えているな?」

 

「……千冬って、俺の心読めるの?」

 

「将輝ならな」

 

さりげなくデレ発言。こういう時、クールに振舞っていても、千冬の事を可愛いと思ってしまう。俺がジーっと見ていると千冬はぷいっとそっぽを向いた。

 

「あ、あまり見るな……恥ずかしい」

 

「ごめん。つい」

 

「真剣な話の最中だぞ、いちゃつくな」

 

静にしてはえらく真っ当な事を言った。しかし、いちゃつくというのには語弊があるが………まあいいか。そこに突っ込んでたら、話が進まない。

 

「それでだ。将輝は国会議事堂にでも殴り込みをかけるのか?」

 

…………時々、静が束もびっくりなぶっ飛び発言をするのは何故だろう。こいつ、仲裁役なのに稀に壮絶なボケをかますんだよな、無意識に。今のだって真剣に言ってるんだからタチが悪い。

 

「かけねえよ。ただ、その政策を打ち出した方々と是非とも話がしたいところだが………」

 

「ま、いくら『世界で唯一ISを使用できる男性』って言っても、ただの学生だからナー。そもそもマトモに取り合ってくれるか、危ういレベルだし」

 

そう。それだ。その人達と話をする前にそもそもその席までたどり着くのが困難なのだ。席に着ければ、何とかなりそうな目処はついているのだが、其処に行く為の手札が無い。

 

「私としましても、更識の力だけでその方々だけを呼び出すのは困難ですね。寧ろ、総理大臣の方が会いやすいです」

 

「となると………やっぱり押し掛けるしかねえのか……」

 

しかし、そんなゴリ押しな事をすれば、会う事は出来ても交渉が出来ない。その人達を頭ごなしに脅迫したところで結局何の解決にもならないからだ。いっそ、誘拐でもすれば早いかもしれないが、俺はあくまで箒達に今まで通りの普通の生活を送ってもらいたい。

 

どうしたものかと頭を抱えていると、ふと千冬がこんな事を言った。

 

「もし、その者達がIS方面の人間なら、会う余地はあるのではないか?」

 

「どうして?」

 

「将輝は政府からの代表候補生の推薦を保留にしていただろう?それをネタにすれば如何にか交渉の席は用意できる筈だ」

 

「その人達は政治家の中で特にISを推している政治家の方々ですから、織斑会長の言っている事は実現可能な範囲ですね………どうします?副会長?」

 

「今すぐ用意してくれ。任せていいか?楯無?」

 

「はい。何せ私は副会長の秘書ですから♪」

 

小悪魔的な笑みを浮かべた楯無は携帯電話を取り出すと電話を掛ける。事務員と電話口でやり取りをした後、その本命の政治家に繋がったのか、顔つきが変わる。何度か見たが、おそらくこれが彼女の『更識楯無』としての顔なのかもしれない。話は滞る様子を見せず、俺達が静かに待つ中、楯無は話を終える。

 

「取り付けましたよ。ですけど、彼方も多忙の身ですので、十五分程度が限界だそうです」

 

「つまり勝負は十五分か。いや、適当な言い訳をつけて逃げられる可能性を考えたら十分でケリをつけないといけないな」

 

ああいう手合いは不利な状況に陥ったら逃げる可能性もある。それ故に彼方が指定した時間よりも早くに話を終わらせなければならない。

 

「時間がない。束、とっとと行くぞ」

 

「え?」

 

「お前が付いて来なきゃ話が進まないだろうが」

 

先程から話に参加せず、ボーッとしていた束は間の抜けた声を上げる。

 

「やっと妹とまた仲良くなれ始めたってのに、また溝作る気か?俺の努力を無駄にしないで欲しいぜ」

 

「………そうだね。やっと箒ちゃんとまた仲良く過ごせるようになったのに、箒ちゃんに嫌われるなんて嫌」

 

そう言う束の瞳には決意が表れていた。良し、これで何とかなりそうだな。

 

俺と束は原作を変える為、国会議事堂へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国会議事堂に着いた二人は早速ガードマンと思しき人物に本会議場まで通された。ボディチェックなどの面倒な事をしなかったのは時間がない事もさる事ながら、将輝がISを所持している事も関係しているのだろう。しかし、後で何かしら理由をつけられても面倒だと判断した将輝は携帯電話は預けた。

 

本会議場までたどり着くと将輝は思わず目を見開いた。何故なら其処には本命の政治家のみならず、大人数の政治家達が席に腰掛けていたからだ。楯無の話では本命の相手とボディーガード数人と聞いていた為、その光景に一瞬足を止めるが、時間を失うと苦しむのは自身であると歩みを進める。

