きんいろモザイク ~THE GOLDEN STORY~ 作:legends
烏丸先生による一時間目の授業。忍は他の授業となると睡魔に襲われて寝てしまうのに、英語の時間は真面目だ。
だからといって英語自体が出来る訳でもないのだが。
「本場の方が居ると緊張しますねー。ねえアリスさん、先生の英語はどうかしら?」
先生が一しきり黒板に字を書き、クラスの皆に説明した後、アリスを見据えて訊ねる。
「先生の英語は日本一です!」
「まあ、ありがとう」
(いや忍何で某スタンド漫画のドイツの大佐である台詞みたいに言ってんの!? というかそこは世界一ィィィッ!! だろ! 後先生もアリスに質問したのに呑気に答えないで!?)
俺は心の中で自分でも謎におかしい盛大なツッコミを突いてしまった。アリスは忍の返事によって先生の質問に答えられなかったのか「ぐぬぬ……」と唸っているみたいだった。
「ハイッ。Ms.karasuma───」
と、そこへ何やら意を決したアリスが挙手をしながら席から立ち上がった後、先生に向けて滅茶苦茶良い発音の英語で話した。
全く分からない訳ではないが、全て読み取れる程の読解力はなかった。
「まぁ、すごいわアリスさん。皆さん、アリスさんがお手本を見せてくれますよ」
「───えっ?」
「何故言わせたし!?」
先生も驚いたのか、拍手をする。だが何故かアリスに説明を求めるように言わせるような物言いに、つい俺が声を上げる。意味が分かんないんですけど!?
ほら、アリスが恥ずかしがって頬を赤くなってるよー! ていうか、クラスの皆も先生のノリに乗るなよ!?
その後、アリスがこの授業を仕切る形になって終了した。
☆☆☆
「やっぱ凄いなアリスは。本場の英語を話せるなんて。自慢できるんじゃないか?」
「えへへ……」
休み時間、俺はアリスに称賛の言葉を告げる。
一時はどうなるかと思ったが、何だかんだ今アリスが喜んでいたのでよしとしよう。
「しの、アリス、健、早く行こー」
「しの、筆箱は?」
「あ、忘れてましたー」
次の授業は移動教室なため、それぞれが教科書や筆記用具諸々を持って準備する。
てか忍、お前筆箱を持っていかずに授業行こうとしてたのか……。
「ねえケン、どうしてみんな「しの」って呼んでるの?」
アリスが俺に質問してくる。
「あれじゃないか? 忍のあだ名、要は仲良し者同士の呼び方だと思う」
「でもケンはシノブって呼んでるよ?」
「これは俺の昔からの呼び方だ。アリスも忍の事を自由にに呼んでいいんじゃないか?」
以前、俺が試しにしのって呼んだことがあるが、綾と陽子に白目で見られてしまった。何故だ、男の俺じゃダメなのか……。
「あ、先生だー」
と、忍が俺達の前方で歩いている烏丸先生を見つけた。そこへ、アリスが先生の元へ駆け寄り呼びかける。
「先生! わたしシノブの事、シノって呼びます!」
先生は一瞬アリスの言葉に呆然としていたが、すぐに笑顔になる。
「ま~、仲がいいのね~」
忍も次いで、ほんわかと温かい目でアリスを見つめた。微笑ましくなるのも分かる気がする。
「えっ!? 何この反応ー!! さっきケンが忍のことを好きに呼んでいいって言われたから呼んだのに~!」
「ちょおま!? 別にそれ言わなくていいから!」
何故か俺に飛び火してしまった。単に助け船を出しただけなのに!
