どっちつかずの彼女(かれ)は行く   作:d.c.2隊長

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息抜き作品のハズがメインより1話の字数が多いという……。

ご指摘を受けましたので後書きを少し修正しました。


お互いに、元気な姿で

 「重くない? イブキさん」

 

 「そんなことはない。雷、方角は合っているか?」

 

 「うん、このまま真っ直ぐ進んで行けば、私の所属してる鎮守府があるわ」

 

 「分かった」

 

 イブキとそう名乗った女性に肩車をされているのは、先程まで泣き疲れて眠っていた雷だ。起きた後、助けてもらったお礼がしたいと言ってイブキを自分が所属する鎮守府に案内しようとした雷であったが、それを行うには燃料がなかった。どうしようかとイブキに聞いた結果、彼女に運んでもらいながら自分が案内するという形に収束した。その際に運び方をどうするか悩んだのだが、おんぶは軍刀が邪魔で出来ない。抱っこは雷が前が見えない。ならばお姫様抱っこはどうかと雷がドキドキと期待を込めて提案したが、雷の艤装があまりに邪魔過ぎるので却下。この時ばかりは、雷も自分の艤装の大きさを恨んだ。それはもう恨んだ。

 

 

 結果、お互いの艤装が邪魔にならずに雷が前を向ける肩車に落ち着いたのである。これはこれで雷自身満足しているのか、ニコニコと笑顔を浮かべている。ただ、雷が落ちないように足を押さえられていることによってイブキの肩から腰へと吊り下げられている軍刀の鞘が後ろ腰の軍刀の鞘に当たってカンカンと五月蝿いのが難点だが。

 

 そうして進んでいる道中、雷は様々なことをイブキに聞いた。どこから現れたのか、なぜ深海棲艦と艦娘の気配が同時にするのか、レ級がいた時といない今で目の色が違うのはなんでなのか等、かなりド直球に。その都度イブキは応えてくれたが、質問自体には言葉を濁して答えてはくれなかった。

 

 (答えてくれなかった……というより、自分でも分かっていないみたいだったケド……)

 

 その考えも、あくまでも雷の感想だ。なにせ、イブキはあまり表情が変わらない。全く変わらない訳ではないのは、自分をあやしてくれていた時に見せた優しい微笑みが証明してくれているが、それ以来表情は真顔から変わっていない。男っぽい口調と携えた軍刀も相まって、少々近寄り難い雰囲気も出ている。

 

 (こんなに綺麗でカッコイいのに……それに優しくってすっごく強くって……あ、でも近寄り難かったら、私だけでイブキさんを1人占めしたり出来るかも)

 

 暁型駆逐艦三番艦“雷”……色を知るお年頃。少々独占欲が強い様子。いやんいやんと両手を頬に当てながら首を振るが、肩車されていることを思い出してすぐに止めた。只でさえイブキには迷惑を掛けてしまっているのだ、これ以上掛ける訳にはいかないと雷は改めて決意する。

 

 「……雷」

 

 「なに? イブキさん」

 

 「あの人影が見えるか?」

 

 不意にイブキが立ち止まり、雷に問い掛けながら前方を指差した。雷がその指の先を見れば、確かに人影が見える。その数は……6。丁度1艦隊分で、うっすらと見え始めた姿は雷にとって馴染み深い姿だった。それは、雷が所属する鎮守府の主力艦隊の艦娘達だった。

 

 駆逐艦とは思えない戦闘力を誇るソロモンの悪夢“夕立改二”、制空権の掌握を担う正規空母の“赤城改”と“加賀改”、先制雷撃にて敵艦隊の頭を潰す重雷装巡洋艦の“木曾改二”、ビッグセブンと誉れ高き戦艦“陸奥改”と旗艦の“長門改”。それらの艦娘達が、目測20メートル程の位置で止まった。

 

 「雷! 無事か!?」

 

 「無事よ長門さん! この人に助けてもらったから!」

 

 少し距離がある為か、大きめの声で話し掛けてきたのは長門。雷もその声に答え、無事であるとアピールする為に右手を大きく振る。そのことに安堵の息を吐くと同時に長門はキッと目つきを鋭くし、雷を肩車している謎の存在を注視する。

 

 「……貴様が雷を助けてくれたらしいな。私は長門。雷と同じ鎮守府に所属する艦娘で、この艦隊の旗艦をしている……艦隊を代表して礼を言わせてもらう」

 

