幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
ロムちゃんとラムちゃんのルウィー案内から数日後。
今日もいつものように二人が来た…と思いきや、今日は、
「ごめんねグリモちゃん、今日は遊べないの!」
「今日は…お姉ちゃんみたいなりっぱな女神になるために、おべんきょうしなきゃなの…」
と言って、どこかへと行ってしまった。
だから今日は特に予定ナシ。
…と言っても、何もしないで一日をグータラして過ごす、なんていうのは流石にそれはどうなのと思い、今日は一人で何かしてみることに。
でも、何をしよう。
腕を組んで考えてみる。
そういえば、ここで目覚めてからあの二人といっしょに話したり遊んだりばっかりだったし、なにかお手伝いでもできたらいいんだけどな。
記憶喪失とかで大変って言ってもお世話になってる身なんだし。
…よし。
そうと決まれば早速何か手伝えることがないか探してみよう。
まずは教祖の人とかに聞いてみるのがいいかな?
そんなことを考えながら、わたしは部屋を出た。
…とはいえ、ひとりでルウィー教会を歩くのは初めてで。
案の定というか、なんというか…迷子。
どうしよう、下手に歩き回るんじゃなかった、明るいけど何か出たりしないよね…?
なんて、ちょっと涙目になりながらひとりでおろおろとしていると、
「あら? あなたは…」
「ひゃっ…!」
突然、後ろから声が。
教会の広さと孤独感で不安な時に来たものだから、変な悲鳴を上げてしまった。
「ああ、ごめんなさい。驚かせてしまいましたか?」
顔が熱くなるのを感じながら、声のした方に振り向く。
そこには、ええっとなんだったっけ…メイド服?を着た金髪の女の人がわたしの様子を伺うようにして立っていた。
女の人の問いかけに、顔を隠すようにしながら平気だと頷いて答える。
改めて女の人を見ると、それがフィナンシェさんだということがわかった。
フィナンシェさんはこの教会で働く侍従さんで、わたしも何度か会っているのでフィナンシェさんとは知り合いだ。
あ、ちなみにさっき出てきた教祖さんってのとは別の人。
「そうですか? それにしても、こんなところで何を?」
…まぁ、そう聞いてくるよね。
けど別に隠すことでもないし、むしろ迷子で助かったくらいだから、フィナンシェさんにここにいた来た理由を伝える。
「成る程。でも、そんなに気にしなくても良いと思いますよ?」
フィナンシェさんはそう言うけれど、ただお部屋で何もしないでいるのは…
「ふむ……ではグリモさん、少し手伝って頂けますか?」
と、何かを考えるようにしていたフィナンシェさんがそんな事を言ってきた。
手伝うって、何をだろう。
「ちょっと力仕事になりますが…良いでしょうか?」
力仕事…それを聞いて自分の手と身体を見る。
小さい手に細い腕…というか、誰がどう見ても幼児体型。
こんなわたしで力がいる手伝いなんてできるのかな…
「もし持てなさそうでしたら軽いものでも運んでもらえたら助かりますので、ね?」
そんなわたしの不安を察したのか、フィナンシェさんがそう言ってきた。
うーん……お手伝いになるのなら、やろうかな…
ちょっと悩んでから、わたしはフィナンシェさんに向かって頷いた。
「ありがとうございます♪ では、参りましょうか」
にっこりとわたしに微笑んで歩き出すフィナンシェさん。
その後に続いて、わたしも歩き出す。
…そういえば聞いてなかったけど、運ぶって何をだろう。
「あ、何のお手伝いかちゃんと言ってませんでしたね」
フィナンシェさんもそれに気付いたみたいで、歩きながら教えてくれた。
なんでも、ブランさんがお部屋に持ち出してそのままであろう本を、元の本棚まで運ぶだけみたい。
それくらい自分でやらせた方がいいんじゃないのかなぁ。
「最近はブラン様もお忙しい様子でして、戻そうにも手が放せない何て事が多いんです。かといってそのまま置いておくと邪魔になってしまうでしょうから」
忙しい、かぁ。
そういえばご飯の時以外でブランさんを見かけたことがないような。
確かロムちゃん達も、
『最近のお姉ちゃん、いっつもお部屋に籠もってお仕事ばっかで遊んでくれないんだよ! つまんない!』
『ちょっと、寂しい…(うるうる)』
なんて怒ってた気がする。
ここで目を覚ましたばっかの時はそんな事なかったハズなんだけど…何かあったのかな。
「最近はブラン様だけでなく、教祖様もお忙しいようで。…それに、なんだか嫌な予感もするんです。ただの予感のはずなんですけどね…」
そう言うフィナンシェさんは、不安そうに遠くを見つめていた。
嫌な予感…教会の空気がなんだかピリピリしているように感じたのは、気のせいじゃないのかな…
