幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.6 犯罪組織マジェコンヌ

「……そう、わかったわ」

「如何なさいますか、ブラン様」

「…………」

 

ルウィー教会の執務室。

そこには教祖ミナからの報告を受け、思案顔の女神ブランの姿があった。

事の発端はつい先日のこと。

犯罪組織マジェコンヌなる一派が、女神達に宣戦布告をしてきたのだ。

 

「最近、シェアがどの国でもない、別の所に流れていると思ったら…こういうこと」

「はい。なんでも、マジェコンという違法ツールを配り、各国の人々を引き入れてるようです」

「マジェコン…」

「なんでも、ゲームを買わずにできてしまうツールだとか…」

「なるほど、それを使ったのね…」

 

それを聞いて再び考え込むブラン。

ブランはマジェコンヌという名前には聞き覚えがあった。

それは、ここルウィーで誕生し、過去にゲイムギョウ界を滅亡させようとして、その世代の女神達の手によって封印された、忌むべき存在。

犯罪神という名を冠する、強大な敵。

 

「それで、もう一つの方は?」

「プラネテューヌから、女神への緊急招集が。恐らく…」

「…今回の件に関して、ね」

 

ブランの言葉にこくりと頷くミナ。

犯罪組織なんていう得体の知れない連中がいきなりあらわれて、しかもシェアを横取りしていたとなれば、ブランにとってこうなるのは予想の範囲内だった。

 

「……わかった。それで、日時は?」

「はい。緊急なので、明日までにプラネテューヌ教会へと…揃い次第、始めるとのことです」

「また急ね…当然といえばそうなるけど」

 

ふぅ、とため息を一つ吐いて、席を立つブラン。

そしていつもの帽子を被り、ミナを従えて部屋を出る。

 

「もう出発なされますか?」

「緊急なんでしょ、それなら早めに向かった方がいいわ」

「…そう、ですね」

 

いつものように表情を変えずに答えるブランを、不安げに見つめるミナ。

ブランはどうかは知らないが、ミナにとって守護女神が集まる程の事態は生涯で初めてなせいで、ブランの身の心配やらで不安が尽きないといった表情をしていた。

 

「ミナ」

「…ぁ、は、はいっ!」

 

そんな風で半ば意識が上の空の時に声をかけられ、びくりとしながら慌てるミナ。

が、ブランの普段以上に真面目そうな雰囲気を感じて、すぐに冷静になる。

 

「…多分だけど、プラネテューヌに向かったらそのままその犯罪組織とやらを叩きに行くことになるわ」

「え? ですが、相手のことがまだ何もわからないのにそれは…」

「先手必勝、というやつよ。それに、女神が四人もいればすぐに終わるでしょうし」

 

ブランは言いながら歩くのを再開し、「…けど、そうね」と小さく呟く。

 

「もしも、私の身に何かがあったとしたら。…その時は、ロムとラムをお願いね」

「ブラン様…!?」

 

なにを縁起でもないことを、と驚くミナを横目で見て、ブランはふっと笑うと、

 

「まぁ、そんなことはないでしょうけど」

 

と言う。

そんな彼女の後に続くミナは、複雑そうな顔でブランの背を見つめていた。

 

教会の廊下を歩き始めてしばらくすると、廊下の向こう側から子供のはしゃぎ声が聞こえてきた。

それを聞いたミナはため息を吐きながら前に出て、

 

「こら、あなた達! 廊下は走ったらいけません!」

 

とぱたぱたと走り回っていた三人…ロム、ラム、グリモを叱りつける。

その声にロムとグリモの二人はびくりと肩を震わせ、すぐに大人しくなり、

 

「ごめんなさい…」

「す、すみませんでした…」

 

ぺこり、と謝罪する。

が、もう一人……ラムはあまり気にしてない様子で、

 

「あれ? お姉ちゃん。どっかいくの?」

 