 「イブキだ。礼は確かに受け取った……雷、下ろすぞ。ここから彼女達のところに行くくらいの燃料は残っているだろう?」

 

 「えー……このままじゃダメ?」

 

 「ダメだ。俺はどうやら歓迎されていないようだしな」

 

 「えっ?」

 

 今まで長門だけに意識を向けていた雷だったが、イブキの言葉を聞いて艦隊をよく見てみれば、明らかに艦隊全員が警戒態勢を取っていることに気付いた。しかも全員が長門と同じようにイブキの一挙手一投足を見逃さないように注視しており、加賀と長門に至っては今にも攻撃せんとばかりに艤装を構えている始末だ。

 

 「み、皆なんでそんなにイブキさんを睨んでるの!? イブキさんは私を助けてくれたのよ!?」

 

 「ああ、雷が言うようにそいつは確かに恩人なのだろう。本音を言うならば、私としても鎮守府に招いて礼をしたいところだが……そいつが深海棲艦かもしれないならば話は別だ」

 

 長門の言葉にハッとした雷は、イブキの顔を見下ろす。その表情は無表情で何を考えているのか理解することは叶わないが……雷には、なぜか悲しんでいるように思えた。勘違いかも知れないが、確かにそう感じたのだ。

 

 「雷のいた艦隊……天龍達がどうなったかは、予想がついている。帰ってきた龍田、睦月から聞いたからな」

 

 「龍田さんと睦月が!? 2人は……2人は無事なの!?」

 

 「無事だから安心して雷ちゃん。レ級と遭うなんて……怖かったでしょう」

 

 「良かった……でも、イブキさんが助けてくれたから……」

 

 

 

 「だが、そいつは深海棲艦かも知れない。そいつがレ級を呼び寄せたかも知れないんだ」

 

 

 

 長門の言葉を聞いて、雷の頭が真っ白になった。天龍、五月雨、若葉が沈んだ原因となったレ級を、自分の恩人が呼び寄せたかも知れない。もしかしたら、間接的であれ仲間の敵(かたき)かも知れない。そんな風に考えることはなかった。長門の言うことも正しいのかもしれない。

 

 だが、思考が再び回転し始めた雷は考える。確かに、長門が言う可能性もあるが……それはあくまでも可能性の話。不運と幸運と奇跡が重なったような出来事だ、何かの思惑や原因を突き止めたくなる気持ちも分かる。しかし、雷はイブキを原因だと、敵だとはやはり思えなかった。

 

 (あんなに優しい顔で、あんなに愛情を感じる手で撫でてくれたんだもん……)

 

 たったそれだけで、雷はイブキを信用し切っている……いや、それがあったからイブキを信頼出来る。逆にその出来事がなかったから、長門達は深海棲艦の気配も感じさせるイブキを信用出来ず、出来過ぎなように思えるレ級との遭遇と何か繋がりがあるのではないかと深読みしてしまっている。

 

 どうすればイブキが敵ではないことを長門達に分かってもらえるのか……その切欠は、意外にも長門達側から出てきた。

 

 「私は雷ちゃんを信じるっぽい」

 

 「夕立!?」

 

 「悪いが俺も夕立側だ。確かにあいつからは深海棲艦の気配もするが、俺達と同じ気配もする。決め付けるのは早計じゃないか?」

 

 「木曾まで……」

 

 雷を信じると言ったのは、夕立と木曾。流石にイブキ自身を信用している訳ではないようで注視していることに変わりはないが、それでも長門ほど戦意は見えない。そのことが雷には嬉しかった。

 

 だが、意外な味方が敵(と言うのは妙だが)から出るならば……やはり、意外な敵は味方から出るものだ。

 

 「いや、長門の言うとおりだ」

 

 「イブキさん!?」

 

 「ほう? レ級は貴様が呼び寄せたと認めるのか?」

 

 「それは分からん。俺とて記憶が曖昧で自分のこともよく覚えていないし、艦娘なのか深海棲艦なのかすらも分からんからな……だが、分かることもある」

 

 「……なんだ?」

 

 「俺のような奴は、雷と一緒にいるべきではない。それに、レ級に顔を覚えられてしまったしな……俺が鎮守府に行けば迷惑になる」

 

