きんいろモザイク ~THE GOLDEN STORY~   作:legends

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お待たせしました。




Episode7 カオス空間

「よし、準備OKかな……。カレン、そっちは準備いいかー?」

 

「バッチリデース!」

 

 日曜日の朝、俺とカレンは忍の家に行くための身支度を整えていた。

 

 理由はこうだ。何やら忍がテストでまさかの0点を叩き出し(しかもこの時、当の本人はこれ以上下の点数が無いのにあまり良くないと言っていた)、追試に向けて綾が一生懸命忍に教えるために勉強会を開こうと申してきた。

 

 そのため、現在こうして忍の家に行く前に軽い準備をしている訳だ。

 

 しかし、忍があまりに酷い点数を叩き出した所為か、綾が『この点数は信じられなす……』と噛んでしまう程動揺していた。

 

 しかもその後、忍が綾に勉強を教わっている際に、忍が『はいナス』とか、そういう風に語尾に一々『ナス』を付けるという、無意識に揚げ足取りをしてしまいツッコミを入れる綾の姿は鮮明に覚えている。綾、お疲れ様です。

 

 その後に、綾の教え方が上手いためかアリスや陽子達からも教えてときた。まあ、綾は頭良いからな。

 

 え、俺? 半分以上の点数だったが、自負出来るものでもないですがね。

 

「あら健にカレン、これからどこ行くの?」

 

 とまあ、そんな感じで俺達二人がリビングで準備を整えると、俺の実姉、瑠美姉さんが声を掛けてきた。

 

「ちょっと忍の家で勉強会をさせてもらうとの事で、綾が」

 

「あら、忍ちゃんの家で? いいわねぇ、青春してるわね……」

 

「そんな言い方だと、姉さんが青春してないような言い方に―――あっ」

 

「……どういう意味かしら、健」

 

 口は災いの門。姉さんの言葉に思わず率直に反応し、言い過ぎたとピタリと止めるものの、時既に遅し。

 

 姉さんは額に青筋を浮かべて、笑顔だが明らかに怒っている様子が分かった! 怖え!

 

「ヒッ!?」

 

 カレンは姉さんの迫力に押され、服の裾を掴みながら俺の後ろに隠れてしまう。かく言う俺も眼前に佇むホラー度全開の姉にじりじりと後ろに後退する。

 

「ちょっとデリカシーが無い弟クンにはお仕置きが必要みたいね……」

 

「ご、ごめんなさいごめんなさい! 不躾な我が発言に誠心誠意を持って謝ります!!」

 

 何をしてくるか分からない姉に恐怖心を抱いた俺は、平身低頭して謝る。

 

 許してくれとは思わない。これは俺の落ち度なのだから。それでも、僅かながら許して欲しいという思いもあった。

 

「あらぁ……別にそんなに謝らなくてもいいのよ。ただ、ちょっとあんたの身体を貸してもらえばそれでいいの……」ジュル

 

「……ちょっ、ちょっと待て。今何か変な擬音が聴こえたんですけど!?」

 

 一瞬姉さんが舌舐めずりをしたのを見逃さず、俺は寒気を覚える。更に抗議の声を上げるものの、何か変な方向に走っている姉さんはゆっくりと此方に歩み寄っている。

 

 このままだと俺、(また)貞操の危機!?

 

「か、カレン! 急いで忍の家に行くぞ!」

 

「は、ハイ! 分かったデース!」

 

 とにかく目の前の存在()から逃げたい一心であった俺は、カレンを引き連れて家から出た。そう、出掛けるという名の逃げる形で。

 

 ……家に帰ってきた時が怖いな……

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「はーっ、はーっ……。ごめんカレン……面倒事に巻き込んで」

 

「い、イエ……」

 

 家から脱出してきた俺とカレンはダッシュで忍の家までの道を走っていた。その途中で、息を整えるために立ち止まる。

 

「ふう……。これは俺と姉の問題だから、カレンは関わらなくても大丈夫だよ」

 

 その際、カレンに誤解を招かないようにきっちりと説明をするのも忘れずに。

 

