きんいろモザイク ~THE GOLDEN STORY~   作:legends

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大変お待たせしました……毎回こう言ってるような希ガス。

投稿する投稿する詐欺がありましたが、GWですので、ようやく合間を見つけて投稿しました(尚、1と2は普通に大学の模様)。

それはそうと、後書きの方に軽くご報告のようなものが書いてあります。必ずという程ではないのですが、お読み下さい。
それではどうぞ。


Episode9 休日の過ごし方? 後編

「健、カレンのお父さんと何を話してたんだよ?」

 

「まあ、色々とな」

 

 夏休み、俺達は皆で企画した山へと遊びに来て、その際にカレンのお父さんと話をした。

 

 内容としては、簡単に言えば“改めてカレンを宜しく”という事。この一言に尽きる。

 

 確かに大事な一人娘を我が家に居候させてるんだ。勿論それを蔑ろにするつもりはないけど。

 

 そんなこんなで話をしてたら、陽子に呼び戻されるような形になった。確かに目的は山遊びだったな。場は渓流だけど。

 

 折角皆と遊べるんだから、俺も羽目を外す……という訳でもないけど、思い切り楽しもうと思う。

 

「ところでアリスは釣りすんのか?」

 

 ふと疑問に思った事として、アリスの方を見ると、釣り竿を持っていた。多分カレンのお父さんが持ってきたものだろう。

 

「うん、そうだよ~」

 

「確かアリスの家の近くには川があるんですよねー」

 

「うん! 釣りの事なら任せて! イギリスにいた頃はちょっとぶいぶい言わせてたんだよ!」

 

「ぶいぶい?」

 

 へえ、そりゃ頼もしいな。アリスにもこんな意外な特技があった事に少し驚いたが。

 

 後、間違った知識だろうが、ぶいぶい言わすのは不良の言葉だからな、忍。まともに捉えるなよ。

 

「私も釣るデスー。釣った魚でお昼ご飯デスー!」

 

 と、そこへ同じく釣り竿を持ってきたカレンが来た。

 

 しかし意外。多分偏見だけど外国人が釣りをしてるのってあまり見ないな。

 

 確かよく分からないけど規制や法律とかがあって、漁業は禁止されているんだっけ? 流石にそれだけじゃないんだろうけど、そういうのも含めてあまり見ないな。あるとしたらテレビでぐらいか?

 

 まあ今回は遊びに来てるんだし、難しい事は抜きにしていこう。

 

「大きいの狙いマース♪」

 

 純粋に楽しそうにしているカレンを見ていたら、何故かアリスがキッとカレンを見ていた。

 

 対抗心だろうか。そんな風に考えていると、アリスからゴオオォと擬音が付くような何やら炎のようなものが出ていた。

 

「あっアリス、暑いです……」

 

「何故だかそう思ってしまう自分が怖い」

 

 忍は単に真夏の温度でそんな厚着に近い服装だからそう感じるだけかもしれないが、俺の方にも伝わってきた。

 

 ……慣れなのか知らんが、そう感じた自分が怖く感じた。

 

 そんな、内心で恐怖(笑)を感じていた俺に、カレンが質問してきた。

 

「そういえば、ケンは釣りしないんデスか?」

 

「ん? 釣り? 釣りなら少しだけやってた感じかな」

 

 釣り自体は父さんが趣味の一環で付き合ってやってたって感じだな。小学生の頃。

 

 その後は頻繁にって訳じゃないけど、休日たまに父さんと一緒に釣りをするようになった。

 

「ケンも釣りやった事あるんだね。どれくらい釣れたの?」

 

「最初は小さいの一匹だけしか釣れなかったさ」

 

 初めて釣りをやった時は、小さいの一匹だけしか釣れなかった。ま、一匹だけでも十分だったし、何処かやりきった感はあったな。

 

「一匹だけでも凄いよケン!」

 

「そ、そうか?」

 

 たかが一匹だけしか釣れなかったのに、何故かアリスに褒められてしまった。何か照れるな……。

 

「わーい!」

 

「おぉ、カレン釣れたか」

 

 アリスと話をしてたら、カレンがまず一匹目を釣って喜んでいる様子が見られた。

 

 しかしその後も絶好調だったようで―――。

 

「また釣れまシター!」

 

 間もないうちに二匹目を釣れて。

 

「またゲットー♪」

 

 三匹目と、次々と釣っていったのだった。

 

「ケンどうデスか? イッパイ釣れまシタよ! どうデス? スゴイデス?」

 

「お、おおそうだな。カレンは凄いぞ~」

 