 ズキンと、決して小さくない痛みが雷の胸に走った。イブキの言葉が冗談でも何でもなく本気で言っていることが、その言葉が雷を思って言っていることが分かってしまったことが、雷の小さな胸に強烈な痛みを与えていた。止まった涙が、再び溢れそうになる程に。

 

 そんな雷の様子を見ていた主力艦隊の面々もまた、苦々しい気持ちを抱く。別に彼女達もイブキが憎い訳ではない。だが、何度も言うようにイブキは艦娘の気配と深海棲艦の気配を同時に感じさせるという今までに類を見ない個体だ。しかも雷が助けられたと、イブキ自身が顔を覚えられてと言ったことから察するに、単体でレ級を撃退出来うる戦闘力を誇っている可能性がある。レ級の強さを肌身で感じたことのある主力艦隊からすれば充分に脅威であり、鎮守府最強艦隊とは言え勝てる保証はない。それ程までにレ級は強いのだ。そんなレ級に顔を覚えられたとあれば、イブキを狙ってレ級が来る可能性がある。そのことを考えれば、やはりイブキを鎮守府に招く訳にはいかなかった。

 

 「雷……降りるんだ」

 

 「……」

 

 ギュッと、雷はイブキの頭にしがみつく。その姿はまるで、親から離れたくないとせがむ子供のようにも見えた。そんな雷をどうするかと陸奥が目で長門に訴えるが、長門もまたどうするべきかと頭を回転させている途中だ。何せ、雷がここまで子供っぽいわがままをするのは初めてのことだった為、長門達の鎮守府では対処法が確立されていないのだ。

 

 これが暁やビスマルクなら分かりやすいんだが……と長門が悩んでいると、スカートが何者かによってくいくいと引っ張られた。誰だと振り返れば……まぁこの艦隊で引っ張る奴など1人しかいないが、案の定夕立がいた。

 

 「なんだ? 夕立」

 

 「どうしてあの人を連れて帰ったらダメなの?」

 

 「あいつが未知の存在であり、敵か味方かも分からんからな。それに、あいつ自身も言ったが……連れ帰るリスクが高い」

 

 「長門さん考え過ぎっぽい~。敵なら雷ちゃん助けたりしないんじゃない? しかも今だってついて行くどころか離れようとしてるっぽいし……私は大丈夫だと思うな」

 

 「……聞くが、なぜ夕立も木曾もあいつを擁護する? あいつの異質さは、お前達も感じている筈だ」

 

 異質さとは言わずもがな、その見た目と気配だ。深海棲艦と艦娘の気配を感じさせる、深海棲艦にしか見えない生気を感じない青白い肌と白い髪……まあ髪が白いのは艦娘にだっているので微妙だが……と、夕立とよく似た服装と、存在しない深海棲艦を象徴するかのような異形。そして、艤装であろう5本の軍刀。深海棲艦が艦娘の恰好をしていると言われれば信じてしまうだろう。むしろ、艦娘側を油断させる為にそうしているんじゃないかと新たな疑念が生まれてしまった。

 

 「だーかーら、長門さんは考え過ぎだってば。私と似た服着てるから、もしかしたら私の姉妹かもしれないっぽいし!」

 

 「擁護してる訳じゃないが、夕立の言うとおり考え過ぎだと思うがな、オレも。少なくとも敵意はないんだし、言ってることに嘘がないと思うしな。連れ帰るってのは、まあ長門の言うことも分かるからしない方がいいが、この場は穏便に過ごそうぜ?」

 

 「なぜそこまであいつを信じられる? 私にはそれが解らん」

 

 異質、異様、不気味、謎。それらが合わさったような相手を、自分と同じようにたった今出会ったハズの2人が、なぜこうもイブキを肯定的に捉えられるのか、長門には理解出来ない。考え過ぎだと言われても、長門は旗艦として、最高戦力として、提督の秘書艦として常に最悪から最高、最善まで考え抜く必要がある。それが普通だと考えている。だからこそ、長門は2人が最善も最悪もなく相手に肯定的であることが理解出来なかった。

 

 「そんなの、雷ちゃんがあんなに離れたくないってしがみついてるからに決まってるじゃない」

 

 「そういうこと。理屈じゃないのさ、長門」

 

 あまりに簡単で単純な理由だった。思わず頭を抱えそうになる長門だったが、あまりにはっきりと言ってのけた2人のせいか、あーだこーだ考えていた自分が間違っているのかと思えてしまう。チラリと視線をイブキ達に戻すと、丁度イブキが雷を下ろすところだった。どうやら決着が付いたようで、雷はこちらへと向かってきている。