「分かったのデス!」

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

 俺にとっては『よし』じゃないんだけど、納得した表情を浮かべるカレンの様子に俺は安心し、忍の家へ向かう。

 

 ちなみに、忍の家は俺の家からそう遠くはなく、増してや先程走ったために距離が短縮された。

 

 そのお陰で、忍の家の前に佇む綾と陽子が窺えた。俺は二人に声を掛ける。

 

「よっす、済まん待ったか二人共?」

 

「おお健。いや、私達もさっき来た所だよ」

 

 どうやら待たせていなかったらしい。良かった。

 

「しかし何だか緊張するわ。健って、何回か会ってるんでしょう?」

 

「ん? ああ、まあな。何回かって訳でもないけど。そういえば綾って、勇さんに会うのは初めてなんだったっけ」

 

「そうよ。雑誌では何度か見た事あるんだけど……」

 

「私、ファッション雑誌とか読まないからなー」

 

 陽子はそう言うが、俺も何分男だから、ファッション雑誌は好んで読みはしない。

 

 と、ここでカレンが綾の発言に「イエス!!」と便乗してくる。

 

「女子高生カラ絶大な人気を誇るファッションモデル、イサミに憧れる女の子は多いデス! サインは何枚までOKデスかね!?」

 

「……カレンが日本に来たのって最近だよね?」

 

 陽子が苦笑いしながらカレンにツッコむ。確かにいつ調べたと言いたい。後、そのサイン用紙出掛ける前に用意してたの?

 

 後どうでもいいけどファッションモデルって部分、発音良かったな。

 

 取りあえず忍の家の玄関を開け、お邪魔する。

 

『『『お邪魔しますー』』』

 

「いらっしゃいー。今日は何の集まり?」

 

 皆で声を揃えて家に入るとすぐ、勇さんが出迎えてくれた。

 

 彼女は忍の姉である大宮 勇さん。身長も高くて、黒髪ロングヘアー。そして容姿は忍の姉さんと言った所か、かなり美人だ。

 

「忍ちゃんの部屋で勉強会をさせて頂こうと。これ、皆で食べて下さい」

 

「あらあら、ご丁寧にどうも」

 

 綾がバッグを差し出し、勇さんが礼を言う。多分バッグの中身は皆で食べてって言ったからお菓子の類だろう。

 

「九条カレンと申します。イサミさんの事は雑誌でお見かけしてすぐファンになりました。よろしければ、サインを頂きたいと……」

 

「カレンのこの上ない流暢な日本語を初めて聞いた!?」

 

 いつもは多少ながら日本語慣れはしていないのにも関わらず、勇さんの前では上手い日本語でもじもじしながらサイン用紙を差し出して、お兄さん驚愕しちゃったよ。いや、カレンは兄妹ではないんだけど。

 

 陽子や綾も何で!? とばかりに驚いている。それもそうか。

 

 取りあえず結果としては、カレンの期待に背く事ないようにサインを残して貰いました。その時のカレンの様子はめちゃキラキラ状態だった。そう、まるで艦隊をコレクションするような……

 

「健君も久し振りねぇ」

 

「あ、はい。ご無沙汰してます」

 

「瑠美に何かちょっかい掛けられてないかしら?」

 

「……それはもう何回も」

 

 勇さんがその事を聞いてきて俺は遠い目になる。この人も姉さんと俺の事情を何となくとはいえ、知っているのだ。人前で言える事じゃないし。

 

「でもあんなマイペースな瑠美に比べて、健君はしっかりしてるじゃない。うちの忍に見習って欲しいわー」

 

 あなたがそれを言いますか!? ……とは言わない。

 

「どう? 健君、うちの義弟にならない?」

 

「いや何でですか。第一、俺がいなくなったら姉さんの世話が出来なくなりますし」

 

 唐突な勇さんの義弟宣言。俺は驚きながらも対応する。

 

「いいじゃない。妹二人に弟一人が出来たみたいで可愛いわ。それに、瑠美がぼっちになってどういうおろおろするのを見てみたいし」

 

