幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
Act.1-1 女神候補生との邂逅 side:N
女神達が犯罪組織の手に落ちてから、三年後。
その三年という年月は人間達にとっては短い期間ではなく、女神の不在に不審を抱く人々が増えて行った。
そしてその期を逃すはずもなく、犯罪組織マジェコンヌと名乗った邪教集団は違法ツール『マジェコン』等を利用し、着々と四ヶ国からシェアを奪い勢力を広げていた。
その脅威にショップは枯れ、クリエイターは餓え、あらゆるギョウカイ人が絶滅したかに見えるほどに。
もはや無法世界となりつつある世界。
だが、そんなゲイムギョウ界にも一筋の光が差し始めていた。
プラネテューヌが、ギョウカイ墓場に囚われた女神の一人を救出したのである。
助け出せたのは五人の内の一人、それも、プラネテューヌの女神候補生だけだったが、彼女は仲間の力を借りて再び立ち上がり、仲間と共に旅に出る。
『ゲイムキャラ』と呼ばれる者達の力を借りて、未だ囚われたままの女神を、自身の姉を救うために──
ゲイムキャラを求めてプラネテューヌを発ったプラネテューヌ女神候補生──ネプギアは、既にプラネテューヌとラステイションのゲイムキャラの力を借りることに成功していた。
そして彼女は、同じくプラネューヌ所属の諜報員、アイエフと新人ナースのコンパ、そして旅の途中で力を貸してくれると仲間になったRED達と共に旅を続け、次の目的地であるルウィーへとたどり着いていた。
「ルウィーにとうちゃーっく! アッタシがいっちばーん!」
「うわぁ…寒い。でも、きれいな街…」
ラステイションのゲイムキャラさんから無事力を借りることができた私達は、次のゲイムキャラさんのいるルウィーへとやってきて、
そして無事に到着した私は、ルウィーの寒さに震えながらもその街並みに少し見惚れていました。
太陽の光が雪で反射して、すごく明るく感じる…すごい。
「ルウィーは一年中、雪に覆われてるですからね。上着を買っておいた方がいいかもです」
「時間があったらね。まずは情報収集から始めないと」
アイエフさんの言葉に私は頷く。
コンパさんの気持ちは嬉しいけど、また何時どこでマジェコンヌの人が悪さをしてるかわからない状況だからこそ、早く情報を手に入れるべきだと思ったからです。
「そうですね。やっぱりギルドからですか?」
今までそうしてきたことだから今回も同じかなと思ってそう聞いてみると、アイエフさんは首を横に振って否定します。
「今回は最初から教会に行きましょう。ここの教祖は悪い噂聞かないし、多分大丈夫だと思うわ」
教祖さんについて話してラステイションの教祖…ケイさんを思い出したのか、途中から苦い表情になるアイエフさん。
そんなアイエフさんを見て、思わず苦笑いしてしまいました。
「えっと、教会に行くにはこの道を真っ直ぐ行って…」
街の人に教会の場所を聞きながらルウィーの街を歩く私達。
うぅ、それにしてもやっぱり寒い…でも、我慢しないと…!
「ねーねー、向こうの方がなんか騒がしいよ。行ってみようよー」
「寄り道してる時間なんてないって……ん? あれは…」
マイペースなREDさんの言葉に苦笑するアイエフさん。
けど、何かを見つけたみたいで「少し様子を見に行きましょう」と言って、騒ぎの起こっている場所へと行ってしまいました。
慌ててその後を追ってみると、そこには……
「はーい! みんな寄っといでー! 楽しい楽しい犯罪組織マジェコンヌだよー!」
この旅を始めてから何度も見たことのある人が、そこにいました。
「…はぁ…なんでビラ配りなんてみじめな真似しなきゃなんネェんだろうな……それもこれも、アイツ等がジャマばっかしくさってくれたから…!」
ぶつぶつと悪態を付く、灰色のネズミのフードをかぶった目付きの悪い人。
彼女の名前は……えぇと…そう、下っ端。私達の敵である犯罪組織マジェコンヌの下っ端さんです。
……それは名前じゃないだろうって? いえ、下っ端は下っ端ですよ?
