幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
Act.1 ファンタジーにありがちなダークサイド
「むぅー、お姉ちゃん先に帰るなんてー…」
「もっとお話したかった…」
「そうよ! アタクシとお姉さまの再会を邪魔するなど…!」
「救出した女神様達には一刻も早くの回復の為に休息が必要なのです。申し訳ありません」
「二人とも、今は我慢しなさい。ね?」
「「はーい…」」
「…ルウィーの女神候補生はともかく、教祖の君までそんな調子でどうするんだい」
「ぐぬぬ…」
四人の女神がそれぞれ休息の為に離脱して、プラネテューヌ教会では次にやるべき事についてを話すためにと教祖達と候補生が再度集まって話をしていた。
候補生の四人(と教祖一人)はせっかく再会した姉と引き離されて不満そうだったり少し沈んだ様子だったけど。
「まず、ここに来て新たな脅威が出現した事に関してですが…」
「…………それに関して、ですけど」
イストワールさんが切り出してきた、脅威に関する話。
確定ではないけど、あれにはわたしが関わっているから、口を挟む。
「…ディールちゃん、どうか、したの?」
「顔色悪いわよ? だいじょーぶ?」
「…う、うん」
わたしの様子に気付いたロムちゃんとラムちゃんが心配そうに聞いてくる。
…少し無理してでも、できる限りの情報は話さないと…
「……あれは、わたしが生み出してしまったもの…かも、しれません」
「「「えっ?」」」
深呼吸をしながらそう切り出せば、驚いたような候補生の反応。
それもそうだろう。元とはいえ女神候補生だったわたしから、あんなものが生まれるなんて普通は思わない…だろうし。
「……えっと、まず、ですけど…女神の浄化作用については…教祖の皆さんは、わかりますか?」
「浄化…えぇ、それに関しては」
「女神はシェア……信仰心という人の想いを力としているが、その想いの中には必ずしも良い想いばかりではない」
「だから、自国のシェアクリスタルの力でそう言った悪い想いを浄化しないとならない……だったかしら」
「概ねその通りです。…悪感情…エストの言葉を借りるならネガティブエネルギーは、どうあっても生まれてしまうものですから」
そこまで話すと、イストワールさんが何かに気づいた様子を見せた。
候補生四人は置いてけぼり状態だけど…
「……なるほど。貴女は元の次元では、帰ろうにも帰れない状況だった。つまり」
「…そういうこと、です」
「……いや、どういうことよ!?」
教祖とわたし、エストだけわかったような空気に、堪らずツッコミを入れてくるユニちゃん。
まぁ、そうだよね、これだけでわかったら逆に驚くし…
「…たまにゲームとかにもあるでしょう、行動限界時間とか」
「あぁ、偏食因子を投与しないとアラガミになるとか…」
「そんなあからさまに化け物になる訳じゃないけど…だいたいそんな認識で良いと思うわ」
…流石にわたしもモンスターみたいになるのは嫌だなぁ…
「女神という存在は想いの力に左右されやすい存在…ですので、浄化…これは自国のシェアの加護がある場所ではほぼ自動的に行われている事なのですが、それを長期間しないままですと…」
「色々と身体の調子が悪くなったりする訳ですね。ブラン様達四人の女神様方も現在そういう状態にあると言ったところでしょうか」
「君達も見たことくらいはあるだろう? モンスターが禍々しい色に変化する現象を」
「汚染モンスターですか? …え、まさか…」
「ああ、浄化を怠ったら最悪、アレのようになる可能性もあるとされている。まぁ前例がない事象な分、確実な情報ではないけれどね」
「…わ、わたしもうもんげん破らないわっ! ね、ロムちゃん!」
「…!(こくこくこく)」
教祖達の説明に顔を青くする候補生。
末期まで汚染が進行したら…やっぱり暴れ狂うのかな。
「まぁ要するに、ディーは溜め込みすぎたわけね。結果、度々体調を崩すようになって、その上溜まってしまったネガティブエネルギーに惹かれてか汚染モンスターの大軍に襲われて…」
「この次元へと逃げてきた…ですか?」
「…えぇ。私としても死なれるのは面白くないし、ディールもそう簡単には死にたくなさそうだったし。…結果、こんな事になった訳だけど」
そう言葉にするエストの表情はどこか暗く、