 

そして中央部に即興で用意された椅子に座り、周囲を一瞥する。

 

どの政治家も束が来るとは思っていなかったらしく、眉を寄せているが、口に出すものはいない。彼女の機嫌を損ねる事は日本という国家の首を絞めかねない。日本国首相の座を狙う彼等にとって、それだけは避けたい。

 

「早坂鉄郎という方は誰ですか?時間もないので、早急に話を進めたい」

 

「私だよ、藤本将輝くん」

 

そう言って現れたのは中年の男性。取って付けたような笑みに全く温度を感じさせない声。あからさまに見下したかのような雰囲気に将輝は顔を顰めた。とうの本人は取り繕えていると思っているのか、将輝が顔を顰めた事に対して、特に疑問を持つ事はなく、単純に緊張をしていると勘違いをしていた。

 

「早速本題に入るが、何でも今まで保留にしてきた代表候補生の件を承諾するそうだね?」

 

「ええ、ですが、それを受けた時に発生するメリットやデメリットについて、是非とも政治家の中では特にISに精通した貴方に話を聞きたいと思っていまして」

 

もちろん、代表候補生になる気などない。あくまでこの場を用意する為の嘘だ。しかし、いきなり本題を切り出せば疑われるのは必至。それ故に将輝は特別知りたくもない疑問を投げかけた。

 

「確かに。特別な地位を築くにはそれに関するメリットやデメリットを知るのも重要だ。では、早速教えてあげよう」

 

其処から早坂は饒舌に語り出す。見るからに自分自身に酔いしれているのが、将輝にはわかったが、それに対して、相手の機嫌を良くするように無知の姿勢を示した。束も束で興味がないにもかかわらず、話に聞きいっているように振る舞う。

 

そうして五分三十秒ほどして、話が終わると早坂は書類を一枚取り出した。それには所狭しと文字が刻まれており、一番下には名前を記入する空白があった。

 

「其処に書いている事は概ね先程話した通りの事ばかりだ。後はその書類にサインをしてくれれば、君は晴れて代表候補生となれる」

 

「わかりました……………ですが、一つお聞きしても宜しいですか?」

 

「ああ、構わないよ」

 

「小耳に挟んだのですが、何でも貴方は日本にとっての重要人物を保護する為の政策を打ち出しているそうですね」

 

まだ関わっている数名しか知らないような情報を話した将輝に早坂の笑みが僅かに引きつったが、すぐにその表情を元に戻す。

 

「その通りだ。其方に対象は其方に座っている篠ノ之博士のご家族だ。理由としては篠ノ之博士の血縁者だという理由で狙われる事がこれから必ず起こってくる筈だ。篠ノ之博士は聡明な方だが、一日も寝ずにご家族を護るのはいくら何でも無理がある。其処で私達政府がその身柄を保護するといったものだ。そうすれば篠ノ之博士も其方の方を気にすることなく、IS開発に取り組む事が出来る。それにご家族の方々も不安な日々を送っているであろう事も考え、私はこの政策を打ち出したのだよ。まさか藤本くんの耳に入っているとは思わなかったが…………良ければ情報源を教えてもらえないだろうか?」

 

やんわりとした発言ではあるものの、早坂は確実に情報源を潰そうと画策しているのがわかった。政治家という生き物は誰しも知られたくない事がある。そして政治家として『底』を見せた時、それは政治家としての生命の終わりを意味する。その危険性を孕んだ者はどんな手を使っても消し去らなければならない。それが早坂のモットーだ。自身が他人の情報を持っても、自身の情報を他人が持つ事は許さないのだ。

 

「時間がないので、その事についてはどうでもいい(・・・・・・)事です。俺が聞きたいのは篠ノ之一家の意志は其処にあるのか?と言うことです」

 

「もちろん、ご家族の方も了承済み「嘘ですね」………何?」

 

「此方に来るまでに篠ノ之博士ご自身が家族の方に連絡を取りましたが、何も知らないと言っていましたよ。情報の漏洩を危惧してのことと存じますが…………まあそれもまた後ほど。俺から貴方に一つ提案があります」

 

「提案……?」

 

「ええ。篠ノ之一家を保護する役目を是非とも我々に譲っていただきたいのです」

 

それを聞いた瞬間、その場にいた多数の政治家達の口から失笑が漏れた。それも仕方のない事だ。彼等はつい先程までその政策について全く知らなかった訳だが、それも早坂が説明した事により、凡そは理解した。だからこそ、彼等の口からは失笑が漏れた。いくら男でISが使えるからといって、一介の高校生が如何にして篠ノ之一家に迫る悪意全てから護り切ろうというのか。そう言ったものだ。

