どっちつかずの彼女(かれ)は行く   作:d.c.2隊長

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大変長らくお待たせしました、ようやく更新で御座います。

サンムーン厳選して育成して図鑑埋めてました(殴 グレイシア可愛いフライゴン可愛いラプラス可愛い。でもツリー40連勝すらいけない……色々アイテム欲しいのに。


その“願い”、叶えてやる

 「……今日ほど死を連続して感じたことはありません」

 

 青い空の下、イブキの手から飛んでいった不知火は涙目になりながら海の上に立ち、震えながら呟いた。大本営に着いてから色々な意味で驚愕の連続だったが、実のところ30分も経っていない間の出来事。生まれてから50年近い不知火とは言え心も身体もまだまだ子供、流石に精神的に疲れ果てていた。

 

 しかし、だからと言って動かない訳にはいかないと不知火は思う。イブキを自分の都合に付き合わせ、示したメリットをダメにしてしまい、更に足手まといとなってしまった。故に、彼女はどうにか役に立ちたいと思った。だが、不知火は自分が行っても出来ることはないとも思っている。何しろイブキと猫吊るしの動きが目の前で行われていたにも関わらずまるで見えていなかったのだから。おまけに猫吊るしは数多の艦娘、深海棲艦を斬ってきたであろう軍刀をも耐えた。そんな相手に己の持つ主砲や魚雷等豆鉄砲に等しいことを想像するのは容易い。

 

 (それでも……何か……! そうです、何も戦わなくてもいい……せめて、彼女の目的を達成するくらいは!)

 

 それでも自分に出来ることはないかと考えに考え、1つ思い付く。それは、イブキの目的である拠点に赴いている連合艦隊を止めること。戦いで助けることは出来なくとも、大本営にもう一度乗り込んで作戦指令室にある通信機で連合艦隊に連絡すれば或いは、と考え付いた。自分の通信機で行わないのは北方棲姫に南方棲戦姫の拠点に連れていかれた際に海中でオシャカになっており、それから修理できていない為である。

 

 他の大本営に居る艦娘の誰かや人間の誰かが既に連絡している可能性もあるが、していない可能性もある。自分でやった方が確実……少なくともやらない、やってないという事態は防げる。そこまで考えていざ行動に移した時、不知火は艤装に違和感を感じた。

 

 (っ? 艤装の調子が悪い? ここに来る前はそんなこと無かったのに……まあ仕方ないような気もしますが、何もこんな時に……)

 

 動くには動く。主砲も魚雷発射菅も作動する。しかし、今までと比べると明らかに動きが遅いし、どうにも自分の意識とのズレがある。大本営に来るまで異常は無かったことを考えると此処に来てから不調が起きたことになるが、宙を舞い、破片を受け、また宙を舞ったのだ、幾ら他の兵器や機械に比べて頑丈に出来ている艤装とは言え調子が悪くなるのも仕方ないように思える……が、タイミングが非常に悪い。これでは普段の半分も動けないと不知火は溜め息を吐きつつ、猫吊るしの攻撃の音か建物の方から聞こえる爆音に意識を向けつつも全速力の半分以下の速度で大本営の建物へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 「避けろおおおおおおおおっ!!」

 

 武蔵の叫び声が上がると同時に、雲龍と他の防衛戦力の艦娘、イブキは動き出していた。その数秒後、彼女達が居た場所に猫吊るしの砲撃が撃ち込まれ、巨大な水柱を上げて高波を引き起こす。その高さから、改めて彼女達は相手の主砲の威力のデタラメ差を思い知らされる。

 

 「っ、やられてばかりではない!!」

 

 「行きます……ふっ!!」

 

 艦娘達は反撃しようとするも、波に揺れる足場で思ったように動けず、狙いも定め辛い。イブキは遠距離武器を持っていない。そんな中で反撃に移れたのは武蔵と雲龍。その反撃の砲撃は猫吊るしに直撃して爆発を起こし、その場所に放たれた矢から変化した艦載機による爆撃が行われてまた爆発する。建物の損害や中に人員が残っているかもしれない、等と言うことを考える余裕は彼女達には無かった。

 

 「……バカな……」

 

 「直撃したハズなのに……!?」

 