わたしもそんな顔をしたエストは見たことがなかったから少し驚く。傲慢とかの塊っぽいイメージだったし。
「…今なんか失礼なこと考えなかった?」
「気のせい」
直感で感じでもしたのかじとっとした目のエストからふいっ、と目を逸らす。
「……まぁ、いいわ。とにかく、あれは私が私とディールを次元間転移させた時に、ディーの中に溜まっていたネガティブエネルギーが分離してしまったものだと考えているわ」
「証拠はあるのかい?」
「物的証拠はないけれど、女神救出の時出くわした時は、私とディールを知ってる様子だったから、間違いはないと思う」
…わたしもエストの言ってる通りだと思っていた。
朧気だけど、黒い、どこか懐かしいような感覚があったし…
「では、そちらへの対策も──」
と、イストワールさんが言いかけた時だった。
突然、ゴゴゴ…と地面が揺れ始める。
「な、何、地震!?」
急な地震にその場にいた全員が驚くものの、揺れ自体はすぐに治まった。
…問題は、揺れた原因だけど。
「今の揺れは…ギョウカイ墓場の方からでした…」
「えっ? 何かあったんでしょうか…?」
「ふむ、気になるね」
「様子を見に行った方が良いんじゃない?」
前世界での事を全部覚えてる訳じゃないから、何が待ってるかとかまではわからないけど。
様子を見に行った方がいいって言うのは確かだと思う。
「…なら、とりあえず動けるメンバーで見に行った方がいいかと。わたしも…あれを止めないといけませんから」
「ディールちゃん、もう大丈夫なの?(しんぱい)」
「……え、と…わたしは、大丈夫」
「…そうー? 無理はしないでよねっ?」
そう墓場へ向かう提案をすると、ロムちゃんとラムちゃんが心配そうに聞いてくる。
わたしを心配してくれている二人だけど、そんな二人と話す時にどうしてもどこかぎこちない感じになってしまう。
でも無理はしていない、つもりだし…そう返した。
…ラムちゃんがちょっと怪訝そうだったのが少し気になったけど。
「じゃ、向かうのはディーと候補生四人ってところかしら?」
「エストさんはディールちゃんについていかないんですか?」
「私は私で、イストワール達とやる事があるのだわ。…っていうかイストワール一人に任せていたら平気で三日だのかけるんだもの…」
「うっ…返す言葉もありません」
「あ、あはは…」
わたしやロムちゃん、ラムちゃんユニちゃんからすると話の内容がいまいちわからなかったけど、とりあえずエストはイストワールさん側でやることがあるらしい。
他にもアイエフさんも諜報部のルートでの情報収集にでるとかで、結局このメンバーとなった。
「…と、流れで決めてしまいましたが、候補生の皆さんは大丈夫ですか?」
「はい、私は大丈夫です」
「アタシも万全よ、いつでもいけるわ!」
「わたし達だって! ね、ロムちゃん!」
「うんっ、がんばるよ…?」
と、候補生のやる気も高め。
こうして候補生+わたしのメンバーで、ギョウカイ墓場の調査へと向かうことになった。
「で、来たのは良いんだけど…」
わたしとロムちゃん、ネプギア、ユニちゃん、ディールちゃんでギョウカイ墓場に来て少し歩くと、ユニちゃんがむっとした様子で急に喋りだした。
「ユニちゃん、どうかしたの?」
「いや、戦力が増えるのはいいんだけど…あの子、アタシ達のこと避けてない?」
ネプギアがそう聞くと、ユニちゃんはわたし達四人から少し離れた所を歩くディールちゃんを指さしながら言う。
ディールちゃんは出発してから一言も喋らなくて、しかもなんか近づきにくい雰囲気? みたいなのをまとっていた。
「う、うーん…別次元のロムちゃんだって事を気にしてる、とか? なんかわたしが大変なことしてたみたいだし…」
「その話が信じられるか…はともかく、それにしたってあからさますぎると思うんだけど」
ネプギアとユニちゃんが話してる横で、わたしとロムちゃんもディールちゃんについてはちょっと困っていたりして。
だって、今日だって朝挨拶したりしてもなんかよそよそしい? っていうのかな。
まるで会ったばかりで人見知りしてるロムちゃんみたいな…
…まぁディールちゃんはロムちゃんみたいなんだけど。
「…ディールちゃん、なんか、こわい…」
「うん…どうしてだろう」
こんなの、なんかやだ。
…こうなったら…!
