きんいろモザイク ~THE GOLDEN STORY~ 作:legends
し慣れないといけないっていう気持ちになりましたね。
さて、復活してからの投稿はきんいろモザイクです! そして今回はオリジナル展開がありますのでご注意を!
2017/1/17:多少内容を変更、文を追加しました。
「熱い……もう夏か~」
俺は通学路を歩きながらそんな一言が口から漏れた。
ミーンミンとセミの鳴き声が辺りに響き渡り、もう夏だという事を嫌でも実感させられる。更に、日差しも強く皮膚から自然と汗が滲み出ているのがはっきりと分かる。
……それにしても相当熱いな。こんな暑さに対してアイスやジュースなどが恋しくなる。まあ、制服も必然的に夏服になって多少ながら凌げる訳になったんだけど。
そんな風に俺が暑さについて悟りながら歩いていると、眼前に見慣れた姿が映ってくる。それと……後、もう一人……?
『え……カレン?』
『アリスアリスー! ……って誰?』
『しのは関係ないだろ!』
長い金髪でパーカーを身に着けている少女がアリスに抱き付いて、忍が次いで少女とアリスの輪にひしっと抱きつくような形で加わっている光景が窺えた。
「……って何やってんだ忍!?」
遅れて俺は忍の突発的行動に声を荒げてしまう。初対面の少女に抱き付くなんてあまりに失礼過ぎると思うんだけど!
……いや、忍は金髪少女を見つけるとすぐ興奮するからかな、はたまた単に可愛い外国の子が好きなのかもしれないが。
そんな事を考えていると、俺の声に気付いた皆が此方を振り向き、陽子が挨拶を交わしてくる。
「お、健じゃん。おはよー」
「おはよう。んで、一体どうしてこうなった?」
「いや、私にも何がなんだか……」
苦笑する陽子。そうか、流石にこの状況は皆でも分からんか。まあ金髪少女がアリスの事を一番に気付いたらしいから彼女が事情を良く知っていると思う。
そう思いながらアリスに聞こうとすると、その少女がきょとんとしながらも俺の事をじーっと凝視してくる。
「な、何……かな」
ジッと見てくる少女に気恥ずかしさを覚えながら尋ねると、ぱあっと表情を明るくし、俺に向かって駆け寄ってきて―――。
「ケン―――! 久しぶりデース!」
「おわっと!?」
『『『えええ――――っ!?』』』
正面からハグされた。一瞬頭が真っ白になったんだけど一体何事!? てか他の皆が驚愕の声を上げてるけど驚きたいのはこっちだよ! どういう事なのこの状況!?
「ええええーと……なんで急に抱き付いてきたの?」
焦りながらも聞き返そうとするが、突然の事で最初の方の言葉を上手く言い出せなかった。しかし当の本人は俺が焦っている事に関係なく、笑顔のまま俺に話してくる。
「ウン? そりゃあケンに久しぶりに会ったカラデスよ」
「えと、君と俺は初対面のような気がするんだけど……?」
「何言ってるデスかー。私は九条カレンデスよ。覚えてマセンか?」
「あ……」
そうか思い出した。以前アリスからアルバムを見させてもらった時、イギリスに友達が居るって言ってたけどその子か。
だけど、俺にはそれ以外に心当たりがあるような気がしなくもないんだよな……何だったけか。確か、小学生だった頃―――。
「…………はっ!? け、健君いつまでくっついているんですかー! 離れてくださいー!」
だが、俺の思考は硬直から復帰した忍の荒げる声と、カレンと名乗る少女を俺から引き剥がすことによって遮られてしまった。
「くっついてねえよ! 向こうから来ただけだっての」
「それでも、健君が金髪の女の子に抱き付かれるなんてずるいです! 私もあんな風に抱き付かれたいです!」
「意味分からんわ!? お前は一体何を想像して言ってんだよ!」
俺と忍の討論。ただでさえ熱いのにこうして言い合う事でさらに熱くなるから勘弁して欲しい。
全く、忍は時々突飛な言動をする事があるからな……。金髪だったら誰でも見境ないのかおめぇは。
因みに、カレンはハワイへ旅行へ行き、その旅行のお土産を渡しにアリスの家を訪ねた所、アリスの母から日本へ留学へ行っていると聞いて、自分も日本に来たらしい。
というかカレン一人でよくここまで来れたな。普通なら不安で両親も来そうなものだと思うけど……ん? 一人で来たという事は、誰かの家にホームステイすることになるのか? アリスがいい例だし。まあそれは後にでも聞くとしよう。
