幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.3 サービスとは必然に非ず

「…はふぅ」

 

お風呂場からこんにちは…こんばんは? ディールです。

……文字だけなんだから、何もサービスする物なんてないですよ?

 

…こほん。それはいいとして。

なんやかんやあって久々に落ち着ける期間が出来て、その日の夕暮れ。

わたしはネプギアちゃんに頼んで、プラネテューヌ教会のお風呂を借りていた。

 

…わたしだって女の子ですし、身だしなみくらい気にしますし?

 

「…いや、そうじゃないでしょ、わたし…」

 

シャワーから吹き出すお湯を浴びながら、ぶんぶんと頭を振って仕切り直す。

お風呂を借りたのは何も身だしなみの為だけじゃなくて、今後の事を一人で考えようと思ったから。

 

流石に乱入してくる人なんていないだろうし。

 

「…ふにゅぅ」

 

息を吐きながら、考える。

わたしのせいで増えたイレギュラー…クロムを、どうやって倒すか。

 

…この次元(セカイ)の人から犠牲を出さないようにするために、わたしにできるコト。

 

わたしのせいで本来以上に厄介な事になった事だからこそ、わたしが何とかしないと。

…そう、わたしはどうなったっていいから、何とか……

 

「たーっち!」

「むゃぁっ!?」

 

じっくりと思考の海に沈みかけたそんな時だった。

聞き覚えのある声と同時に、両頬をむにゅっとつつく様に押し込まれる。

こんないたずらっぽい事する知り合いなんて、一人くらいしか思い当たらない。

 

「…確か使用中の札かけておいたと思うんだけど」

 

ぷにーっと頬をつついてる手を払いつつ振り返り、後ろにいる人物──ラムちゃんに、じとーっとした視線を向ける。

犯人たるラムちゃんはむふーっとしてやったりな顔をしていた。

 

「無視して忍び込んだのよっ!」

「えぇぇ…」

 

でもってわたしの言葉への返しがこれだ。

いたずらに関する事だったら忍び込んだりするのがラムちゃんだってのは知ってるけど…

 

というか、わたしがお風呂に誰かと入りたくないのって、前にラムちゃんとロムちゃんの二人と入って大変な目に遭ったからで…って。

 

「……あれ? ロムちゃんは?」

 

そこでふと、ラムちゃんの後方にロムちゃんがいない事に気がついた。

いつもなら一緒にいるはずなのに…

 

「ロムちゃんならネプギアと遊んでるから、ここにはいないよ!」

「……いいの? ネプギア…ちゃんといっしょに残して」

「………はっ! ロムちゃんがネプギアに盗られる!?」

 

ネプギアちゃんの事をあれだけ敵視していたのに良いのかな、と思ったらそこの考えが抜けてた様子。

こうして、ネプギアちゃんのいないところで勝手にネプギアちゃんへのヘイトを高めるラムちゃんなのであった。

…って、締めくくっちゃダメでしょ。

 

「じゃあ、ロムちゃんのところに戻ったら?」

「…む。そーもいかないわっ! わたしはディールちゃんに用があってきたんだから!」

「わたしに…?」

 

てっきり慌ててロムちゃんの所に戻っていくと思ったら、どうやらわたしに用事があるみたい。

 

「……いたずらする必要は…?」

「ノリ!」

「ああ、そう…」

 

何故かどや顔で言い切るラムちゃんを見て、もういたずらに関しては突っ込まない事にした。

 

……いたずらをする時は、大体かまって欲しい時…だったっけかな…

 

「それで、用って?」

「まーまー焦んないでよ。ディールちゃんの背中でも洗ったげながら話すからー」

「……前は自分でやるからね?」

「むぅ、はーい」

「今残念そうな顔した!?」

 

そんな流れで、わたしはお風呂椅子に座り、ラムちゃんがその後ろからわたしの背中を洗う事に。

 

「んしょっと……痛くないー?」

「ん…うん。へーき」

「ならおっけーね! ふっふっふーん…」

 

わたしに力加減を聞きながら、楽しげにごしごしと背中を擦ってくるラムちゃん。

 

……洗いっこ、か。

わたしも…やったこと、あったなぁ…

 

「…ふふん、ディールちゃん。今わたしの事かんがえてたでしょー」

「え?」

「あ、せーかくにはわたしじゃなくて、ディールちゃんのとこのわたしの事ね」

「……どうして、そう思うの?」

 

考えを読まれてどきりとしながらも、表情に出さないようにしてちら、とラムちゃんの方を見ながらそう聞いてみる。

するとラムちゃんは、ふふん、と得意げな表情を浮かべた。

 

「そりゃ、わたしはホワイトシスターのラムよ? ホワイトシスターなロムちゃんの考えてることなんて大体わかるわ!」

「ぇ…」

「…む、何その顔。信じてない?」

 

根拠も何もあったものじゃない答えについ間の抜けた声を上げてしまうと、むーっとラムちゃんは不機嫌そうに頬を膨らます。

 

「そ、そういう訳じゃ…」

「…嘘だー。じゃあ他に何考えてたか当ててあげるから!」

 

不機嫌なラムちゃんの機嫌を取ろうとするけど、それでもむっとしたままのラムちゃん。

…かと思いきやラムちゃんはそう言って、ぎゅ、とわたしの背中に抱きついてきた。

 

「ディールちゃんさ──自分がどうなってでも、あいつをどうにかしようとか…そんなこと考えてたでしょ」

「──っ!」

 

若干の恥ずかしさを感じて振りほどこうとして……言葉を失う。

…ま、まさか本当に…?