とブラン達に聞いてきた。

もうっ、と未だ怒り気味なミナをなだめつつ、ブランはこれから暫く出かけることを三人に告げる。

 

「えー! いいなー、わたしも行きたい!」

「わ、わたしも…」

「…悪いけど、今回はダメよ。あなた達には早いわ」

「なんでよ! お姉ちゃんばっか別の国行ってずるい!」

 

同行を拒否され、ぷくぅ、と頬を膨らませるラムと、しょんぼりと落ち込むロム。

そんな二人の頭を撫でながら、ブランは言う。

 

「その代り、あなた達は私が留守の間、私の代わりにこの国を守りなさい。女神として」

「え…? で、でも、わたし達、まだ…」

「…これも一つの経験よ、ちゃんと守ってくれたら、帰ってきたら言う事聞いてあげるから…」

「ほんと!? なら帰ってきたらいっぱい遊んでよね、お姉ちゃん!」

「やくそく…!」

「はいはい…」

 

ちょっと約束しただけでころころと変わる二人の顔を見ながら、苦笑いを浮かべるブラン。

そうして二人は遊びの途中だったことを思い出したようで、また廊下を走って行ってしまった。

 

「じゃあお姉ちゃん! 頑張ってきてねー!」

「あっ、こらー! だから廊下は走ったらいけませんってばー!」

 

ぱたぱたと駆け足で去っていく二人を再び叱るミナ。

そんな光景をみながら、ブランは俯いたまま立ち尽くすグリモに気付く。

 

「…グリモ? 二人とももう行ったわよ」

「あ…はい…」

 

二人が去ったことを伝えるも、どこか浮かない表情のグリモ。

どうかしたのか、と心配になっていると、突然グリモは顔を上げて、

 

「…あのっ、…気をつけて…」

 

とだけ言って、駆け出しそうになりつつも早歩きで二人の後を追って去っていった。

なにか引っかかるものを感じつつも、あまり遅れて他の女神にどやされたくないなと思ったブランは、支度を整えてプラネテューヌへと出発していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブランさんがプラネテューヌという国に向かってから、数日が経った。

でも、ブランさんはまだ帰ってこなかった。

ロムちゃんとラムちゃんも「お姉ちゃん遅いねー」とか「寂しい…」とか気になりだしてはいるみたいだけど…

わたしはずっと、胸の中でザワザワと、嫌な感じがしていた。

 

そんなある日の事だった。

夜中、トイレに行きたくなって目が覚めた時の事だ。

トイレを済ませて部屋に戻る途中で、扉が少し開いた部屋から声が聞こえてくるのに気付いて、つい聞き耳を立ててしまった。

部屋で話していたのはミナさんとフィナンシェさんと、教会職員の人たちが何人か……そこでわたしは、その会話を聞いてしまった。

 

「……それで、その戦いの結果は」

「ブラン様が……女神様達が、敗北したようです」

「……っ!」

 

その言葉に動揺してしまう。

女神達が……ブランさんが、負けた。

何と戦ったのか、どうして戦ったのかは知らないけれど、何より負けたという事が衝撃だった。

 

「……ブラン様達の状態は」

「はい…。今もギョウカイ墓場に囚われたまま、とのことです…」

「……なんてこと」

 

そこまで聞いて、これ以上ここにいるのに耐えられなくなったわたしは、音をたてないようにしてその場から離れた。

──部屋の中の一人が、こちらを見ている事に気付かずに…

 

 

 

それからわたしはどうにも寝付けなくなってしまって、夜風に当たって少し頭と心を落ち着かせようと教会の外に出て、夜空を見上げていた。

 

「………」

 

ぼーっと星を眺めていると、後ろからコートを羽織わされ、驚きでびくりと身体が跳ねる。

振り返ると、そこにはフィナンシェさんが。

 

「風邪、引きますよ?」

 

そう言われて、そういえばコート着ないで出てきたんだったと思いながら、また空を見上げる。

ぼぅっと星を見つめていると、フィナンシェさんが突然喋り出した。

 

「……聞いてしまったんですね」

「っ!」

 

その言葉にびくりと身体が跳ねてしまう。

…気付かれて、た…?