「と、着きましたね」
そんなお話をしている内に、ブランさんのお部屋の前に着いたみたい。
フィナンシェさんが扉の前に立って、コンコン、と扉をノックする。
少しすると、部屋の中から「…どうぞ」と声が聞こえてきて、「失礼します」と言いながら部屋に入っていく。それに続くように、わたしも部屋の中に。
「フィナンシェ…に、あなたは確か…グリモ?」
なぜだか緊張してしまって、思わずフィナンシェさんの背中に隠れるようにしながらこくりと頷く。
ブランさんのお部屋……後で聞いたらブランさんのお部屋じゃなくて、執務室というお部屋だった……は、机の上に色々な、難しそうな本や紙が沢山置いてあった。
「どうしたの、こんな所に来て。あの二人は…そういえば今日はミナのところだったわね…」
「そろそろブラン様が資料をため込んでいると思いまして、いらない資料をお片付けに。グリモさんはそのお手伝いですよ」
「ああ。…あなたはいつも察しが良いわね、フィナンシェ」
「ふふ、もう何年もお側で仕えさせて頂いてますから」
フィナンシェさんがブランさんと話しながら運ぶ物を聞いている間、わたしは机の上の紙を見つめていた。
紙には色々な事が書かれていて、中でも『モンスターの被害』というものが多いように感じた。
「…最近、増えましたね。モンスターによる被害」
「えぇ…町の近くまでやってきたなんて報告もあったわ。それに…」
「…犯罪組織、ですか」
モンスター…
ロムちゃんとラムちゃんに聞いたことがある。
町の外にいて、人を襲う危ないやつらだ、って
それが、増えている…そんなお話だった。
もう一つの、はんざいそしき、っていうのは聞いたことないけど…なんだかイヤな感じがする。
……わたしに、できること……
「…今は必要ない資料はこれくらいね。あと、戻してくるついでに…」
「必要な資料を、ですね」
「話が早くて助かるわ」
……うん、決めた。
「それでは、グリモさんはこれを…グリモさん?」
「…ん?」
ブランさんの目の前まで近づいて行き、わたしは今思ったこと、一つのお願いごとをブランさんへと伝えた――
さて、どうしたものかしら…
目の前の少女……少し前にラム達が連れてきた、記憶喪失の少女、グリモ。
そのグリモが、少し厄介なお願いを私にしてきた。
「……その……モンスターを…じゃなくて、えっと…モンスターと戦う所を、見せてほしい……んです」
なぜそんな事を思ったのかはわからないが、真面目な表情でそんなことを言い出したのだ。
別に無理、と言うわけではないが、気が進まないことなのは明白。
ダンジョンにはクエストを請け負えば、多少執務が溜まる程度で簡単に向かうことは出来る。
けれど、彼女はただの少女、街の外に連れ出しましてやモンスターのいる付近に連れて行くなんて危険すぎる。
「…ダメよ、危険だわ」
当然却下したわけだけど、彼女も引き下がる気は無いみたいで、しつこく食い下がってくる。
何でも、戦うところを見たら何か思い出すきっかけになるかもだとか、適当な理由をつけて。
挙句の果てにはそれなら勝手に出て見に行く……みたいなことを言いかけたり。
…結局、先に折れたのは私の方だった。
ここで断って、もしも本当に勝手に出て行ってしまえば助けようもない。
それならいっそ連れて行ってやった方が守れる可能性は上がる。
流石に短い間とはいえ世話をした少女をこのまま見殺しになんてしたら、目覚めも悪いだろうし。
「…はぁ」
使わなくなった資料をフィナンシェと共に運び出していったグリモを見送って、ため息がこぼれる。
以外に強情というか、頑固な所もあるのね……あの子。
全く……けれど許してしまったものは仕方ない、せめてしっかり見ておかないと。
ふと、疑問に思う。
何故私は、見たことも話したこともなかった少女にここまでしてやっているのか。
妹達が懐いているから?
それとも、その妹達に似ているから?
そもそもあの子はどうしてあんな怪我を負って倒れていたのか。
モンスターにやられた傷か、それとも誰かに命でも狙われているのか。
「……考えすぎかしらね」
最近、そういった小説を読んでるせいで変な風に考えがちかもしれない。
ショック療法なんて手に出る訳にも行かないし、記憶に関してはあの子次第…か
……さ、ひとまず今は目の前の仕事を片づけることから始めましょうか。
〜人物解説〜
・フィナンシェ
ルウィーの教会で働いている侍女。
数人いる侍女の中でもベテランの部類に入り、掃除からロムとラムのお世話、教祖ミナの補佐など時によって様々な仕事をこなしている。
また、いざと言う時の行動力も高く、見た目も良い為密かなファンがいるとか。