 

「そうだね。君が彼等を護るだけの力を有しているというのであれば、君に譲ってもいいだろう。但し、彼等を襲うのは街のゴロツキだけではない。プロフェッショナルもいる、という事は当然理解しているだろうね?」

 

そして早坂もまた将輝の発言が実現性のないものであると高を括っていた。その為、表情には明らかな余裕があり、如何にして話をすり替えて、将輝を抱き込もうかとすら、算段を立てていた。

 

だが、先程将輝は言った。『我々に譲っていただきたい』と。つまり、自分一人だけとは言っていないのだ。

 

「もちろんです。良かった……………貴方を納得させる事が出来れば、譲っていただけるんですね」

 

「ああ。私を納得させる事が出来れば、ね」

 

「束。生徒会室に繋いでくれるか?」

 

「やっと束さんの出番来たよ、危うく暇つぶしがてらに日本政府のシステムにハッキングする所だったよ」

 

さらりと恐ろしい事を言う束に政治家達は冷や汗を流すが、将輝は軽く流した。何時もならツッコミの一つでも入れておきたい所だが、今はそれどころではない。一分一秒も無駄には出来ないのだから。

 

束はコンソールを開いて、空中にディスプレイを呼び出すと凄まじい速さで何かを打ち込んでいく。それを目で終えるのは唯一将輝だけだが、将輝はそもそも機械に詳しくなく、今打ち込んでいるのは束のオリジナルのものなので何をしているのか誰にもわからない。だが、それも僅か二十秒程度で空中に現れた映像に政治家達は感嘆の声を上げた。

 

『お、タバねんと繋がったよん。つー訳でたっちゃん交代』

 

『了解です。初めましての方もそうでない方もこんにちは。更識家十七代目当主更識楯無です』

 

映像越しにぺこりと一礼する楯無。彼女の事を知っている政治家達は何故この状況で彼女を呼んだのか、理解出来ずに首をかしげていた。しかし、早坂だけは今までのやり取りから将輝が何故彼女を呼び出したのかを理解し、眉を顰めていた。

 

「聡明な貴方なら気付いていると思いますが、俺は彼女達に篠ノ之一家の護衛を任せようと考えています。そしてそのバックアップとして此方の生徒会会計篝火ヒカルノを一任しようかと思っています。彼女も篠ノ之博士に比肩しうる天才です。事実、篠ノ之博士と共にIS学園の防衛システムを構築している訳ですから。対暗部用暗部というプロフェッショナル達に補佐として篠ノ之博士に次ぐ天才を起用する事で間違いなく世界最高峰の護衛部隊の完成………という訳です」

 

早坂は思わず歯噛みする。彼としても更識家の優秀さは身を以て知っている。何度か手痛い目に遭わされた事もあれば、救ってもらった事もある。そして今代の当主更識楯無についてもある程度の情報は得ていた。曰く、更識家始まって以来の才児であると。

 

そしてヒカルノについても情報は得ていた。それゆえに彼女は世界で二番目の天才であり、篠ノ之束に届きうる可能性を秘めているのは彼女だけだという事もこの場にいる政治家の中で早坂だけが知っていた。

 

(クッ………まさか、ここで証人として呼んでいた者達の存在が裏目に出るとは……)

 

本来この場にいる筈のない者達を呼んだのは他でもない早坂だ。その理由は将輝の代表候補生就任に立ち会ってもらうためだ。

 

そもそも名指しで自身を指名してきた時から、疑問は感じていた。だが、それは同時に好機でもあると踏んでいた。今の今まで代表候補生になる事を保留し続けてきた将輝を代表候補生とする事で自らの手腕を見せつけようとしていた。リスクは低く、見返りは大きい。自分の実力を持ってすれば、例え将輝が何か企んでいたとしてもあしらえ、自身の評価向上に繋がる……はずだった。

 

しかし、現実は違った。早坂が皮算用をしている時点でほぼ将輝の勝利は確定していた。何せ、交渉の席さえセッティングしてしまえば、後は順当に手札を切るだけで勝つことが出来るのだ。そして早坂が納得すれば権利を譲ると言った時点で勝ちは確定した。もし、早坂がごねた所でその場しのぎの言い訳であれば、納得したも同然であり、逃げようとすれば傍観している政治家達が早坂の足を止めるだろう。

 

(クソ………こんな子どもに負けたとなれば、私は『底』を見せる事になる………何としてでも状況を脱さねば…)

 

