どっちつかずの彼女(かれ)は行く   作:d.c.2隊長

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大変長らくお待たせしました、ようやく更新でございます。

今回も自分理論が入ってますので、寛大な心でお読み下さい(タイトルを見ながら


出番だ……ごーちゃん

 イブキとの出逢いは鮮烈なモノだったと、レ級は思う。

 

 自分にとって力を振るえば簡単に壊れてしまうような玩具……艦娘で遊んでいた時に突然現れた彼女。戦艦の砲撃すら容易に耐えきる自分の装甲(からだ)を軍刀1本でスパッと斬り飛ばすという信じがたい事実。それ以上に、レ級はイブキという存在そのものから目を離せず、心奪われてしまった。イブキから見逃された後は、移動しながら悶々と彼女のことばかり考えていたものだ。

 

 もう1度イブキに会いたい……そう思うことは彼女と出逢った時から定められていたのだろう。だがすぐには会いにいけない。せめて、この身体の修復が終わるまでは……そう考えたレ級は、自分の寝床になっているとある島の洞窟へと入り、静かに修復作業に入る。姫や鬼がいる住処ならば、鎮守府と同様に入渠施設がある場所もあるが……レ級はその強さと子供のような純粋かつ残酷な性格故に組織に不向きな為、コミュニティーに入るに入れずこうして独りでテキトーな住処にいる。そんな場所に入渠施設などある訳がない……ならば、どうするか。

 

 そもそも深海棲艦にはある程度の自己修復能力があるが、これは人間で言うならば止血程度でしかない。後は施設を使うか……もしくは、資材を直接身体に取り込むかしなければならない。レ級の場合は後者をするしかないが、レ級程の深海棲艦の修復となれば莫大な量の資材が必要となる……しかし、寝床にはそれ程の資材などない。そこでレ級が取ったのは、深海棲艦の間でのみ通じる救難信号を出すことだ。この信号に気付いた深海棲艦がいれば、必ずとは限らないが助けにくるだろう……しかし、レ級が求めているのは助けではない。

 

 やがて、1隻の重巡深海棲艦が現れた。その相手は尻尾の先がないというレ級の姿を見て驚愕し、レ級へと近付いていく。

 

 

 

 そしてレ級は、その重巡深海棲艦の首に噛み付き、喰い千切った。

 

 

 

 「……っ!? カ……」

 

 2度目の驚愕の表情を浮かべながら、重巡深海棲艦は血液か燃料かを首の喰い千切られた部分から撒き散らしていく。やがて噴出が止まり、その場に倒れる身体をレ級は抱き留め……反対側の首の肉を喰い千切り、美味しそうに咀嚼する。砲身だろうが装甲だろうが異形だろうが関係なく、美味しそうに食べていく。鋼材なら、やってくる。燃料も、弾薬も向こうからやってくる。

 

 「……キヒッ♪」

 

 修復に必要な材料は、向こうからやってくる。

 

 

 

 

 

 

 重巡深海棲艦を喰らった後も救難信号を出し続け、助けに来る深海棲艦の全てを喰らい続けたレ級。その結果、8日目の朝を迎えた頃に完全に修復を終えた。代償として住処である洞窟が鉄臭くなってしまったが、臭いに慣れきっているレ級は気にも留めない。

 

 さぁ、イブキを探しに行こうとしたところで、洞窟の入口からレ級に向かって来る駆逐深海棲艦の姿が目に映る。そういえば救難信号を止めていなかったと思い出したレ級は信号を止め、やってきた駆逐深海棲艦を朝ご飯だとばかりに喰らった。食べ終わるとレ級は身体に着いた血か燃料か分からない液体を海水を使って洗い流し、今度こそ洞窟から出た。

 

 「……!?」

 

 8日ぶりとなる外の空気の中に混じった、嗅いだことのある匂い。それが何の……誰の匂いなのか気付いた時、レ級は輝かんばかりに笑顔になった。

 

 「イブキノ匂イガスル……♪」

 

 そして視界に入った2隻の艦娘。よく匂いを嗅いでみれば、その大元は彼女達のどちらかであることが分かる。その瞬間、言いようのない不快感と怒りがレ級の心を満たしていき……衝動的に艦娘目掛け、直った尻尾の先にある異形の開いた口から突き出た主砲を放った。結果として沈めることは出来なかったが、1隻は大破したのか今にも沈みそうになっている。もう1隻は……尻餅こそ付いているが、大破した艦娘が庇ったのか無傷に等しい。

 

 ならば次は外さないようにと艦娘達に近付いていくレ級……徐々に距離が縮まり、イブキの匂いも強くなっていく。そしてその匂いが無傷の艦娘……夕立から漂っていることを悟ったレ級は一気に夕立に近付く。対する夕立は時雨が大破したことに気を取られているらしく、レ級が近付いていることにようやく気付いて立ち上がろうとしているところ。そんなノロノロとした動きで逃げられるハズもなく、夕立の両手首がレ級の両手によって掴まれた。

 

 「オ前カライブキノ匂イガスル……ナンデダ?」

 

 「い……ったい! 何でイブキさんの名前を……ぎぃっ!!」

 

 「聞イテルノハコッチダ!!」

 

