幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
わたしはルウィーで、ホワイトシスター・ロムとして生まれて、今と同じように犯罪組織と戦っていました。
皆と協力して、捕まっていた四人の女神を助け出して…四天王も倒して……順調なはずだったんです。
でも……
『私を倒したところで、私達を創り出したマジェコンヌ様の力が戻るだけ…その程度の実力しかない貴様らになどどの道未来などありはしない…』
四天王最後の一人を倒した時、彼女は言い残して。
わたし達は対策を練る為に戻り、どうするかを考えました。
……その時、
剣の名は、魔剣ゲハバーン。
例え犯罪神であろうと簡単に倒せてしまうような…そんな圧倒的な力を秘めた剣。
「なにそれ、チートアイテム? いいなーこっちにもあったりしないかなー」
「…待ちなさいよネプテューヌ。そんな武器、流石に話が上手すぎるでしょ」
「そうね。名前からして怪しいわ」
「魔剣、ですものね」
……はい。ご察しの通り、この剣がそのような力を発揮するには、ある条件がありました。
それは──
「女神のイノチ?」
「どういう、こと?(はてな)」
「…ま、待ちなさいよ、それって、まさか…」
ロムちゃんとラムちゃんだけ意味がわからないといった様子だったけれど、ユニちゃんや他の皆は察したのか表情を曇らせる。
つまり魔剣ゲハバーンは、女神を殺し、その命を剣に吸わせることで、力を増す……そんな武器だった訳です。
「そ、そんな…!」
……当然、初めはそんな物に頼ろうなんて言う人は誰もいませんでした。
けれど、手を一つ失った所で結局犯罪神マジェコンヌの脅威は変わらなくて…
別案としてある女神が、「各国のシェアを一つの国に集める」という案を出したのですが…
「それは…」
「えぇ…流石の緊急事態でも、そんな事に同意はできないわね」
そうです。各国のシェアを一つに集めるということは、集めた国以外の守りが薄くなるも同然だった訳ですから、
ただその一件が、女神達の絆を切る決定的なものとなってしまったんです。
……今思えば、きっとわたし達は、それくらいで立ち切れる程度にしか絆が深まっていなかったのかも知れません
…話にならない、と各国の女神達はその案をだした女神を見限ってしまい、バラバラになってしまって…
……そう、女神達がバラバラになって少ししてから、
女神間の関係がピリピリしたものになって、そのせいかお姉ちゃんが教会の人に各国に関して探らせて、
その人が最初に持ってきた知らせ。それが…
『……ご報告します。ラステイションにて、ブラックハート様とブラックシスター様が…』
『……え?』
『死んじゃった、の…?』
『……ッ!』
…ラステイションの女神二人が、死んだというものでした。
「……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! それって、つまり…」
わたしの話した事をどう思っているのかわからないノワールさんと、何が起きたのかを察したのかユニちゃんが怖い表情で叫ぶ。
そんなユニちゃんに、わたしはこくりと頷いて答えた。
――そう、つまり、殺されたの。
魔剣によって……魔剣を持った、ネプギアに。
勿論、本当ならそう簡単に女神が二人もやられるはずはない、んだけど。
ネプギア達は、シェアを一つに集中させる…つまり、他の国のシェアを奪って回っていたから…そのせいで、とわたしは思いました。
当然シェアを奪われて黙っているわけにもいかずに、ノワールさん達はネプギア達を止めようとして……
「そんな…」
「うちのネプギアがそんなことするはずないよ!」
「…そうせざるを得ないまでに、切羽詰まった状況だったってことでしょ」
「の、ノワール!?」
ネプギアの事をそんな風に言われて、当然といえば当然か、ネプテューヌさんが怒った様子でそう言ったけれど、
ノワールさんの方は予想と違って落ち着いた様子だった。
この次元では起こっていない事なんだから、怒られても当然だって思っているから、平気だけど…
でも、この話はまだ終わっていない。良いですか? と一言挟んでから、再び話し始める。
……ラステイションのシェアがプラネテューヌに移って、次は…ルウィーの番でした。
勿論、お姉ちゃんも黙ってシェアを取られたりするはずもなく、ネプギア達を迎え討とうとして、
『お姉ちゃん! わたし達も!』
『…ダメよ。あなた達は、待っていなさい』
『で、でも…』
『ダメって言われてもついていくもん! わたし達だって、ルウィーの女神なのよ!』
『………勝手にしなさい』
