幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.3 クエスト

ルウィー、ギルド前。

今日は前にブランさんに頼み込んだ、モンスター退治を見せてもらう日…なんだけど…

 

「……どうして、こうなったのかしら」

 

ため息交じりにそう呟くブランさん。

どうしてか? それはまぁ、ブランさんの視線の先にいるふたりが原因かと…

 

「わーい、みんなでクエストだー!」

「楽しみ…♪(わくわく)」

 

わたしとブランさんの前を楽しそうに歩く、ロムちゃんとラムちゃんのふたり。

別に同じ方向に用があるからいるとかじゃなく、完全にクエストについていく気でここにいる。

 

なぜこうなったか、なんていうのはすぐに想像つくと思うけれど…

まぁ、教会を出るときにふたりに見つかって、

 

『ふたりだけでずるい!わたし達も行く!』

『いっしょに…ダメ…?(うるうる)』

 

…とかなんとかで、結局強引についてきた…と

 

「へへーっ、わたし達だってお姉ちゃんには敵わないけど、強いのよ! 」

「がんばるから…見ててね、グリモちゃん」

 

そんなやる気満々のふたりの言葉に苦笑いで返す。

ブランさんはというと…溜め息を吐いて諦めた様子。

 

……まぁ、ちょっと見るだけだから、きっと大丈夫だよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでやってきたのはルウィー雪原。

守護女神の加護が一番強いらしい首都からそう離れてない場所だから、モンスターも大した強さのものはいないとか。

 

「お姉ちゃんといっしょのクエスト、ひさしぶり…」

「あ! ロムちゃんあそこにアイテム!」

「ちょっと、あなた達……はぁ、まったく…」

 

ついて早々、何かを見つけたみたいで駆け出してくふたりと、それを見て溜め息を吐くブランさん。

この辺は教会でも似たようなやり取りを見たかも。

 

……ん?

 

「ぬらー」

 

三人が少し離れた所で、妙な生き物がわたしに近付いてきた。

それはゼリー状のスライムな体に犬の顔と耳と尻尾がついたようなので、変な鳴き声を挙げながらぴょこぴょこと跳ねている。

……ちょこっとかわいいかも。

 

「…! 危ない!」

「…え?」

 

なんて考えていたら、こちらに気付いたらしいブランさんの叫び声。

それとほぼ同時に、スライムが「ぬららー!」とわたしに飛びかかってきた。

 

「へぴゃっ!!」

 

反応しきれずに避ける事もできなくて、スライムの体当たりがわたしの顔面に直撃し、わたしは変な悲鳴を上げてしまう。

っていうか、見た目の割にボールを思い切りぶつけられたようなくらいに痛い…っ

 

「うぅ…ぇ…?」

 

体当たりの衝撃で尻餅をついていると、いつの間に集まって来てたのかスライムが3匹に増えていた。

そして…

 

「きゃぁ、ぁぁっ!」

 

また体当たりを仕掛けてきた。

しかも今度はそのまま身体や足に張り付いてくる。

 

や、ちょっ…つめた、くすぐった、きもちわるい…!

 

「や…ん、ぐっ……」

 

どうにか追い払おうともがくものの引きはがせなくて、今度は顔に張り付かれる

息が、出来ない…っ

 

「むぐっ、んっ…ンンンー……ッ!!」

 

苦しい、くるしい

いしきが、とおのいて………

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

……………はっ

 

「…! 意識が戻った…大丈夫?」

 

気がつくと、ブランさんが心配そうにわたしを見つめていた。

ブランさんの問いかけに、頷いて答える。どうやらブランさんが助けてくれたみたい。

死ぬかと思った…

 

「グリモちゃん…! よかった…」

「もう! 心配させないでよ!」

 

ロムちゃんとラムちゃんも、泣きそうな顔だったりむすっとした顔をしていた。

 

「まさかこの短時間でスライヌに襲われるなんて、流石に予想外だったわ…」

「あ、あう…ごめんなさい…」

 

申し訳なさそうにするブランさんに謝りながら、起き上がる。

ブランさんがやっぱり危険だから戻ったほうが良いと言ってきたけど、まだ死にかけただけでどうやって退治してるのかを見てないし、戻りたくはない。

…正直に言うと、さっきのやつの残骸なのか、服や体の所々にゼリー状のものがついててちょっと帰りたいと思ったりしたけど…

 

そもそもなぜこうして無理を言ってまで連れ出してもらったかというと、なんとなく、自分もモンスターと戦ってたような気がしたから

だから戦うところみたら何かを思い出せるかも…そんな理由。

 

「でも、いくら戦えないからってスライヌにやられそうになるなんてー」

「そんな事言わないでラムちゃん…ゆだんしたらスライヌでも危ないってことだよ…」

 

奥に進みながらふたりがそんな会話をしている。

さっきのはスライヌというモンスターで、モンスターの中でも弱い部類に入るらしい

…弱くても、ああいう目に遭った後だとやっぱり怖い

で、さっきギルドで受けたクエストは、そのスライヌを10匹討伐するとのこと。

わたしを襲ってきたのは3匹だから、残り7匹をこれから探すみたい。

 