 

 「で、どうするのよ姉さん。見逃すの? 戦うの? 私は旗艦である姉さんの意志に従うわよ」

 

 「……相手の行動次第、だな。赤城、加賀、お前達はどうだ?」

 

 「私は夕立ちゃん達と同じ考えね。あのイブキという子の力が未知数である上に敵対の意志がない以上、無闇に戦闘する必要はないと思います」

 

 「……戦闘回避が3、旗艦次第が1、思案中が1。穏便に行くべきね。そもそも私達の任務は、生き残りの捜索とレ級の撃破か撃退。どちらも完了しているし、雷の入渠と補給もしないといけないわ」

 

 「要するに、さっさと帰ろうということか」

 

 結果として、この場は穏便にやり過ごすこととなった。雷も艦隊のところに帰ってきたし、イブキはその場から動かないが……どうやら艦隊の動きを注視しているようだ。

 

 「……貴様はこれからどうするつもりだ?」

 

 「さぁ、どうしようか……沈むその時まで放浪するとでもしようか」

 

 「真面目に答えろ!」

 

 「悪いが至って大真面目だ。補給が出来ない以上、いずれそうなるのは明白なのだから……まぁ、運が良ければまた会うだろうさ」

 

 そう言って、イブキは無防備に長門達に背を向けた。今なら、その背中に主砲を叩き込むことだって出来るかもしれない。そう、今なら……しかし結局何もすることはなく、だんだんと遠く、小さくなる背中……その背中を、長門達は見送った。その背中が完全に消えたことで、長門達もようやく後ろを向いた。

 

 「雷ちゃん、鎮守府まで行けるっぽい?」

 

 「イブキさんに肩車してもらってたから、ギリギリ大丈夫だと思うわ」

 

 「無理はするなよ。いくら助かったと言っても、補給出来た訳じゃないんだからな」

 

 「はーい」

 

 見た目相応の元気な声で夕立と木曾と会話をする雷。その姿に、長門は違和感を覚える。雷は先程までイブキから離れたくないとしがみついていたハズ……正直あのまま離れないか、長時間渋るかと思っていたのだが……フタを開けてみればあっけらかんとしている。あの姿が演技だったのか、それとも切り替えが早いだけなのか……。

 

 「また考え込んでるわね。もっと楽に考えたら?」

 

 「陸奥……しかしだな……」

 

 「砲撃戦の時は脳筋なんだから、こんな時ばっかり考え込んでても仕方ないわよ。結局解決案も出たことないクセに」

 

 「む……」

 

 ぐぅの音も出ないとはこのことか、と妹に事実を告げられた長門は小さく唸る。普段からあれやこれや考え込む割に、1度砲撃戦に入れば好戦的な笑みを浮かべながら本能の限り主砲副砲を叩き込むのが、この長門である。陸奥に言われるのも仕方ない。

 

 「それに……子供って単純なものよ?」

 

 「……?」

 

 「雷ちゃん、あのイブキさんって人から離れても大丈夫そうだね」

 

 「そうだな。もっと渋るかと思ってたんだが……」

 

 「うーん、本当は鎮守府について来て欲しかったし、もっと一緒にいたかったケド……約束しちゃったしね」

 

 「「約束……?」」

 

 

 

 「お互いに元気な姿でまた会おうって。だから私、早く補給して入渠して……今度会った時は頼ってもらうんだから!」

 

 

 

 頼ってもらう。鎮守府で雷が良く使う言葉であり、雷の行動理念でもある。誰かに頼って欲しい。誰かに頼られたい。ただそれだけの理由で、雷はどこまでも頑張れる。だから雷は、こうして笑顔を浮かべることが出来る。頼って欲しい人が出来て、次に会う約束をして、頑張る理由が出来たから。

 

 「……なるほど」

 

 それは、長門が自分の考えを馬鹿馬鹿しく思える程に単純な理由で。

 

 「なら、急いで帰るとしようか。全艦、帰投するぞ!!」

 

 【了解!!】

 