 夕立の疑問に答えることはなく、レ級は癇癪を起こした子供のように怒鳴ると掴んでいる手首を持ち上げて宙吊りにする。自重と艤装の重みが加わって手首から来る痛みに夕立が悲鳴をあげる。だが、それを聞いたところでレ級が手を離すことなどあるハズがない。

 

 レ級にとって艦娘は自分を楽しませる玩具に過ぎない。そんな玩具が自分が求めるイブキと何らかの繋がりがあるなど認められるハズもない。それが嫉妬という感情であることを、レ級は知らない。その感情を教えてくれる存在など居なかったからだ。いや、嫉妬だけではない……レ級は艦娘のことも自分のことも何もかも知らないのだ。善も悪もない、思うままに独りで生きてきたレ級が世の中を知ることなんて出来るハズもない。その強さ故に、その純粋さ故に、同類であるハズの深海棲艦ですら彼女と関わることもなく、艦娘や人間と会えば逃げられるか戦うか。その子供のような純粋さが変わることなどある訳がない。もしも、変わる切欠となるモノが在るとするならば……それはやはり、レ級と1対1で接することが出来る存在だけであろう。

 

 

 

 「その手を離せ……レ級」

 

 

 

 「ッ!?」

 

 ゾクリと背中を何かが走り抜けるような感覚と嗅いだことのある匂いを感じた直後、レ級は夕立の手を離して両腕と上体を後ろに逸らした。瞬間、一筋の剣閃がレ級の腕があった場所を過ぎる。もう数瞬腕を引くのが遅れていたら、いつかの尻尾のように斬り飛ばされていただろう。何しろ、斬り飛ばそうとしたのは……その尻尾を斬った存在なのだから。

 

 「無事か? 夕立」

 

 存在の名をイブキ。どこから現れたのかはレ級には分からない。が、唐突に現れた求めていた存在は夕立と沈みかけていた艦娘……時雨を両脇に抱え、既にレ級から距離を取っている。その姿にジクジクと胸に痛みが走り、レ級は胸の開いたレインコートを胸の前に寄せて耐えるように掴む。

 

 「ちょっと手首が痛いケド、大丈夫っぽい」

 

 「そうか……良かった」

 

 夕立の言葉を聞いたイブキが安堵したように小さな笑みを浮かべる。それを見たレ級の胸がまたジクジクと痛む。なぜこんなにも痛いのか、レ級自身には分からない。知らないのだから、分かるハズがない。ただ、痛い。イブキが艦娘に笑いかける姿を見る度に痛む。イブキが艦娘を見る度に、なぜか腹が立つ。だが、イブキがレ級の名前を呼ぶと……痛むどころか暖かくなる。

 

 (……ナンダ、玩具ガ……艦娘ガ居ルカラ痛インダ。艦娘ガ居ルノガ悪インダ。ジャア……)

 

 

 

 ― 艦娘ガ居ナクナレバイインジャナイカ ―

 

 

 

 「ひっ!!」

 

 レ級の怒りと憎しみを宿した赤い双眼がイブキに抱えられたままの夕立と時雨を射抜き、その形相に思わずというように夕立が悲鳴を上げる。その悲鳴すらも今のレ級にとっては火に油を注ぐことにしかならないのか、イブキが居るにも関わらずに尻尾の先の異形の口から砲身を出して発射体制を取る。

 

 「アアアアッ!!」

 

 「っ……」

 

 怒りの叫びと共に放たれる砲弾を、イブキは右へと真横に跳ぶことで難なく避ける。そうして着水した後、イブキは抱えていた夕立を下ろして時雨を夕立に渡して支えさせる。

 

 「イブキさん……?」

 

 「夕立はその子を屋敷に連れ帰って休ませてあげてくれ」

 

 「わ……わかったっぽい。でも、イブキさんは?」

 

 「癇癪を起こした子供の相手をしてくる」

 

 イブキがそう言った直後に響き渡る砲撃音よりも速く、イブキは左腰の軍刀を抜いて下から上へと振り上げる。その行為が何なのか夕立には分からなかったが、自分達の左右後方2カ所同時に巨大な水柱が上がったことでその意味を悟る。とどのつまり、砲弾を斬り裂いたということだ。そして、そのことに遅れて気付いた夕立は……今この場においては力不足なのだと、悔しく思いながらも事実を受け入れ、言われた通りに行動する。

 

 「……わかったっぽい」

 

 「逃……ガスカァッ!!」

 

 「お前の相手は俺だよ」

 

 時雨を支えながら反転して屋敷へと向かう夕立の背に向かって再び砲身を向けるレ級だが、既にレ級の元へと瞬きする間に移動していたイブキが目の前で金と青の瞳で見下ろしながら軍刀を振り上げようとしている。その姿に気付いた瞬間、レ級は反射的に全力で尻尾を引いた。その結果……イブキの斬撃は空振り、レ級もまた夕立を撃つことが出来ずに終わる。

 

 「イブキ……イブキ、イブキ! イブキ!! 何デ邪魔スル!?」

 

 「夕立は大事な友人だ。その友人を攻撃すると言うなら……容赦はしない」

 

 「ウ……グゥゥゥゥ!」

 

 ズキンズキンと痛む胸を押さえながら、レ級は唸る。邪魔な艦娘は守るのに自分には刃を向けるイブキに……否、守ってもらえている艦娘達が憎くて憎くて仕方がないと。

 

 (ズルイ、ズルイ! ズルイ!! ボクダッテイブキト……イブキ、イブキ! イブキィィィィッ!!)