「エヘヘ~」

 

 カレンが魚が入ったバケツを俺に向けて掲げながら得意気な表情をし、何故そこまでと思いながらも俺は褒めてやる。

 

 多分だけど、カレンはアリス程釣りはしないんだろう。だから、こんなに喜んでいるのかもしれない。

 

 一方、そのアリスはというと。

 

「……………………」

 

 俯いて、項垂れたまま釣り糸を垂らしていたのだった。

 

 何か……南無。

 

「わぁ~っ、カレン凄いです!」

 

「えへーっ、釣りは小さい頃カラ得意だったデス~」

 

 成果を上げられていないアリスを尻目に、忍がカレンを褒め称えていたのを見る。

 

 ていうか、カレン釣り得意だったのか。隠れた能力発揮ってか?

 

 それと忍、少しはアリスの方を励ましてあげたらどうなのよ……。

 

「ア、アリス……こんな日もあるって、な? だからもうちょっと我慢して―――」

 

「ケン、パス!」

 

「わわっと!?」

 

 何か知らないけど俺がアリスを励まそうとした時、俺に釣り竿を突き出されるように渡され、驚きながら両手で受け取る。

 

 その後アリスは『わあああん!』と泣きに近い叫び声を上げながらザバザバと川の中に入り走っていく。

 

「アリス!?」

 

「待っててシノ! 今すぐおいしい魚を捕まえるから!」

 

「手掴みでか!?」

 

「その気持ちだけで十分ですよ!!」

 

 突飛な行動に出たアリスに俺と忍はすぐさまストップを掛ける。

 

 手掴みで取るだなんて熊じゃあるまいし……。いや、陽子なら出来るかもしれない。苗字が“猪熊”だから出来るかもな?

 

「おおっと手が滑ったぁ!」

 

「え―――うわぁぁっ!?」

 

 不意に見ると近くから陽子の声とヒュンという風切り音と共に、顔面に向かって何か割と大きめのナニカ()が飛来し、反射的に態勢を低くしてそれを避けた。

 

 あ、あぶねー……。もしかして今のは陽子が投げてきたのか? 綾と昼食の準備をしていて、そこで川原から十メートル以上はありそうな距離で?

 

「済まーん健ー。今何かついカッとなってやったー」

 

「それにしては随分的確ですね!?」

 

 陽子は手を振りながら棒読みで言う。だが俺は見てしまった。俺が振り返った瞬間に陽子が投擲モーションを取っていた事を。

 

 今のは確実にhead shotを狙っていたな……的確な投石で(白目)。

 

 女の勘ってどうしてこうも鋭いんでしょうかねぇ……。今後はあんな考えは控えよう。

 

 ……ところでこの持っている釣竿どうしよう。

 

 その後、やらないよりはマシという事で、俺もカレンと同様に釣りをする事になったのだが、カレンと同じくらい釣れて、アリスに『なんでそんなに釣れるのー!?』とポカポカ叩かれたのは割愛。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

『いただきまーす!』

 

 お昼。先程釣った魚を焼き、皆で集まって昼食を摂る。

 

「はむっ……んん~! 美味しいデス!」

 

「だな。それに自分で取れたものを食うのはまた違う美味さを感じるよな」

 

「あ、それ分かるー!」

 

「陽子は綾の準備手伝ってただけだろ……」

 

 そんな感じで皆と話し合っていると、此方に対して重い視線を感じた。

 

 見ると、やはりというべきかアリスが俺を恨めしそうな顔で睨んでいた。

 

 それもそうだろう。あの後、結局アリスが釣った魚はゼロではなかったが、一、二匹ぐらいだ。しかも途中参加の俺が偶然にもアリス以上にかなり釣れたという。

 

 これには流石に同情せざるを得ない……ってこうなったきっかけ俺じゃん。

 

 取りあえずこうなったからには仕方ないと収拾して、アリスに手で「ごめん」のジェスチャーを取ったが、確か外国人は拝み手のようなジェスチャーをしないんだっけか?