 武蔵と雲龍の口から絶望の声が漏れ、他の艦娘達からも短い悲鳴が上がった。何故なら、爆炎の中から悠々と猫吊るしが歩いて出てきたからだ。しかも服や顔が多少煤けている程度でダメージが入っているようには見えなかった……海軍で最強クラスの火力を持つ2人の攻撃が直撃したにも関わらず、鬼や姫でさえ無傷で済んだ者は居なかったのに、だ。

 

 「無駄な足掻き、とは正にこのこと。今やイレギュラーの斬撃でさえ僅かにしか傷付かない私が、お前達程度でどうにか出来ると思いましたか?」

 

 猫吊るしから聞こえてきた言葉で、武蔵達を更なる絶望が襲った。イレギュラーという言葉の意味こそ理解出来なかったが、誰を指しているは理解出来る。そして、その誰か……つまりはイブキのことだが、その強さと軍刀の切れ味は海軍では有名な話だ。どんなに硬い装甲も問題なく斬ってきたと認識されているその軍刀が通じないというのは、最早彼女達では倒す或いは撃退することがほぼ不可能であるということ。逆に、猫吊るしの攻撃は全てが必殺。ゲームのように大破進軍しなければ沈まないとか、そんなことはあり得ない。直撃どころか掠っただけでも致命的とも言える程。当たれば即死、当てても意味無しなのだ。

 

 だが、撤退も出来ない。何せ撤退するべき場所に敵は居るのだから。故に、武蔵と雲龍は体内の爆弾“回天”に望みを賭けることすら出来ない。使えば自分諸とも周囲を無に還す威力を誇る最終手段……だが、それを使うには場所が悪すぎた。

 

 (なんだあの軍刀棲姫と良く似た姿の姫級は!? あんな深海棲艦、私は聞かされていないぞ? そもそも、なぜ大本営の中から出てくる!?)

 

 武蔵の内心は荒れ果てていた。渡部 善蔵の第一艦隊の面々……今では元、と付くが……は矢矧を除き、善蔵から猫吊るしのことを聞かされ、世界の現状が善蔵が作り出したも同然であることを知り、それでも尚付き従って来た。故に、世に居る未だ確認されていない姫や鬼等の名前、容姿、そのある程度のスペック等を聞かされている。その情報の中に、猫吊るしのような姫は存在しない。

 

 そして何よりも気になったのは、海から現れたのではなく建物の中から現れたということだ。深海棲艦が陸上から現れた話など聞いたことがないし、善蔵も猫吊るしも深海棲艦は陸に上がることはあっても極一部の存在だけで、陸上に生まれることは決してないと言っていた。海軍が必要とされなければならないのに陸に敵が居ては何の意味もないのだから当然である。しかし、現に敵は建物の中から……陸から現れた。予想外の出来事の連続に、武蔵は頭がパンクしそうな気持ちになる。

 

 「普通の砲弾が効かないのならば……これはどうだ!!」

 

 ガコン、と武蔵の艤装の中で音が鳴る。それは砲弾を別の砲弾に切り換える音……その後、直ぐにそれは放たれた。轟音と共に砲身から飛び出したソレは先端が鋭く、貫くことに特化したタイプの砲弾。高速でドリルのように回転しながら突き進むソレは通常の砲弾よりも速度が出る、対軍刀棲姫を想定して作られた武蔵の回天以外での奥の手。他にも初めてイブキと戦った時に使った特製の三式弾もあるにはあるが、面制圧による当てやすさを重視したモノなので砲弾そのものの威力はあまり無かったりする。かくして必中必殺の意思を持って放ったソレは……。

 

 

 

 「足りないですねぇ……全くもって、足りない」

 

 

 

 「なん……だと……?」

 

 あまりにあっさりと、背後の異形が持つ4本の巨腕、その1本によって掴み取られた。それでも敵を貫くべく回転し続けていたが、直ぐに勢いを無くして力を無くす。凄まじい速度で飛び、高速で回転し、貫通力に特化したソレは、猫吊るしにはまるで通じなかった。それも砲弾を手で受け止めるという、明らかに常軌を逸した行動によって。

 

 その行動がトドメになったのか、艦娘達の両手が下がり、ある者は放心し、ある者は体から力が抜けて座り込み、ある者は絶望の表情で涙を流し、ある者はただただ恐怖し、そして全員が絶望した。それは、初めてイブキの戦闘力を見た時の絶望に近い。だが、その度合いは今回の方が上だろう。イブキの場合はもしも奇跡的に当てられれば……という希望があった。しかし、猫吊るしは当てたところでダメージになりはしないのだ。攻撃の全てが無駄……これ程分かりやすい絶望はないだろう。