何とかして状況を打破しようと画策するが、考えれば考える程に早坂は自分の敗北である事を感じていた。更識の人間に二流はいない。そして装備もヒカルノの手によって下手をすれば軍隊よりも優秀なレベルになる。それこそ各国の特殊部隊が徒党を組んで挑んで来れば話は別だが、そもしも自国の利益しか考えていない者達が徒党を組もう筈もない。

 

「おや?何か面白い事をしているじゃないか?僕も混ぜてくれ」

 

静寂に包まれた会場に響いたのは若い男性の声。茶髪のオールバックにサングラス、そしてやや着崩された服装。服には装飾品が多数ついていて、一見してみれば明らかに場違いの容貌をしているが、その男性を見た彼等の誰もが固い表情になった。

 

「酷いじゃないか、早坂君。こういう面白い事を僕に隠すなんてさ」

 

「………ご多忙の身である貴方のお手を煩わせるを訳にはいきませんので……」

 

「僕は優秀な部下のお蔭で何時も暇さ。今日もこうして暇つぶしにここに来てみたら、随分と楽しい事をしているみたいじゃないか。おっと、それもさっき終わったんだったかな?」

 

「いえ、まだ終わってはいません」

 

「おや?そうかい。僕には彼の勝利に見えたんだが…………其処の所、皆はどう思う?」

 

突然振られた事で傍観していた政治家達はどよめくが、すぐに男性の言葉に同意する声を上げ始めた。

 

「ほらね。やっぱり彼の勝ちだ。そして早坂君………君の負けだ。ここは大人として、潔く敗北を認めた方が傷も浅くて済むよ。何、彼に勝ちを譲る(・・・・・)だけで良いんだ。そうすれば君は実力で負けたという事にはならないだろう?」

 

「…………………わかりました。ここは先駆者として、身を引きましょう。助言、感謝致します。日比谷首相」

 

ぺこりと早坂は一礼すると足早にその場を立ち去った。表面上は自ら身を引いたとしたが、誰の目にも早坂の敗北は明らかだった。何より、先程日比谷の言葉にこの場にいた誰もが同意したのだ。つまり彼等の中で早坂は勝ちを譲ったのではなく、敗北したと決定付けられているのだ。それを否定出来ずに立ち去った早坂の屈辱はとても言葉では表わす事が出来ないだろう。

 

「さてと………藤本くん。篠ノ之博士。今は暇かい?」

 

「暇であれば何か御用でも?」

 

「何、君達を私の家に招待しようと思ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日比谷の誘いに乗り、二人が付いてきたのはごく普通の一戸建ての家。

 

特に豪華なわけでもなく、購入時の容貌から全く変わっていないと言える。日本国首相の家ともなれば、凄まじい豪邸を想像していた二人は互いに顔を見合わせた。

 

「はは、驚いたか?皆、連れてきた時は同じような顔をするよ」

 

日比谷の後を歩いて入った家の内装は実にシンプルなものだった。見るからに高そうなものがあるわけでもなく、一般家庭にあるようなものばかり。リビングにはそこそこ大きなテレビと最新のゲーム機器やDVDプレーヤー。壁に高級な絵が掛けられているような事もなく、ミュージシャンのポスターが貼られていた。

 

「まーくん。この人、総理大臣じゃなかったっけ?」

 

「そうだった筈だが………これじゃーーー」

 

「一般人と変わらない、か?そうだよ、僕はそういう暮らしが好きなんだ」

 

ボソボソと互いにしか聞こえないように話していたにもかかわらず、日比谷は珈琲を淹れながら答える。

 

「僕はね。総理大臣になったからと言って、豪華な暮らしをしたい訳じゃないんだ。それにこの地位も狙って取りにいった訳じゃない。ただ、人の上に立つ才能が僕にはあって、民衆がそれを支持しただけに過ぎない」

 

日本国総理大臣、日比谷直斗。年齢は二十九歳。

 

ISが世に出ると同時に日本国総理大臣となった最年少の総理大臣であり、男女問わず人気は高い。僅か二十五歳で彼が日本のトップになれたのは偏に彼に人の上に立つ才能が誰よりもあったからに過ぎない。

 

退屈は人を殺す。彼は退屈な日々に殺されないように様々な欲望が渦巻く政界に入った。この時彼はまだ二十二であった。しかし、それを楽しむにしては日比谷直斗はあまりにも政治家としての才能に満ち溢れていた。対立した政治家の誰もが日比谷の手腕に惚れ込み傘下に入る。退屈にならないために事あるごとに様々な政治家達と対立した日比谷はその全ての政治家達を傘下に収め、そして気づけば日本国総理大臣としての地位を獲得していた。総理の椅子を狙ってくる者は手厚く歓迎したが、誰も彼もものの一週間もしないうちに彼を支持していた。そんな彼の楽しみの一つが首脳会談なのだが、そんな事がしょっちゅう起きていては世界がもたない。それ故に彼は誰かに頼るでもなく、普通の生活をする事で退屈をしのいでいるのだが、これがまた民衆に支持される理由の一つでもある。