「あいつらって、わたし達のことですか?」
そんな下っ端に、コンパさんが声をかけた。
「そうそう。テメェみたいなトロそうなボケ女と、クソチビガキんちょと、生意気タカビーとませた嫁女……」
「あら、これでも礼儀正しい方だと思ってるんだけど?」
「クソチビ……うぅ、そんなにちっちゃいかなぁ…」
「そんな事言うなら嫁にしてあげないんだから!」
下っ端の発言で、思わず自分の身長を気にしてしまう。
……でも、よくよく考えると下っ端もそんなに変わんないような…
「ん? うおわっ!? テメェ等こんなとこまで追ってきやがったのか!?」
「アンタを追って来た訳じゃないけど、その布教活動はちょっと見過ごせないわね」
アイエフさんの目がキッと鋭くなり、私達も身構える。
すると下っ端は分が悪いと思ったのか、
「…おっ。おい、そこのガキ!」
「ふぇ…?」
「動くんじゃネェ! テメェは人質だ! へへっ、さぁどうする? 手をだすんなら…このガキの首、コキッとイっちまうぞ?」
近くにいた小さな女の子を捕まえると、その子を人質にしてきました。
な、なんてことを!
「相変わらず汚い真似を…!」
「やめてください! その子は関係ありません!」
「うるせェ! 犯罪組織が汚ネェのなんて当然だろ! …ま、そういうことだ。アバヨー!」
「ふぇぇ…助けて、ラムちゃん、グリモちゃ……」
そう言って下っ端は、女の子を連れて逃げて行きます。
あ、あわわ…大変な事に…
「くっ…みんな、追うわよ!」
「あんな可愛い子をさらうなんて、アタシより先に嫁にする気だな!」
「REDさんそれはちょっと違うと思います…と、とにかく、急ぎましょう!」
下っ端を見失わないように、私達も急いで後を追いかけます。
「あれ? ロムちゃーん?」
「…どうかした?」
「ロムちゃんがいなくなっちゃった。もう、どこに行ったのよ、待っててって言ったのに…」
「………」
「…グリモちゃん?」
下っ端を追いかけてやってきたのは、ルウィー国際展示場という所。
色々な機械や展示物が凍っていたりしてちょっと気になったけど、今はそれよりも女の子を助けないと。
「げっ、追ってきやがった!?」
「その子を離しなさい。そうすれば見逃してあげるわ」
「バカいうな、大事な人質を手放す訳ネェだろ! それともテメェ等、人質を無視して手を出すつもりか!?」
下っ端のその言葉に、はっとする。
「そ、それは…」
「どうするつもりだったの?」
REDさんがそう聞いてくる。
う、うぅ…何も考えてなかったなんて…
「何も考えずに追いかけてきちゃいましたね…」
「「…………」」
コンパさんの指摘に返す言葉もありませんでした…
「ふぇぇ…助けて…」
女の子が泣きながら助けを求めている。
「テメェ等真正のバカだな、本当に何も考え無しかよ…」
敵である下っ端も呆れる程。
うぅー…私のバカ…
「まぁいいや。確か一匹くらい…あったあった、おら、出てこい!」
と、下っ端が懐からディスクを取り出して、それからモンスターを召喚してきました。
「テメェ等の相手はそいつだ。いいか? 手ェ出すんじゃネェぞ? へへへっ…」
「ど、どうしましょう、これってかなりピンチですよね…」
「そうね、我ながら自分の馬鹿さ加減に呆れるわ…」
「手は出せないですし…一旦逃げるですか?」
「そしたら人質の嫁が助けられないよー!」
なんて騒いでる間にも、下っ端の召喚したモンスターがこっちに近付いてくる。
……と、そんなときでした。
「良いザマだなぁ! 今日こそテメェ等の最…期……?」
突然、空から剣の形をした氷がモンスターに降り注ぎ、モンスターは声を上げる事も無く消滅しました。
何…上から…?