 

 「アアアアアアアアッ!!」

 

 上限無く溜まっていく怒りと憎しみと嫉妬を声に乗せ、レ級は尻尾をイブキ目掛けて横一線に凪ぎ払う。しかし、それはイブキが後方に跳ぶことで避けられしまった。ならばとレ級は尻尾の先から突き出ている砲身の先をイブキへと向け、砲弾を放つ……が、それは先程のようにイブキに縦一閃に斬り捨てられた。海上を陸上のように飛び跳ねて走ること出来、その速度も瞬時にという言葉が相応しく、異常な切れ味を誇る軍刀とイブキの胴体視力が彼女に被弾を許さない。

 

 (ナラ、手数デ!!)

 

 尻尾の先の異形の口から突き出ていた砲身が引っ込み、変わりにどうやって浮いているのか分からない、小さな駆逐深海棲艦のような艦載機が5機程現れ、レインコートの裾から同じ姿をした艦載機が1機現れる。計6機となった艦載機は空高く飛び上がり、イブキの攻撃が届かない位置から機銃による攻撃を仕掛けようとしていた。

 

 「コレナラ、ドウダ!!」

 

 遠距離武器を持たないイブキには艦載機を落とす術がない。もしも軍刀を投げたりジャンプして艦載機に届いたとしても、必ず隙ができる。深海棲艦の中でも火力装甲雷撃対空全てに秀でたレ級ならば、その隙を確実に突ける。例えイブキを倒せなかったとしても無傷ではいられないハズ。そうなれば、後は逃げた艦娘を始末しに行って、イブキの四肢をもいでしまえばずっと一緒に居られる……それがレ級の考えだった。

 

 「……キヒヒッ♪」

 

 訪れるであろう未来を思い、思わずというようにレ級の口から笑みが零れる。しかし……その笑みは、すぐに止まった。

 

 

 

 「出番だ……ごーちゃん」

 

 

 

 その言葉と共に、空が紅に染まった。

 

 

 

 

 

 

 「……う……ぁ……」

 

 「時雨? 気がついたっぽい?」

 

 イブキに言われて屋敷へと夕立が向かっていた途中、時雨が目を覚ました。しばらく寝ぼけているようにボーっとしていた彼女だったが、1分程経ったところでようやく意識がはっきりしたのかハッとしてキョロキョロと辺りを見回す。

 

 「夕……立……レ級、は?」

 

 「イブキさんが相手してくれてる。私は時雨を休ませる為に屋敷に連れて行くように言われたっぽい」

 

 「イブキさん……? 屋敷……?」

 

 (……あっ、なんで私がここにいるかとかイブキさんのこととかどうやって説明するか考えてなかった)

 

 ある意味で最大の問題が夕立の前に立ちはだかった。何しろ夕立はこの島にかつての仲間が来るということを想定しておらず、見つかった場合の言い訳や嘘を何も考えていなかったのだ。夕立にとっては今の生活は夢のようなモノであり、二律背反に悩むことがなく、イブキという存在と同棲(イブキにとっては同居)しているこの島は楽園に等しい。もし……正直に話せばどうなるだろうか。

 

 フレンドリーファイアのこと話せば、糾弾されるだろう。だが時雨の性格を考えれば、怒らずに悲しい事故だった……で済むかもしれない。逃げ出したことも同じような結果に落ち着くだろう。だが、イブキのことは? 今の暮らしのことはどうなる? 例え時雨であっても、命の恩人という事実があれど謎の存在であるイブキと夕立が共にいる現状を良しとはしないであろうし、自分達の……夕立の所属する鎮守府へと連れ帰ろうとするだろう。

 

 そして……深海棲艦の記憶と二律背反の感情のことを正直に話せばどうなるだろうか。夕立の頭では正確な答えなど想像出来ないが、ほぼ間違いなくロクなことにはならないだろう。例え鎮守府の提督が人間性を重視した末に配属されるのだとしても、後ろ暗い考えを持っている者もいる。更に上の人間ならば会ったこともあまり無い分性格が分からない故に悪い方へと想像が働いてしまう。

 

 (どうしよう……なんて言えば……)

 

 夕立は悩み、考える。だが、いかんせん夕立という艦娘は理性より本能、計算より直感、思考より行動な艦娘で、頭を使うことは苦手分野である。そうしてあーだこーだと考えた結果。

 

 「……イブキさんは私の命の恩人。今はレ級の相手をしてくれているから、その間に私は時雨を私達が今住んでる屋敷で休ませるように……って言われたっぽい」

 

 「1人でレ級を……!? そんな、無茶だ……」

 

 戦艦レ級。例え1対6であったとしても無傷で済むどころか倒しきれるかも分からない深海棲艦。更に時雨が見た限り、今回現れたのはエリート……普通のレ級よりも強い個体。それを1人で相手取るなど、時雨からしてみれば自殺行為……自分達を逃がす為に犠牲になったとしか考えられない。

 

 (そっか、時雨はアレを見てないから……)

 