わたし達も、お姉ちゃんと一緒にネプギア達の元へと向かいました。
ルウィーの女神として、自分達の国を守るために…
『…ロムちゃん、ラムちゃん』
『やっぱり、あんたは悪い女神だったってわけね。ちょっとでも信用したわたしがバカだったわ!』
『……ネプギアちゃん…』
そうして、こんな形での再会となってしまったネプギアとネプテューヌさんは、前とは変わって暗い表情で、
…ネプギアの手には、あの魔剣が。
『…それで、ノワール達を…』
『わ、私は、そんなつもりじゃ…』
『……どの道、もう後戻りは出来ない事に変わりはないわ』
『ブラン…』
『私は…私達は。ルウィーの女神として……"敵"である貴女達を倒す…!』
もう和解の道なんてものはなくて、当然の如くわたし達は戦う事になってしまって、
負けた方が魔剣の力になるために身を捧げる…そんな条件を付けて。
勿論、元からだったのか会う前に取られたのか、既にシェア量の差があった事もあって、わたし達は負けてしまいました。
……もしかしたらお姉ちゃんは、負けるってわかった上で戦いを挑んだのかもしれません。
『…くっ、まさかネプテューヌに負けるなんて…』
『…こんな勝ち、全然嬉しくなんかないよ…』
『それでも貴女達の勝ちに変わりはないわ。……正直言うと、あの子たちが手を汚さずに済む分、安心してるのかもしれないけれど』
そう言ってお姉ちゃんは、ふらふらと立ち上がりながらわたし達の方へ。
『…ロム、ラム。私達の負けよ』
『お、お姉ちゃん…』
『…良い? 泣いてはダメよ。最期まで、女神らしくしなさい』
『っ…』
お姉ちゃんは優しく微笑みながらそう言って。…そう、言い残して。
魔剣に、その身を捧げました。
『っ…ブラン…ごめん、ごめんね…!』
『……お姉、ちゃん…』
『っ、っ……』
『ロムちゃん、ラムちゃん…』
そうして、次はわたし達の番……
わかっていた。お姉ちゃんにもああ言われたから、しっかりしないと。
そう、思っていたけれど……
………きっとわたしは、自分で思ってた以上に臆病だったのかもしれません。
『うぅ、うぅぅぅ…っ』
『ロムちゃん…っ!?』
『やだ…わたし、死にたく、ない…!』
どうしても、死ぬという恐怖を抑えきれずに泣きだしてしまう。
痛いのなんて嫌だし、単純に死というものが怖かったし、
何より、ずっと隣にいてくれた大切な人と一緒に居られなくなるのが嫌で。
…そんなわたしの気持ちを、
慰めるようにわたしの頭を撫でながら、彼女は言いました。
『……悪いけど、一人分の力は諦めて』
『…え?』
…何かが違ったのなら、ここでわたしと彼女はふたりでいっしょに身を捧げていた、なんて未来もあったのかもしれません。
でも、そうはならなかった。
『…離れても、ずっといっしょだよ。…ねっ?』
わたしが怯えていたからなのか、それともただ死なせたく無かったのか。真意はわからないけど、
そう言って彼女……ラムちゃんは微笑みかけながらわたしに手をかざして…
「……ここまでが、わたしの…ホワイトシスターだった頃の記憶、です」
胸とかお腹がキリキリと痛むような苦しいような感覚を押さえ込みながら、一区切り付ける。
「ロムちゃんだって言われたのにも驚いたけど…」
「想像以上に重い過去ね、アンタ…」
ネプギアとユニちゃんが複雑そうな表情で言う。
まぁわたしもそうだけど、この記憶の中の二人も大変な事になってるし…
「…ふ、ぅぅ…」
「わわ、ディールちゃん大丈夫!?」
なんて地の文では余裕あるようにしているものの、思い出した過去の事を話している時からお腹も痛いし頭も痛いし視界は歪むしで相当な体調不良状態。
思い出すのも辛い出来事を無理に話したせいだろうけど。
…どうしてわたし一人だけ生かしたの…?
なんて問いかけたって、答える人は誰もいない。
……………
「…ディーがそんな状態だし、続きは私が話すわ」
心配そうに駆け寄ってきたネプギアに支えられながらも何とか倒れないようにしていると、エストがそう言った。
確かにこの先は彼女の方が適任かもしれない。
じっとこちらを見つめてくるエストに、わたしはこくりと頷いて返した。
「……まず、今のディーの話でなんとなくわかったかもしれないけれど、私達はこの次元世界とは別の次元のゲイムギョウ界から流れ着いたの」
「あ、未来から来たとかじゃないんだ」
「…半分はそうかもしれないわ。別の平行世界の未来からとか、多分そんな感じ」
確かに、わたしの記憶は女神を助けた後の出来事だったけど、わたしが初めに今の次元に来た時はまだブランさん達が捕まる前だったっけ。
……未来の事話したら消えるとか、ないよね? 別次元だからセーフだよね?