 

「…まぁ、エストが「あの子ならそういう事考えたりしそう」って言ってたんだけど」

「…エストめ…」

 

余計なことを…いや、あくまで自分の予想を言っただけなのかな…だとしても結局余計なことだけど。

なんて考えていると、ラムちゃんのわたしに抱きつく力が強くなった。

 

「…ねぇ、ディールちゃん。なんでディールちゃんはそこまでしようって思うの?」

「そ、それは…」

「……ディールちゃんが、べつじげん? から来たから?」

 

ラムちゃんの質問に一瞬言葉が詰まってしまい、まずこくりと頷いて答える。

 

「…そうだよ。本当ならわたしは、この次元にはいない…いたらいけないんだから。だから、わたしのせいで敵が増えたのなら、わたしがどうにかしないと…」

「……バカディール」

「え?」

 

わたしが思っていることを、自分に言い聞かせるように言うと、ラムちゃんは不機嫌そうに呟いた。

ば、バカ…?

 

「バカって言ったの! バカディール! 」

「ひ、ひどいっ。なんで…?」

「なんでも何もないわよ! なんで…一人で抱え込んじゃうの!?」

 

怒鳴るように、でも、どこか泣きそうな声でラムちゃんは言葉を続ける。

 

「ディールちゃんは一人じゃないでしょ! エストがいるし、今はわたしとロムちゃん、ネプギア達だっているじゃない! …ディールちゃんから見たらわたし達は…わたしは、そんなに頼りないの…?」

「ラムちゃん…」

「わたしは…ディールちゃんが犠牲になってでも勝ったって、嬉しくないよ…」

 

ぎゅぅぅ、とちょっと痛いくらいに抱きつきながら、ぐすぐすと泣いているような声。

 

「…で、も…わたしにはもう、居場所は…」

「…わたし達といっしょにいるの、やなの…?」

「そ、そんな事は無いよ! でも、同じ人…ロムちゃんとわたしが、いつまでも近くにいるのは…なんていうか…っ」

「そんなの知らないもん! ロムちゃんはロムちゃんでディールちゃんはディールちゃんだもん!」

「…っ…」

 

半泣きでだだをこねるように、でも、絶対に変わらないという意志を感じられるように、ラムちゃんは言う。

困りに困って、思わずこの場から逃げ出したくなる…そう思ったけれど、

 

「逃がさない、もん…!」

 

ぎゅーっと密着してくるラムちゃん。

ちゃんと答えを出さないと逃がしてくれる気はない様子。

 

「そんな事、言われたって…」

「……大事な人がいなくなってイヤだって事、ディールちゃんが一番知ってるハズでしょ…!」

「っ…」

 

わたし、は…

わたしは…自分と同じ思いを…ラムちゃん達にさせようと、して、る…?

…そんな、そんな、つもりじゃ…

 

「っ、うぅぅ…」

「…ラムちゃん…」

 

ぐす、と嗚咽を漏らすラムちゃんに、結局わたしは何も言い返せず、何も答えられず。

風邪を引いたらダメだと思って(女神も風邪を引くのかどうかは今は置いておいて)、気まずい雰囲気のまま二人でお風呂を出た。

 

……あ、ちゃんとお湯には浸かったからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局最後まで気まずい雰囲気のまま、先に戻ってて、とラムちゃんに伝えて一度別れて、

そのままあてもなくぶらぶらと教会の中を歩きながら…考える。

 

誰かが犠牲になって得た平和。それが元々その次元のものじゃなくっても、それを良しと思わない人はいる。

今回の場合はラムちゃんに、ロムちゃん。きっとネプギアちゃんなんかもわたしのやろうとしてることを知ったら反対するんだろう。

 

…………

 

「少しは頭の整理はついた?」

「……エスト」

 

なんて考えながら歩いていると、なんかかっこつけたみたいに壁に寄りかかっていたエストが声をかけてきた。

 

「なんか今失礼な事考えなかった?」

「…ラムちゃんをあんな風に仕向けたんだから、別にいいでしょ…?」

「あら、仕向けただなんて人聞きの悪い。わたしはただ、わたしが思ったことをあの子に言っただけ」

「性悪魔本」

「そこまで言うのはヒドくない?」

 

じとーっとした視線を向けながらぼそっと呟く様に言うとなぜかエストの方が膨れっ面。

文句なんかもっと色々あるんだからねこっちには…!

 

「まぁいいけど…でも、私からもこれだけは言わせて」

「…なに?」

「アンタがどれだけ自分を卑下したり、自分がこの次元(ここ)にいるべきでないと思ったところで、もうアンタは"どうでもいい"なんて思われない程度には、絆を結んでいるのよ」

「絆…?」

「そう。アンタの…ホワイトシスターとしての彼女との絆に比べれば、まだ劣ってはいるけど、もうそう簡単には断ち切れないくらいには」

 

…絆。

エストが言っているのは、ロムちゃんラムちゃん、ネプギアちゃん、ユニちゃん達の事…ううん、それ以外にも…?

 

「もう少し、自分の事と周りの事に関してよく考える事。いいね?」

「…うん」

 

そう言って、エストは歩いて去っていった。

 

……自分のことと、周りのこと…

…うん、ちゃんと考えないと、ね…

 

 

……ちなみにその後、一人で考え込んだせいでラムちゃん達の所に戻るのが遅れて怒られました。

 

 


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