 だが、夕立は見た。艦娘と深海棲艦では有り得ない動きをし、レ級の砲弾を容易く斬り裂いたイブキの姿を。更には先程から何度か爆発音もしている……それはつまり戦闘がまだ続いていることを示している。それがイブキが攻撃を受けたが故のモノではないとは言い切れないが、夕立は彼女が被弾する姿を想像出来ないでいた。むしろイブキが迎撃したが故のモノだと言われた方がしっくり来る。しかし、それを時雨に言ったところで信じないだろう。

 

 「早く助けに……」

 

 「そんな状態で行くの? 助けどころか足手まといになるっぽい」

 

 「っ……それは……」

 

 悔しげに俯く時雨を、夕立は冷めた気分で見下ろしていた。はっきり言ってしまえば、夕立は時雨がこのまま自分に連れられて屋敷に行っても、自分を振り切ってイブキの元へと向かってレ級に沈められても“どちらでも構わない”。どちらにしても、二律背反の感情によって悲しんで喜ぶのだから。

 

 だが、イブキに言われたことは守りたいと思うのだ。

 

 「……行くよ時雨。イブキさんは大丈夫だから」

 

 「でも……」

 

 「じゃあ、賭けをするっぽい」

 

 「……へ?」

 

 突然の脈絡のない提案に、時雨の口から思わず気の抜けた声が漏れる。そんなことは関係ないとばかりに、夕立は続ける。その視界の隅に映った空が紅く染まったことき気づくこともなく。

 

 「今助けに行かなくて、1日経ってもイブキさんが屋敷に戻って来なかったら……2人で鎮守府まで逃げるっぽい」

 

 「……戻って来たら?」

 

 

 

 「私は鎮守府には帰らないっぽい」

 

 

 

 

 

 

 「……ソンナ……」

 

 目の前で起きた6の爆発。そして海へと落ちていく炎の塊……その姿を、レ級は信じられないといった表情で見ていた。誰が予想出来るだろうか? 軍刀しか持たない存在が、その場から1歩も動くことなく空を飛ぶ戦闘機を6機同時に落とすことなど。

 

 カキン、という音を切欠にレ級がハッと意識をはっきりさせる。音がした方を見れば、イブキが“ごーちゃん”と呼んでいた軍刀を鞘に納刀したところだった。その納まっている軍刀を見て、先の恐怖がレ級を襲う。アレは使わせてはいけない。深海棲艦も艦娘も、アレを使われればほぼ確実に“終わる”。人……艦娘と深海棲艦の個体によっては精神すらも終わらせるほどに。

 

 「ナラ……ッ!」

 

 怯えつつもレ級が腰を曲げるとリュックのようなモノの口が独りでに開き、中から4発の魚雷が扇状に放たれる。魚雷の性質とイブキの動きを考えれば当たる可能性は皆無に等しいが、艦載機も砲撃も通じないのならダメ元である。しかし、水中を行く魚雷ならイブキにも迎撃出来ないハズ。ならば、奇跡の確率を引き当てれば……というのがレ級の考えだった。

 

 「魚雷か……なら、しーちゃんだ」

 

 「ハ?」

 

 レ級にとって意味不明な言葉を呟いた後、イブキは右後ろ腰の2本の内、下の軍刀を引き抜く。その軍刀は、軍刀と呼ぶにはあまりに刀身が短い。刃渡りは15cm程であり、まるでナイフのようだった。そのナイフのような軍刀を右手に持ったイブキは切っ先を海面へと向け……。

 

 

 

 「伸びろ」

 

 

 

 ただ一言そう呟いただけで、刀身が急激に“伸びた”。そしてイブキが左から右へと軍刀を振り切ると同時に起きる“4つの水柱”がレ級の目からイブキの姿を隠し……それが収まりイブキの姿が見えるようになると、その手には先程刀身が伸びたのが嘘のように、ナイフのような短さになった軍刀が握られていた。

 

 「ナンダ……ナンダソレハ!?」

 

 「見たとおり、刀身が伸びるという特徴を持つ軍刀だ。戦闘機相手に振るうには扱いづらくて手元が狂いそうなので使わなかったが、魚雷なら水中ということもあって当てるのは楽だ。何せ、コイツを使って魚を穫っていたんでな」

 

 「ハ……アハハハ……」

 

 開いた口が塞がらない、というのは今のレ級のような表情を言うのだろう。刀身が伸びるという見たことも聞いたこともないような軍刀もそうだが、自分の魚雷を破壊した程の武器が元々は漁獲に使っていたと聞けば誰だってポカンとする。レ級など、もう笑うしかないとばかりに乾いた笑い声を無意識に出していた。

 

 砲撃は斬り捨てられるか避けられた。艦載機は一瞬の内に破壊された。魚雷も伸びる刀身で凪ぎ払われた。後レ級が出来る攻撃は尻尾を直接当てるか、先端の異形の頭部で噛みつくか、後先を考えない特攻かだが……当たる未来像が見えない。どう足掻いても何をしても、視えるのは再び尻尾を斬り捨てられて血を撒き散らす己の姿。

 

 「まだ……やるか?」

 