「で、私。グリモワールは、ルウィー教会の書庫の更に奥…隠し書庫に封印されていたのよ」
「…うちの教会にそんな場所が…?」
「封印かー。本仲間のいーすんはなんか知ってたりしないの?」
「はい。私の記録にも封印された魔書に関する物はあります。なので彼女と会った時は封印が解けたのかと驚きましたが…」
エスト…正確にはグリモワールの事は、イストワールさんも少し知っている様子。
……あれ? わたし達が別次元から来たとして、こっちのイストワールさんはグリモワールの事を知ってるって事は…
こっちのグリモワールはどうなってるんだろう。
「そんな封印されてる私の所に転移魔法で転がり込んできたのがその子…ディールよ」
転移魔法…あれはそういうものだったんだ。
でも、なんでわたしだけ…
ラムちゃんは、わたしが死にたくないって言ったから。
死ななくてもいいようにわたしを逃がしたの…?
……わたしひとりで…ひとり残るんじゃ、ダメなのに……っ
思わずこみ上げてくるような感覚を、ぐっと堪える。
…今更でも、弱い自分を見せるわけには、いかない。
「飛ばされてきた瞬間はまだ私も眠っていたんだけど。転移魔法の強い魔力が私の封印を緩めて眠りから覚ましたの。私が目覚めたのとほぼ同時に、飛ばされてきた彼女は目覚めた」
わたし自身も、思い出した自分の記憶を整理するようにエストの言葉をしっかりと聞いていく。
…目覚めた直後は、ひどかったんだっけ。
「最初は大変だったわ。目が覚めたと思ったらすぐ錯乱したように取り乱して。…事情を知った今じゃ、納得はできるけど」
『…………』
わたしが錯乱した理由。
今までの話の流れから、この場にいる皆も何となく察したのか、重たい空気が流れる。
そんな中でもエストは、話を続けていく。
「流石にその時点じゃなんでそうなったのか理解できなかったし、かといって放っておくのもどうかと思って。…こっそり記憶を覗かせてもらって状況を把握しつつ、落ち着かせたの」
はぁ、なるほど。記憶を…
……ん??
「…ちょっと待って、記憶? 記憶覗いたの?」
「ええ、そうよ。私くらいになればそのくらい容易いことだもの」
「じゃあわたしが思い出してさっき話す前から…」
「ああ、だいたい知ってたわ」
ええぇぇぇぇ…
……そういえばなんか妙に事情を知ってるような素振りだったかもしれない…
「記憶を見れちゃうの…?」
「見られたらわたし達のいたずらも簡単にバレちゃうじゃない!」
「…ロム、ラム?」
「……覗かれなければ捕まる前にこっそり食べちゃったプリンも…」
「…ねぇ、ネプ子。そういえばネプギアが買ってきてくれたプリン、私の分が無かったのよねー、何か知らないかしらー?」
「な、ナニモシラナイヨー…」
……なんか変に自滅してる人がいるけど…
言わなきゃバレなかったのに…
「そんな頻繁に覗くわけないでしょ…。で、なんとか話せるくらいまで落ち着かせてから今後の事を考えることにした」
「今後の事、ですの?」
「はい。…もしかしたらネプギア……さん達が追ってくるかもしれない、って…」
「それで……」
『じゃあこうしましょ。貴女の名前は、ディール。女神ブルーハートのディールよ』
『え…? 女神ブルーハート…?』
『そ。んで、わたしはレッドハートのエスト。身を隠すならまず偽名でしょ?』
『…う、うん…』
「…一ついいかしら?」
「ん、何よ」
エストの話でなにか気になったことがあったのか、ノワールさんが口を挟んだ。
「それ、女神の名前まで偽る必要はあったの? 身を隠すのなら女神であることも隠すべきだと思うけど」
「まぁ、私も少し悩んだところだけど…何かしらで女神だってバレた時に用意しておけばちょっとはマシかなってね」
まぁ…確かに元から青っぽくはあったけど。
…女神名に関しては、わたしもその時エストと同じようなやり取りをした覚えがある。
「で、そこから私…私達は実質表舞台からは消えて、目立たない様にしながら過ごして行ったわ。どこかの誰かが犯罪神を倒した、だとか、四つの国を一つに統合するだとか、そんな噂も聞いたりしたけど、そういう事にはかかわらずに、ね」
「見捨てて一人でどこかに消えたりもできたはずなのに?」
「……まぁ、正直なところ、ディーに付き合ってあげようと思ったのも初めは暇潰し感覚だったわ」
わたしの言葉を否定せずにそう言うエスト。