 

 その事に疑問を持ったが、アリスの表情が少し緩んだ事から、多分理解したのだろう。アリスの日本好き感性が功を制したのかな。

 

 でもそれだけでは何か悪い気もするし、後でアリスにちゃんと謝ろう。

 

 そんな風に考えていると、綾が荷物から風呂敷包みを取り出す。 

 

「あ、そうだわ。私、皆にお弁当作ってきたの」 

 

「わーい」

 

 今回釣った魚に加えて、綾が弁当を作ってきたという。それに対し何故か陽子が棒読みで言う。

 

「何よ。少しは上達してるんだから!」

 

 どういう事かというと、以前忍の家に招かれた際、綾が弁当を作ってきて皆で食べた事があった。

 

 その時、見た目は豪勢だが味付けは薄いという、アリスとカレンのずばっと純粋な反応があった。

 

 俺はその事にずっとツッコんでいた記憶がほとんどで、あまり覚えていない。

 

 唯一覚えているとしたら、陽子の『いいお嫁さんになれるなー』という冗談を真に受けてから、俺を見て『そんな事ないわよバカッ!』って滅茶苦茶良い笑顔だった事ぐらいか。

 

「まあまあ。折角作ってくれたんだから食べない訳にはいかないだろ?」

 

「それはそうだけどさ……」

 

「健……」

 

 折角綾が作ってくれたから、それを無碍にしない言い方を陽子にすると、綾は何故か綻びながら俺を見る。

 

 そして、開けてから見ると、多分前回と同様の豪勢さ。とても美味そうだ。

 

 陽子は弁当の中身の一つである芋を取ると、意を決したように食べる。

 

「ほんとだ美味い!」

 

「おいしいです綾ちゃん!」

 

 陽子と忍はそれぞれ素直に美味いという感想を言う。どうやら高評価だったようだ。

 

「綾は私のアレになって欲しいな~」

 

「アレって何よ」

 

「えっと、お母さん! おふくろの味!」

 

 陽子は笑いながら綾に告げていた。対して綾は何処となく呆れながら見ていた……ような気がした。

 

 二人の様子を尻目に、俺も弁当の卵焼きを取って食べてみる。

 

「んっ、マジ美味い!」

 

「本当?」

 

 自分の口から出た感想に、綾が反応する。

 

「ああ、本当だ。味付けも良いし、全然問題ない。毎日食べたいぐらいだ」

 

「ま、毎日!?」

 

 俺が最後の方で笑いながら冗談交じりで答えると、綾が顔を真っ赤にして驚く。

 

 今のは冗談のつもりだったんだが……。

 

「い、いや毎日は流石にじょうd―――「抜けがけはずるいぞ健! 私も綾の飯を食べたい!」……抜けがけってなんだよ!?」」

 

 慌てて俺が言おうとすると、陽子が突っかかってきた。何なんですか一体。

 

「け、健がそんなに食べたいなら考えてやらない事もないわ」

 

 陽子の言った事はスルーしたのか分からないが、綾は依然として顔を赤くしながらそっぽを向く。

 

「い、いやそのだな……」

 

「綾ちゃんにそんな事言うなんて健君は大胆ですね~」

 

「お前に言われたくない!」

 

 突拍子もない事を言う忍に言われたくない。

 

「HAHAHA、さすがケン! 私達にできない事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる、あこがれるゥ、デース!」

 

「カレンもノリに乗るなぁ!?」

 

 家にある某スタンド使いの漫画の影響を受けたカレンが、外国人笑いを含めながら言ってのけた。

 

 うーん、この訳が分からない流れ。マジで冗談を言っただけなのにどうしてこうなった……。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

 俺は川原の岸辺で座りながら息を吐く。

 

 先程の流れから取りあえずは解放され、ツッコミ疲れで今こうして一休みしている。

 

 忍はアリスと、綾は陽子といった感じで二人ひと組の形で一緒にいる。カレンは……父親のとこかな。

 

 俺はそんな彼女らの様子を見ながら半、日向ぼっこをしている。……決して仲間外れという訳ではない。多分。

 

「虫いっぱいいるね」

 

「そうですねー」

 

 お、あの声はアリスと忍だ。どうやら夏ゆえに周りに飛ぶ虫……主に蚊に飛び回られているらしい。

 

 全く迷惑な話だ。予め虫除けスプレーと蚊取り線香持ってきて正解だったぜ。

 

 そこで、不意にアリスが忍を見て何か気付いたらしい表情をすると。

 

「シノ、危ない!」

 

 アリスが忍の頬を思い切り(はた)いた。って、おおい!? 今のは蚊を注意してやったんだろうけど、やり方が唐突すぎるぞ!

 

「アリス……?」

 

「ごっ、ごめんね! 蚊が……蚊がぁぁぁ!!」

 

 アリスも震えた声(多分涙目)で慌ててプルプルと震える忍をフォローする。それこっちから見てもビックリしたわ。

 

 ふー……。それにしても、声に出さずとも、内心でツッコミを入れるとは。俺もツッコミを控えた方が良いのかな?