 ただ一言、イブキがそう言うだけでレ級は心臓が握り潰されるような気分に陥る。何をしてもどう足掻いても勝つことが出来ない相手……生殺与奪を握られたことがないレ級にとって初めての相手の出現に、彼女は生まれて初めて“恐怖”を覚えた。今感じている感情が“恐怖”であると知った。“恐怖”のあまりに、逃げ出したいという自分の意志に反して動くことも出来ず、声も出せないという出来事を体験した。

 

 イブキの言葉に、もう戦う気はないと返すことすら出来ない。そんな様子のレ級に焦れったく感じたのか、イブキが1歩、レ級に近付く。ただそれだけの動作にすら、レ級は怯えから体をビクリと震わせた。そんなレ級のことなど知らぬとばかりに、イブキは1歩1歩ゆっくりと近付く。レ級からしてみれば、避けられない死がゆっくりとやってくるようなモノだ。そして今、その絶対的な死が目の前に来ている。

 

 「ウ……アァ……」

 

 いつ金と青から変わったのか知れない自分を見下ろす鈍色の目は、どんな感情を宿しているのかレ級には分からない。やがて、イブキの手が上がる。一体何をされるのかと怯えるレ級は両手をギュッと握り締め、目尻に涙を浮かべながら目を瞑って俯かせる。抵抗や逃亡など思考の片隅にすらない完全な屈服を、彼女は本能的に行っていた。

 

 

 

 そんな彼女の頭に、イブキはコツンと軽く握った手を置いた。

 

 

 

 「もうあんなことをしたらダメだぞ」

 

 その言葉の後に、イブキは今度は手を置いた部分を優しく撫でる。対するレ級は、自分の理解出来ない状況に固まり、ただされるがままに撫でられ続けていた。何もかもが初めてなのだ……嫉妬も、恐怖も、叱られるのも……こうして誰かに頭を撫でられるのも。

 

 レ級は艦娘の記憶を持っている訳でも艦娘から深海棲艦になった訳でもない。生まれた時からこの姿で、生まれた時から自分勝手に、自由気ままに暴虐の日々を送っていた。会話すらもロクにせず、敵も味方もなく、ただただ独りで居た。それを寂しいとも悲しいとも思ったことなどない……そんな感情は知らなかったし、教えられなかったから。

 

 (……アッタカイ……)

 

 優しく、優しく撫でるイブキの手。レインコートの上から撫でられている以上、そこに温度を感じることはないが……レ級は確かに、暖かさを感じた。血にまみれた時のような温かさではなく、春の陽気のようなぽかぽかとした暖かさを。

 

 「……ッ」

 

 不意に、その暖かさが涙腺を刺激したのかレ級の顔がくしゃりと歪み、すんすんと鼻を鳴らす。なぜこんなにも涙が零れそうになるのか……やはりレ級には分からない。レインコートの裾をギュッと握り締め、溢れようとする涙を流さぬように耐える。だが……止めることも出来ずにポロポロと零れ始めた。

 

 「ウグ……グスッ……」

 

 「よしよし……」

 

 嗚咽を耐えることも叶わなくなったレ級の体を、イブキは抱き締める。レ級の頭を自分の胸に抱え、レインコートの上から優しく頭を撫で続け……ゆっくりとレ級の幼い心を暖かさで包み込んでいく。今まで無縁だった人肌の温もりは彼女の氷のように冷たく幼い狂気を溶かしていき……。

 

 「許してもらえないかもしれないが、一緒に夕立達に謝りに行こう。もし仲直り出来たら……一緒に暮らそう。部屋なら沢山あるし、君の知らないことは俺が教えてあげる」

 

 

 

 ― 俺と……家族になろう ―

 

 

 

 「ウ……アアアア!! グシュッ……ヒッグ……ウグゥ……ウァアアアアッ!!」

 

 戦艦レ級は生まれて初めて大声で泣き声を上げる。それが何の感情によって出たモノなのか理解出来ないままに、泣き続ける。ぼんやりと理解出来たのは、イブキがこれからは一緒に居てくれると言ったということ。同類のように避けられることもなく、離れていくこともない。艦娘のようにいきなり攻撃されたり逃げられたりすることもない。姉妹で、仲間同士で庇い合う姿を見てイラつくこともない。独り寂しく資材を探したりすることもなく、暗く寒い洞窟に帰る必要もない。

 

 レ級の数多の敵味方を手に掛けた手がイブキの服を掴む。こうして暖かさをくれる存在から離れたくないと、離したくないと訴えるように。ただただ、レ級は泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 可愛い女の子が泣いてる姿ってなんでこう背徳的で可愛いらしさ倍増するのだろうか。まさか俺が“俺の胸を貸してやるから存分に泣くといい”という主人公かヒロインの役割を担うとは思わなんだ……とか考えたが、よくよく思い出せば雷にもやってたなぁ。誰か俺にも胸を貸してくれないだろうか……夕立は割とあるんだが、実際に借りると絵が犯罪的になるから困る。というかちゃんと時雨を屋敷まで連れて行っただろうか? と少しだけ心配しながら、俺は現状に至るまでのこと思い返す。

 

 

 

 レ級が夕立の両腕を掴んでいる姿を目撃した直後、レ級は掴んでいた腕を上に持ち上げて夕立は痛みからか顔を歪めていた。そんな場面を見てしまった俺は今いる場所が崖の上であることを忘れ、彼女達の元へと跳んだ……んだが、予想以上に崖が高く、落下する速度も合わさって速いの何のって……そんでもって恐怖に煽られながらも上手いこと2人の間に着水したと同時に何とか出た言葉が……。