わたし自身も、なんとなく初めの頃はそんな感じだったかもって思っていたから特に驚くことも無かった。
「ただ、平穏なんてのはそう長く続くものでもないのかしらね。暫くして問題が起こったの」
「問題…ですか?」
「ええ。…墓場のあれに関係する事よ」
その言葉に、女神みんなの目が鋭くなったような気がした。ネプテューヌさんも含めて。
…アレは直感的にも危険だってわかるし、当然だろうけど…
「…一体あの嫌な感じは、何?」
「呼称とかがあるのかはわからないけど、言うなれば、そうね…悲しみやら憎しみやら…ネガティブなエネルギーの集合体みたいなもの…だと思う」
「ネガティブな…?」
「ええ。あなた達女神が宿すシェアエネルギーとは真逆の…そういったものだと思うわ」
エストの言葉というか考察を、何も言わずに聞き続ける。
いつか未来でも直面しそうな名前の脅威だけど、今回のあれは……
「知性あるものに巣食い、憎しみや悲しみを煽り、それを力として成長する。…わたしでも、それくらいしかわかってない」
「うわー、すっごく厄介そう」
「そうね…本当にネガティブな感情を力にするのなら、源になる感情なんてそこら中に…」
「「「…………」」」
部屋の中を重苦しい空気が包み込む。
ただでさえ犯罪組織という脅威があるのに、さらに脅威が増えたのだから、当たり前か…
「……ともかく、今は女神達を救出出来た事を喜びましょう。救出された皆さんも大分疲れているでしょうし」
「…そうね。悔しいけど、すぐにでも戦いに復帰…とはいかなそうだわ」
「一度自国に戻ってやりたい事等もあるでしょうし、私達はシェア回復に務めた方が良さそうですわ」
「…ネプテューヌは元気そうだけど」
「いやー、流石に歴戦の主人公たる私も今回ばかりはちょっとキツいかなーって。ということでいーすん、プリンー!」
「…変わりませんね、ネプテューヌさんは」
と、ほぼわたし達のせいで暗い雰囲気になってしまったものの、現状ではまだわからない事が多いということで、
エストやイストワールさん達でそっちは調べつつ、女神達の回復を優先する事になった。
そして少し先延ばしになっていたものの、姉との再開に泣きそうな顔でブランさんの元に向かっていくロムちゃんとラムちゃん
「お姉ちゃんっ!」
「無事で、よかった…っ」
「…えぇ。少し遅れたけど…よく頑張ったわね、ロム、ラム」
泣きつくように抱きつく二人と、二人の頭を優しく撫でるブランさん。
わたしはそんな三人から少し離れるようにして、ぼんやりと立っていた。
「行かないの?」
するとエストがわたしの隣に来ながらそう言った。
その問いかけに、わたしは何も言わずにこくりと頷く。
エストは「そう」とだけ言って、後は何も言わなかった。
………
「…ちょっと、風に当たってくる、ね」
そのまま少しして、胸の痛みが強くなり始めた辺りで、
わたしはそれだけ呟いて足早にその場を去った。
……まるで、あの三人から逃げるように……
「……ったく…」
「…………」
「はぁぁー…」
プラネテューヌ教会外の階段でため息を吐き、階段に腰掛ける。
座って少しぼーっとして…また大きく溜め息。
理由は言わずもがな、ブランさん達の事。
記憶が戻ってからというもの、ブランさん達ここのルウィーの女神……特に、ラムちゃんとロムちゃんを見る度、声を聞く度に、胸が締め付けられるような苦しさに襲われる。
理由なんて明白だ。わたしにはもう無いもの…手を伸ばしても届かないもの、それが目の前にあるようなものなんだから。
……わたしの、わたしの姉妹だったラムちゃんは、もう、どこにもいない。
溢れてきそうになる涙をぐっと堪える。
だって、わたしはもう泣かないって決めたから。
弱いままのわたしじゃ、いられないから。
「……わたしは…ひとりで生き延びたかったんじゃない…。あなたと一緒に生きたかったんだよ…」
けれど、誰もいない今この時だけ、
わたしは弱気な、届くはずもない独り言を、ぽつりと呟いた。
四女神の帰還と、別次元のゲイムギョウ界の白き女神候補生だったと言う少女ディールらに明かされた、一つの物語の結末と迫る脅威。
女神達の休息の間に、ギョウカイ墓場へと偵察に出た候補生達の見たものとは──
次回、超次元ゲイムネプテューヌmk2 蒼と紅の魔法姉妹 -Grimoire Sisters- 第4章
-紅輝のリインフォース-
…タイトルの割にわたしの出番パッとしない気がするわ。
見せ場をよこしなさい見せ場を!