「とにかく…あなたは戦えないんだから、不用意に動かない。わたしの側を離れないこと。…いいわね?」

 

その言葉にこくこくと頷く。

もうぬるぬるされた上に窒息させられるのは嫌だ。

 

 

 

 

 

それからブランさんは手馴れた様子でスライヌを次々と撃破していった。

大きなハンマーを軽々振りまわして群がるモンスターを蹴散らしていく。まさに一撃必殺。

 

「うー、お姉ちゃんばっかりずるーい! わたし達にもやらせてよー!」

「(こくこく)」

 

と、後ろでラムちゃんロムちゃんが不満そうにしていた。

そういえばさっきからブランさんしか戦ってなかった。

 

「あなた達、これは遊びじゃ…はぁ、仕方ない。それならあそこのスライヌを頼むわね」

「やった!」

 

ブランさんの許しが出ると嬉しそうに杖を構える。

…そういえば、ふたりはブランさんと違って魔法を使うんだったっけ。

 

「ふふん、わたし達だってお姉ちゃんみたいにできるんだから!」

「見ててね、グリモちゃん…(きりっ)」

 

杖を構え、目を閉じて集中を始めるふたり。

少しすると、なんとなくだけどふたりに何かが集まるような、そんな感じがした。

 

「いくよ、ロムちゃん!」

「うん…!」

「「アイスコフィン!」」

 

そしてほぼ同時に、杖を頭上でくるくると回してから地面に突き立てる。

すると少し離れた場所のスライヌ達が一瞬で氷漬けにされ、砕け散った。

あれが、ふたりが得意だって言ってた魔法か…

 

「えへへっ…グリモちゃん、ちゃんと見ててくれた…?」

「どう? どう? すごいでしょ!」

 

スライヌ達を仕留めて、満足げな顔をするふたり。

そんなふたりの言葉に頷くと、ふたりはさらに嬉しそうに喜んでいた。

 

でも、なんだろう、この感じ。

初めてじゃないような、変な感覚…

 

「さて、残りも片付けるわよ」

「「はーい」」

 

 

そんなこんなで、結局あの感じは何だったのかわからないまま、初めての街の外での時間は過ぎていき…

 

「こんなところね」

 

クエストの目標が達成されたみたいで、ブランさんがふぅと息をつきながら呟く。

 

「お疲れ様、です」

「ありがと。…それで、何か思い出せそう?」

 

ブランさんの言葉に「うーん…」と唸りながら、一応さっきの変な感じの事だけ伝える。

でも、せっかくわざわざこうしてまで連れ出してもらったのにそれだけだったなんて思うと、申し訳ない気持ちがこみ上げてきた。

 

「魔法…」

 

ブランさんは腕を組んで何かを考えてる様子。

でもこれだけじゃ当然わかるはずもない…と、どんどん申し訳ない気持ちでいっぱいになりかけて、ふと周りが静かなことに気づいた。

 

……ロムちゃんとラムちゃんがいない?

 

「あの、ブランさん…」

「なにかしら。他にもなにか感じたとか…?」

「いや、あのふたりはどこに…」

 

ブランさんにそう聞いたとき、どこからか叫び声が聞こえたような気がした。

いや、これは叫び声じゃなくて…

 

「い、いやー! 追っかけてこないでよー!!」

「ふえぇぇぇぇ…っ!」

 

悲鳴。それも聞いたことのある声二つ。

はっ、と、わたしとブランさんは悲鳴の聞こえてきた方を見る。

そこには、

 

「な、なに、あれ…」

 

涙目になって逃げ回るロムちゃんとラムちゃん。

そして2人を追い回す、大きな狼。

 

「なっ…あれは、フェンリル…!? どうしてこのエリアに…!」

 

あの狼…フェンリルはブランさんも想定してなかったみたいで、かなり動揺した様子。

確かに見た目からして強そうなモンスター。だけど、なんだろう…嫌な感じがする。

 

「や、やだ…! わたし食べられたくない!」

「ふぇぇぇ…おねえちゃぁぁん…!」

 

なんとか逃げ回っているけど、相手の方が素早い。

このままだとふたりが…

 

「チッ、野郎…ただじゃ済まさねぇ…!」

 

大変な事態におどおどとしていると、突然横からそんなドスの効いた低い声が聞こえてくるものだから、反射的に「ひっ…」と小さく悲鳴を上げてしまった。

というか、その後に見たブランさんの鬼の形相にも悲鳴を上げそうになった。

 

瞬間、ブランさんが光に包まれた。

突然のことと眩しさで、思わず目を瞑る。

 

しばらくしてから、うっすらと目を開くと、

 

光が収まったその場所には、まさに女神様という言葉がぴったりな姿をした人が、そこにいた。




〜パロディ解説〜
・ンンンー……ッ!!
フリーゲーム 寄生ジョーカーより、クラゲのような敵にやられた際の断末魔から。
なおこちらのゲームは現在入手困難であり、そもそも内容が割とグロテスクな表現がある為、検索する際はご注意を…

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