 

 「その手を離せ……レ級」

 

 謎変換口調ありがとうとマジで感謝した瞬間だった。何せ俺の脳内では意味不明な声にならない声だったからだ。ここで誤算……何の計算もしてないが……だったのは、着水と同時に左腰の軍刀の護拳部分に手が当たって鞘から抜けてしまい、反射的に右手を伸ばして柄を掴むとバランスを崩してしまい、順手で握ってしまったことで2人の方向に切っ先が向いて振り下ろすことになってしまったということだ。もう少しでレ級の腕を斬ってしまうところだった……危ない危ない。

 

 んでもってレ級がビックリしている間に納刀し、夕立と時雨を両脇に抱えてレ級から距離を置く。流石に至近距離では砲撃が飛んできたら避けられない可能性があるからだ。

 

 「無事か? 夕立」

 

 「ちょっと手首が痛いケド、大丈夫っぽい」

 

 「そうか……良かった」

 

 レ級と出逢ったのによく無事だったな……君の隣の時雨を見なさい、服も艤装もボロボロであられもない姿になってしまっているぞ。いや、ひょっとしたら時雨がレ級の攻撃から夕立を守ってくれたのかもしれない。真実は分からないが、ひとまず時雨が夕立の命の恩人と仮定しておこう。

 

 「ひっ!!」

 

 「アアアアッ!!」

 

 夕立が怯えたような声を出した後にレ級の怒りの籠もった声が響き渡る。急になんだ? とか思ってレ級を見たら既に発射体制を取っていた。というかあの怒り方というか叫びというか妙に見覚えと聞き覚えが……ああ、あのレ級、ひょっとしてこの世界に来て最初に出会ったレ級か? いやはや、こんな偶然もあるんだなぁと内心和んでいたらぶっ放してきたので真横に跳んで回避。その後は2人を下ろして気絶したままの時雨を夕立に渡し、彼女と一緒に屋敷に帰るように促す。話の途中で飛んできた砲弾は自由になった右手で左腰のいーちゃん軍刀を抜いてスパッと斬り捨てた。

 

 「……わかったっぽい」

 

 「逃……ガスカァッ!!」

 

 「君の相手は俺だよ」

 

 レ級が屋敷へと向かおうとした夕立に尻尾の先にある異形の頭のようなモノの口から出ている砲身を向けたので素早くレ級の前に行き、砲身を斬る為に軍刀を下から上へと振り上げ……る前に彼女は尻尾を後ろへと引いていた為に空振ってしまう。やはり、某大総統のように上手くはいかないか……彼なら砲身とは言わずに体ごとぶった斬ってしまいそうだが。あの御方は身体能力も凄まじいが使ってる武器も何気にヤバかったからなぁ……。

 

 「イブキ……イブキ、イブキ! イブキ!! 何デ邪魔スル!?」

 

 「夕立は大事な友人だ。その夕立を攻撃すると言うなら……容赦はしない」

 

 とは言うものの、どうにもこのレ級には殺意や憎しみといった感情を向けられない。どうにも言動や行動が短絡的というか、子供っぽい。最初に出会った時もそうだが……見た目や行動、言葉にせずに叫んだりするなどまんま癇癪を起こした子供にしか思えないのだ。癇癪の規模が人間の子供に比べて酷いが。

 

 「ウ……グゥゥゥゥ! アアアアアアアアッ!!」

 

 レ級が叫んだ瞬間に尻尾が動いた為、後ろに跳んで距離を取る。その後1秒もしない家に尻尾が凪ぎ払われた……危ない危ない。更に砲撃も飛んできたが難なく縦一閃に斬り捨てる。こう言うと普通に出来ているように思えるが、実際には俺から少し離れた位置で止まった砲弾を斬っているだけに過ぎない。あの時間が止まるような感覚……アニメや漫画でキャラが言う“止まって見える”という状態だと俺は考えた。この身体の動体視力と知覚能力と反射神経と身体能力をもってすれば、砲撃など“止まって見える”のだ。普段は無意識にセーブしているようで常に感覚が働いているということはないが、命の危険や戦いの場になると本能的に感覚が働くようになる……といったところか。

 

 つまるところ、自画自賛になってしまうが……俺の視覚外かつ知覚範囲(ソナーやレーダーの範囲外)からの奇襲でもなければ俺に攻撃を当てることはほぼ不可能であり、日向のような密着拘束捨て身でもしなければ1対1ではまず当たらないし負けないということになる。これは、この世界の大総統になれるかもしれない……なんてな。天狗になれる程俺は精神的に強くないし、中身は元一般人……戦いなんて知らないんだ、石橋を叩いて渡る気持ちを忘れずにいないと。

 

 「コレナラ、ドウダ!!」

 

 とかなんとか考えていたら、いつの間にか6機くらいの戦闘機……と言っていいのか分からん見た目だが、飛んでるし戦闘機でいいだろう……が空高く飛んでいた。なるほど、俺が迎撃出来ない程の高さから一方的に狙うということだ。遠距離から砲撃されるなら避けつつ近付いて斬ればいいが、空からなら確かに対応し辛い……そう“し辛い”だ。出来ない訳じゃない。