 またあの未知の存在に出会った時には、もう少し歩み寄るかと考える切欠にもなり……思考の柔らかさを得ることにも繋がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 雲1つない青い空、波の穏やかな青い海、周りには何の影もなし……そんなブルー1色の海上に、雷と別れた俺はいた。雷の鎮守府に長門型や一航戦コンビがいたとは知らなかったが、あの艦隊なら雷を無事に連れ帰ることが出来るだろう……そんなことを考えた後、俺は雷が目を覚ました時のことを思い返していた。

 

 

 

 「助けてくれてありがとう! 私の名前は雷よ! かみなり、じゃないからね?」

 

 「宜しく雷。俺はイブキだ」

 

 「イブキさんね? あの、助けてくれたお礼を鎮守府でしたいんだけど……案内する為の燃料が……」

 

 泣き疲れて眠って、起きて開口一番に雷はそう言ってきた。助けた形になったのは偶然だし、別に礼を求めた訳でもない。しかし、困った顔で燃料がないと言われてしまえば、俺に見捨てるという選択肢は爆発四散してしまう……まさか、そうなることを計算して……ないか。

 

 「どうしよう……?」

 

 「俺に聞かれても困るんだが。だが……これも何かの縁だ。送っていこう……とは言っても、燃料が心許ないなら同伴したところで尽きるな……仕方ない。雷が嫌でなければ、俺が運んでいくが」

 

 「え? それってだっこするってこと?」

 

 抱っこ……つまりは抱きかかえる訳だが……ロリお艦、ダメ提督製造機とうたわれる雷を抱きかかえる……むしろ抱かれたい。いやそうじゃないだろう俺、レ級との接触で自分自身がOh Yes! ロリータ、Let′s go Touch!! と声高らかに(内心で)叫ぶような奴だと悟ったばかりじゃないか。抱っこなどしてみろ、この溢れんばかりのパッションが雷を汚してしまいかねん。抱っこはダメだ……何か断る理由を考えねば。ここまで0.3秒と無駄に高速で回る思考で考えた結果、雷の背負っている彼女の背丈では大きすぎる程の艤装が目に付いた。

 

 「……その艤装では、抱きかかえることは無理だろう。雷が俺にしがみつくようにすれば不可能ではないが……雷が前を見れなくなる。君の案内が不可欠である以上、それはダメだしな」

 

 「それもそっか……うーんと……じゃあおんぶなら大丈夫よね! 前も見えるし、私の艤装も邪魔にならないし!」

 

 おんぶ……簡単に言えば、雷を背負うということだ。それならば確かに、雷の艤装と前が見えないという点は解消される。自信満々に胸を張る雷マジ天使。だが残念だったな雷……おんぶも出来ない。

 

 なぜならば、おんぶ……背負う以上、俺が雷を支える為に太もも、もしくはお尻の近くを持つことになる。今でこそ俺の体は女性だが、立派なセクハラになる。しかもだ、雷の背負う艤装のバランスを考えるならば体を密着させなければならない。密着だ、それはもう隙間もない程の……平たいが柔らかい胸が当たるのだと考えただけで興奮するじゃないか。抱っこ以上に危険な行為と俺は悟った。更にだ、密着するということは必然的に顔も近くなる。耳元で雷のマジ天使ボイスを聞かされるなど脳と理性を溶かされて雷を貪ってしまいかねん。おんぶもダメだ……何か断る理由を考えねば。ここまで0.2秒……また0.1秒世界を縮めてしまった……と無駄に速度を上げた思考で考えた結果、自分の後ろ腰にある軍刀が目に付いた。

 

 「……おんぶだと、今度は俺の艤装が邪魔になってしまうな……とてもじゃないが、安定して背負えない」

 

 「あ、そっか……いい案だと思ったんだけど……」

 

 よし、かわせた。しかし雷を運ぶという方針で決まっている以上、どこかで妥協はしなければならない……問題は妥協点だが……雷の燃料を使わずに運ぶ方法なんて他にあったか……?