攻撃が飛んできた上に視線を移すと、そこには……
「──ロムちゃんを…」
「一体何が……って、空から声…?」
「返せえええええッ!!」
「ぎゃああああああ!!」
展示場の崩れた屋根の間から二人の女の子が降ってきて、下っ端にぶつかって、
それにより下っ端は吹き飛んで、捕まっていた人質の子が解放されました。
「生きた心地がしなかった…」
「仕方ないでしょ、急がないとロムちゃんが危なかったんだから。ロムちゃん、大丈夫だった?」
「グリモちゃん…! ラムちゃん…! ふぇぇぇぇん…!」
助かったことで安心したのか、人質にされていたロムと呼ばれた薄茶色のショートカットで水色の帽子とコートを着た女の子が、ラムと呼ばれた薄茶色ロングヘアーでピンク色の帽子とコートを着た女の子と、グリモと呼ばれた薄茶色のロムちゃんくらいの長さの髪を右側に結わいたサイドテールで黒いコートを着て水色の細フレームメガネを掛けた女の子に泣きながら抱きつく。
何が起こったのかと思いながらも、女の子の一人、ラムちゃんの姿をみて、私は「あ」と小さく声を漏らす。
ラムちゃんの姿は、ピンク色の髪で手には杖、そして──プロセッサユニットを纏った姿だ。
つまり…
「なっ…女神、だとぉ!?」
「ロムちゃんをユーカイして、しかもこんなに泣かして…絶対許せない! ロムちゃん、変身!」
「ん…(こくり)」
驚く下っ端の前で、ラムちゃんがロムちゃんに向かってそう言った。
するとロムちゃんが光に包まれたかと思うと、こちらもプロセッサユニットを纏った姿になりました。
「あれが…ルウィーの女神、達…」
「ま、また女神が二人ィ!? ちょ、意味分かんネェんですけど!?」
「……覚悟、できてますよね?」
二人の女神に気を取られていると、もう一人の女の子…グリモちゃんが下っ端に向かって言った。
その声は低くて、聞いているだけで震えるほどに冷たい……そんな声でした。
台詞は短かったけれど、それだけでも十分怒っている事が伝わるような…そんな声。
「ひっ!」
杖を持つ三人の女の子を前に、何かに気圧されたのか逃げ出そうとする下っ端。だったけど、
「「「エクスプロージョン!!」」」
三人が同時に叫ぶと、いきなり下っ端のいた所が大爆発しました。
「覚えてろぉぉぉ……」
爆発で吹っ飛ばされた下っ端は、そんな台詞を叫びながら空の彼方へと飛んで行きました。
「…ふぅ」
「大勝利ー! わたし達ってばさいきょー!」
「さいきょう…」
ハイタッチをして喜ぶ三人(二人?)。
…えーっと。
「かっこいいなー…流石、アタシの未来の嫁!」
「えっと、とりあえず何とかなったのかしらね」
アイエフさんも急な展開について行けてないみたいで、困り顔だった。
う、うん…まぁ、いいのかな…?
「…それで、ロムちゃん。この人達は?」
と、そこでようやく三人がこっちに気付いたようでわたし達の事を話し始めました。
「助けようと、してくれた…」
「ふーん…でも結局助けてくれなかったんでしょ? ならタダの役立たずね」
「ラムちゃん…いくら事実でも、初対面の人にそれは…」
「……今回ばかりは、何も言い返せないわね」
ラムちゃんの言葉が刺さる。
グリモちゃんがフォロー入れてくれたみたいだけど、そのフォローの仕方は逆に刺さる…
…っと、いつまでも落ち込んでないで、と
「あの、あなた達がルウィーの女神候補生?」
気を取り直して、三人…というより、女神の二人にそう聞いてみる。
「うん。ルウィーが誇る双子の女神、ラムちゃんとロムちゃんとはわたし達の事よ!」
「(こくこく)」
すると得意げに答える二人。
こんなに早く会えるなんて…
「それで? もう一人の可愛い子は誰っ? 是非アタシの嫁に…」
「アンタちょっと黙ってなさい」
今度はREDさんがもう一人の、グリモと呼ばれた女の子について聞いていた。
そういえばあの子はどうして女神の二人と一緒にいるんだろう?