 

 しーちゃん軍刀ではちょっと狙いが甘くなる。いーちゃんふーちゃんみーちゃんでは投げつけるくらいしか出来ない。ならばと俺はいーちゃん軍刀を鞘に納め、左後ろ腰の下……ごーちゃん軍刀の柄を握る。彼女の宿る軍刀は屋敷に暮らし始めてから聞いてある。その軍刀ならば、空の戦闘機など楽に落とせる……そう自信を持って俺は鞘から引き抜き……。

 

 「出番だ……ごーちゃん」

 

 

 

 

 

 

 「初めての私の出番ですー。これが私のイブキさんに捧げる……バァァァァニィィィィングラァァァァブッ!! “火(か)”激にファイアアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 (あっつい! 腕とか体とか空気とかごーちゃんとか色々あっつい!!)

 

 鞘から抜いた時点で軍刀の刀身が燃え盛る。どうやらごーちゃん軍刀の刀身は“燃えやすく溶けにくい”という特徴を持つ鉱石によって作られているらしく、鞘から抜く時の摩擦熱だけであっと言う間に刀身が燃えてしまう。更にこの軍刀にはちょっとしたギミックがあり、柄にある拳銃のトリガーのようなモノを引くと……切っ先からどういう原理かは不明だが、気化した俺の燃料を物凄い勢いで噴出することが出来る。

 

 燃え盛る軍刀を振りながら気化した燃料を噴出させる……原理としては、ロウソクの火に向かって虫除けスプレーを使うと言えば分かりやすいだろうか。これはそれの物凄いバージョン。俺の目には文字通り火の海しか見えない。

 

 いやはや、試し斬り(?)もせずのぶっつけ本番だったんだが……試さなくて良かった。試していたら屋敷か森が全焼していたかもしれない……ごーちゃん軍刀を抜く場面はかなり選ばないといけないなぁ。ただでさえ誘爆だ爆発だ引火だとトラウマ持ちの艦娘もいる訳だし、深海棲艦も似たようなモノかもしれない……彼女達に振るうのは控えよう。そしてすまんレ級。

 

 「……ソンナ……」

 

 レ級の唖然とした声を余所に、俺はごーちゃん軍刀を鞘に納める。火は酸素を燃やす為、鞘に納めれば燃やす酸素がなくなり、火は消えるということだ。抜けば灼き尽くす……ごーちゃん軍刀を持つ俺は、太陽を手にしていると思え……っ! いや、太陽を持ってたら死ぬっての。

 

 というように自分で自分にツッコミを入れていたら、今度はレ級のリュックから魚雷が……え、そんなところに入ってたのか? 数は4、明らかにリュックの許容量を超えた大きさと数だが……ごーちゃん軍刀のこともあるし、気にしないでおこう。さて、魚雷の対処となれば……。

 

 「魚雷か……なら、しーちゃんだ」

 

 「ハ?」

 

 「伸びろ」

 

 言いながら右後ろ腰の下の軍刀を抜く。その軍刀は“刀”と呼ぶには刀身がナイフ程度の長さしかないが……それを頭の中に浮かぶレーダーのようなモノに点滅する4つの光、その1番左側に切っ先を向けてごーちゃん軍刀にもついていたトリガーを引く。すると急激に刀身が伸び……確かな手応えを感じると共に右へと、残り3つの光に沿うように振り抜き、トリガーから指を離す。すると伸びていた刀身が急激に短くなっていき、元のナイフ程度の長さに戻る。

 

 これぞしーちゃん軍刀の特徴“刀身が伸びる”。13kmだ……と言いたいが最長は100m程で、その伸びる刀身の正体は物凄く薄い刃を何重にも重ねているというモノ。トリガーを引くことでマジックアームのように伸び、離すとメジャーのごとく戻る。例えが微妙かもしれないが、元一般人で分かりやすいであろう例えがこれしか浮かばなかった。戦闘機に使わなかったのは……刀身が薄い故に持ち上げると釣り竿のようにしなってしまう為、横一閃の軌道が描けないからだ。尚、魚もこれで突いて戻して回収していた。

 

 という感じの説明を謎変換も踏まえてレ級にしたところ、乾いた笑いを浮かべていた。明らかにどん引きしている……説明がヘタ過ぎたようだ。すまないレ級。だが、これで彼女の攻撃は封殺したと言ってもいいだろう。彼女からも敵意が見られないし……いや、敵意とか殺意とかは分からないのでそうであって欲しいという俺の願望でしかないのだが。

 

 「まだ……やるか?」

 

 自分としては微笑みかけたつもりだったんだが、レ級からの返事がない。見れば、ぶるぶると身体が震えていた……どう考えても俺のせいだが、まさかそこまで怖かったのか? レ級には一切傷付けていないハズだが……あ、ごーちゃんの火が怖かったのか。誘爆とかしたらマズいし。そう結論付け、俺は震えるレ級に近づいていく。癇癪も収まっている上に怯えているかのように震えている今、彼女はもう攻撃してこないだろうと楽観的に考え……その考えが正しいと言うように、レ級が何の行動も起こさないままに彼女の目の前まで辿り着く。その際にレ級に完全に恐怖の対象を見るかのような目で見られたことが地味にショックだった。