 

「にしても、暑いな……」

 

 流石にさっきの内心ツッコミの影響はないものの、こうゆっくりしててもじんわりと暑さが自然と湧いてくる。

 

 更に地べたに座っているだけでも、地面が陽光に照らされているので暑さが伝わってくる。心なしか陽炎も見える気がするし。

 

 こうしていても暑さに参るだけなので、少し趣向を変える事にする。

 

 俺の格好は、半袖のYシャツ一枚に膝までのズボンを履いているが、靴を脱いで裸足になり、足を捲ってから川の方へと向かう。

 

 川に入ると、それが功を制したのか、膝までいかないが、足に水が浸かっていく。

 

「あぁ気持ちいぃ~……」

 

 足を通して冷たい温度が伝わり、気持ち良さを感じてくる。そのせいか、自然と声が漏れて出た。

 

 所謂、足湯の真逆の温度の感じだ。よく見ると、川に何人かの小さい子供がいるようだが、水着にならずとも、これはこれで気持ちよさを感じる事ができる。

 

「あ、健」

 

「ん? ああ綾と陽子か」

 

 足水(造語)に浸かっていると、そこに綾と陽子の二人がやってきた。

 

「何やってんだー健?」

 

「見れば分かる通り、足を水に浸からせてる。水着無いし、だからと言って何もしないのも暑いだけだし、それよりかはマシと思ってな」

 

 本当なら首に冷たいタオル巻いたりするのも効果的だとは思うけど、暑さのせいでそれすら面倒だと思ってしまっているからなぁ。

 

「そうだよなー……。こんな事なら水着持ってくれば良かった!」

 

「もー、小さい子供じゃないんだから。……それに健に見られると恥ずかしいし」

 

 陽子が川で遊んでいる子供達を見て「いいなー」と言うが、綾が溜息を吐きながらそう言う。

 

 そんなに泳ぎたかったのか? 陽子の奴。

 

 あと最後の方綾が何か言ってた気がするけど気のせいか?

 

「飛び込み場所から一緒に飛び込もうとしたら綾に止められたし」

 

「だからあそこからは行ける訳ないでしょ……」

 

 陽子はそう唸るものの、綾からは呆れられる。

 

 もしかして、少し遠めだけど、あそこにある高さ三メートル以上はあるであろう飛び込みポイントから飛び込もうとしたのか? 

 

「あれの事か。やろうと思えばできるかもしれないけど」

 

「おお! 健ならそう言ってくれると思ってた! じゃあ早速……」

 

「水着無いんで行きません」

 

 陽子が俺の言葉に期待の眼差しを込めて言うが、“止まれ”のように手を出してピシャリと言った。

 

 そんな風に喋っていると、横からカレンが川に向かって走っていく様子が窺えた。

 

「ここは水遊びで我慢しまショー!」

 

「おおっ、カレンナイスアイディア!」

 

 カレンが「青春っぽいデス!」とか言いながら俺達に水をバシャバシャとかけてくる。

 

 陽子もそれを喜々とした様子で、裸足になると同時に川へと走っていった。

 

「ま、服のままじゃ入れないし、それはそれでありかもな」

 

 俺は独り言のようにポツリと呟いた。

 

 そんな風に二人がはしゃいでいる光景を見てると、不意に綾が俺の横に座り、同じように足を水に浸からせた。

 

「……綾は行かないのか?」

 

「私は……別にいいわよ。元々あんな風にはしゃげないし」

 

 綾は、何処か物憂げな様子で、二人を見つめている。

 

「そうか? 綾だったら何だかんだで楽しそうにやると思うけどな」

 

「何を根拠に……。やらないわよ。そういう健だって、陽子やカレンと一緒に遊ぶと思ったけど?」

 

「はは、たまにはこういう風に眺めるだけでも乙なもんかなーってな」

 

「……そうね」

 

 そう言って、二人で笑い合っていると、陽子が俺達に向けて手を振っていた。

 

「おーい! 健も綾も来いよー!気持ちいいぞー!」

 

「おっ、陽子がお呼びだ」

 

 俺は背伸びをすると、足を川に浸からせたままその場に立ち上がる。

 

「ちょっと……健?」

 

「ほら、折角だから綾も行こうぜ。陽子にお呼ばれしたんだしさ」

 

 俺は綾に向けて、一緒に行こうというサインで手を差し出す。

 

「……少しだけよ」

 

 綾は何故か頬を赤くしながら、手を躊躇いがちに差し出そうと少々戸惑っていたが、そう言いながら俺に手を差し伸べた。

 