「……? え、ちょっラムちゃ…「とぅ!」ひゃぁっ!?」
いきなり向かって走ってきたディールちゃんを気にしないで、そのままディールちゃんに向かって飛びつく。
元はロムちゃん、って意識するだけでも、何気ない今の悲鳴もあー、ロムちゃんだ。って感じる…気がする!
「な、なに、なんなの…!?」
「なんなの、じゃないわよ! お船で離れ離れになってからやっと普通にお話できるって思ってたのに、そんな感じでー!」
「あわぅぅぅ…! ご、ごめんなさいっ…」
「ら、ラムちゃん、落ち着いて…!(あわあわ)」
まぁそれはそれとして今わたしは怒っている訳で。
ロムちゃんがあわあわしちゃってるのも気にしないでディールちゃんを揺すって文句を言っちゃう。
「別のジゲンのロムちゃんだとか大変な事があったとか、色々びっくりすることとかわかんないことはあるけど、ディールちゃんはディールちゃんでしょ! わたしとロムちゃんの大のお友達の!」
「…ラムちゃん」
「……そう、だよ? ディールちゃんは、お友達…♪」
思っていたことをぶつける様に言うと、ディールちゃんはきょとんとした顔をして。
あわあわしていたロムちゃんも同じように思ってたみたいで、わたしの言葉に続けるように言った。
「ディールちゃんって、なんかちょっと無理してるみたいに見えるから…あんまり一人で背負おうとしちゃダメだよ?」
「そうね。アンタはちょっと背伸びしすぎなのよ。もう少し見た目通りの子供っぽくしてもいいと思うわ」
「…う、ぅ…」
ネプギアとユニちゃんもディールちゃんに向けてそう言ってきて、ディールちゃんは俯きながらちょっと恥ずかしそうにしていた。
「……そんなに、無理に背伸びしてるように、見えます…?」
「うん」「ええ」「見える、かも?」「見える!」
恐る恐るって言うのかな、ディールちゃんがそう聞いてきて、わたし達四人揃って頷く。
けいごとか使ったりぴしっとしすぎなのよね、ディールちゃんは。
「うぐぅ…」
「…とにかくっ! 今はわたしにロムちゃんにユニちゃん、お姉ちゃん達、ついでにネプギアがいるんだから!」
「ついで!?」
「だから、べつじげんとか気にしないで、もっとわたし達を頼ってくれたって、良いんだからねっ?」
ネプギアが何か言いたそうにこっちを見てた気がするけど気にしないで、思っていることをディールちゃんに向けて言う。
こうでも言わないと、ディールちゃんは全部一人で進んで行っちゃうような…そんな気がしたから。
「────」
「言いたい事はそれだけ! じゃ、きゅーけーおわりよっ!」
「ついで……って、今の休憩だったの?」
「と言うかなんでアンタが仕切ってるの…」
言いたい事は言えたし、ディールちゃんを離してそう言った。
って言うかここ悪い奴らのいる所だしね!