「そんなんでいいんですか……? いや、なりませんけど。てか、何気に姉さんをディスってないですかね!?」

 

 そう、勇さんはこういった突拍子もないS発言をするため、毎回驚かされてしまう。まあ、対応には馴れたけど。

 

「そういえば、今日瑠美は来ないのかしら?」

 

「ああ、姉さんなら、用事があるって言ってましたよ」

 

「そっかー。あの子ちょっと勉強不足だから、多分図書館辺りで勉強してると思う」

 

 勇さんが顎に指を添え、考えながら言う。確かにうちの姉さんは自分でも勉強不足って言ってたし、勇さんと同じ大学に行けないとか何とか。

 

「それじゃ、ごゆっくり~」

 

「はい」

 

「あ、いっその事我が家の一員としてうちに泊まっていってもいいからね~」

 

「いやだから何で勝手に同居人にしてるんですかアンタは!?」

 

「健と勇姉相変わらずだな……」

 

 勇さんを相手にしていると、疲れるな全く。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

~その後回想~

 

「おい忍。何で勉強会なのにメイド服なんだ?」

 

「え? この服似合いませんか? 皆さんが来る前、アリスと一緒に外国人っぽい服を選んでいたんですけど……」

 

「普段の服でいいだろ!? どう見てもそれファッションセンス間違った方向に行ってるわ!?」

 

 勇さん曰く、最近熱中出来るものが見つかり、昔に比べたらしっかりしてきたが、妹の将来が心配だとか。いや当たり前でしょ!?

 

 ―――更には。

 

「綾ちゃんは和服が似合いそうねー」

 

「えっ……この服、似合わないでしょうか」

 

「そんな事ないわ。自分に似合う服を選んで着れてると思う。やっぱり、似合う服を着るのが一番だと思うわ……」

 

「……えへっ、そんなに似合います?」

 

「何で照れるん!?」

 

 勉強の合間に覗きに来た勇さんが、綾の服装を見て似合うと言い、顔を赤くしながらも照れる綾。対して、忍の服装を小馬鹿にしたように横目で見ると、何故か忍まで照れた。何処にも照れる要素ないと思われる……

 

 ……更に更には。

 

「どう? お弁当の味は」

 

「あー……うん、まあうm―――」

 

「「これ味付け薄いよー」」

 

「正直に言うのはやめて差し上げよう!?」

 

 綾が、今回の勉強会でありがたい事に弁当を作ってくれて、感想を求めてきた。実際のところ味が薄かったが、折角作ってくれたんだし美味いと俺が言おうとしたところ、純粋な外人っ子二人が正直な感想を言って、綾がショックを受けてしまった。

 

 とまあ、そんな感じで、カオス空間を繰り広げていったのだった。

 

 

 

 

 

「ケン大丈夫? 少し痩せたように見えるよ」

 

「……そう? まあ……色々あったからな」 

 

 夕刻。短いようで、長い勉強会の時間が終わり、忍の家の前で皆が帰ろうとしている所で、何故かアリスに心配された。

 

 まあ、ツッコミし過ぎたのが理由の一つだと思う。

 

「大丈夫かしら健君。良かったら家に泊まる?」

 

「だからその話はもういいですって……」

 

 何回だろうか、勇さんのその話。

 

「大丈夫ですよお姉ちゃん! 健君は打たれ強いですから!」

 

「どういう意味だよそれ!?」

 

 忍の意味不明な発言に、思わず卒倒し掛ける。

 

「えと、ケン……確かこういう時に、セイロガンがいいんだっけ……?」

 

「それは食あたりの時とかに使われる薬です!」

 

 アリスの気遣いはありがたいが、間違った知識にツッコんでしまった。

 

 結局、俺は大宮家の皆さんに振り回されっぱなしなのであった。

 




相も変わらず、ツッコミ回でした(白目)
そろそろ二巻の内容に入りますが、その前に番外編を作ろうと思います。その内容は、まさかの“あの”コラボが……!?

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