 

 さて、俺はここでレ級を叱るべく拳骨かビンタかの2択を考えていた訳だが……腕を上げた時点で今にも泣きそうになって俯くレ級の姿に罪悪感で胃が痛くなってきた。子供ってズルい。俺がもしも軍人か艦娘かだったなら、罪悪感を感じないか無視してビンタどころかレ級の首を斬るくらいはするんだろうが……生憎と殺しとは無縁の小心一般人。例え相手が犯罪者や生かしておくとマズいモノであっても、自分に特に被害が無ければまあいいやで済ましてしまう。今回だって夕立のことがあったから、こうして対峙していた訳だし。だから俺は……コツンと、握り拳を当てるだけに留めた。

 

 「もうあんなことをしたらダメだぞ」

 

 そう言った後に、俺はレ級の頭を撫でる……俺は甘いんだろう。某大総統のような動きは辛うじて出来ても、その心の強さも、経験も、信念すらも持たない俺だ。突然この世界に来てこの身体になり、特に自身に被害もなく、怒涛の初日を過ぎた後は夕立と平和に過ごしてきた……自分が艦娘か深海棲艦かも分からない上に記憶もない、この世界の常識も知らない。あるのは、一般人には過ぎた力と僅かな艦これの記憶だけだ。肉親や親しいモノなどいない。

 

 嗚呼……俺はきっと、この子供のようなレ級を……独りぼっちに見えるレ級に感情移入しているのだろう。俺という誰かを、何かを求める姿に。何よりも、俺は雷しかり夕立しかり子供に弱い部分があるらしい。子供そのままのレ級を放っておけないのだ……それはきっと、艦娘である夕立と被害者の雷達に対する裏切りだと気付いていながらも……彼女を放っておけない。

 

 「ウグ……グスッ……」

 

 気がつけば、レ級が泣いていた。声を上げずに我慢しているかのような姿は、どこか素直に泣けない悪ガキのように見える。よしよしと声をかけながら撫で続け、俺はレ級の小さな身体を無意識の内に抱き締めていた。

 

 「許してもらえないかもしれないが、一緒に夕立達に謝りに行こう」

 

 無論、謝って済むようなことじゃない。いや、謝ったところで返ってくるのは誹謗中傷に恨み辛みの声だろう。殺し殺されの関係なのだ、それが普通で正しい反応だということは分かっている。それでも、どこかでどちらが折れないと終わらない。でも折れることが出来ないから、終われない。

 

 「もし仲直りできたら……一緒に暮らそう。部屋なら沢山あるし、君の知らないことは俺が教えてあげる」

 

 ああ、終われないんだ。だったら終われる場所を、戦いのいらない場所を作ろう。俺の周りだけでいい、世界が争ったままでも構わない。俺は元一般人、自分と自分の周りさえ無事なら他がどうなろうと知ったことじゃない。俺と夕立とレ級で一緒に暮らせば、そこは争いのない空間になる。艦娘と深海棲艦が共存出来る夢のような空間が作れる。平穏な日々が訪れる。

 

 「俺と……家族になろう」

 

 

 

 

 

 

 回想が終わった訳だが、俺は何を恥ずかしいことを……まぁ本心な訳だが、それでも恥ずかしさのあまりに地面を転がりたい衝動に駆られる。今居るのは海上で服が濡れるからやらないが。

 

 あーレ級の体は柔らかいなぁ……見た目相応な膨らみかけのおぱーいもグッド。ベリーグッド。ふにふに当たってあったかいんだからぁ。しかし、あんまり堪能し過ぎて夕立達を心配させるのも申し訳ない。そろそろ屋敷に向かうとしよう。

 

 「行こうか、レ級」

 

 「ン……」

 

 頷いたレ級の手を握り締め、屋敷に向かって進み出す。今日から家族が増えるからいつもよりも多めに食材を集めないといけないなぁ……そんな風に思いながら、俺は楽しく考えていた……だが、俺は夕立と過ごした平和な日々のせいで忘れてしまっていたんだろう。

 

 

 

 「見つけた……見つけたぞ……っ!!」

 

 

 

 この世界はゲームではなく現実で、戦争をしていて、殺し合いが日常で、命なんてあっさり消えて、艦娘と深海棲艦は敵同士……そんな初歩的で絶対的な世界のルールを。レ級という存在がどれほど危険で……どれだけ恨まれていたのかを。




という訳で、しーちゃんごーちゃん軍刀の特徴発覚&レ級身内化のお話でした。しかし、この作品は私が妖提督ではやらないようなことをする作品です……それだけは留意して置いて下さいね?(黒笑



今回のおさらい

しーちゃんの宿っている軍刀は柄に付いている\トォリガー!/を引くことで最長100mまで伸びる刀身が特徴。13kmや。ごーちゃんの宿っている軍刀は抜けば燃える刀身が特徴。更に柄に付いている\トォリガー!/を押すことでイブキの燃料を気化させて刀身の切っ先に空いている穴から噴出、引火させて遠距離まで炎を飛ばすことが可能。万象一切灰燼と成せ。この世界では正に必殺兵器。抜けば勝利確定。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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