 

 (ふ……ふふ……いいですねえ、その絶望に満ちた表情。思えば善蔵も、真実を知った時はそれはそれは素晴らしい絶望の表情を見せてくれました)

 

 武蔵達の絶望を見てゾクゾクとした優越感に浸りつつ、猫吊るしは過去に真実を教えた日を思い出した。それはある意味で終わり、ある意味で始まりの日。ただ希望を持ち、幸せな未来を目指した1人の男がそんな未来等訪れることはないと教えられ、最も付き合いの長かった2人の駆逐艦が沈んだ日。あの日があったからこそ、今の世界があると言っても過言ではない。猫吊るしが教えずにそのまま希望を持ち続けていれば世界はどうだったか……考えたところで意味のないことだ。どうせどこかで猫吊るしは伝えるに決まっているのだから……自分が楽しむ為に。

 

 「しかしまあ……貴女は本っ当に不愉快ですねぇ……イレギュラー」

 

 しかしその優越感も直ぐに消え失せ、猫吊るしはイブキを睨む。自慢の軍刀の1つを破壊され、己にマトモなダメージを与えられない。にもかかわらず、イブキは武蔵達のように絶望の表情を見せない。ただ、猫吊るしを睨み付けている。脅えはない。竦みもしない。ただ、今までと同じように凛と立っていた。

 

 不愉快だと、猫吊るしは声に出す。己が生み出した覚えのない、艦娘とも深海棲艦とも言えるその姿。似たような存在の癖に砲も戦闘機も魚雷も何一つ持たない異質な存在。そのクセ戦闘力は己が設定した性能を遥かに超える。こうしてその設定した性能すらも超越した姿となっても尚捉えられないことが、より猫吊るしを苛立たせる。

 

 イブキにはあまりに謎が多すぎる。そしてその謎を、猫吊るしは何一つ解くことが出来ていない。世界最古の存在であり、現代を遥かに超える叡智を持ち、出来ないことはほぼ存在しない、ほぼ全知全能と言ってもいい。そんな存在であるハズの猫吊るしでさえ、イブキをイレギュラーと呼び続けている。

 

 (そんな存在を生み出した下手人は、まず間違いなくあの妖精達。たかが私の子機でしかないハズの彼女達が、なぜ……)

 

 そして新たに生まれた謎が、イブキの元に居る軍刀妖精。猫吊るしを親機とすれば他の妖精は全て子機。艦娘と深海棲艦同様に己の意思を持ってはいるが、その行動は予め猫吊るしによってプログラムされたモノ。どれだけ生物のように動き、話し、食べたり飲んだりしたとしても、その全ての行動は猫吊るしの設定したモノ。裏切ることなど出来ない。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし現に……とこの短時間で何度も頭の隅で考えている。その結論は決まっていて“分からない”となる。その苛立ちがイブキへの殺意を膨らませる。ギリッ、と強く歯を食い縛り、異形が掴んでいた砲弾をイブキ目掛けて投げ付けた。力任せに投げられたソレは武蔵の時よりも数段上の速度と威力を誇っているであろうことは見て取れる。が、今更そんな攻撃がイブキに通じるハズもなく、イブキは右方向へと跳ぶことで回避する。

 

 攻撃が当たらなかったことで猫吊るしの苛立ちが増す。他の艦娘ならば、その命を容易く奪えるのに。深海棲艦ならば、姫であろうとも沈められるのに。たった1人だけ、たった1つだけ、たった1個の命だけが、どうしても奪えない。

 

 「~~~~っ!!」

 

 最早声にならない程に怒り、その表情を歪める。見ようによってはそれは、幼い子供が起こす癇癪のようにも見えた。

 

 「……ふっ」

 

 「っ!? う……ぐ……が、ああああっ!! ああああああああっ!!」

 

 そしてその怒りは、イブキが鼻で笑ったことで爆発し、猫吊るしは獣のように叫びながら建物から飛び降りて着地し、イブキへと突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 「やっ!」

 

 「ふっ!」

 

 夕立がいーちゃん軍刀を両手で持ち、縦一閃に降り下ろす。それを日向は左手の()()()()で防ぎ、振り払うように振るうことで弾き飛ばした。難なく着地した夕立だが、その表情は驚愕に染まっている。

 