 

 「あっ! じゃあこれならどう?」

 

 「ん?」

 

 この時、俺はおんぶか抱っこで妥協すべきだったと後悔しつつ、後に来る幸せタイムに興奮した。

 

 

 

 

 

 

 「イブキさん。私を助けてくれた時、どこから現れたの?」

 

 「……」

 

 「なんで深海棲艦の気配と艦娘の気配が一緒にするの?」

 

 「……」

 

 「レ級がいた時、イブキさんは金色と青色の目をしていたのに、いなくなった途端に灰色っていうか、鈍色っぽい目になったのはなんで? ……ねぇ、聞いてる?」

 

 「……」

 

 いやね、雷……俺に聞かれても何一つ解らんのだが……というか肩車とは恐れ入ったわ。なにこれおんぶとか抱っこ以上にアウトじゃないか。顔を挟んでる太ももの柔らかさがハンパなく気持ちいいし滅茶苦茶いい匂いするし支える手の太ももの感触がヤバい上にその手の上に乗せてる雷の手がこれまたいい感触で……あ、待て急に体を揺するんじゃない。後頭部がスカートとは違う布に当たって気になるだろう。

 

 これは俺の理性が危ない……と考えた時、視界に人影が映った。こんな海の上で見つけた人影だ、十中八九艦娘……或いは人型の深海棲艦だろうが……。

 

 「……雷」

 

 「なに? イブキさん」

 

 「あの人影が見えるか?」

 

 立ち止まり、雷を呼びながら人影を指差す。その頃には人影の数と姿を把握出来る距離になった。散々ロリコンとネタにされているながもんこと長門、エッチなお姉さん系の陸奥、キャプテンキソーこと木曾改二、腹ペコ空母の赤城、正妻空母加賀、ぽいぬこと夕立改二。かなりガチ編成だった。ていうか、実際に見てみると長門と陸奥のスカートは短いってレベルじゃないな。少しスカートが翻(ひるがえ)るだけで中身が見えそうだ。ていうかチラッと見えた……黒と白か……陸奥、意外と清楚だな。夕立もスカートがかなり短い……そんなに短かったらみえ……みえ……チッ、見えそうで見えない絶妙さがイイじゃないか。とても興奮する……イカンイカン。

 

 「……貴様が雷を助けてくれたらしいな。私は長門。雷と同じ鎮守府に所属する艦娘で、この艦隊の旗艦をしている……艦隊を代表して礼を言わせてもらう」

 

 なんか睨まれながらそんなことを言われた。いや、礼を言う態度というか形相じゃねぇよ。動いたら殺すって雰囲気が出てるぞ長門……俺、何かしたかね? ってよく考えたら雷を肩車するという、ロリコン(偏見)ながもんには許されざる行為をしてたな。納得した。だが、長門以外にも睨まれてる……というか警戒されているのはなぜだ? ってこれもよく考えたら、仲間を肩車してるのは深海棲艦と艦娘の気配がするとかいう意味不明な奴だからなぁ……そりゃあ警戒するか。さて、この場を穏便に収める為には……。

 

 「イブキだ。礼は確かに受け取った……雷、下ろすぞ。ここから彼女達のところに行くくらいの燃料は残っているだろう?」

 

 「えー……このままじゃダメ?」

 

 「ダメだ。俺はどうやら歓迎されていないようだしな」

 

 「えっ? み、皆なんでそんなにイブキさんを睨んでるの!? イブキさんは私を助けてくれたのよ!?」

 

 「ああ、雷が言うようにそいつは確かに恩人なのだろう。本音を言うならば、私としても鎮守府に招いて礼をしたいところだが……そいつが深海棲艦かもしれないならば話は別だ」

 

 うん、まあ仕方ない。俺のような訳わからん存在を自分達の本拠地に入れようとする方がおかしいし、長門の言うことは正しい。ただ、見た目麗しいというのか……可愛い子と美人な子に警戒心持たれるのは精神的にクるわぁ……興奮はしないから自分にMっ気がないのは分かった。

 

 「私は雷ちゃんを信じるっぽい」

 

 「夕立!?」

 

 「悪いが俺も夕立側だ。確かにあいつからは深海棲艦の気配もするが、オレ達と同じ気配もする。決め付けるのは早計じゃないか?」

 

 「木曾まで……」

 

 とか何とか思ってたら夕立が雷を信じるとか言い出した……女の子同士の友情、イイじゃないの。更に木曾も夕立に同意とな……流石キャプテンキソー、俺が女だったら惚れて……あ、今は女だったか。下見てもなかったし……いつ見たか? 雷が寝てる時に決まってでしょ。雷とレ級には興奮したのに自分の体には興奮も感動もしなかったが……したらしたで問題か。

 

 しかし、雷を信じてもらって悪いが、この場合……あくまでも俺の考えでだが、正しいのは長門だ。

 

 「いや、長門の言う通りだ」

 

 「ほう? レ級は貴様が呼び寄せたと認めるのか?」

 