余談だが、カレンの父親は俺の父さんと古くからの知り合いで実業家を営んでいるらしい。結構どうでもいいことかもしれないが。
紆余曲折ありながらも、俺達は今日から通うことになったらしいカレンと一緒に学校へと向かった。
☆☆☆
お昼休み。
残念ながら俺や忍達と同じクラスではなく、隣のクラスへと決まったカレンが俺達のクラスへとわざわざ来てくれた。
……忍は相変わらず、ずっとカレンの事が気になっていたらしく、しばらくデレデレとした様子であった。
その様子にアリスは項垂れていた。恐らく、金髪少女に見境ない忍に焼きもちを焼いているのだろう。
「それにしてもカレン、日本語上達したねー」
「毎日勉強頑張ったデスよ」
「カレンはイギリスで育ったの? ハーフにしてはカタコトだけど」
「ウン。家ではパパも英語喋ってたカラ、アリスみたいに日本語ペラペラになりたいデス」
そう話すカレンだが、俺達に十分伝わるだけでも中々上手いと思う。
「カタコトがいいんですよ、可愛いじゃないですか!」
「……わ、わたしもまだまだデス。日本語難しいデス」
「対抗しなくて良いからな?」
忍の言い分にわざとらしくアリスが呟き、俺は苦笑しながらアリスに伝えとく。対抗心燃やしてんなーおい。
「そういえばさ、ハーフの子って日本名でも外国名でも通じる名前だよね」
そう陽子が切り出す。
「それな。リサとかナオミとか色々あるよな」
「パパが名付けてくれまシタ。漢字では『かれんな花だ』のカレンと書くデス」
ムズかしい字だとカレンが付け加えて説明する。
「『可憐』ね。綺麗な名前」
「『可憐な女の子に育つように』って意味を込めて付けたのですよ、きっと!」
「シノ、わたしは?」
「アリスは『リスのように小さく可愛らしく』という意味ですね!」
「『あ、リス』じゃないわよ」
忍の適当な名前の由来に、綾のズバッと的確なツッコミが炸裂する。
しかしアリスはそれっぽい言い方をする忍に納得したような表情をする。いやいや、そこは納得しちゃダメでしょ。
それに、アリスはハーフじゃなくて生粋のイギリス人だろうに。色々と間違えすぎ……。
するとカレンは少し考えた素振りを見せると、それぞれ皆の名前を呼び始める。誰々の名前を覚えるために、だろう。
「ヨーコ、シノブ、えっとー……」
「綾よ」
カレンは綾を指差すものの、名前が分からず詰まっていた所に綾が自分の名前を言ってフォローしてくれる。
「アヤヤ?」
「一文字多いわ。綾よ」
「……プッ」
「な、何よ……」
カレンの呼び違えた所に俺がつい吹いてしまい、ジト目で見つめられる。
「い、いや……アヤヤって何か芸能人でいそうだなって思って」
「違うわよ!? ていうかそんな風に言われると地味に傷つくんだけど!?」
「アヤヤー!」
「「アヤヤ! アヤヤ!」」
「だから止めて……」
カレンがパーッと笑顔を浮かべながら呼び間違えた名前を連呼し、陽子も悪乗りで連呼する。その様子に、綾は顔を真っ青にし震えながら引いていた。
きっと彼女の心情は\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ! ……きっとこうなんだろう。
「私のことは『しの』って呼んでください! 仲良しのあだ名です」
忍が笑顔でカレンにそう呼び掛けると、アリスは面食らったような表情を見せる。あ、ショボーンってなってしまった。
しかしそんな様子を気にも留めず、女子の輪は話を進める。
「シノはニンジャ? 壁歩ける?」
「あー、『忍』だからか」
「それはちょっと……」
「シノできないデスかー」
カレンがエーと軽いブーイングを漏らすと、アリスが声を張り上げる。
「そんなことないよ! シノはスゴイから何でもできるよ! さあシノ、壁を歩いて!」
アリス? 流石にそれはいくら何でも忍にとっても無茶ぶりだと思う……。
「どうしたのアリス……何だか様子が変よ」
綾がアリスにそんなことを尋ねる。流石に彼女も気付いてしまったか。
「アリスはカレンに妬いているんだよー」
「!!」
陽子がアリスの両肩を掴んで「なー」と言うと、アリスは顔が真っ赤になった。
「そうなんですか?」
「気付いてないのか? お前さっきからカレンばっかに夢中で、アリスが必死にアピールしてんのに気付いてやれよ……」