 それもそうだろう。イブキの軍刀は総じて切れ味が鋭く、艦娘と深海棲艦の装甲、艤装程度ならばあっさりと両断出来る。しかし、日向が盾のように使用した飛行甲板は切り傷こと付いているものの斬れてはいない。本来ならば、ソレごと左手を斬り落とせているハズなのに。

 

 「随分と不思議そうだな。そんなにこの飛行甲板が斬れなかったことが意外か?」

 

 「……」

 

 「無視か……まあいいさ。私の艤装はイブキと戦う為に提督に少々……いやまあ、かなり無理を言ってな、他の艦娘よりも強化されている。具体的に言うなら、斬撃の耐性を上げてもらった。上がったのは強度だけだし、まだまだ試作段階のものだが……成果は見ての通りだ。完全ではないが、2、3回くらいならなんとか防げるみたいだな。無論、幾ら強度を上げたとしてもイブキにはまだ届かないだろうが……」

 

 

 

 ― お前になら、充分だろう ―

 

 

 

 「っ!?」

 

 日向が左腰に差していた軍刀を右手で引き抜き、そのまま横に一閃する。反射的に夕立はいーちゃん軍刀を縦に構えることで防ぐ……が、駆逐艦故の体重の軽さのせいか戦艦の腕力に耐えきれず吹き飛ぶ。しかしそんなことは馴れている夕立は上手く体を動かして吹き飛ばされた方向にある壁に足から着地し、そのまま足場として跳び、日向に向かって斬りかかる。日向はその突撃を体を逸らすことであっさりと避け、着地して振り向こうとしている夕立へと艤装の砲身を向けた。

 

 「ヤバッ」

 

 「こんな所で撃つ訳がないだろう?」

 

 「っ、ああもう!」

 

 「ほう、戦艦(わたし)の腕力を受け止めるか……イブキ同様に、お前も普通じゃないな」

 

 それを見て避ける為に左側に跳んだ夕立の着地点に向かって日向は悪戯が成功したかのように笑いながら軍刀を降り下ろす。流石に避けることが出来ない夕立は苛立ったように悪態をつき、いーちゃん軍刀を横に構えて両手で支え、受け止める。駆逐艦にしか見えない夕立が受け止めたことに驚きつつ、日向は好戦的な笑みを浮かべ、夕立は苦々しく表情を歪めた。

 

 日向は、間違いなく夕立が出会った艦娘の中で最強の位置に居た。夕立の動きは正面から下から上からと三次元的なモノであり、海上での戦いを主とする艦娘には馴染み深くない。今でこそ強化艤装によって跳んだり走ったりと出来るようになっているが、やはり馴れない者が多い。だからこそ、夕立の動きを捉えきれず、翻弄され、そのまま沈められる艦娘ばかりだった。しかし、この日向はそんな艦娘達とはまるで比べ物にならない。

 

 それもそうだろう。日向は初めてイブキに敗北して以来、常にイブキを打倒する為に訓練を重ねてきた。剣を学び、格闘技を学び、対人戦を学び、ただただイブキを倒す為に己を磨き上げてきた。強化艤装を海軍で最初に使いこなしたのも日向であり、イブキと剣を交えたのも日向のみ。海軍で最強の艦娘は誰かと聞かれた場合、真っ先にこの日向の名が上がるまでになっている。言わば日向は、海軍で最もイブキ……軍刀棲姫を倒す可能性が高い艦娘なのだ。

 

 「普通のっ、戦い方じゃない貴女に……言われたくないっぽい」

 

 「私の目的はイブキなのでな、普通のやり方ではアイツには勝てんよ」

 

 2人共本来の艦娘、深海棲艦の戦い方ではない。しかし、その普通ではない戦い方だからこそ、より高みへと登ることが出来た。強くなるのはイブキと共にある為に、イブキを打倒する為に。今の2人には生半可な艦娘、深海棲艦では歯が立たないだろう。それほどに、彼女達は強くなった。

 

 夕立が防いでいた軍刀を斜に構えて日向の軍刀をずらし、拮抗から抜け出しつつしゃがんでいた脚に力を入れて跳び上がり、顎目掛けて蹴りを繰り出す。所謂サマーソルトだが、日向は顔を逸らすことで避け、体を捻ることで艤装を夕立に当てようとした。流石に跳び上がった直後の姿勢だった夕立は当たりそうになるが、迫り来る艤装の上に手を置いて腕力だけで体を持ち上げ、艤装の勢いを使って体を日向に向けながら横に回転させ、その回転を加えて縦一閃に軍刀を振るう。それを日向は左手を上げることで飛行甲板を盾にして受けた。