「まあ、八坂くんが助言してくれたのね~。偉い偉い」
「ちょっと先生!? 俺を子ども扱いしないで下さい!」
俺とアリスは同時に恥ずかしい思いをしてしまった。アリスの気持ちも分かった気がする。
☆☆☆
学校が終わって放課後、俺達は教室で皆と一緒に談笑していた。
「アリスもえー」
「えぇー」
と、突然陽子がアリスに抱き付いた。
「もえーって何?」
「さあ、何だろう。可愛すぎて燃えるって意味かと思ってた」
「馬鹿ねえ、字が違うわよ」
「……何か違わないかそれ!?」
綾が黒板に正しく「萌」えるって字を書こうとするが、
そこへ忍が黒板に正しく萌えーと書いて皆に説明する。
「これは当て字なんですよー」
「えっ、そうなの?」
「元はピューンみたいな効果音が語源です」
「いや、何の効果音だよそれ……」
「しかもあからさまな嘘をついてるし……」
忍のどうどうと胸を張った説明に俺と綾は同時に呆れる。
「可愛い物を見た時の効果音がこれです」
忍はもへ~と両手を握り合わせながら微笑む。
「なるほど、もへ~が変化してもえになったのか。誰が考えたんだ?」
「私です!」
「なるほど、じゃあどう考えても違うな。アリス、信じるなよ、そいつの言葉を!」
「はあ……」
ちなみに、今言った事は全部嘘なので皆さんは勘違いしないで下さい。
☆☆☆
「……ゲーセンでも行こうかな」
今日は休日。とりあえず朝早く起きて宿題をやり終え、やる事がなくなり暇になったので、ふと呟いた。
ちなみに、姉さんは忍のお姉さんでもある
勇さんは俺が一度忍の家に遊びに行った時があるが、その時は忍と同じようにからかわれた思い出がある。俺って年上にからかわれる傾向にあるのかな……。
まあそれはいいとして、俺はショルダーバッグを肩に担ぎながら私服姿のまま家を出るとする。
姉さんがいない時は基本暇なので一人で外出することが多い。弁当も作らなくていいし。
とりあえず近所のゲーセンへと向かう。こう見えても俺はUFOキャッチャーが得意だ。ちょうど目の前にピ○チュウの人形があるから小銭を入れて始めようとした所。
「あー、健じゃないかー。何やってんのー?」
「って陽子!? それに皆まで……」
隣の方から声が聞こえたかと思い振り向くと、陽子だけじゃなく綾や忍やアリスもいる。女子達で買い物に来てたのかな。
だが、その中で俺は一際目立つものがあったから尋ねる事にした。
「忍、その恰好は一体……」
俺が気になったものというのは、忍の恰好の事。現在の彼女の外見はというと、ゴスロリなのかメイドなのか私服なのか訳分からない衣装を身に纏っていたのだ。
「健君は似合うと思いますか?」
「いや、似合うとか似合わないとかそれ以前の問題なんだが……。何その恰好? コスプレか?」
「違いますよ~。これはですね、外国人の格好なんです!」
「分からんわ!!」
ざっくりと言う忍だが、普通に聞いても分かんないと思うぞ!
「それより、健はどうしてゲーセンに来たのかしら?」
「姉さんが勇さんと遊びに行ってるからさ。俺は暇だったから来たんだよ」
「ああ、
あの二人なら納得……と陽子がうんうんと頷く。まあ、姉さんが親友と自負してるぐらいだしな。
「ねえねえケン」
「ん? どうしたアリス?」
アリスが俺の服の裾をクイクイッと引っ張ってきたため振り返ると、キャッチャーのガラスにくっつきながらピカ○ュウ人形を見つめているアリスの姿が。
「あれ、可愛いね」
「……もしかして、欲しいのか?」
「え!? いや、そんな事は……ないよ?」
両手を振りながら焦りの表情を見せるアリスだが、人形に目を泳がせている。分かりやすい反応だな。
「遠慮しなくていい。もしこういうのが欲しいと思うなら取ってあげるから」
「……いいの?」
「健は元々こういうのが得意なんだよなー。健、私たちの分も取ってー?」
「お前は俺の財布を空にさせる気か!?」
陽子がとんでもないことを言ってくる。まだ学生なんだからそういう余裕はありません!
ま、アリス一人のために取るぐらいの金はあるからいいけどな。
そんな訳で始めるとする。まず百円を入れてアームを横に動かし、一直線上にある人形の所まで止める。続けて奥の方へ向けてアームを再び動かす。そして、人形の少し後ろ側まで動かしてからアームを止めた。そのままアームは見事人形を上手く掴み、穴の所まで落ちずに運び、何事もなく一発で手に入れるのに成功した。
「わー」パチパチ
「わあ~……ありがとう!」
忍が拍手し、アリスがお礼を言ってくれる。
「どういたしまして。ふっ……まだまだ俺の腕は衰えていないな」
地味だけどこの特技のお陰ですぐ取れるし金の無駄遣いをしなくて済むし、ある意味一石二鳥だな。
「私たちの分は……」
「だから無いって……」
陽子は相変わらずだな。
その後、折角だからと彼女達の買い物に付き合う事になった。途中、ペンの補充をしておこうと色ペンを何本か買おうとした所、綾の指が当たってそっぽを向かれたり、忍が外国人旅行客であろう人達に訊ねてみたが、分からずじまいで結局アリスを頼ることになったことがあったりして一日が終了した。
ツッコミ所が満載な一日だったな。
バトル系の小説も書いていますが、こういった小説を書くのも楽しい。