俺が嘆息しながら忍に言葉を伝えると、あはは……と自覚したようなしてないような複雑な笑みを浮かべる。
「確かにカレンは身長も平均的ですし、アリスよりも外国人らしくて魅力的です」
忍が言ったアリスよりも外国人らしいという部分は多分、片言=外国人らしいといった部分が大きいのだろう。
「でもアリスにはアリスの良い所がいっぱいありますよ! だから自信持ってください!」
「まったくフォローになってないわ……」
綾の意見には俺も頷いた。カレンのことばっかり口に出してアリスの良い所を言っていない。果たして本当にフォローしているのかどうか……。
「そういえばさ健、さっきの事についてなんだけど……」
「さっきの事?」
すると、ふと陽子がそんなことを聞いてくる。さっきの事と言われてもいつのことか分からないのだが……。
「おいおい、覚えてないのかー? さっき、カレンが健に抱き付いていただろ?」
「……あ」
そうか……朝の出来事。アリスに次ぐもう一人の金髪少女が急に俺に抱き付いてきた事。あれは衝撃的過ぎて本当にビックリした。
「そ、そうでした! どうして急に健君に抱き付いたんですか?」
「私も気になるわ! 男女が抱きつくっていうあんな少女漫画的な展開は実際に見た事ないから……」
「カレン! 教えて!」
忍、綾、アリスが(ついでに陽子も)カレンに詰め寄り、真意を聞き出そうとする。ていうか抱き付くって連呼されて、聞いてるこっちがめっちゃ恥ずかしいんですけど……。
カレンは少し考えた後、皆に伝えた。
「ンー……あれは私が小さい頃でシタ。前に一度日本に旅行に来た時があったデスケド、パパとママとはぐれちゃって……。その時に、ケンと会ったデース」
「そんなことがあったのね……」
「…………」
―――
『ひっく……うぇっぐ……』
『どうしたんだ? 大丈夫か?』
『……エ?』
『何で一人なの? お前の父ちゃん母ちゃんは?』
『―――――――!』
『な、何言ってるか分かんねえ……。親とはぐれたのかな? なら一緒に探してやっから』
『―――?』
『言ってる事分かんねえけど、迷子なんだろ? だったら一緒に探そうぜ。父ちゃん母ちゃんを。手握ってやっからさ』
『―――!』
『俺に任せろ』
『! ウン!』
『よし、じゃあ行くか』
―――
……思い出した。俺が小学校の頃に通学路から帰る途中、公園で金髪の女の子が泣いていたのを目撃して慰めてあげた後、手を引いて一緒に彼女の両親を探しに行ったんだっけか。
あの時は、カレンは片言ですらなかったけど、そこは何とか誤魔化した。
それでも、彼女が付いて回ってる時に笑顔を見せていたって事は微かに覚えている。
その後、カレンの両親らしき人達を見つけて、無事に事が済んだ訳だ。余談だが、その時にカレンのお父さんが俺の父さんの息子だと見抜き、現在こうして事情を知っている。
待てよ? そうなると、先程アリスを追いかけて自分もやって来たと言ってたけど、求めたのはアリスだけじゃない気がしなくもないような……?
「ケン? どうかしたデスか?」
「ん? あ、ああ……何でもない」
カレンに呼び掛けられて自分が如何に思考に耽っていたかが思い知らされた。
皆に心配かけるかもしれないしこの考えは一旦放棄する事にしよう。彼女にも深い事情があるかもしれないし。
その後、昼休みが終了しカレンは自分の教室へと帰って行った。今後とも、カレンと仲良くやっていけるといいな。そう思った俺は午後の授業に打ち込みを入れた。
―――しかし、まさかあのような事態に陥るとは、思いもよらなかった。
☆☆☆
「お家こっちデスー」
「そっか、じゃーな」
「また明日ねー」
放課後、カレン含めた女子五人グループと一緒に帰っていた。……最近思うのだが、女子の輪に男一人いるのって異様な光景に見えるような見えないような。
そんなことはさて置き、駄弁りながら帰路に着いていると、カレンが俺達とは違う道から帰るらしい。因みにその行き先は俺の家の方向なのだが、きっとその前後にあるのだろう。
じゃあ何故同じ方向に帰らないって? 買い物をするためだよ! 両親が帰宅するのが遅いから、常に俺が買い物をしている。姉さん? 言わずもがな。
と、カレンと別れようとすると俺の方に駆け寄ってきて――――デジャヴ?