恐る恐る後ろを振り向くと……フィナンシェさんは悲しそうな表情をしていた。

 

「盗み聞きは良くないですけど、今はそれを怒るつもりはないですよ?」

 

と、わたしが怯えているのに気付いたのか、すぐにフィナンシェさんは無理に笑ったような顔になると、わたしの横まで歩いてくる。

その言葉に少し安心しつつも、やっぱりあれは事実なんだという事を思い知らされて、俯く。

 

「………ブラン様を含めた守護女神四人と、女神化できる実力を持った女神候補生が一人……五人で戦いを挑んで、敗北。そのまま捕まってしまったみたいです」

「…………」

 

フィナンシェさんが詳細を教えてくれる。

それを黙って聞きながら、話して良い事なのかなとか思ったり。

……この世界で強い力を持った四人が居て、負けた…

…その、一人が少し気にかかるけど…

 

「…この事、ロム様とラム様にはまだ伝えてあげないで置いてくれませんか?」

「……え?」

「この事実を受け止めるには、まだ二人は幼すぎます。だから…」

「…………」

 

確かにフィナンシェさんが言うとおり、自分の姉が負けて、しかも捕まってしまったなんてことをあの二人が聞いたら……

……でも、そんな…真実を隠してしまうのは、本当に良い事なのか。

そんな葛藤が渦巻きながらも、なるべく冷静を保とうとする。

 

「……さぁ、どうでしょう。わたし、隠し事とかあんまり好きじゃないですから…」

「……そうですか」

 

何が何でも止められるかな、と少し思っていたせいで、そんな反応が返ってきて少し驚いた。

 

「止めないんですか」

「いえ、グリモさんはお二人ととても仲が良いですから、きっとお二人の事も考えてくれると思ったので」

「…少し、過大評価してませんか?」

「いえ、それほどでも」

 

にこり、と微笑むフィナンシェさん。

…たまにこの人が何を考えているのか分からない事がある。

………でも……

 

「……わたし、強くなります」

「え?」

 

その呟きが聞こえてたみたいで、フィナンシェさんの声が聞こえた。

そのまま、わたしは呟き続ける。

 

「強くなる。二人を護れるように。…それがわたしに出来る、恩返しだって、思ったから」

 

自分自身に向かっての誓いの意味をこめて、呟く。

頬に、何かが伝う感覚がした。

 

「…そうですか」

 

横ででくすっと、小さく笑う声。

見ると、フィナンシェさんが優しい笑みを浮かべていた。

 

「では、僭越ながら私から一つ…」

「…?」

「これは私の一族に伝わる……訳でもなくて、ただ私が心に誓った信念みたいなものなんですけれど…」

 

そこまで言うと、フィナンシェさんはこちらに向き直ってこほん、と咳払いを一つ。

 

「……何があっても…少しの勇気と、諦めない心があれば、きっと道は開けるはずです。だから、どんな状況になっても、決して諦めないでください」

「諦めない、心…」

「…と言っても、私も戦う力はないんですけどね」

 

一瞬の真面目な表情はすぐに消え、あははと苦笑いを浮かべながらいつものフィナンシェさんに戻った。

…でも、うん。この言葉、忘れないようにしよう。

 

「…はいっ」

 

そう心に決めて、わたしはにっと笑顔で答えた。

 

 

……その後、寒さで思いっきりくしゃみをしてフィナンシェさんに笑われた。

 




混沌に包まれる世界。

少女達は再起と、再開を願い戦い続けていた。

そんなある時、他国の女神候補生と名乗る少女が現れ……


次回、超次元ゲイムネプテューヌmk2 蒼と紅の魔法姉妹 -Grimoire Sisters- 第1章

-始まりのコンフリクト-


三年の時を経て、少女達の出会いと成長の物語が動き始める──

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