「へっへーん、早い者勝ちだもんねー!」
「ら、ラムちゃん待って…」
走り出しながら、改めて心に決める。
ロムちゃん達は、わたしが守ってあげるんだ。
「………」
駆け出すラムちゃんと、危ないと注意しながら後を追っていく皆。
そんな皆の背中を、わたしは少し眩しく感じていた。
『だから言ったじゃない。ゴチャゴチャ考えなくなってあの子達は受け入れてくれると思うよって』
「……うん」
手にしたグリモワールを介してエストが言う。
記憶が戻ってから、わたしはずっと考えていた。
わたしなんかのせいで、この次元の人みんなに迷惑をかけているんじゃないか、と。
だからこそ、この物語の結末は……この
「……本当に、わたしは…
『それ、あいつらの前で言ってみたら?』
「…むぅ」
そんな勇気は……わたしには、無い。
『…初めはあんなおどおどしたのが元だって知って全然違うと思っていたけど、変なところで変わってないのね』
「む…なに…?」
『別に。ま、私も貴女の事は気に入ってるんだから、そう簡単に自分から命を投げ捨てるような真似はしないでくれると嬉しいわ』
「………」
「ディールちゃーん! 置いてっちゃうよー!」
ラムちゃんが、皆がわたしを呼んでいる。
……まだ、全部を納得できたわけじゃないけど…
少しは、考えてみよう……自分も生きる道を。
そう思いながら、四人に追いついた時だった。
「まぁ、困ったのだわ。まだ招待状は出していないというのに」
ここへ来た誰の声でもない声が響き、全員が身構える。
急いで四人に追い付いて前を見ると……あいつはそこにいた。
「くすくす、怖い顔ね?」
「……」
敵意を隠すこともなく睨みつけると、可笑しそうに笑う。
逃げる時微かにあった意識で見た時は、ラムちゃんの姿だったけれど、今はロムちゃん……わたしの姿を模倣している。
ただ、髪の色とか目の色が、ザ・闇属性って感じの黒紫だけど。
「何を企んでるの…!」
「企む? パーティーの企画はしているけど、ワタシはワタシの好きなように、楽しんでいるだけなのだわ」
「世界を、滅ぼすことが…楽しいというの?」
「えぇ♪」
にこ、と見た目相応に無邪気に見える笑みを浮かべるそいつ……ああもう面倒くさい! 未来の人と被るけどもうクロムでいいや。
クロムはその場でくるくると回りながら、くすくすと楽しげにして。
「ワタシは怒りとか悲しみとか絶望とか…そういった感情が集まって生まれたのよ? 滅びを前にして絶望していく人達が見られるのなんて、堪らないわ! だってそうでしょう?」
ぴたりとこっちに向き直ると、にこにこと笑みを崩さないまま話し続ける。
「わたしは負。僕は闇。オレは混沌。──そういうものだもの、ね?」
そして一人称に合わせてか声色を混ぜるように変えながら、にた、と気味悪く笑った。
「…あなただけは、わたしが…ここで!」
「あっ、ディールちゃん!?」
ネプギアが止めるのも聞かないまま、氷を纏い刀の形になった杖を手にクロムへと肉薄する。
絶対に、わたしが倒さないと…いけないんだ…!
「あら、怖い怖い……でも、言ったでしょ? まだ準備はできてない、って!」
「っ!」
迎え撃つようにして相手も剣を振り抜いてきて、飛び退く。
…剣? わたしはともかく、どうしてあいつが………っ!!
「主役の玩具もまだ目覚めていないのだし、ご退場願うのだわ?」
「…ぁ、あ……なんで、それを…!」
「一人で先走るんじゃ…ちょっと、どうしたのよ!?」
「ディールちゃん!?」
あいつの手に持っている剣を見て、身体中から血の気が引いていくように感じた。
「ディールちゃん、顔、真っ青…!」
「あの、剣は…っ!」
「け、剣? 確かに、なんだか嫌な感じがする…?」
「な、なんなのよ、知ってるなら早く教えなさいよ!」
怯えているわたしを見てか、再びくすくすと笑い出すクロム。
「あれはっ…あれは……なんで! どうして…!」
「ディールちゃん落ち着いて! どういうことなの!?」
「うそ、うそ…なんでそれがそこにあるの……!!」
「──魔剣、ゲハバーン…っ!」
~パロディ、人物解説~
・偏食因子を投与しないとアラガミになるとか
ゲーム GOD EATERに登場する用語。
といっても偏食因子にもP53やらP73やら色々細かい種類があったりするので、詳細は自信で調べた方が早いかも…
・クロム
黒いロム→クロムと命名された、ロム(ディール)の浄化しきれずに溜まったネガティブエネルギーから生まれた存在。容姿はディール・ロムとそっくりなものの、髪の色が黒に近い紫色であり、瞳の色も闇の様な昏い色(わかりやすく言えば暗黒星くろめの様なもの)
勇者ネプテューヌのクロムとは一切無関係。
童話が好きなのか、時折「不思議の国のアリス」を意識したような喋り方をする。