 

 瞬間、日向は飛行甲板を切り離して下がる。その直後に飛行甲板は軍刀の一撃に耐えきれず切り裂かれ、その役目を終えた。そのまま受け止めていれば腕ごと斬り飛ばせたのにと夕立は舌打ちし、日向は楽しそうな笑みのまま危ない危ない、と小声で口にした。

 

 (決めきれない……やっぱりコイツ、結構強いっぽい)

 

 (後2、3回はもつと言っておきながらこの様か……まあ腕を切り落とされなかっただけ良しとしよう)

 

 2人の戦いの決着は、まだ着きそうにない。

 

 

 

 

 

 

 「翔鶴、まだ連絡は来ないのか!?」

 

 「ええ、来てませんよ長門さん。便りがないのは元気な証拠、とも言います。もう少し待ってみたらどうですか? 彼女達が突入してから、まだ30分も経ってませんよ?」

 

 「しかし、もうとっくに梯子を降りきって拠点内に侵入していても可笑しくはない! なのに経過報告も突入を伝えることもしてこないのは何故だ!?」

 

 「知りませんよそんなこと……」

 

 翔鶴は長門の心配から来る叫びを煩わしいと感じつつ、表面上は無表情を装う。確かに突入してから30分近い時間が経っていて連絡も一切入ってきていない……が、翔鶴にとってそれはどうでもいいことだった。翔鶴が突入した日向達に望んでいるのは、別に拠点の制圧や敵戦力の排除等ではない。むしろ排除されて戦果を彼女達……正確に言うなら、日向以外の4人に得られてしまうのは困る。日向を除く4人……神通、高雄、霧島、陸奥には、死んで貰わなくてはならない。

 

 翔鶴は実際のところ、連合艦隊を率いたところで勝てる見込みはないと思っていた。というか、4桁5桁の深海棲艦を斬り伏せた軍刀棲姫の仲間が弱いとは到底思えなかったのだ。常識が通用しない相手の仲間なのだ、その仲間にも常識が通用しない可能性だって充分あるし、その可能性はこのサーモン海域最深部に来たことで確信となった。おまけに籠城を決め込まれては打つ手がほぼない。その打つ手……突入をしたところでどうしようもないと理解もしていた。連合艦隊で勝てない相手に単艦、少数で挑んで勝てる道理などないのだから。

 

 翔鶴が望んだのは……はっきり言ってしまえば、日向以外……というか日向は生きようが死のうがどっちでもいい……の味方の死。そうすれば敵が強かろうが関係ない、回天で全て吹き飛ばせばいいのだから。

 

 (そもそも、あの総司令を()()()()()()()()()()()()()()()人達と同じ艦隊だなんて……虫酸が走ります)

 

 翔鶴を含めた元元帥第二艦隊の面々は元第一艦隊の艦娘達よりも善蔵への愛や信用、信頼等の感情が大きい。それこそ神を信仰するかのように。だからこそ第一艦隊に選ばれた時は狂喜したし、天にも登るような気持ちだったことだろう。しかし、翔鶴だけは違った。彼女だけが唯一、今の善蔵を別人であることを見抜いていた。確たる証拠などない。なのに何故見抜けたかと聞かれれば、翔鶴は女の勘と答えるだろう。

 

 だからこそ、翔鶴は同じ気持ちでありながら本物か偽物かを見抜けない仲間達を嫌悪する。そもそも仲間と言ってもそれは同志とも言うべきモノで、境遇が似通っていた故の親近感を感じていた程度のこと。苦楽を共にしたというような深い絆等有りはしないのだ。だからこそ、翔鶴は高雄達をあっさりと虎穴に送り込める。最初から生きて帰ってくることなど期待してはいないのだから。

 

 (とは言え、遅いのも事実。万が一、億が一にでも回天を無効化されでもすれば本当に打つ手がないですし……仕方ありません、あんな善蔵様に良く似たモノの声を聞くのも苦痛ですが、指示を仰ぐ時位は我慢しましょう)

 

 「……大本営に指示を仰ぎましょう。私達ではこれ以上作戦は浮かばないですし、突入した彼女達のこともありますしね……今更ですが」

 