「グリモちゃんはグリモちゃんよ」
「説明になってないんだけれど」
「うるさいわね、何で会ったばっかのアンタ達に一々説明しないといけないのよ」
「…ラムちゃん」
アイエフさんの指摘を受けて不機嫌そうにそう言うラムちゃん。
するとグリモちゃんがため息を吐きながらラムちゃんの名前を呼ぶと、ラムちゃんはしぶしぶ後ろに下がった。
「…わたしはグリモ。ルウィーの教会でお世話になっていて…えっと…二人の付き人、みたいなものです」
「付き人ですか? でも、二人とそんな変わらない子供に見えるです」
「何よ、子供だからってバカにしてると痛い目見るんだから!」
コンパさんの言葉に反応したラムちゃんがそう言うと、グリモちゃんが振り返ってラムちゃんが顔を逸らす。
そんな二人を見て、ロムちゃんは苦笑いを浮かべていた。
「…それで、あなた達は何者ですか」
こほん、と咳払いをして、今度はグリモちゃんがわたし達に質問してきた。
なんだろう、見た目は子供なのに…雰囲気が子供らしく無いような…
「あ、えっと…私はネプギア。私も女神候補生で、お姉ちゃん…じゃなくて、ネプテューヌの妹なの」
「ねぷてゅーぬ? ってことは…」
「プラネテューヌの、女神…」
「それそれ。あなた、プラネテューヌの女神なんだ」
どうやらお姉ちゃんの名前でどうにか通じたみたい。
でも、なんだか視線が鋭くなったような…
「う、うん。それでね、お姉ちゃん達を助ける為に…」
「…てことは、わたし達の敵ね!」
「…敵(びしっ)」
続けて二人にお姉ちゃん達を助ける手助けを…して欲しいと言おうとしたところで、言葉を遮るようにびしっと指差される。
……え、えぇぇっ!?
「ち、違うよ! 何で敵になっちゃうの!?」
「だって、他の国の女神でしょ? きっとルウィーのシェアを横取りしに来たんだわ!」
「本に書いてあった…」
「そんなことしないよ! とにかく話を…」
「もんどーむよー!」
なんとか説得しようにも、そう言ってロムちゃんとラムちゃんは杖を構えて敵意を剥き出しに。
うぅ、やるしかないの…?
と思っていると、グリモちゃんが二人の傍に行ってこっちに聞こえない大きさで何かを話し始めた。
もしかして、説得してくれるのかな…
「……お願い」
「むー…しょーがないわねー」
「…グリモちゃんのお願いなら、わかった」
少しすると話が終わったみたいで、二人が離れる。
でも、杖は構えたまま…
「そーれっ!」
「…えい」
「っ!」
そして飛翔した二人が杖を振るうと、私とアイエフさん達の間に氷の壁が現れました。
ぶ、分断された…?!
「ネプギア(ギアちゃん)!」
「グリモちゃんの頼みだから、しかたなーくアンタ達の相手してあげるわ!」
「…手は、出させない」
ラムちゃんとロムちゃんはアイエフさん達の方に降り立ち、アイエフさんたちの妨害をし始めた。
「…アナタの相手は、わたしです」
そしてこっちではグリモちゃんが杖に氷を纏わせて、剣の形になったそれを構えて戦闘態勢。
──こうしてわたしは、この女の子……グリモちゃんと戦う事になってしまいました。