「マタ明日!」
ちゅと、俺の頬にキスをした。………ってええええええ!? 本日二度目の大驚愕!!
「外国人! 外国人だ!!」
「カレン!! 日本人の挨拶は軽く手を振って『さようなら』だよ!」
俺が呆然としている間、陽子が声を張り上げ、綾が頬を赤らめ、アリスがもーっと軽く怒りながら正しい作法を注意する。
他の人達が盛り上がっている中、忍がわなわなと俯いている。一体どうしたのだろう。
俺が彼女に向けて訊ねようとした瞬間――――
「健君!!」
「は、はい!!」
突然、忍が憤怒の形相になったと同時に怒りの声を上げ、俺はつい身じろぎ、敬語で返事をしてしまう。
「なんで健君ばかりそんな羨ましいことをしてもらえるんですか!? 私にもされてみたいのに……。ちょっとOHANASHIする必要がありますね……」
「待て待て忍!」
ちょっ!? 忍がキャラ崩壊を起こしてる!? 最後の方はドスが効いていて、しかもゆらゆらと背後から何か見える! 奴はスタンド使いのようだ……じゃなくて! やばい! 目にはハイライトが見えない!
俺何も悪くないよね!? 何で何もしていないのに逆鱗触れた、みたいなことになってんの??
とにかく逃げねば! 先程お話って言っていたけど、お話程度で済む訳がない!
「し、失礼しまーす!!」
「待ちなさーい!!」
俺はその場から一目散に逃げ出し、忍も後を追ってきている。
「ねえ……二人追いかけなくていいの?」
「いいんじゃない? 楽しそうだし」
「だよなー」
ちょ……この裏切り者共め! くそ、俺の味方はいないのかぁぁぁ!!
こうして、俺は強制(?)マラソンをさせられる羽目になってしまった。
☆☆☆
「はぁ……酷い目に遭った……」
両手に買い物袋を携えた俺は溜息を吐いた。
あの後、そこは男子と女子の差が功を制して、全力疾走したお蔭で何とか撒くことに成功。そして、現在こうして無事に買い物を済ませたのだ。しかし、買い物する前に何であんな目に遭ったのか……
ガサガサと小刻みに品物が揺れる音を何度も聞きながら、家に着いた。
今日のメニューはスパゲッティだ。しかし、ミートソースかナポリタンかどちらかに迷いながらも、玄関前のインターホンを押す。
すると、タタタッと走って来る音が家内から聞こえた。姉さんは既に帰宅しているようだ。
そう思いながら内側の鍵が外れる音と共に、玄関前の扉が開くと――――
「いらっしゃいデース!」
「…………は?」
目の前に、ユニオンジャックの模様のパーカーを羽織っているうちの学校の制服を着た金髪の美少女が――――ってwhat?
あれ……何処かで見たような子だな……? 確か、今日皆と一緒に駄弁っていたような少女のような……?
手の甲で目をゴシゴシと擦る。しかし、眼前に佇む金髪少女は依然としてニコニコと笑顔を浮かべている。
……やっぱりカレンだぁぁ!! 多分、きっと家を間違えたんだろう。うん、そうに違いない。
「えーとカレン?」
「どうかしたデスか?」
「えっと……俺個人の予想では、家を間違え「いいえ間違えてないわ」……ね、姉さん?」
俺が言葉を紡ごうとすると、廊下の奥から姉さんが額に手を添えながら此方へと来る。
「間違えてないって、どういうこと?」
「実はね……」
姉さんから聞かされたのは、驚愕の新事実だった。
「父さんから『言い忘れてたけど、今日父さんの古くからのよしみの娘さんが来るそうだ。急なことで済まないがホームステイさせてほしいと頼まれてきてな。そういうことで、今日早く帰る父さんと母さんが来るまで待っててな☆』って……。しかもご丁寧に星マークまで……」
「……勝手に何やっとんじゃあの父親はァァァァ!!」
俺の叫び声が家中に木霊した。凄まじいカオス的展開に、卒倒しそうになったのは言うまでもない。
「コレカラヨロシクオネガイシマス!」
余談だがその後、早めに帰宅した両親はカレンを大歓迎し、外国人少女と同棲が決まった。その際、姉が「ぐぬぬ……」と歯噛みをしていたのは見なかったことにする。
こんな展開誰が予測できただろうか……。さて、カレンが健君の家にホームステイすることに。いいねえ(恍惚)
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