 「ああ……分かった」

 

 悔しそうに俯く長門を感情を感じさせない眼で見ながら、翔鶴は大本営へと通信する。正直に言って何の期待もしていないが、思わぬところに突破口があったり閃いたりするのは稀にある。とは言ってもあの“善蔵”のことだ、何かしらの無茶振りをされるだろう……そんな気持ちで居た翔鶴だったが、いつまで経っても通信が繋がらないことに不審げに眉を潜めた。

 

 通信の先は作戦指令室。読んで字の如く、作戦を考え、伝えることを目的とした部屋である。そこには善蔵擬きが居るハズであるし、その他にも人間、艦娘が居るハズである。何時如何なる時も対応出来なければならない故に必ず4人以上の人数が充てられているので誰も居ないということはないだろう。電波が届かない、なんてことも有り得ない。

 

 「……通じませんね」

 

 「何? どういうことだ……」

 

 繋がらないなんてことは艦娘が生まれて以来前例が無い。長門を含めた周りの艦娘が思案顔になる中、翔鶴もまた頭を回す。通信が繋がらない場合の理由は幾つか考えられる。機器の破損や電波が届かない、相手が居ない……とそこまで考えた時、翔鶴はハッと顔を上げる。そして通信をする相手を作戦指令室のモノから別の相手へと代え、再度通信する……それを数度繰り返したが、どれも繋がらない。その結果により、翔鶴は9割9分確信した。

 

 

 

 「……大本営が襲撃を受けている可能性があります」

 

 

 

 「何!? どういうことだ!!」

 

 長門の口から出たのは先程と同じ台詞だが、今度は必死さが違う。そんな彼女を見やり、翔鶴は自分の考えを口にする。

 

 「消去法で考えた末の結論です。作戦指令の他に防衛戦力である艦娘の何人かに通信をしましたが、これも繋がりませんでした。我々が出撃した後は帰艦するまで出撃準備をしている以上、艤装を着けていないハズがない。なのに、1人も通信には出ない……出る余裕がないか、機器が破損して出られないかと考える方が自然です」

 

 「つまり、防衛戦力を越える戦力が大本営を襲撃している……と?」

 

 「バカな! 防衛戦力には武蔵や雲龍を初め、大将第一艦隊級の戦力が居るハズだ、早々遅れを取るハズが……」

 

 「多勢に無勢となっているのか、それとも……軍刀棲姫本人、或いはそれと同等の力を持つ深海棲艦が現れたのかも知れません……少なくとも、楽観視は出来ないですね」

 

 翔鶴の考えを聞き、周囲が青ざめる。現時点が確認する術がない為、全ては想像に過ぎない。だが、考えすぎと笑うには通信が繋がらないという事実は大きい。後は彼女達に心の余裕があまり無いこともあるのだろう、その想像を事実と認識し始める者も出ている。

 

 幸いなのは、その話をしていたのが翔鶴、長門達、日向の仲間達、他数名程度だったこと。もしも連合艦隊全ての艦娘が聞いていれば、一部の艦娘が騒いでパニックになっていたかも知れない。

 

 「……私達の提督に連絡してみよう。もしも大本営が襲われているならば、何か情報が入っているかも知れないしな」

 

 「私も提督に連絡してみます」

 

 そうして長門、大和、他の艦娘が自分達の鎮守府へと通信するとそれらはあっさりと繋がった。そのまま現状報告と大本営と通信が繋がらない旨を伝え、何か情報は来ていないかを聞く。しかし、そう言った情報は入ってはいないと言う。

 

 この時の彼女達は知る由もない……大本営が深海棲艦化した猫吊るしによって建物の大半を破壊され、その中に作戦指令室も含まれていたこと。多くの人間と待機していた艦娘も死に絶え、救援を求める暇も無かったこと。そして……翔鶴が求める本物の善蔵が既にこの世に居ないことを。

 

 そして翔鶴は決断する。通信が繋がらないということは、作戦の変更や経過を報告出来ないし相談も出来ない。事実上、作戦指揮の全権は連合艦隊指揮艦である翔鶴に移る。ならば、ここでこうして難攻不落に近い拠点を前に無為な時間を過ごすよりも……と、そう考えた。

 

 「……半数の艦隊を帰還させましょう。問題は戻る半数の内約ですが……少なくとも私と大和さん達は残る必要があります。私は総指揮艦ですし、大和さん達は日向さんのこともあります」