 いや、流石にそれはないわ。俺どんだけ疫病神だよ。この長門、ネタであるようなロリコンながもんじゃなくて堅物な長門なんかね。ずっと主砲こっち向いてるし……かなり怖いなコレ。怖い怖いと考えてる割に冷静だが。あ、ひょっとして嫉妬か? 私の天使に汚い手で触れんじゃねぇカスが、みたいな。

 

 「それは分からん。俺とて記憶が曖昧で自分のこともよく覚えていないし、艦娘なのか深海棲艦なのかすらも分からんからな……だが、分かることもある」

 

 「……なんだ?」

 

 「俺のような奴は、雷と一緒にいるべきではない。それに、レ級に顔を覚えられてしまったしな……俺が鎮守府に行けば迷惑になる」

 

 だって俺、雷みたいな小さな子に興奮するロリコンですから。そこにいる夕立も当然守備範囲。木曾にはむしろ抱かれたい。他4人は……うん、まあ、ハイ。それに鎮守府ということはまだ見ぬロリッ子達がいる……そんな場所に行ってみろ、俺のパッションがイグニッションして理性がブレイクしてしまうじゃないか。そんな危険人物(自覚)が鎮守府に行っちゃイカンよ。と、一部事実を入れながら言い訳をしてみた。それっぽく変換して喋る俺の口に感謝。

 

 「雷……降りるんだ」

 

 「……」

 

 はい、頭をギュッとされました。具体的に説明するなら、両足の太ももで顔を少し強いくらいの力で挟み、背中を少し丸めて頭の上に腹から胸までを密着させ、両腕は俺の視界を遮るように頭を抱き締め……あ、小さくも柔らかい膨らみが確かにある。中破していた理性が大破までに追い込まれ、理性という名の船体がメキメキと悲鳴を上げる……このままでは本格的にマズい。

 

 長門達に助けを……現状では論外。自力で何とかしないといけない。そもそも雷はなぜ降りようとしないのか……は、何故か懐かれていることからある程度察することは出来る。要するに……離れることが寂しいんだろう。だが離れて貰わないと俺が困るし、長門達としても困る。どうするか……よし、ここはアニメやら何やらでよくある手段として……。

 

 「雷……俺としても長門達としても、これ以上長引かせる訳にはいかない」

 

 「……」

 

 「長門達の言い分は分かるだろう? 俺が言ったことも……納得は出来ないかもしれないが、分かってはくれるだろう?」

 

 「……うん」

 

 「では、今は納得出来なくてもここで俺とお別れするんだ……だが、1つ“約束”をしよう」

 

 「“約束”……?」

 

 「ああ。次に会うための約束を……次に出会う時には、お互い元気な姿で……約束だ」

 

 別れの際に行うことの定番“約束”。雷くらいの精神的に成長している子供なら、これで折れてくれるかもしれない……そんな希望的観測からの提案だ。俺としても雷や長門達とこれっきり……というのは寂しい。何せ知り合いが彼女達を除けばレ級しかいないのだ……味方になってくれそうな存在が今のところ雷だけとか未来が不安過ぎる。

 

 しかしだ。ここで穏便に過ごして長門達の、ひいては彼女達の鎮守府側の印象を良くしておけば……味方まではいかなくとも、いきなり攻撃されることはなくなるだろうという打算が大いにある。さて、雷はどう反応してくるのか……。

 

 「……約束したら……また会えるの?」

 

 「確約は出来ない。だが……努力はする。俺も雷とこれっきりというのは悲しいからな」

 

 「そっか……じゃあ、約束する。次に会う時は、お互いに元気な姿で!」

 

 「……ああ。お互いに、元気な姿で……また会おう」

 

 ああ~雷の涙目笑顔に浄化される~……いや、本当に邪(よこしま)な考えを持つロリコンでごめんなさい意味不明な存在でごめんなさい打算的な考えでごめんなさいそんな可愛すぎる笑顔で俺を見ないで下さい消えてしまいます……いや、消えないがめっちゃ心が痛い。思わずどもってしまった。

 

 ズキズキとする無駄に大きな胸の痛みを無視し、雷を抱えて降ろす。すると雷は俺の方へと体を向け、小指を立てた右手を差し出した。俺はああなるほどと納得し……これもお約束かと同じように右手を出し、雷と小指同士を絡めて指切りをした。

 

 「ゆ~びき~りげんまん♪」

 