 

「早速聞きたいのだが、何故藤本君は早坂君と話をしていたんだい?途中から聞いていたが、重要人物保護プログラムの事で話をしていたようだけど……」

 

「篠ノ之博士とそのご家族の同意なく、政策が進められているようだったので、その事について話をしようと思いまして」

 

「だが、それを馬鹿正直に言ったところで聞く耳は持たない。だから代表候補生就任を餌として、あの場を用意したという訳か。あれだけの手札を用意してたんだから、早坂君の負けは始めから決まってたようなものかな?それに君はまだ切り札があっただろう?」

 

「切り札というにはお粗末過ぎますけどね」

 

「だね。自分を売って、その交換条件に見返りを求めるのなら、それは切り札などとは呼べないか」

 

交渉の席さえ作れば、ほぼ勝てると見ていた将輝だったが、あくまで百パーセントではない。もし何かしら不測の事態に陥って、篠ノ之一家の保護権利を得る事が難しくなった時、将輝は日本政府の『犬』になる事を代償にそれを得るつもりだった。篠ノ之束と親しく、更識と繋がっている。そして何より世界で唯一の男性IS操縦者を手元におけるともなれば、そんな美味しい条件を呑まない者はいない。

 

しかし、将輝はその事を日比谷に話していない。日比谷は単純に将輝の考えていそうな事を読んだのだのだが、そう簡単に出来るような事ではない。ただ、先程も述べたように彼は政治家としての才能に満ち溢れている。政治家として、相手の考えを読み取る術は必須条件だ。当然日比谷にもその能力は備わっているのだが、彼の場合人一倍それが長けていた。

 

「しかしなんでまたそんな事を?早坂君の政策は篠ノ之博士としても悪い話ではないと思ったんだけど」

 

「だそうだぞ、篠ノ之博士?」

 

「悪い話だよ。だって、私と箒ちゃんが会えなくなって、いっくんと箒ちゃんが離れ離れになっちゃうんだよ?そんなの核爆弾を落とすよりも悪い事だね。それに私箒ちゃんに嫌われちゃったら世界滅ぼしちゃうかもしれないし、それに私の所為で箒ちゃん達に危険が及ぶっていうなら、私が守らなきゃダメじゃん。それにあいつら、私の家族を守るとか言っといて、どうせ私の家族の事なんて考えてないもん。本当政治家って生き物は汚らしい奴らばっかだね。あいつら本当死ねばいいのに」

 

「らしいですよ、首相」

 

「ははは………これはまた随分と嫌われているようだ」

 

捲し立てるような束の暴言に日比谷は苦笑するが、日比谷としても政治家の仕事について特に愛着を持っているわけでも執着がある訳でもない。ただ退屈が潰せそうだからというとても政治家らしくない理由を元にこの仕事をしているだけに過ぎないのだから。

 

「まあ、僕としてはあの政策はどっちでもいいから、君達の勝利に口を挟むつもりはないよ。君達をここに呼んだのは興味本位なんだ。ここなら誰にも話を聞かれる心配なく話せる…………筈だったんだけど、その前にゲームをしよう。ちょうど昨日買ったゲームがあって、誰かと対戦したいと思っていたところなんだ」

 

(一体何処までマイペースなんだ、この人)

 

(そこはかとなく束さんと同じ匂いがするよ。きっと周りの人苦労してるんだろうなぁ……)

 

因みに日比谷は束と違って、公私はきっちりと分けるタイプであるので、周囲の人間は苦労していないのだが、それを知るのは少し先の話だ。

 

結局、三人は特に話をするでもなく、ギリギリまでゲームに時間を費やす事となり、将輝の電話帳とアドレス帳に日比谷直斗の名前が刻まれる事になった。

 

本人曰く、家族と仕事関係者以外の初めての人間という悲しい事実だった。

 

 

 

 

 




ちょっと無理矢理感が否めませんが、そんな訳で箒ちゃん転校イベント阻止しました。他の作品では見た事がなかった気がするので。

オリジナルの日本国総理大臣様は優秀だけどぼっち。人の上に立つ才能があるからって、友達出来るわけじゃないですよね。寧ろ作るのが難しい気もする。

次回は臨海学校でも書こうかなぁ〜、とか考えてたりします。時間がとびとびですいません。

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