 俺は遠慮がちに出された綾の手を握る。……今思ったが、姉さん程じゃないけど我ながら大胆だよなこれ。

 

 綾の手は女の子特有……なのかは知らんけど俺と比べたら小さな手だ。不意に中学校の頃の記憶が蘇る。

 

 あの時、右も左も分からずおろおろしていた綾を、俺はリードしていた。その時も、こうして手を握っていた。

 

 あの時は別に手を握るくらいどうって事ないくらいに思っていたが、今考えると相当大胆だったか、あるいは楽しむためにやっていたか。

 

 俺は後者だと思う。綾を場に馴染ませるために、楽しませるためにやっていた事だ。大袈裟かも知れないけど。

 

「……どうしたの、健?」

 

「あぁ……いや、何でも」

 

 いかんいかん。つい物思いに耽ってしまった。

 

 ともかく、中学校の頃の記憶は未だに残っているが、こうした思い出があった、という事だけを伝えておく。……って、だから誰に言ってんだ俺は。

 

 今は皆で遊ぶ事を考えよう。

 

 俺達は陽子とカレンの方向に向けて、一緒に歩みを進める。……のだが。

 

「綾、大丈夫か?」

 

「え、ええ。何とか……」

 

 綾はスカートの裾を掴みながらゆっくりと進んでいる。加えて、スパッツも履いているから、さっきの陽子やカレンみたく走ったりしたらすぐ濡れるだろう。

 

「健! 綾ー! 早く~!」

 

「まあ待てって! 今そっちに行くから―――」

 

 

 その時だった。横でバシャーンと水飛沫の音が聞こえたのは。 

 

「「え―――」」

 

 俺と綾は音がした方向を見据える。するとそこには―――忍がラッコの如く川流れしていた。

 

「忍―――!?」

 

「シノ―――!!」

 

 俺と側にいたアリスの叫び声が木霊した。

 

 すぐさま、川の流れに従いながら流れていく忍を救助する。

 

 ……余談だが、忍は救出されるまで目を丸くしていたのは何故だろう。そこは分からない。

 

「服が水を吸ってすごい重さに……」

 

 ぼたぼたと水を垂らす純白の妖精服(?)を掴んで泣き顔をする忍。

 

 尚、一応助けたのは俺で、川から救うのと染み込んだ濡れた服を掴んだ影響で、大した事はなかったもの俺も濡れた。

 

 服以外大事に至らなかったから良かったものの……。

 

「シノ大丈夫? ケガはない!?」

 

 そんな間違いなくブルーな忍にアリスが慌てて駆け寄っていく。

 

「おい、そんな慌てたら……!」

 

 そこで俺は勘付いた。どうして俺達は川の岸辺にいたんだろう。後一歩踏み出せば川に入る位置で。どうしてそこでアリスに落ち着くように言わなかったのだろう。焦って、たたっと駆け寄る彼女にもっと注意していれば。

 

「あっ」

 

「oh?」

 

「えっ」

 

「お?」

 

「ちょっ」

 

 アリスが石で足を滑らせたのを初めに、カレン→綾→陽子→俺の順に、引っ張り合いに発展するという事はなかったのに。

 

『わぁ―――っ!』

 

 皆一斉に、川に落ちる事はなかったのにな。

 

 こうして、全員びしょびしょになる羽目になってしまったのだった。

 

「も~~~っ」

 

 綾は服全体が濡れてしまった事に不平を垂らす。

 

「ごめんね、みんな」

 

 アリスが、川に浸かりながらも謝罪の言葉を言った。

 

 尚、脳天気にもカレンはHAHAHAHAと外人笑いをしていた。

 

「あはは、まー夏だしすぐ乾くよ!」

 

 陽子がフォローするように、そう笑って言う。

 

「でも汚れてしまった服は戻らないです~……。うぅ、ショックです……」

 

「そんな服着てくるから!」

 

「服なんてなくても、シノは妖精だから大丈夫だよ!」

 

 嘆く忍を、陽子とアリスが宥める。ただ、アリスの慰めは何かズレてる気がする……。

 

 そんなハプニング紛いな出来事がありながらも、山での遊びは、とても有意義なものだったなと感じたのだった。

 




後編なのに、約半年も間を空けてしまって申し訳ありません……。

それと軽いご報告なのですが、ただいま私は大学(主に卒論)、自動車学校、それから就活に明け暮れ、本当に暇がない状態です。ですので、投稿ペースが格段に下がります。これらが順々に片付き次第、確実に投稿していきますのでよろしくお願いします。

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