 

 「そうですね」

 

 「じゃあ私達は戻る側に付こう」

 

 「大本営に敵が居る可能性を考えると戦力を偏らせる訳にもいきませんしね……距離もありますし、なるべく高速艦で纏まっている艦隊を戻すべきでしょう。かといって低速艦を置いていくと火力不足に……低速艦の皆さんには、少し無理して速度を出して貰いますよ」

 

 「任せろ」

 

 話し合いの末、連合艦隊の半数は大本営に向かうこととなった。その中には長門達の他に球磨達、摩耶達、白露達も含まれている。本来敵の本拠地に居ながら戦力の分散等自殺行為以外の何物でもないが、背に腹は代えられない。

 

 (後は野となれ山となれ……さっさと自分事全部吹き飛ばしてくれませんかね。それが善蔵様の真贋を見抜けなかった大罪を帳消しにする唯一の方法なのに……)

 

 戻って行った艦隊を見た後、翔鶴はゴミを見るような目で縦穴の下の闇を覗きながらそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 「今のままでは勝てないですー」

 

 「例えあの艦娘達と力を合わせたとしても不可能ですー」

 

 「相手の装甲を抜く火力が足りない……せめて豪運の軍刀があれば良かったんですがー」

 

 「それなら、新たにあの害悪の装甲を切り裂く軍刀を生み出すしかないですねー」

 

 「“あの”軍刀は不知火さんに渡してしまいましたからねー」

 

 「新しく作るのも面倒ですしー、ふーちゃんをパワーアップしましょー」

 

 「新たな刀身の作成ですー」

 

 「材料なんてそこら中にあるですー。何せ我々妖精の科学力は世界一ですー」

 

 「その通りですー。我々妖精は現在の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()上に()()()()()()()()()()()()()()()んですからねー」

 

 「では作りましょう。この場に相応しい最高の一振りを」

 

 「今度こそ“奴”を打ち倒せる至高の一振りを」

 

 「()()()()()()()()愛するイブキさんに最強の一振りを」

 

 

 

 「「「そして、我々の“願い”を叶えて下さい」」」

 

 

 

 

 

 

 「任せろ……その“願い”、叶えてやる」

 

 妖精ズにそう返した後、怒りに我を忘れて突っ込んでくる、俺と良く似た姿の元妖精を見る。あいつは強い。ふーちゃん以外じゃ斬れない装甲、俺と同じく飛んでくる砲弾を見切る動体視力、それを対処するスピードとパワー。明らかに他の艦娘と深海棲艦を凌駕してるというか、ゲームであんなもん出てきたら暴動が起きる。それくらい非常識な存在。ある意味、俺よりもイレギュラーな奴だ。そしてきっと……このイレギュラーな元妖精を倒すことこそが俺がこの世界に生み出された理由。妖精ズが言ったように、俺を生み出した理由。

 

 ずっと疑問だったんだ。俺は何故この世界に憑依だか転生だかをしたんだろうと。交通事故に遭った記憶も無ければカミサマとやらに出逢った記憶もない。前世と呼ぶべき記憶はあるが、どうにもツギハギだらけで、時系列も安定していなくて、性別や家族構成もまばらだったりで奇妙なことになっていた。曖昧な部分が多く、中には誰かに看取られながら死ぬ記憶もあり、妻が産んだ我が子を抱く瞬間の記憶もあり、逆に自分が産んだ記憶もある。我ながら訳の分からない記憶だったが、妖精ズの言葉でようやく理解……少なくとも、仮説は立てられた。その仮説があっているかどうかは……。

 

 (お前を倒してから聞いてみよう)

 

 そう思いながら、俺は迫り来る元妖精に突っ込んでいった。




という訳で、あんまり進んでないながらもイブキの存在について少し触れました。後、夕立と日向が艦これしてません。格ゲーみたいになってます。どうしてこうなった……書いてて楽しいですが。

そう遠くない内に完結しそうです。60話までには完結させたいとも言う←



今回のおさらい

不知火、目指せ名誉挽回。しかし建物の中にはアイツがいる。猫吊るし、艦娘達に絶望を与える。しかしイブキにブチギレる。夕立と日向、戦闘中。未だ決着は着かず。妖精ズ、イブキに願いを託す。その願いとは。イブキ、猫吊るしに再び闘いを挑む。自身が建てた己という存在の仮設とは。

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