 「嘘をついたら」

 

 「いっかりっでな~ぐる!」

 

 なにそれこわい。後、俺に錨付いてないんだが。

 

 

 

 ― ゆ~びきった! ―

 

 

 

 「……貴様はこれからどうするつもりだ?」

 

 雷が長門達の艦隊に辿り着くと、長門がそう問いかけてきた。これからどうするか、なぁ……この体が深海棲艦か艦娘か分からないとはいえ、補給なりなんなりは大事だろう。それがゲームのような鋼材等の資材がいるのか、人間のように食事が必要なのかが分からない以上、補給の仕方も分からないのだが。また、それらの糧を得る術も今のところない。餓死するのか、それとも燃料切れで動けなくなるのか……お先真っ暗とはこのことか。

 

 「さぁ、どうしようか……沈むその時まで放浪するとでもしようか」

 

 「真面目に答えろ!」

 

 長門に怒られたが、こちとら大真面目だ。だが……まぁ、約束してしまった以上は頑張って生きるが。そんな風に思ったことを相変わらず謎の変換をする口調で言った後、俺はその場を後にした。雷に見せるように右手の小指を立てながら……。

 

 

 

 

 

 

 そして現在に至る。今思えば、後ろから撃たれていたかもしれない……まあ撃たれなかったからこうしている訳だが。そして今いるのは……周りに海しかない、地理も何も分からない海上……明確な目的地もない、どこに行けば陸があるのかも分からない……つまりは迷子だ。今更ながら、無理や道理に風穴を開けてでも彼女達について行けば良かったかもしれない。

 

 燃料の残りは……どうやって確認するんだ? 雷は自分の燃料を把握していたようだったが……自分の燃料が見えているのか、それともそれを伝える存在がいるのか……あ、もしかして妖精か?

 

 妖精とは、艦隊これくしょんに出てくる謎の生命体(?)だ。ゲーム内にある武装や艦載機の絵の中や図鑑などでその姿を見ることができ、詳しいことは語られていないものの艦娘の味方であることが予想される。電探やドラム缶にも姿があるんだ、燃料を確認する役割を持った妖精だって……ゲームにはいなかったがこの世界にはいるかも知れない。というか頼むからいてくれ、海上に独りとか不安で仕方ないんだ。

 

 「……妖精」

 

 ポツリと、そう呟いてみる。これで妖精がいなかったら独りぼっちのイタい独り言だったが……神は俺を見捨てなかった。

 

 

 

 「呼ばれましたー」

 

 「我ら、軍刀妖精ー」

 

 「おはよーからお休みまでイブキさんをお助けするですー」

 

 「我らに斬れないものなんて、ほぼないのですー。どやあー」

 

 「わたしだけ言うことないのですー。えーん」

 

 

 

 目の前に現れてふわふわと漂う二等身の手のひらサイズの軍刀妖精ズ。皆俺の着ている服をミニチュア化した服を着ていて、俺にはない軍帽を被っていた。とりあえず、最後の泣きべそをかいている妖精の頭を撫でておこう。これが、俺と長いつきあいとなる軍刀妖精ズとの出逢いだった。




雷ちゃんと別れ、軍刀妖精ズと出逢いました。ここで改めて、主人公の容姿を説明します。

髪の長さは背中程までのセミロングで、ヲ級のように真っ白。顔はキリッとした刀剣のような鋭い美しさ(レ級談)で目つきはややきつめ。目は改flagshipのような右が金、左が炎のように揺らめく青……だがいつの間にか雷の姉妹艦の響を思わせる鈍色に。服装は白露型(中でも時雨達が着るようなタイプ)の紺(黒?)色のセーラー服で膝より少し高いスカート、黒スパッツ着用。出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ、雷が羨むくらいの女性らしいスタイル。でも中身は男(と本人は仮定している)。

艤装は軍刀5本のみ。その内4本は2本ずつ×字に交差させた特性の鞘を後ろ腰に、残りの1本は右肩から左腰に掛かったベルトに取り付けられた鞘に収まっている。

身長はイメージ的には165cmほどで女性では大きい部類……んですが、艦娘の正確な身長って分かってないんですよねぇ。私の中では第六駆逐隊の面々は130~140cmほどのイメージ。小学生高学年くらいですかね。

今回は平和に過ごせましたが、次回はどうなるのか。微勘違いタグは仕事をするのか。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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